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36・隣国の祝日
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「ワシの住んでいた所の話なのだがね。夜空に流れる星は、死者へ語りかけた言葉を届けてくれると言われているんだ」
「流れ星が、死者に言葉を届けてくれる……?」
そう聞くと、夜空に輝く星が今までとは違うものに感じられるような気がしてきた。
「ワシの祖父は、浮遊石を使って流星の石を作る、珍しい技術を受け継いだ一族でね。あの国には、流れ星を見上げる祝日があってなぁ、その時期が来るとワシの祖父は国から依頼を受けて、浮遊石で流星を模した物、流星の石を作っていたんだよ。それを打ち上げると本当に見事で、夜空に無数の光が流れては消えて行くのを国中の者が見上げるんだ。だからここに来ると祖父との話が思い出されてつい、浮遊石を触りたくなってしまってなぁ」
コシマさんはどこか寂しそうに、ボリーの頭を撫でる。
「まぁその後は、国内が物騒になって来たんでね。流星の石を爆薬に改良する技術ばかりが求められて、祖父は星石師は皆、爆薬師になったと皮肉げに言っていたよ」
「そうでしたか……」
先ほど山間の浮遊石を見に行きたいと話した時にレオルから聞いた、隣国では加工の難しい浮遊石を爆薬の材料にする話を思い出した。
「確か、レオルも隣国から来たのよね」
「ん、まぁ……」
「おお、レオルさんもだったか。やはり十年以上前の、あの戦渦の時だろうかね」
「そう。流星の祝日は、俺もうっすら覚えてるな」
「レオルが小さい頃なら、お姉様と一緒に見たりしたのかしら?」
「ああ。聞こえたか?」
「何のこと?」
「千年前の厄災の王女に届いて欲しくて、流星に話しかけていたんだけど……でも石化しているだけだから、聞こえ無かったんだろうな」
「そうね」
石化していたせいか、その間のことは何も覚えていないのよね。
だけど子どもの頃のレオルが夜空を見上げて、私に一生懸命話しかけてくれる姿を想像するとかわいくて……秘密の話のように小声で聞いてしまう。
「何て言ってくれたの?」
そこでレオルはごろんと横になり、草地に座っている私の膝の上に頭をのせて目を閉じた。
「食べたら眠くなった。少し寝るよ」
答えを言う気がないらしく、もう寝息を立てている。
それにしても、こんなにすぐ眠れる人間がいるものかしら……。
少し疑いながらレオルのきれいな寝顔を見つめていると、次第に見ることがつらくなって顔を背けた。
だ、だってレオルってどちらかというと、涼しげで凛とした顔立ちだと思っていたのに。
寝顔があどけなくて……今まで出会った誰よりも、かわいすぎるわ。
気づいてしまうと冷静ではいられなくなって、目のやり場に困るし、病かと思うほど胸が苦しくなってきた。
いっそのこと逃げ出したいのだけれど、疲れて寝ているレオルを起こす気がして動けず……幸せなような苦行のような、なんだかおかしい状態になっている。
挙動不審の私に気づいたのか、ボリーは不思議そうに見て来るし、コシマさんも笑っていた。
「しかしレオルさんが隣国の出身だったとはなぁ。レオルさんは自分の過去を言わない人だから知らなかったよ。そんな話をするなんて、リシアさんを本当に信頼しているのか、それとも信頼して欲しくて話しているのか……。今もすっかり安心した様子で寝ているし、噂は嘘でもなさそうだ」
「噂?」
「おや、知らないのかね。リシアさんは、女性を寄せ付けないレオルさんですら手玉に取る魔性の女だと、あちこちから聞くよ」
「魔性……」
千年後でも、私のイメージはそこそこ歪んでいる気がするわね。
「流れ星が、死者に言葉を届けてくれる……?」
そう聞くと、夜空に輝く星が今までとは違うものに感じられるような気がしてきた。
「ワシの祖父は、浮遊石を使って流星の石を作る、珍しい技術を受け継いだ一族でね。あの国には、流れ星を見上げる祝日があってなぁ、その時期が来るとワシの祖父は国から依頼を受けて、浮遊石で流星を模した物、流星の石を作っていたんだよ。それを打ち上げると本当に見事で、夜空に無数の光が流れては消えて行くのを国中の者が見上げるんだ。だからここに来ると祖父との話が思い出されてつい、浮遊石を触りたくなってしまってなぁ」
コシマさんはどこか寂しそうに、ボリーの頭を撫でる。
「まぁその後は、国内が物騒になって来たんでね。流星の石を爆薬に改良する技術ばかりが求められて、祖父は星石師は皆、爆薬師になったと皮肉げに言っていたよ」
「そうでしたか……」
先ほど山間の浮遊石を見に行きたいと話した時にレオルから聞いた、隣国では加工の難しい浮遊石を爆薬の材料にする話を思い出した。
「確か、レオルも隣国から来たのよね」
「ん、まぁ……」
「おお、レオルさんもだったか。やはり十年以上前の、あの戦渦の時だろうかね」
「そう。流星の祝日は、俺もうっすら覚えてるな」
「レオルが小さい頃なら、お姉様と一緒に見たりしたのかしら?」
「ああ。聞こえたか?」
「何のこと?」
「千年前の厄災の王女に届いて欲しくて、流星に話しかけていたんだけど……でも石化しているだけだから、聞こえ無かったんだろうな」
「そうね」
石化していたせいか、その間のことは何も覚えていないのよね。
だけど子どもの頃のレオルが夜空を見上げて、私に一生懸命話しかけてくれる姿を想像するとかわいくて……秘密の話のように小声で聞いてしまう。
「何て言ってくれたの?」
そこでレオルはごろんと横になり、草地に座っている私の膝の上に頭をのせて目を閉じた。
「食べたら眠くなった。少し寝るよ」
答えを言う気がないらしく、もう寝息を立てている。
それにしても、こんなにすぐ眠れる人間がいるものかしら……。
少し疑いながらレオルのきれいな寝顔を見つめていると、次第に見ることがつらくなって顔を背けた。
だ、だってレオルってどちらかというと、涼しげで凛とした顔立ちだと思っていたのに。
寝顔があどけなくて……今まで出会った誰よりも、かわいすぎるわ。
気づいてしまうと冷静ではいられなくなって、目のやり場に困るし、病かと思うほど胸が苦しくなってきた。
いっそのこと逃げ出したいのだけれど、疲れて寝ているレオルを起こす気がして動けず……幸せなような苦行のような、なんだかおかしい状態になっている。
挙動不審の私に気づいたのか、ボリーは不思議そうに見て来るし、コシマさんも笑っていた。
「しかしレオルさんが隣国の出身だったとはなぁ。レオルさんは自分の過去を言わない人だから知らなかったよ。そんな話をするなんて、リシアさんを本当に信頼しているのか、それとも信頼して欲しくて話しているのか……。今もすっかり安心した様子で寝ているし、噂は嘘でもなさそうだ」
「噂?」
「おや、知らないのかね。リシアさんは、女性を寄せ付けないレオルさんですら手玉に取る魔性の女だと、あちこちから聞くよ」
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千年後でも、私のイメージはそこそこ歪んでいる気がするわね。
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