【完結】厄災王女、千年後に自分の力を知る~戸惑っているので、そんなに甘やかさないでください~

入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆

文字の大きさ
59 / 67

59・許せない(フロイデン視点)

しおりを挟む
 ひたひた。

 何かが歩いて近づいてくる音がする。

 聞き間違いだと思いたいのに、耳にこびりついて離れないその不快な気配と不穏な予感に、ぞわぞわと背筋が粟立った。

「許せない……」

 な、何のことだ?

 もしかして、僕が先ほどリシアを切りつけようとしたこと?

 わからない。

 わからないが怖ろしくて、だけどそれを確かめずにはいられなくて、僕は恨みに満ちた声の先に目を向けた。

「……っ!」

 半透明に淡く光った、二足歩行の猫が僕たちへ向かって歩いてくる。

 昔の魔法使いのような格好をしていて、明らかに現代を生きる存在ではなかった。

 目が合えば祟られるような、じっとりと恨みのこもった眼差しで僕を見つめてくる。

「許せない……」

「うわあああああっ、ば、化け猫がああっ!!!」

「ひいいいいいいっ、お、怨念猫だああっ!!!」

 トムとサムが顔中から色々な液体を噴き出して半狂乱でわめき、僕も含めみんな足がすくんで動けない。

 僕は握りしめていた短剣を向けたが、鬼気迫る気配を垂れ流した異様な猫は静かに迫って来る。

 恐怖の限界を超え、トムとサムは声のあらん限り叫んだ。

「く、来るなあっ!!」

「あっち行けえっ!!!」

 ひたひた。

「許さない……」

「ぶわあああああ!!!!!」

「ぎゃああああああ!!!!!!」

 図体はデカいが心は繊細な男二人は、絶叫の果てに泡を吹きながら白目をむいて気絶した。

 この状況から脱することが出来て、逆にその気弱さが羨ましく思えるが、意識があるのは僕だけとなる。

 もしかして、これは先ほどの僕への罰なのか?

 僕がアドレの幸せを妬み、彼からリシアを奪ってやろうという考えを持って危害を加えようとしたせいか?

 それともアドレを許せないという僕の思いが、なぜか祟り猫となって具現化している?

 推測している間にも、足音が迷いなく近づいてくる。

「く、来るな……」

「許せない」

 ひたひた。

 僕は恐怖に耐えられず、震えて懇願した。

「ゆ、許しっ、」

 血走った猫の瞳がカッと見開かれる。

「許せない!」

 突如、猫の動きが尋常ではないほど速度を増し、あっという間に僕に迫っていた。

「許せない!!!」

「やっ、やめろ!! 来るなあああっ!!!」

 僕は握っていた短剣で目の前の化け猫を何度も切りつけた。

 しかし刻んだはずの感触がなく、猫の姿はふっと崩れるように消える。

 ……幻覚か?

 恐怖に震える全身から、どっと冷や汗が噴き出した。

「倒したのか……?」

 背後に気配を感じる。

「許せない……」

「ひっ!」

 ぞっとする声が別の方向から聞こえて、視線を向けるとぎらぎら反射する瞳が瞬きもせず見つめていた。

「返して」

「うわああぁっ!!!!!」

「僕の顔をしたお祝いのケーキ、返しててぇええ!!!!」

「あああああああぁっっ!!!」

 闇の中に浮かび上がる化け猫の幻影を払おうと、僕は気が触れたように夢中になって短剣を振り回した。

 重たい手ごたえを感じて、短剣で何かを弾きとばす。

 しかし当たったのは化け猫ではなく、先ほど人質の女が突然出した宝箱のような物の蓋を開けただけだった。

 その時上空の雲が抜けて、再び月光が注がれる。

 わずかでも明るくなりほっとした瞬間、開いた箱の中から何かが現れたかと思うと、僕はこの世のものとは思えない異形の群れに襲われた。

 怨念か祟りか、悪夢としか思えない醜い猫たちが雪崩のように僕めがけて降り注いでくる。

「びゃあああああああぁぁっ!!!」

 絶叫したまま僕の意識は飛んだ。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】家族に愛されなかった辺境伯の娘は、敵国の堅物公爵閣下に攫われ真実の愛を知る

水月音子
恋愛
辺境を守るティフマ城の城主の娘であるマリアーナは、戦の代償として隣国の敵将アルベルトにその身を差し出した。 婚約者である第四王子と、父親である城主が犯した国境侵犯という罪を、自分の命でもって償うためだ。 だが―― 「マリアーナ嬢を我が国に迎え入れ、現国王の甥である私、アルベルト・ルーベンソンの妻とする」 そう宣言されてマリアーナは隣国へと攫われる。 しかし、ルーベンソン公爵邸にて差し出された婚約契約書にある一文に疑念を覚える。 『婚約期間中あるいは婚姻後、子をもうけた場合、性別を問わず健康な子であれば、婚約もしくは結婚の継続の自由を委ねる』 さらには家庭教師から“精霊姫”の話を聞き、アルベルトの側近であるフランからも詳細を聞き出すと、自分の置かれた状況を理解する。 かつて自国が攫った“精霊姫”の血を継ぐマリアーナ。 そのマリアーナが子供を産めば、自分はもうこの国にとって必要ない存在のだ、と。 そうであれば、早く子を産んで身を引こう――。 そんなマリアーナの思いに気づかないアルベルトは、「婚約中に子を産み、自国へ戻りたい。結婚して公爵様の経歴に傷をつける必要はない」との彼女の言葉に激昂する。 アルベルトはアルベルトで、マリアーナの知らないところで実はずっと昔から、彼女を妻にすると決めていた。 ふたりは互いの立場からすれ違いつつも、少しずつ心を通わせていく。

