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3・もふもふサヒーマの黒い角
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イリーネは柵を越えて内側に飛び降りると、十匹ほどいるサヒーマの角を手持ちのナイフで切り取っていく。
サヒーマたちはぐったりしながらも突然の侵入者に動揺して、愛らしい威嚇の鳴き声を上げたり気高さのあるまだ成長途中の牙を剥きだしたりしながら逃げ惑った。
しかしよく生き物を襲うイリーネは慣れたもので、鈍い動きを予測して背後から回り込むと、一瞬で角を切り取っていく。
抵抗してくる個体はまだいい方だ。
中には反応すらなく、ぐったりしているのもいる。
(角を取る処置を施したのが遅すぎるんだ。こんなになるまでごめん、ごめんね……)
イリーネはやるせなさで鈍りかける手を必死に動かし、角度や切り込むときの速度などで痛みと出血を最低限に抑えながら角を手に入れていく。
「おいっ、そこのガキ! 勝手に領主様の敷地に入るな!」
一番近くを警護していた、やたら重そうなプレートアーマーを装備をした中年のおっさんが柵の中に入って駆け寄ってくる。
(今年16歳になるらしいんだけど……まぁガキか)
そうは思いながらも、よく少年と間違われるイリーネは助走をつけて、無駄に鈍重な装備をしている男を飛び越えると、手のひらほどの面積しかない柵の上面に立つ。
角は羽織っているローブの下から取り出したハンカチにのせて、全て手に入れたか確認した。
(まだらな黒もあって少し柔らかいけど珍しく幼獣だし、きめも細かいから良質そうだな。でも良質な毒って……結構緊張するね)
サヒーマの幼獣の角は脆く、刺激を受けて崩れると、触れる分にはさほど問題ないが吸引すれば猛毒になる。
今ハンカチの中にある角が崩れて粒子をうっかり吸い込めば、イリーネの身体も毒気に蝕まれるのは間違いなかった。
浄蜜の小瓶がひとつだけあるのは心強かったが、なかなか見つけられない貴重品なので、使うのは最終手段にしたい。
「おい、ガキ! オレの癒しのもふもふに何をした!」
塀を登ることが出来ず背後で騒ぐ見張りのおっさんの声に急かされて、イリーネは角を包んだハンカチを握ったまま柵の外へと飛び降りる。
その先に、禍々しい姿を隠すような明度の低いローブを身につけている人がいた。
イリーネの足元からぞわぞわとした威圧感が這い上がる。
深々とかぶったフードから覗く、鋭く整った鼻梁と血をすすったように潤んだ唇、その下地の白く艶やかな肌が美しい容貌を不吉に仕立て上げていた。
魂すら引きずり込むような邪悪な闇色の瞳と目が合った瞬間、腹の底から恐怖が湧き上がる。
それなりの場数を踏んできたイリーネは、一目見てすぐに理解した。
関わってはいけない。
着地先にいる男に向かって、イリーネはローブの奥から取り出したナイフを投げつけた。
男が振り払う仕草をすると、彼の手元に幾何学模様が一瞬浮かびあがり、それが盾のような硬質な音を立ててナイフを弾く。
イリーネは恐れから無暗に放り投げたものに気づいて唖然とした。
(間違った、買ったばかりのやつなのに!)
歯噛みしながら落下するイリーネの手首が男に掴まれる。
恐れで身をすくませた瞬間、イリーネの握っていたハンカチははだけ、黒い角が飛び散った。
サヒーマたちはぐったりしながらも突然の侵入者に動揺して、愛らしい威嚇の鳴き声を上げたり気高さのあるまだ成長途中の牙を剥きだしたりしながら逃げ惑った。
しかしよく生き物を襲うイリーネは慣れたもので、鈍い動きを予測して背後から回り込むと、一瞬で角を切り取っていく。
抵抗してくる個体はまだいい方だ。
中には反応すらなく、ぐったりしているのもいる。
(角を取る処置を施したのが遅すぎるんだ。こんなになるまでごめん、ごめんね……)
イリーネはやるせなさで鈍りかける手を必死に動かし、角度や切り込むときの速度などで痛みと出血を最低限に抑えながら角を手に入れていく。
「おいっ、そこのガキ! 勝手に領主様の敷地に入るな!」
一番近くを警護していた、やたら重そうなプレートアーマーを装備をした中年のおっさんが柵の中に入って駆け寄ってくる。
(今年16歳になるらしいんだけど……まぁガキか)
そうは思いながらも、よく少年と間違われるイリーネは助走をつけて、無駄に鈍重な装備をしている男を飛び越えると、手のひらほどの面積しかない柵の上面に立つ。
角は羽織っているローブの下から取り出したハンカチにのせて、全て手に入れたか確認した。
(まだらな黒もあって少し柔らかいけど珍しく幼獣だし、きめも細かいから良質そうだな。でも良質な毒って……結構緊張するね)
サヒーマの幼獣の角は脆く、刺激を受けて崩れると、触れる分にはさほど問題ないが吸引すれば猛毒になる。
今ハンカチの中にある角が崩れて粒子をうっかり吸い込めば、イリーネの身体も毒気に蝕まれるのは間違いなかった。
浄蜜の小瓶がひとつだけあるのは心強かったが、なかなか見つけられない貴重品なので、使うのは最終手段にしたい。
「おい、ガキ! オレの癒しのもふもふに何をした!」
塀を登ることが出来ず背後で騒ぐ見張りのおっさんの声に急かされて、イリーネは角を包んだハンカチを握ったまま柵の外へと飛び降りる。
その先に、禍々しい姿を隠すような明度の低いローブを身につけている人がいた。
イリーネの足元からぞわぞわとした威圧感が這い上がる。
深々とかぶったフードから覗く、鋭く整った鼻梁と血をすすったように潤んだ唇、その下地の白く艶やかな肌が美しい容貌を不吉に仕立て上げていた。
魂すら引きずり込むような邪悪な闇色の瞳と目が合った瞬間、腹の底から恐怖が湧き上がる。
それなりの場数を踏んできたイリーネは、一目見てすぐに理解した。
関わってはいけない。
着地先にいる男に向かって、イリーネはローブの奥から取り出したナイフを投げつけた。
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イリーネは恐れから無暗に放り投げたものに気づいて唖然とした。
(間違った、買ったばかりのやつなのに!)
歯噛みしながら落下するイリーネの手首が男に掴まれる。
恐れで身をすくませた瞬間、イリーネの握っていたハンカチははだけ、黒い角が飛び散った。
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