【完結】精霊獣を抱き枕にしたはずですが、目覚めたらなぜか国一番の有名人がいました

入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆

文字の大きさ
21 / 32

21・戻れない

しおりを挟む
「……っ」

 リセはいつもの無表情でいられず、赤く染まった頬のまま目を見開いて明らかに動揺した。

 その間、ジェイルは震える唇に物欲しげな眼差しを落としていたが、拒んでいるわけではないリセの様子に気づくと、甘い笑みを浮かべる。

「かわいいな」

「……あっ、その言い方。今朝の溺れ森で聞き覚えが」

「気づくの遅いんだよ」

 言葉と重ねるように、ジェイルはお互いの額をこつんと合わせる。

「わっ」

「俺の額はリセにやる」

「……くれるの?」

「いるならやるよ。あのキスは、これでやり直せたしな?」

 リセは一瞬だけ触れたジェイルの額を見上げると、そこが自分にとって特別な場所に思えて、引き寄せられるように手を伸ばした。

 ジェイルはそれをかわすとリセを抱いたまま、ごろりとベッドに横たわる。

「待て。あまり誘うな。最近の俺、信用ならないから」

「でもジェイルのおでこ、私にくれるって」

「やるけど、笑わなかったからリセの負けだろ。今日は触るなよ」

「でも、あの、抱きしめてくれてるのは……?」

「泣いたから俺の番」

「えっ、そうなの?」

「今決めた」

「そんな適当……あっ、でもいいよ! いつでも、どうぞ!」

「いや。笑ってくれたとき用に取っておく。もうくだらないことで泣かせたくないし」

(また、優しい)

「私、きっと気づけてないことがたくさんあるけれど、そうやって大切にしてもらってたんだね」

「そうでもない。俺、リセに関しての理性のレバー壊れてるから……。お前に会ってから何度触らない誓いを破りまくったか数えきれない」

 ジェイルは苦笑すると、愛おしむようにリセの頭を撫でた。

「な、だけど今は休憩していいか? 俺も抱き枕欲しい」

 リセは頷こうとしたが、ジェイルがその返事も待てずに両腕に力をこめるので、驚きと共に鼓動が再び強まる。

(わわ……自分からくっつくのと、全然違うし……し、心臓がすごい音で鳴ってるの。聞こえてる絶対)

 リセは気持ちを落ち着けようと、ぎゅっと目をつぶった。

(どうしよう。私が抱き枕をやるなんて。もふもふ感、全然足りないのに……)

 リセは精霊獣と自分を比較して妙な心配をしていると、ジェイルがいつもとは違うため息をついた。

「少し、リセの気持ちわかった」

「私の気持ち?」

 しばらく待ったが、返事はない。

 漠然と不安になって様子をうかがうと、ジェイルは今まで見たことのない安らかな表情で目を閉じていた。

 その無防備で幸せそうな寝顔に、リセは釘付けになる。

 それは今までの経験したことのない、忘れられない瞬間になった。

(戻れない)

 リセの瞳に、悲しみとは違う涙が滲んだ。

(こんな顔を見てしまったら……以前の私には戻れないよ、もう)

 リセは潤む瞳を閉じると、今までずっと、精霊獣の抱き枕を欲しがっていた自分に別れを告げる。

 そして自分を抱きしめて穏やかに眠るその人に身を委ねた。


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

前世の推しに似てる不仲の婚約者に「お顔が好きです」と伝えましたところ

咲楽えび@改名しました(旧 佐倉えび)
恋愛
公爵令嬢のエリーサベトは、ポンコツ王子と呼ばれる婚約者のベルナルドに嫌気がさし、婚約者破棄を目論んでた。 そんなある日、前世を思い出したエリーサベトは気付く。ベルナルドが前世の推しに似ていることに―― ポンコツ王子と勝気な令嬢が両思いになるまでのお話。 ※小説家になろうさまでも掲載しています。

下賜されまして ~戦場の餓鬼と呼ばれた軍人との甘い日々~

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王宮から突然嫁がされた18歳の少女・ソフィアは、冷たい風の吹く屋敷へと降り立つ。迎えたのは、無愛想で人嫌いな騎士爵グラッド・エルグレイム。金貨の袋を渡され「好きにしろ」と言われた彼女は、侍女も使用人もいない屋敷で孤独な生活を始める。 王宮での優雅な日々とは一転、自分の髪を切り、服を整え、料理を学びながら、ソフィアは少しずつ「夫人」としての自立を模索していく。だが、辻馬車での盗難事件や料理の失敗、そして過労による倒れ込みなど、試練は次々と彼女を襲う。 そんな中、無口なグラッドの態度にも少しずつ変化が現れ始める。謝罪とも言えない金貨の袋、静かな気遣い、そして彼女の倒れた姿に見せた焦り。距離のあった二人の間に、わずかな波紋が広がっていく。 これは、王宮の寵姫から孤独な夫人へと変わる少女が、自らの手で居場所を築いていく物語。冷たい屋敷に灯る、静かな希望の光。 ⚠️本作はAIとの共同製作です。

【完結】溺愛される意味が分かりません!?

