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11 夕食と贈り物
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◇
準備を終え、公爵との顛末をルシールに話すと、彼女は目を丸くした。
「アルージュがロブロフォン閣下と結婚……!? 彼、魔術も容姿も完璧だけど、人嫌いで公務一筋って有名よ? ラウルドよりマシだからって、そんな人で本当にいいの?」
ルシール……正直すぎるところも好きだけど。
それに公爵なら、顔以外にもいいところはある。
「大丈夫よ。彼なら私とエトを守ってくれるわ。悪喰でも危険じゃないって理解してくれてるし、生活も行動も自由にできるの。なにより、エトの将来をちゃんと考えてくれてるわ」
「アルージュって、ほんと度胸あるわね」
それは褒め言葉として受け取っておく。
数刻後、公爵が戻ってきて「婚姻は無事受理された」と告げる。
そのままルシールの勧めで、夕食を囲むことになった。
「閣下、ご結婚おめでとうございます。でも……どうして突然、アルージュに?」
「彼女をひと目見て、その優しさと美しさを忘れられませんでした」
……そういうことにする気ね。
確かに、外向けの脚本はあったほうがいいだろう。
「しかし彼女には婚約者がいたため、思いは胸に秘めていました。離縁したと聞き、他の者に奪われる前にと、すぐ申し込みました」
「まぁ……! なんて純愛!」
ルシールが見事に感動している中、私は引きつった笑顔を必死に作る。
公爵、思った以上に演技がうますぎる。
声のトーンまでそれっぽい。
気を紛らわせるように隣に目を向けると、エトワールはちょこんと座り、行儀よくフォークを使って食事していた。
やっぱり公爵が気になるらしく、ちらちら見ては私を見上げる。
微笑みかけると、安心したように笑い返してから、また食事に戻る。
(この天使の仕草……! 公爵より外交スキル高いんじゃない!?)
やがてメインデッシュが運ばれてきた。
公爵は手を止め、料理長が置いた皿をじっと見つめる。
「これは?」
「アルージュ様考案、『トンカツ』でございます」
そう!
この世界にはトンカツがなかったので、前世の記憶を頼りに説明して作ってもらったのだ。
「まぁ、すっごく美味しいわ! 本当に、何度でも食べたいくらいよ!」
ルシールが声を弾ませる。
公爵は無表情のまま、完璧な所作でそれを切り分け、口に運んでいる。
これって、もしかして……夢中になってる?
と思ったら、公爵は私に視線を向ける。
「このソース、お前が作ったのか?」
「いいえ。このトンカツソースは――」
私は料理長が置いていった調味料ボトルを手に取る。
「エトワールが召喚しました!」
私には再現できなかった、あの味。
でも、ソースさえあれば作れる。
ただし在庫は、この一本のみ。
「公爵家の料理人に再現させよう」
そうこなくっちゃ!
この世界の食事ってどうしても単調だけど、これで前世の味をまた堪能できる!
……って、これ、エトワールのために作ったのよね。
隣の様子をうかがうと――
「……」
「え、エト?」
エトワールは思い詰めたような表情でトンカツをもぐもぐとしていたけれど、ハッとしたように顔を上げる。
そしてほっぺに手を当てて、にっこりした。
「おかぁしゃま、これねこれね! とってもおいちくて、エトのほっぺ、ぽろっておちちゃう!」
くうっ、可愛いの極み!
「明日から大きなお邸に行くの。そこでもまた食べましょうね」
「あいっ!」
よしよしっ、これで公爵領に行くのを楽しみにしてくれそう。
ただ……今回の召喚はおもちゃじゃなくて、調味料だった。
いったいどういう条件で出てくるんだろう。
ルシールの話だと、私がエトワールを寝かしつけて公爵のところに行った直後、召喚したらしい。
(この変化……レベルが上がった、とか?)
