【完結】転生したら悪役継母でした

入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆

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12 元聖騎士の行く先(元夫・ラウルド視点)

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   ◆ ◆ ◆ 

 深夜、俺は大聖堂に連行されていた。

 荘厳な側廊には鎧をまとった聖騎士たちが並んでいる。
 無言の視線が皮膚を突き刺すように痛い。

 正面の祭壇前には大司教がいる。
 白と金糸のローブの神々しい輝きが、今の俺には処刑人の装束にしか見えなかった。

「聖騎士――ラウルド・ロンブル。神獣の御名のもとに答えよ」

 大司教の声が天井の高みに反響する。
 六十を超えてなお、その厳格な気迫に一切の衰えはない。

「先日、聖女ステラが馬車事故で亡くなった。彼女が身につけていた町娘風の衣装……マルゴー商会の記録によれば、あなたの元妻の財産で購入されたものと一致している。間違いないか?」

 心臓が跳ね上がる。

(まさか、金の流れが追われていたのか……!? アルージュからクリスタルローズは取り戻したというのに……)

 返答に詰まる俺を、大司教の鋭い視線が射抜く。

「事実であれば、聖女を守るべき聖騎士が、彼女の抜け出しを助長したことになる」

「げ、猊下、私は無実です! あれは当時の妻が! 悪喰が、俺を操り……!」

「悪喰にそのような力はない」

 燭台の灯が一斉に揺らめき、奥の闇から黒衣の影が現れた。

「俺の調査で、それは証明済みだ」

 闇よりも深い黒髪に、月のような黄金の瞳。

(ま、まさか! 帝国随一の魔術師、リュノール・ロブロフォン公爵!?)

 殺気のような威圧感に、全身から冷や汗が噴き出す。
 視線を合わせることすらできず、俺は膝をついた。

(だが……俺がステラの護衛を怠り、大聖堂を抜け出させたという確たる証拠は、まだ出ていない)

「さらに――」

 大司教は冷たい声で書類をめくる。

「あなたの妻が売り払った邸の近くに住む産婆が証言している。紫髪の赤子の出産を手伝い、紫髪の男から口止め料を受け取った、と」

 鋭い視線は俺の紫髪を見ていた。
 俺は絶叫し、髪を両手で隠したい衝動に駆られる。

「また、マルゴー商会が買い取った家財の中から、聖女が誰かに宛てた恋文が複数見つかった」

 息が詰まり、拳が震えた。

(……アルージュ! まさか、それを知っていて売ったのか!?)

「文中に名は記されていないが、相手は紫髪の男だと読める」

 ざわめきが広がる。
 聖騎士たちの視線が疑念から確信へ、そして蔑みへと変わっていく。

「ラウルド・ロンブル。あなたの護衛中に聖女ステラは大聖堂から抜け出した。さらに聖女の不調を偽り、療養の名目で密かに出産を助けた。そして聖女の不義の相手は――」

「兄だ!!」

 死に物狂いで叫んだ。

「俺じゃない! マナの聖水を飲んで侯爵家に絶縁された兄、コルヴォンの子だ! 俺は聖女の逢瀬を手伝っただけで!」

 その瞬間、空気が凍りついた。
 我に返ったときは、口元を押さえていた。
 その仕草が、致命的な自白になるというのに。

「聖女の逢瀬を、手伝っただと?」

 大司教の低い声が、怒りを孕んで響く。
 胸の奥が締め付けられた。

「己の重罪を認めるのか」

「ちっ、違う! 今のは……アルージュが俺を操って――」

 バンッ!

 祭壇を叩く音が大聖堂内に響き渡り、ステンドグラスが震える。

「黙れっ! 妻を愚弄し己の保身に走るとは、貴様の剣は穢れておる!!」

「猊下! 俺は、俺は聖騎士として……!」

 俺は叫びながら、夢中で大司教に駆け寄ろうとする。
 しかし、かつての仲間に床へ押さえつけられた。

「聖なる盾を持つ誇りを捨てた、ラウルド・ロンブル! お前は聖女の護衛を怠った。よって聖騎士の身分を剥奪し、罰金を命じる。さらなる余罪を明らかするため、監獄にて取り調べを行う」

 聖騎士たちによって、かつてアルージュを閉じ込めた俺は鎖に繋がれたまま、自由を奪われていく。
 
 夜の帝都は、闇そのものだった。

 鎖の音が鳴るたび、大聖堂の灯りが遠のく。
 俺の歩む先に、光はもうなかった。
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