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5・気苦労の絶えない妖精
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***
主人が館に戻ってきた時、エアは嫌な予感がした。
彼の両腕には、軽装の冒険者のような身なりをした小柄な人間が、ぐったりとした様子で抱えらえている。
明らかに衰弱した客人に気づき、エアの顔色は見るみるうちに青ざめると、透ける膜のような羽を羽ばたかせて、凶暴さを秘めた麗しい容貌を持つ主人の前に飛んだ。
手のひらサイズの少女のような妖精は、愛くるしい顔を怒りに染めて言い放つ。
「レルトラス様! 人間を燃やしたり飛ばしたり潰したりしてはいけないと、私があれほど……!」
「この子は平気だよ」
「平気なもんですか!」
禍々しくも甘い笑顔で返事をする主人に、エアはついかっとなる。
「いいですか、あまりにも奔放にふるまうと、また別の領地へ回されますよ!」
「マイフは大丈夫だよ。脅しが通用する」
「ですから! それが追い出される要因を作っているので……っ!」
エアはようやく、抱き上げられている人間が火傷を負っているわけでも、体の一部が吹き飛ばされているわけでも、潰されているわけでもなく、ただ汚れているだけだと気づいた。
どうやら、いつもとは違う事情らしい。
「この方、どうなさったのですか?」
「エアはサヒーマの角の毒を知っているかい」
主人の話がころころと変わるのは慣れているので、エアは気にせず首を傾げた。
「見たことはありませんが、確かゆっくりと死に至らしめる弱体化系の毒だと……」
言いながら、数日前から館の向かいに早急に作られた柵の中へやってきた、目の保養ともいえるもふもふな幼獣たちを思い浮かべる。
「まさか、マイフカイル様が保護されているサヒーマたちが毒を持ったのですか? どうして?」
「エアでもわからないのか。環境変化のストレスで角が変性するらしいよ」
言われてみれば、サヒーマたちはやってきた時点ですでに元気がなく気になっていたが、普段はお目にかかれない希少獣が衰弱することで、毒が作られるとは知らなかった。
主人は腕の中に抱いている人を大切そうに抱えなおす。
「この人間の女……イリーネがサヒーマのことを教えてくれたり、角を取る応急処置もしてくれた。俺が毒のことを伝えて、マイフはガロ領に早馬を出すことにしたそうだよ」
どこか得意げな様子の主人を見て、エアは目をしばたく。
今日はかなり機嫌がいいようで、いつになく饒舌だ。
「俺とイリーネはその毒を吸ったのだけど、浄蜜のしずくだったかな。イリーネは一つしか持っていないのに、サヒーマを助けるためだと俺に譲ってくれたから、おかげで調子もすぐ戻ったしね」
「浄蜜のしずく! すごい、そんな貴重品を譲って頂けるなんて……」
どうやら、主人が連れてきた人間は被害者ではなく恩人らしいと、エアもだんだん分かってくる。
しかしその恩人は汚れているだけではなく、やはり血色が悪く思えた。
エアは羽ばたいて自分の背丈ほどある恩人の顔に近づき、心配そうに覗き込む。
「この方はまだ、毒で身体が弱っているようですね」
恩人を抱きかかえたままの主人も、わずかに眉を寄せた。
「マイフから奪ってきた解毒剤を飲ませたけれど、イリーネは相変わらずこんな状態のままだ。服用するまでに、少し時間が経ってしまったせいかな」
「それは心配ですね……」
呼吸は落ち着いているので、あとは体力が戻るのを待つだけだとは思うが、サヒーマの毒に詳しい恩人は、おそらく自分の身が今のような状態になる可能性も理解して、主人とサヒーマを助けてくれたのだろう。
なんて思いやりのある方なのだと、エアは感激してつい涙腺が緩む。
「それで、レルトラス様もこの方を心配なさって……」
エアは言いよどむと、思いがけない可能性に気づいて主人をまじまじと見た。
「まさかレルトラス様、イリーネ様をこの館で静養させようと?」
