【完結】厄災王女、千年後に自分の力を知る~戸惑っているので、そんなに甘やかさないでください~

入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆

文字の大きさ
51 / 67

51・夜のピクニック

しおりを挟む
 とうとう、私がどうしても欲しくて作っていた物が完成した。

「フィリシア、長い道のりだったけど、おめでとう! 僕も完成するの、とっても楽しみにしていたんだ!」

 知っているわ。

 なかなか上手くいかなくて投げ出したくなっていたディノのやる気を持ち上げるために、完成したら彼の好きなショートケーキをホールで作る約束をしたのだから。

「ふふふ、見ていて心がわし掴みにされる、本当に素晴らしい出来だなぁ」

「そ、そうかしら……」

 はしゃいでいるディノの側には、彼の顔とは似ても似つかない作り立てのケーキが、ゾンビ猫スペシャルな見た目で異彩を放っている。

 もう二度と道を踏み外さないと、固く誓っていたはずなのに……。

 欲しかったものがようやく完成したという高揚感があって、ディノにねだられるままつい、禁じていた芸術に手を出してしまった。

「こんな僕にまた会えるなんて……うううっ! 食べるのが惜しい、惜しいけど食べる! だって今日はお祝いなんだ!」

 伝説の錬金術師の趣味満載な魔法士の衣装を着てはしゃぐディノはかわいいけれど、私の生み出したケーキの姿がおぞましくて素直に喜べない。

「ディノ、出来ればそのゾンビ猫……いえ、ディノの顔をしたはずのケーキを私の視界に入らないところにしまってくれるかしら」

「ふふ、わかってるよぉ。今日は完成記念とお披露目の夜のピクニックだもん、フィリシアも早く行きたいよね!」

 都合良く勘違いしてくれたディノは、うきうきしながら錬金釜付属の収納箱にあの物体をしまってくれた。

 さらに収納袋に錬金釜や収納箱を片付けたり、しっぽを振りながら出かける準備もし始める。

「ところで完成したあれ、ぶっ放すのはフィリシアがするの?」

「そうね、上手く行くかしら。楽しみだわ」

「だけどレオルが知ったら、危ないって心配しそうだなぁ……そうだ! レオルにやってもらえばいいよぉ」

「私が危ないのならレオルも危ないわ。そうよ、ディノは本体の錬金釜が壊れなければ、身体を真っ二つにしても平気なのよね?」

「僕? 僕はケーキを堪能するのに忙しいからなぁ」

「忙しいのは構わないけれど、あのゾンビ猫……ケーキはレオルに見せないで欲しいわ」

「ふふふ、つまり僕がひとり占めしていいってことだよね? ああ、早く食べたいなぁ……後はレオルを待つだけだけど、いつ来るんだろう?」

「夜には帰って来るって言ってたから、そろそろのはずだけど」

 レオルは珍しく、久々に話したい人がいるからと、王都の方へ出かけると言っていた。

 それと関係あるのかはわからないけれど、レオルはコシマさんの家でフロイデンという名の青年と会い、アドレと呼ばれたあの日から、考え事が増えていた。

 それに私の携帯ビスケットのレシピ簡略化も完成して、あとは契約を交わすだけになったのに、その話になるたび、何か言いたそうにしてやめるのも気にかかる。

 レオルは昔のことはあまり話さないし、もしかしたらそのことを隠していて悩んでいるのかもしれない。

 私に何か出来ることがあればいいのだけど……。

 玄関から呼び鈴の音がして振り返ると、ディノが鋭く呟く。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】家族に愛されなかった辺境伯の娘は、敵国の堅物公爵閣下に攫われ真実の愛を知る

水月音子
恋愛
辺境を守るティフマ城の城主の娘であるマリアーナは、戦の代償として隣国の敵将アルベルトにその身を差し出した。 婚約者である第四王子と、父親である城主が犯した国境侵犯という罪を、自分の命でもって償うためだ。 だが―― 「マリアーナ嬢を我が国に迎え入れ、現国王の甥である私、アルベルト・ルーベンソンの妻とする」 そう宣言されてマリアーナは隣国へと攫われる。 しかし、ルーベンソン公爵邸にて差し出された婚約契約書にある一文に疑念を覚える。 『婚約期間中あるいは婚姻後、子をもうけた場合、性別を問わず健康な子であれば、婚約もしくは結婚の継続の自由を委ねる』 さらには家庭教師から“精霊姫”の話を聞き、アルベルトの側近であるフランからも詳細を聞き出すと、自分の置かれた状況を理解する。 かつて自国が攫った“精霊姫”の血を継ぐマリアーナ。 そのマリアーナが子供を産めば、自分はもうこの国にとって必要ない存在のだ、と。 そうであれば、早く子を産んで身を引こう――。 そんなマリアーナの思いに気づかないアルベルトは、「婚約中に子を産み、自国へ戻りたい。結婚して公爵様の経歴に傷をつける必要はない」との彼女の言葉に激昂する。 アルベルトはアルベルトで、マリアーナの知らないところで実はずっと昔から、彼女を妻にすると決めていた。 ふたりは互いの立場からすれ違いつつも、少しずつ心を通わせていく。