召喚については、まだ謎が多い。
夕食を終えるころ、エトワールは眠ってしまった。
公爵が席を立つと、ルシールが声をかける。
「閣下、よろしければ今夜は泊まっていかれては?」
「ありがたいお言葉ですが、あいつの不正を……いや、妻のために片付けておきたいことがあります。アルージュ」
「あ、はい」
「ラウルド・ロンブルへの想いは残っていないな?」
「え? ええ……」
急にどうしたんだろう。
ラウルドに残っているのは、「もう二度と関わりたくない」という気持ちくらいだけど。
「それなら、もう心配はいらない。今後、貶められるようなことがあれば俺に言え。明日、迎えに行くから、それまで休んでいろ」
公爵はそう言って私に高級そうな小箱を差し出し、そのまま去っていた。
え、説明なし?
小箱を手にしたまま立ち尽くしていると、ルシールがにっこりと微笑んだ。
「彼、アルージュのことを本当に心配しているのね」
「え? そ、そう……?」
「結婚しなかったのも、ずっとあなたを思っていたからだって、ひしひしと伝わってくるわ」
それは外向き用の設定だと思う。
でも、女帝や大司教からせっつかれても結婚を拒み続けていたのに、私の離婚直後に現れて婚姻を申し込んできたんだから、誤解されても仕方ない。
小箱を開けると、中には繊細なバラの形をしたクリスタルローズが入っていた。
形だけの婚姻とはいえ、定番の妻への贈り物を用意してくれたらしい。
けっこう律儀なのね。
「綺麗な水色……彼、意外とロマンチックなのね! アルージュの元の髪色を贈ってくれるなんて!」
元の髪色……そういえばそうだ。
でも彼が知っているのは、私を監視したとき。
赤髪の悪喰になった私の姿のはず。
「偶然ってあるのね」
「えっ……悪喰になる前からあなたを知っていたから、贈ってくれたんじゃないかしら」
「会ったことなんて、ないはずだけど……あんな美貌、もし会っていたら忘れないもの」
「そうよねぇ……でも私、こういう勘は結構当たるのよ?」
ルシールは首を傾げて、どこか確信めいた笑みを浮かべていた。
準備を終え、公爵との顛末をルシールに話すと、彼女は目を丸くした。
「アルージュがロブロフォン閣下と結婚……!? 彼、魔術も容姿も完璧だけど、人嫌いで公務一筋って有名よ? ラウルドよりマシだからって、そんな人で本当にいいの?」
ルシール……正直すぎるところも好きだけど。
それに公爵なら、顔以外にもいいところはある。
「大丈夫よ。彼なら私とエトを守ってくれるわ。悪喰でも危険じゃないって理解してくれてるし、生活も行動も自由にできるの。なにより、エトの将来をちゃんと考えてくれてるわ」
「アルージュって、ほんと度胸あるわね」
それは褒め言葉として受け取っておく。
数刻後、公爵が戻ってきて「婚姻は無事受理された」と告げる。
そのままルシールの勧めで、夕食を囲むことになった。
「閣下、ご結婚おめでとうございます。でも……どうして突然、アルージュに?」
「彼女をひと目見て、その優しさと美しさを忘れられませんでした」
……そういうことにする気ね。
確かに、外向けの脚本はあったほうがいいだろう。
「しかし彼女には婚約者がいたため、思いは胸に秘めていました。離縁したと聞き、他の者に奪われる前にと、すぐ申し込みました」
「まぁ……! なんて純愛!」
ルシールが見事に感動している中、私は引きつった笑顔を必死に作る。
公爵、思った以上に演技がうますぎる。
声のトーンまでそれっぽい。
気を紛らわせるように隣に目を向けると、エトワールはちょこんと座り、行儀よくフォークを使って食事していた。
やっぱり公爵が気になるらしく、ちらちら見ては私を見上げる。
微笑みかけると、安心したように笑い返してから、また食事に戻る。
(この天使の仕草……! 公爵より外交スキル高いんじゃない!?)