もわゆぬ
恋愛
正義感強め、口調も強め、見た目はクールな侯爵令嬢 ルルーシュア=メライーブス 王太子の婚約者でありながら、何故か何年も王太子には会えていない。 学園に通い、それが終われば王妃教育という淡々とした毎日。 趣味はといえば可愛らしい淑女を観察する事位だ。 有るきっかけと共に王太子が再び私の前に現れ、彼は私を「愛しいルルーシュア」と言う。 正直、意味が分からない。 さっぱり系令嬢と腹黒王太子は無事に結ばれる事が出来るのか? ☆カダール王国シリーズ 短編☆

冷徹公爵閣下は、書庫の片隅で私に求婚なさった ~理由不明の政略結婚のはずが、なぜか溺愛されています~

白桃
恋愛
「お前を私の妻にする」――王宮書庫で働く地味な子爵令嬢エレノアは、ある日突然、<氷龍公爵>と恐れられる冷徹なヴァレリウス公爵から理由も告げられず求婚された。政略結婚だと割り切り、孤独と不安を抱えて嫁いだ先は、まるで氷の城のような公爵邸。しかし、彼女が唯一安らぎを見出したのは、埃まみれの広大な書庫だった。ひたすら書物と向き合う彼女の姿が、感情がないはずの公爵の心を少しずつ溶かし始め…? 全7話です。

訳あり侯爵様に嫁いで白い結婚をした虐げられ姫が逃亡を目指した、その結果

柴野
恋愛
国王の側妃の娘として生まれた故に虐げられ続けていた王女アグネス・エル・シェブーリエ。 彼女は父に命じられ、半ば厄介払いのような形で訳あり侯爵様に嫁がされることになる。 しかしそこでも不要とされているようで、「きみを愛することはない」と言われてしまったアグネスは、ニヤリと口角を吊り上げた。 「どうせいてもいなくてもいいような存在なんですもの、さっさと逃げてしまいましょう!」 逃亡して自由の身になる――それが彼女の長年の夢だったのだ。 あらゆる手段を使って脱走を実行しようとするアグネス。だがなぜか毎度毎度侯爵様にめざとく見つかってしまい、その度失敗してしまう。 しかも日に日に彼の態度は温かみを帯びたものになっていった。 気づけば一日中彼と同じ部屋で過ごすという軟禁状態になり、溺愛という名の雁字搦めにされていて……? 虐げられ姫と女性不信な侯爵によるラブストーリー。 ※小説家になろうに重複投稿しています。

【完結】「政略結婚ですのでお構いなく!」

仙冬可律
恋愛
文官の妹が王子に見初められたことで、派閥間の勢力図が変わった。 「で、政略結婚って言われましてもお父様……」 優秀な兄と妹に挟まれて、何事もほどほどにこなしてきたミランダ。代々優秀な文官を輩出してきたシューゼル伯爵家は良縁に恵まれるそうだ。 適齢期になったら適当に釣り合う方と適当にお付き合いをして適当な時期に結婚したいと思っていた。 それなのに代々武官の家柄で有名なリッキー家と結婚だなんて。 のんびりに見えて豪胆な令嬢と 体力系にしか自信がないワンコ令息 24.4.87 本編完結 以降不定期で番外編予定

婚約者から妾になれと言われた私は、婚約を破棄することにしました

天宮有
恋愛
公爵令嬢の私エミリーは、婚約者のアシェル王子に「妾になれ」と言われてしまう。 アシェルは子爵令嬢のキアラを好きになったようで、妾になる原因を私のせいにしたいようだ。 もうアシェルと関わりたくない私は、妾にならず婚約破棄しようと決意していた。

家族から邪魔者扱いされた私が契約婚した宰相閣下、実は完璧すぎるスパダリでした。仕事も家事も甘やかしも全部こなしてきます

さら
恋愛
家族から「邪魔者」扱いされ、行き場を失った伯爵令嬢レイナ。 望まぬ結婚から逃げ出したはずの彼女が出会ったのは――冷徹無比と恐れられる宰相閣下アルベルト。 「契約でいい。君を妻として迎える」 そう告げられ始まった仮初めの結婚生活。 けれど、彼は噂とはまるで違っていた。 政務を完璧にこなし、家事も器用に手伝い、そして――妻をとことん甘やかす完璧なスパダリだったのだ。 「君はもう“邪魔者”ではない。私の誇りだ」 契約から始まった関係は、やがて真実の絆へ。 陰謀や噂に立ち向かいながら、互いを支え合う二人は、次第に心から惹かれ合っていく。 これは、冷徹宰相×追放令嬢の“契約婚”からはじまる、甘々すぎる愛の物語。 指輪に誓う未来は――永遠の「夫婦」。

処理中です...