【完結】とある義賊は婚約という名の呪いの指輪がとれません

入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆

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42・親切な悪魔のお兄さん

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(タリカと話してると誘導されているみたいでやりにくいな……)

 イリーネはにやにやしてくるタリカを睨みつけると、あからさまに話題を変えた。

「そんなことより、サヒーマの毛はいい値段で売れそう?」

「あ、うん。さっき家令さんたちが刈り取った毛の買取手配をしてくれたから。今回の量だけでガロ領主へのお金も払えるような、すごい金額になりそうだって驚いていたよ!」

 喜ばしいことなのに、イリーネの心は冷たい悲しみに浸されていく。

「……もう、お金全部返せるんだ」

「びっくりだよね! イリーネとレルトラスさんが何度も町の周辺を探索して、一生懸命いい素材をサヒーマのために準備してくれたおかげだって、みんなすごく感激してたよー!」

「そっか。良かった」

「実はね、次回もいい物が出来て売れたら、この保護区の拡張や、サヒーマたちが水浴びする場所を作ってもいいって言ってもらえて。ね、今からすっごく楽しみでしょー?」

「うん。本当だね」

 イリーネは静かに頷きながら、それを見る前に旅立っている自分を想像していた。



 ***



 月の出ているある夜、イリーネはラザレ領主に呼ばれる。

 イリーネは少ない荷物を持って旅慣れた装束に身を包み、寝静まった館内を音をたてずに進む。

 玄関に手をかけると扉があっけなく開いて、思わずため息をついた。

 タリカを助けて怪我を負ってから、厳密にはレルトラスの邪悪な治癒魔術をかけられて酷い目に遭った後から、魔術壁がほとんど解除されていることはイリーネも知っている。

(何、期待してるんだろ。いつもの気ままにようやく戻れるのに)

 イリーネは寝静まった館を背に、闇に紛れて領主の居館へと向かう。

 *

 謁見の間は煌びやかなシャンデリアに照らされて明るかったが、ガラス張りの背面には夜の帳が降りていて、景色も闇色に染まっていた。

「急ですみません。早めにお伝えしたくて」

 マイフカイルが相変わらずしきりに頭を下げてくるので、イリーネは沈んだ気持ちを悟られないように気軽に声をかける。

「いいよ。サヒーマの毛皮、良い値が付いたみたいで良かった」

「はい。みんながいい業者を探してくれて」

 背後に控える家令たちは控えめな態度で首を振っているが、みんな満足そうな表情をしていた。

 マイフカイルもほくほく顔で笑う。

「その業者からも『こんなに素晴らしい品質のものは、はじめて見た』と絶賛されたらしくて……本当にありがとうございました。財政に余裕のない我が領が、さほどお待たせすることなくサヒーマの被害金を全額を渡せたので、ガロ領主殿は驚きつつも喜んでくれたと思います!」

(そんな善良なおっさんには見えなかったけど)

「それにイリーネさん!」

 イリーネの頭に浮かべていることに全く気づかない様子で、マイフカイルは力強く話を続けた。

「サヒーマのための素材採取に、あの狂暴ながらも引きこもり気味のレルトラスを暴れさせることもなく、何度も町へ連れ出してくれたそうですね!」

「あぁ……タリカから聞いたの?」

「いえ、みんなから代わるがわる!」

 マイフカイルの背後に控えるうちの一人、お兄さん風の家令が一礼をして話し始める。

「最近のラザレの町では、親切な悪魔のお兄さんが一躍有名になっていますから」

「え、そうなんだ」

「僕も聞いて驚きましたよ! レルトラスが老齢の女性を乙女のようにときめかせたことで、関節の炎症が消えるほど若返ったという話!」

「あれは湧き水を飲んで……」

「それに、レルトラスによって人さらいから助け出された少年が、レルトラスに憧れて魔術師を志している話も聞きました」

「それは秘密を披露して……」

「さらにレルトラスを見かけると慕っている動物たちが次々に集まってくるという、なかなかメルヘンチックな噂は本当なのでしょうか。今度見に行って確かめようと思っているところです!」

「確か、形見のスカーフとか取ってあげたりして……」
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