「そうだね」
主人が館に戻ってきた時、エアは嫌な予感がした。
彼の両腕には、軽装の冒険者のような身なりをした小柄な人間が、ぐったりとした様子で抱えらえている。
明らかに衰弱した客人に気づき、エアの顔色は見るみるうちに青ざめると、透ける膜のような羽を羽ばたかせて、凶暴さを秘めた麗しい容貌を持つ主人の前に飛んだ。
手のひらサイズの少女のような妖精は、愛くるしい顔を怒りに染めて言い放つ。
「レルトラス様! 人間を燃やしたり飛ばしたり潰したりしてはいけないと、私があれほど……!」
「この子は平気だよ」
「平気なもんですか!」
禍々しくも甘い笑顔で返事をする主人に、エアはついかっとなる。
「いいですか、あまりにも奔放にふるまうと、また別の領地へ回されますよ!」
「マイフは大丈夫だよ。脅しが通用する」
「ですから! それが追い出される要因を作っているので……っ!」
エアはようやく、抱き上げられている人間が火傷を負っているわけでも、体の一部が吹き飛ばされているわけでも、潰されているわけでもなく、ただ汚れているだけだと気づいた。
どうやら、いつもとは違う事情らしい。
「この方、どうなさったのですか?」
「エアはサヒーマの角の毒を知っているかい」
主人の話がころころと変わるのは慣れているので、エアは気にせず首を傾げた。
「見たことはありませんが、確かゆっくりと死に至らしめる弱体化系の毒だと……」
言いながら、数日前から館の向かいに早急に作られた柵の中へやってきた、目の保養ともいえるもふもふな幼獣たちを思い浮かべる。
「まさか、マイフカイル様が保護されているサヒーマたちが毒を持ったのですか? どうして?」
「エアでもわからないのか。環境変化のストレスで角が変性するらしいよ」
言われてみれば、サヒーマたちはやってきた時点ですでに元気がなく気になっていたが、普段はお目にかかれない希少獣が衰弱することで、毒が作られるとは知らなかった。
主人は腕の中に抱いている人を大切そうに抱えなおす。
「この人間の女……イリーネがサヒーマのことを教えてくれたり、角を取る応急処置もしてくれた。俺が毒のことを伝えて、マイフはガロ領に早馬を出すことにしたそうだよ」
どこか得意げな様子の主人を見て、エアは目をしばたく。
今日はかなり機嫌がいいようで、いつになく饒舌だ。
「俺とイリーネはその毒を吸ったのだけど、浄蜜のしずくだったかな。イリーネは一つしか持っていないのに、サヒーマを助けるためだと俺に譲ってくれたから、おかげで調子もすぐ戻ったしね」
「浄蜜のしずく! すごい、そんな貴重品を譲って頂けるなんて……」
どうやら、主人が連れてきた人間は被害者ではなく恩人らしいと、エアもだんだん分かってくる。
しかしその恩人は汚れているだけではなく、やはり血色が悪く思えた。
エアは羽ばたいて自分の背丈ほどある恩人の顔に近づき、心配そうに覗き込む。
「この方はまだ、毒で身体が弱っているようですね」
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「マイフから奪ってきた解毒剤を飲ませたけれど、イリーネは相変わらずこんな状態のままだ。服用するまでに、少し時間が経ってしまったせいかな」
「それは心配ですね……」
呼吸は落ち着いているので、あとは体力が戻るのを待つだけだとは思うが、サヒーマの毒に詳しい恩人は、おそらく自分の身が今のような状態になる可能性も理解して、主人とサヒーマを助けてくれたのだろう。
なんて思いやりのある方なのだと、エアは感激してつい涙腺が緩む。
「それで、レルトラス様もこの方を心配なさって……」
エアは言いよどむと、思いがけない可能性に気づいて主人をまじまじと見た。
「まさかレルトラス様、イリーネ様をこの館で静養させようと?」
「そうだね」
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