家族から邪魔者扱いされた私が契約婚した宰相閣下、実は完璧すぎるスパダリでした。仕事も家事も甘やかしも全部こなしてきます

さくら
恋愛
家族から「邪魔者」扱いされ、行き場を失った伯爵令嬢レイナ。 望まぬ結婚から逃げ出したはずの彼女が出会ったのは――冷徹無比と恐れられる宰相閣下アルベルト。 「契約でいい。君を妻として迎える」 そう告げられ始まった仮初めの結婚生活。 けれど、彼は噂とはまるで違っていた。 政務を完璧にこなし、家事も器用に手伝い、そして――妻をとことん甘やかす完璧なスパダリだったのだ。 「君はもう“邪魔者”ではない。私の誇りだ」 契約から始まった関係は、やがて真実の絆へ。 陰謀や噂に立ち向かいながら、互いを支え合う二人は、次第に心から惹かれ合っていく。 これは、冷徹宰相×追放令嬢の“契約婚”からはじまる、甘々すぎる愛の物語。 指輪に誓う未来は――永遠の「夫婦」。

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。

【完結】王城文官は恋に疎い

ふじの
恋愛
「かしこまりました。殿下の名誉を守ることも、文官の務めにございます!」 「「「……(違う。そうじゃない)」」」  日々流れ込む膨大な書類の間で、真面目すぎる文官・セリーヌ・アシュレイ。業務最優先の彼女の前に、学院時代の同級生である第三王子カインが恋を成就させるために頻繁に関わってくる。様々な誘いは、セリーヌにとっては当然業務上の要件。  カインの家族も黙っていない。王家一丸となり、カインとセリーヌをくっつけるための“大作戦”を展開。二人の距離はぐっと縮まり、カインの想いは、セリーヌに届いていく…のか? 【全20話+番外編4話】 ※他サイト様でも掲載しています。

【完結】一途すぎる公爵様は眠り姫を溺愛している

月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
リュシエンヌ・ソワイエは16歳の子爵令嬢。皆が憧れるマルセル・クレイン伯爵令息に婚約を申し込まれたばかりで幸せいっぱいだ。 しかしある日を境にリュシエンヌは眠りから覚めなくなった。本人は自覚が無いまま12年の月日が過ぎ、目覚めた時には父母は亡くなり兄は結婚して子供がおり、さらにマルセルはリュシエンヌの親友アラベルと結婚していた。 突然のことに狼狽えるリュシエンヌ。しかも兄嫁はリュシエンヌを厄介者扱いしていて実家にはいられそうもない。 そんな彼女に手を差し伸べたのは、若きヴォルテーヌ公爵レオンだった……。 『残念な顔だとバカにされていた私が隣国の王子様に見初められました』『結婚前日に友人と入れ替わってしまった……!』に出てくる魔法大臣ゼインシリーズです。 表紙は「簡単表紙メーカー2」で作成しました。

【完結】公爵令嬢に転生したので両親の決めた相手と結婚して幸せになります!

永倉伊織
恋愛
ヘンリー・フォルティエス公爵の二女として生まれたフィオナ(14歳)は、両親が決めた相手 ルーファウス・ブルーム公爵と結婚する事になった。 だがしかし フィオナには『昭和・平成・令和』の3つの時代を生きた日本人だった前世の記憶があった。 貴族の両親に逆らっても良い事が無いと悟ったフィオナは、前世の記憶を駆使してルーファウスとの幸せな結婚生活を模索する。

婚約破棄された伯爵令嬢ですが、辺境で有能すぎて若き領主に求婚されました

おりあ
恋愛
 アーデルベルト伯爵家の令嬢セリナは、王太子レオニスの婚約者として静かに、慎ましく、その務めを果たそうとしていた。 だが、感情を上手に伝えられない性格は誤解を生み、社交界で人気の令嬢リーナに心を奪われた王太子は、ある日一方的に婚約を破棄する。  失意のなかでも感情をあらわにすることなく、セリナは婚約を受け入れ、王都を離れ故郷へ戻る。そこで彼女は、自身の分析力や実務能力を買われ、辺境の行政視察に加わる機会を得る。  赴任先の北方の地で、若き領主アレイスターと出会ったセリナ。言葉で丁寧に思いを伝え、誠実に接する彼に少しずつ心を開いていく。 そして静かに、しかし確かに才能を発揮するセリナの姿は、やがて辺境を支える柱となっていく。  一方、王太子レオニスとリーナの婚約生活には次第に綻びが生じ、セリナの名は再び王都でも囁かれるようになる。  静かで無表情だと思われた令嬢は、実は誰よりも他者に寄り添う力を持っていた。 これは、「声なき優しさ」が、真に理解され、尊ばれていく物語。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

処理中です...