【完結】厄災王女、千年後に自分の力を知る~戸惑っているので、そんなに甘やかさないでください~

入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆

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32・山間

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 体の大きいボリーはよく走り、なかなか距離が縮まらない。

 それでも追いかけていると、景色は次第に野原から荒野へと移ろって行き、やがて岩肌をむき出した山間に着いた。

 空中に大小様々な黒い石が浮いていて、どれもがわずかに震えている。

「リシア、できるだけ浮遊石には触れるなよ。さっきの衝突直後で、不安定になっているから」

「わかったわ」

 気を付けて進んでも、細かい石が体に当たってしまう。

「全てを避けるのは難しそうね……浮遊石の多くは私の背より高い所に浮いているから、それだけでも良かったけれど」

「浮遊石は刺激を受けると、浮力が上がるんだ。今は全体的に普段より高い位置にあるから、やっぱり衝突しあっていたみたいだな」

 これらが一斉にぶつかり合って飛び回っていたことを考えると、レオルが危ないというのも納得できた。

 もしコシマさんがここにいて、巻き込まれた後だったら……。

 レオルが前方の様子に気づき、声を張った。

「ボリー、止まれ!」

 しかしボリーは夢中になって走っていて、その横から大きな浮遊石が迫っているのに気づいていない。

 私は手を振り上げると、浮遊石に暴発の空砲を当てて、ボリーへと向かっていた軌道をそらした。

 しかし少し威力が強く出過ぎた反動で、浮遊石を弾いてしまう。

 刺激で上昇する性質のある浮遊石は高い位置にずれたけれど、他の石にぶつかることもなく停止してほっとした。

 私の魔力の暴発音に驚いたのか、立ち止まって硬直していたボリーをレオルが捕らえる。

 ボリーはレオルに気づくと振り返り、しっぽを揺らして嬉しそうに息をしていた。

「こら、走り回るなよ。危なかっただろ……わかってないな」

 ボリーが空に鳴いた。

 頭上には真っ黒な石の群れが、重力無視であちこちに浮いている。

 レオルは目を凝らしながら見上げた。

「コシマさん、いるのか?」

 その内のひとつ、見上げるほど高い所に浮いた岩の上に人影が乗っていて、私たちに気づく。

「もしかして、レオルさんかい?」

「ああ、俺だよ。ボリーに会ってここまで来たんだ。浮遊石の衝突に遭ったんだろ? 怪我はないのか?」

「ワシは平気だ。衝突に巻き込まれても、運よく押しつぶされることはなかったが、こんなに高いところまで来てしまったよ。体は平気だが、降りられそうになくてなぁ……」

「とりあえず、落ちないようにしてくれよ。だけど、どうやって迎えに行くかな」

 会話の流れで、ボリーはコシマさんが降りて来ることを察したらしく、レオルの腕の中で嬉しそうにそわそわし始めた。

 このまま離すと、興奮のまま走ったり跳ねたりして浮遊石にぶつかり、再び無数の衝突を誘爆しそうな気がして危なっかしい。

 コシマさんはその様子を見ると、下に向かって声をかけてくる。



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