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40・一向に懐かない
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レルトラスが黙っているのを見て、タリカは切なくなった。
「世界には美味しい食べ物が溢れてるのに、好きなものがないなんて寂しすぎる……」
「君もイリーネと同じ、食べ物が好きな部類なのか」
「エアさんだってそうだよ! 夜中にこそこそ隠れてスイーツ食べてるの、私知ってるんだからー」
「ああ。罪悪感との戦いに負ける禁断症状だと苦しんでいたけれど。深夜に怪談になりそうな声と物音を立てるのは、どうかと思うよ」
レルトラスはふと思いついたような顔をする。
「名前はエールにしようか」
「あれ。レルトラスさんお酒好きなの? 飲んでいるの見たことないから意外ー」
「いや。酒類は一度飲んだことがあるはずだけれど、よく覚えていないんだ。その後なぜかエアが館を禁酒にしてしまってね。イリーネはやって来た時、常に不満を垂れていたよ。この間出かけたときは、水分補給だと幸せそうに飲んでいたのがエールだったからね」
タリカは数日前、サヒーマの素材集めと頼んで二人にデートをさせてあげた、親切な自分の画策を思い出す。
相変わらず全く色気の感じられない様子ではあったが、二人とも楽しそうに帰って来て、サヒーマのための素材も手に入り、館も平和になり、企んだタリカとしても大満足だった。
「だけどレルトラスさんって、本当にイリーネのこと好きなんだね。ね、エール」
撫でてあげると、エールと名付けられたサヒーマは嬉しそうに目を細める。
「ああ、そうか。俺にも好きなものはあったね」
真顔で納得するレルトラスの無愛想さに、タリカも少し伝えておく気になった。
「えっとね、レルトラスさん……。そういう時はちょっとでも照れたりしないと、きっと伝わらないよー。イリーネって相当頭鈍いから」
「なるほどね。だからこんなにかわいがっていても、一向に懐かないのか」
「……多分、そのサヒーマを愛でるような言い方も、誤解をうんでると思うなー」
レルトラスは難しい顔をして物思いにふけった。
タリカも、基本的に横暴なレルトラスがイリーネに対してだけは、なかなか健気に尽くしてきた姿を知っているので、つい同情してしまう。
「相手の頭が鈍すぎて気づいてもらえないのも、さみしいね」
「いっそ跡形もなく燃やしてしまえたらと、時折思うよ」
この悪魔ならやりかねないと怯えつつも、タリカはいつも思っていたことをぽろりと零した。
「でもレルトラスさん、イリーネには乱暴しないね」
「怖いよ」
「え?」
「今までは無駄に余っている魔力を不便に感じたこともなかったけれど、治癒魔術の時に思い知ったよ。予想もしない形で傷つけることがあるってね。怖いよ」
複雑な真情をまっすぐ吐露されると、意外と熱血なタリカは治癒魔術をかけられたイリーネの悲惨な事件を、すっかり美談のように思い始めて、しきりに頷いた。
「こんなに大切に想ってくれてるのにー! イリーネの鈍い頭何とかして欲しいね、本当に! あの猛獣使い!」
「猛獣?」
「あっ、そこは私に答える勇気がないから拾わなくていいよ!」
タリカは失言からレルトラスの気を逸らそうとエールを抱き上げて、彼の側に置いてみる。
「サヒーマを上手に撫でることができるようになれば、イリーネも喜んでくれるよ! やさしくねー」
「そうか」
愛くるしいエールに向かって、レルトラスのわしづかむような手つきが迫る。
「待って!」
「どうしたんだい」
「レルトラスさん、さっきの話を思い出して。イリーネにはそんなことしないよね?」
「ああ、そうだったね。イリーネだと思えばいいのか」
その一言で心得たのか、レルトラスはエールをそっと抱き上げると、思いのほか慣れた手つきで首の回りを撫でてやる。
鈴の音と共に、エールが幸せそうに喉を鳴らしているのを見て、タリカはのみこみの良さに感嘆した。
「レルトラスさん、完璧だよー! ほら、この子レルトラスさんのこと好きになっちゃったねー」
エールは目を細めてレルトラスの身体に頬をすり寄せている。
「俺が撫でれば、イリーネもこうなるかい?」
「……えーと。確かにイリーネがこうしてくれたらかわいいとは思うんだけど」
「そうだろう」
「だけどほら、イリーネはノラ猫みたいなものだからなぁ」
「なかなか気を許さないのか。確かにはじめの頃は、ノラ猫のようにいつも館から出たがっていたよ」
「そうなの? うーん……イリーネってちょっと頑ななとこあるよね」