やがてメインデッシュが運ばれてきた。
公爵は手を止め、料理長が置いた皿をじっと見つめる。
「これは?」
「アルージュ様考案、『トンカツ』でございます」
そう!
この世界にはトンカツがなかったので、前世の記憶を頼りに説明して作ってもらったのだ。
「まぁ、すっごく美味しいわ! 本当に、何度でも食べたいくらいよ!」
ルシールが声を弾ませる。
公爵は無表情のまま、完璧な所作でそれを切り分け、口に運んでいる。
これって、もしかして……夢中になってる?
と思ったら、公爵は私に視線を向ける。
「このソース、お前が作ったのか?」
「いいえ。このトンカツソースは――」
私は料理長が置いていった調味料ボトルを手に取る。
「エトワールが召喚しました!」
私には再現できなかった、あの味。
でも、ソースさえあれば作れる。
ただし在庫は、この一本のみ。
「公爵家の料理人に再現させよう」
そうこなくっちゃ!
この世界の食事ってどうしても単調だけど、これで前世の味をまた堪能できる!
……って、これ、エトワールのために作ったのよね。
隣の様子をうかがうと――
「……」
「え、エト?」
エトワールは思い詰めたような表情でトンカツをもぐもぐとしていたけれど、ハッとしたように顔を上げる。
そしてほっぺに手を当てて、にっこりした。
「おかぁしゃま、これねこれね! とってもおいちくて、エトのほっぺ、ぽろっておちちゃう!」
くうっ、可愛いの極み!
「明日から大きなお邸に行くの。そこでもまた食べましょうね」
「あいっ!」
よしよしっ、これで公爵領に行くのを楽しみにしてくれそう。
ただ……今回の召喚はおもちゃじゃなくて、調味料だった。
いったいどういう条件で出てくるんだろう。
ルシールの話だと、私がエトワールを寝かしつけて公爵のところに行った直後、召喚したらしい。
(この変化……レベルが上がった、とか?)
召喚については、まだ謎が多い。
夕食を終えるころ、エトワールは眠ってしまった。
公爵が席を立つと、ルシールが声をかける。
「閣下、よろしければ今夜は泊まっていかれては?」
「ありがたいお言葉ですが、あいつの不正を……いや、妻のために片付けておきたいことがあります。アルージュ」
「あ、はい」
「ラウルド・ロンブルへの想いは残っていないな?」
「え? ええ……」
急にどうしたんだろう。
ラウルドに残っているのは、「もう二度と関わりたくない」という気持ちくらいだけど。
「それなら、もう心配はいらない。今後、貶められるようなことがあれば俺に言え。明日、迎えに行くから、それまで休んでいろ」
公爵はそう言って私に高級そうな小箱を差し出し、そのまま去っていた。
え、説明なし?
小箱を手にしたまま立ち尽くしていると、ルシールがにっこりと微笑んだ。
「彼、アルージュのことを本当に心配しているのね」
「え? そ、そう……?」
「結婚しなかったのも、ずっとあなたを思っていたからだって、ひしひしと伝わってくるわ」
それは外向き用の設定だと思う。
でも、女帝や大司教からせっつかれても結婚を拒み続けていたのに、私の離婚直後に現れて婚姻を申し込んできたんだから、誤解されても仕方ない。
小箱を開けると、中には繊細なバラの形をしたクリスタルローズが入っていた。
形だけの婚姻とはいえ、定番の妻への贈り物を用意してくれたらしい。
けっこう律儀なのね。
「綺麗な水色……彼、意外とロマンチックなのね! アルージュの元の髪色を贈ってくれるなんて!」
元の髪色……そういえばそうだ。
でも彼が知っているのは、私を監視したとき。
赤髪の悪喰になった私の姿のはず。
「偶然ってあるのね」
「えっ……悪喰になる前からあなたを知っていたから、贈ってくれたんじゃないかしら」
「会ったことなんて、ないはずだけど……あんな美貌、もし会っていたら忘れないもの」
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ルシールは首を傾げて、どこか確信めいた笑みを浮かべていた。
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