家族から邪魔者扱いされた私が契約婚した宰相閣下、実は完璧すぎるスパダリでした。仕事も家事も甘やかしも全部こなしてきます

さくら
恋愛
家族から「邪魔者」扱いされ、行き場を失った伯爵令嬢レイナ。 望まぬ結婚から逃げ出したはずの彼女が出会ったのは――冷徹無比と恐れられる宰相閣下アルベルト。 「契約でいい。君を妻として迎える」 そう告げられ始まった仮初めの結婚生活。 けれど、彼は噂とはまるで違っていた。 政務を完璧にこなし、家事も器用に手伝い、そして――妻をとことん甘やかす完璧なスパダリだったのだ。 「君はもう“邪魔者”ではない。私の誇りだ」 契約から始まった関係は、やがて真実の絆へ。 陰謀や噂に立ち向かいながら、互いを支え合う二人は、次第に心から惹かれ合っていく。 これは、冷徹宰相×追放令嬢の“契約婚”からはじまる、甘々すぎる愛の物語。 指輪に誓う未来は――永遠の「夫婦」。

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。

【完結】王城文官は恋に疎い

ふじの
恋愛
「かしこまりました。殿下の名誉を守ることも、文官の務めにございます!」 「「「……(違う。そうじゃない)」」」  日々流れ込む膨大な書類の間で、真面目すぎる文官・セリーヌ・アシュレイ。業務最優先の彼女の前に、学院時代の同級生である第三王子カインが恋を成就させるために頻繁に関わってくる。様々な誘いは、セリーヌにとっては当然業務上の要件。  カインの家族も黙っていない。王家一丸となり、カインとセリーヌをくっつけるための“大作戦”を展開。二人の距離はぐっと縮まり、カインの想いは、セリーヌに届いていく…のか? 【全20話+番外編4話】 ※他サイト様でも掲載しています。

【完結】一途すぎる公爵様は眠り姫を溺愛している

月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
リュシエンヌ・ソワイエは16歳の子爵令嬢。皆が憧れるマルセル・クレイン伯爵令息に婚約を申し込まれたばかりで幸せいっぱいだ。 しかしある日を境にリュシエンヌは眠りから覚めなくなった。本人は自覚が無いまま12年の月日が過ぎ、目覚めた時には父母は亡くなり兄は結婚して子供がおり、さらにマルセルはリュシエンヌの親友アラベルと結婚していた。 突然のことに狼狽えるリュシエンヌ。しかも兄嫁はリュシエンヌを厄介者扱いしていて実家にはいられそうもない。 そんな彼女に手を差し伸べたのは、若きヴォルテーヌ公爵レオンだった……。 『残念な顔だとバカにされていた私が隣国の王子様に見初められました』『結婚前日に友人と入れ替わってしまった……!』に出てくる魔法大臣ゼインシリーズです。 表紙は「簡単表紙メーカー2」で作成しました。

【完結】公爵令嬢に転生したので両親の決めた相手と結婚して幸せになります!

永倉伊織
恋愛
ヘンリー・フォルティエス公爵の二女として生まれたフィオナ(14歳)は、両親が決めた相手 ルーファウス・ブルーム公爵と結婚する事になった。 だがしかし フィオナには『昭和・平成・令和』の3つの時代を生きた日本人だった前世の記憶があった。 貴族の両親に逆らっても良い事が無いと悟ったフィオナは、前世の記憶を駆使してルーファウスとの幸せな結婚生活を模索する。

婚約破棄された伯爵令嬢ですが、辺境で有能すぎて若き領主に求婚されました

おりあ
恋愛
 アーデルベルト伯爵家の令嬢セリナは、王太子レオニスの婚約者として静かに、慎ましく、その務めを果たそうとしていた。 だが、感情を上手に伝えられない性格は誤解を生み、社交界で人気の令嬢リーナに心を奪われた王太子は、ある日一方的に婚約を破棄する。  失意のなかでも感情をあらわにすることなく、セリナは婚約を受け入れ、王都を離れ故郷へ戻る。そこで彼女は、自身の分析力や実務能力を買われ、辺境の行政視察に加わる機会を得る。  赴任先の北方の地で、若き領主アレイスターと出会ったセリナ。言葉で丁寧に思いを伝え、誠実に接する彼に少しずつ心を開いていく。 そして静かに、しかし確かに才能を発揮するセリナの姿は、やがて辺境を支える柱となっていく。  一方、王太子レオニスとリーナの婚約生活には次第に綻びが生じ、セリナの名は再び王都でも囁かれるようになる。  静かで無表情だと思われた令嬢は、実は誰よりも他者に寄り添う力を持っていた。 これは、「声なき優しさ」が、真に理解され、尊ばれていく物語。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

処理中です...