「弱いからだろう」
「弱いなら余計、ここにいたほうがいいのに」
「世界には美味しい食べ物が溢れてるのに、好きなものがないなんて寂しすぎる……」
「君もイリーネと同じ、食べ物が好きな部類なのか」
「エアさんだってそうだよ! 夜中にこそこそ隠れてスイーツ食べてるの、私知ってるんだからー」
「ああ。罪悪感との戦いに負ける禁断症状だと苦しんでいたけれど。深夜に怪談になりそうな声と物音を立てるのは、どうかと思うよ」
レルトラスはふと思いついたような顔をする。
「名前はエールにしようか」
「あれ。レルトラスさんお酒好きなの? 飲んでいるの見たことないから意外ー」
「いや。酒類は一度飲んだことがあるはずだけれど、よく覚えていないんだ。その後なぜかエアが館を禁酒にしてしまってね。イリーネはやって来た時、常に不満を垂れていたよ。この間出かけたときは、水分補給だと幸せそうに飲んでいたのがエールだったからね」
タリカは数日前、サヒーマの素材集めと頼んで二人にデートをさせてあげた、親切な自分の画策を思い出す。
相変わらず全く色気の感じられない様子ではあったが、二人とも楽しそうに帰って来て、サヒーマのための素材も手に入り、館も平和になり、企んだタリカとしても大満足だった。
「だけどレルトラスさんって、本当にイリーネのこと好きなんだね。ね、エール」
撫でてあげると、エールと名付けられたサヒーマは嬉しそうに目を細める。
「ああ、そうか。俺にも好きなものはあったね」
真顔で納得するレルトラスの無愛想さに、タリカも少し伝えておく気になった。
「えっとね、レルトラスさん……。そういう時はちょっとでも照れたりしないと、きっと伝わらないよー。イリーネって相当頭鈍いから」
「なるほどね。だからこんなにかわいがっていても、一向に懐かないのか」
「……多分、そのサヒーマを愛でるような言い方も、誤解をうんでると思うなー」
レルトラスは難しい顔をして物思いにふけった。
タリカも、基本的に横暴なレルトラスがイリーネに対してだけは、なかなか健気に尽くしてきた姿を知っているので、つい同情してしまう。
「相手の頭が鈍すぎて気づいてもらえないのも、さみしいね」
「いっそ跡形もなく燃やしてしまえたらと、時折思うよ」
この悪魔ならやりかねないと怯えつつも、タリカはいつも思っていたことをぽろりと零した。
「でもレルトラスさん、イリーネには乱暴しないね」
「怖いよ」
「え?」
「今までは無駄に余っている魔力を不便に感じたこともなかったけれど、治癒魔術の時に思い知ったよ。予想もしない形で傷つけることがあるってね。怖いよ」
複雑な真情をまっすぐ吐露されると、意外と熱血なタリカは治癒魔術をかけられたイリーネの悲惨な事件を、すっかり美談のように思い始めて、しきりに頷いた。
「こんなに大切に想ってくれてるのにー! イリーネの鈍い頭何とかして欲しいね、本当に! あの猛獣使い!」
「猛獣?」
「あっ、そこは私に答える勇気がないから拾わなくていいよ!」
タリカは失言からレルトラスの気を逸らそうとエールを抱き上げて、彼の側に置いてみる。
「サヒーマを上手に撫でることができるようになれば、イリーネも喜んでくれるよ! やさしくねー」
「そうか」
愛くるしいエールに向かって、レルトラスのわしづかむような手つきが迫る。
「待って!」
「どうしたんだい」
「レルトラスさん、さっきの話を思い出して。イリーネにはそんなことしないよね?」
「ああ、そうだったね。イリーネだと思えばいいのか」
その一言で心得たのか、レルトラスはエールをそっと抱き上げると、思いのほか慣れた手つきで首の回りを撫でてやる。
鈴の音と共に、エールが幸せそうに喉を鳴らしているのを見て、タリカはのみこみの良さに感嘆した。
「レルトラスさん、完璧だよー! ほら、この子レルトラスさんのこと好きになっちゃったねー」
エールは目を細めてレルトラスの身体に頬をすり寄せている。
「俺が撫でれば、イリーネもこうなるかい?」
「……えーと。確かにイリーネがこうしてくれたらかわいいとは思うんだけど」
「そうだろう」
「だけどほら、イリーネはノラ猫みたいなものだからなぁ」
「なかなか気を許さないのか。確かにはじめの頃は、ノラ猫のようにいつも館から出たがっていたよ」
「そうなの? うーん……イリーネってちょっと頑ななとこあるよね」
「弱いからだろう」
「弱いなら余計、ここにいたほうがいいのに」
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