【完結】厄災王女、千年後に自分の力を知る~戸惑っているので、そんなに甘やかさないでください~

入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆

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39・自分の欲しい物

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 私、必要とされる物を作るのは好きだけど……。

 それは自分の欲しい物が特に思い浮かばないから、誰かが欲しがってくれる物を作りたいのかもしれない。

「私の欲しい物……考えておくわ。だから今は、誰かが喜んでくれる物を作りたいの」

「リシアのお人好しはわかってるけれど、あれ以上作れば怪しまれるだろ。そうなれば誰かに錬金釜の存在を知られる危険も上がるし、そこは割り切れよ」

 私は不満をぐっと我慢するような気分で、ケーキの入った箱を抱えた両腕に力を入める。

「わかってるわ」

「どうかな。そこまで後に引けなくなればむしろ諦めがついて、ディノと一緒に逃げるって言い出しそうな顔をしてる」

 だって私が、千年前から来た厄災の王女だと知られたら。

 暴発するほどの危険な魔力を持っていることや、錬金釜で色々な物を作れることを知られたら。

 この力に興味を持つ人が善良とも限らないし、ここにはいられなくなるかもしれない。

 私はいつまで続くかもわからない幸せな日々を、手加減するような気持ちで暮らすことにもやもやしている。

「その様子だと、リシアは都合が悪くなれば俺を置いて、さっさとここから逃げるつもりみたいだな」

「……」

「追いかけるけど」

「わ、私は平気よ。レオルは今、隣にいるし。それで十分満足しているわ」

 だけど以前の、別れを覚悟した時に思い知ったあの寂しさが怖くて、レオルと離れることは考えないようにしていた。

 住んでいる別館が近づいてくると、オルドー様やヘリン様、イライナ様、コシマさんにボリー……今まで会った様々な相手の顔が浮かんでは消えて、私の胸の中がざわついた。

 街灯に照らされながら並んで歩く、いつもと変わらない私たちの影を見つめる。

「レオル、心配しないで。私はこの町にやってきたばかりだけれど、とても居心地が良いの。だから出て行くことにならないように、もっとたくさん作りたいなんて無理を言うのは諦めるわ」

 レオルの片腕が私の頭を包むように伸びてきて、以前つけてくれたお姉様の形見の髪飾りを撫でた。

「リシア、もう泣かなくていいからな」

「あの時のことは忘れてちょうだい」

「忘れない。あれは今まで頑張ってきた俺にとって、人生のご褒美だから」

 レオルの言っている意味が本当にわからないのは、私だけじゃないと思うわ。

「レオルって、私以外からもよく変人扱いされるでしょう」

「リシアまでそんなこと言うのか」

 やっぱり……。

「大丈夫だから」

「そうは言われても、さすがにここまで歪んでいると心配にもなるわ」

「大丈夫だって」

 私の肩が引かれて、気づくとレオルの腕の中に閉じ込められていた。

「もしリシアがどこかへ行っても、俺が見つける。ここへ帰ってこれるようにするし、何も心配することはないから」

 大丈夫なのは、レオルではなくて私のことだったらしい。

「それに、オルドーもヘリンもイライナも、リシアが来てから変わったよ。だから俺たちと会えなくなるのは、リシアだけの問題だなんて寂しい考え方、するな」

 そんな風に言われると、目の奥が熱くなってきて、私はぎゅっと両腕に力を込める。

 これは、いつものあれかしら。

 私を泣かせにかかって楽しむという、親切のような意地悪のような……。

 悔しいけれど、こんな風に翻弄されてばかりだと、レオルは私より私のことを知っている気がする。

「レオル、苦しいわ」

「あ、ごめん」

 レオルは慌てて体を離すと、ぎくりとした様子で私を見下ろした。

「それ……半分俺のせいだよな。絶対騒ぐだろうけどディノに謝っておいてくれないか? 許してくれなかったら、全部リシアが楽しめばいいよ」

「えっ」

「明日、感想聞かせて」

 レオルは手を振って去っていく。

 ふと視線を落とすと、先ほどから抱きしめ潰していた、ケーキの入った箱が腕の中にあった。


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