【完結】転生したら悪役継母でした

入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆

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25 新たな発見

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 エトワールの掌に乗った石から、青くまばゆい光が溢れた。
 次の瞬間、その身体の周辺に召喚の魔術陣が広がった。

 そこから掌サイズのジェル玉が現れ、ぷるんと震えて地面に落ちる。

 私は目を凝らして、それを見つめた。

 見た目は、どうみてもこんにゃくゼリー。
 ぷるぷるで、ほんのり透明で、なんだか美味しそう。

「これ、何でしょうか?」

 公爵を見ると、真剣な顔で観察している。

「アーススライムだ。希少だが、害はない」

 安全と聞いてほっとする。

(でも、この子の頭、カブがはえてるんですけど!?)

「体内に取り込んだ植物を育てる性質がある。このカブも異界の植物だろう。初めて見る」

 エトワールがつん、と指で突くと、ジェル玉はふるんっと揺れた。

「どこに、みみあるの?」

「スライムにも聴覚はあるが、その原理は未解明だ」

「むずかちぃ、みみ。ぷるぷるん、アシュラーイム!」

(アーススライム、言いにくかったのね)

 必殺技みたいな呼び方になってる。

 エトワールは夢中になってつんつんし、透けた体を覗き込んでいる。
 すっかりお気に入りのようだ。

「エト、いしまるとアシュラーイム、おせわちていい?」

 ぷるんっとアーススライムが震えて返事をした。
 ちょっとかわいい。あと頭のカブも気になる。

「ええ、お願いするわ」

「あいっ!」

 エトワールが手を差し伸べると、アーススライムがぴょんと跳ねて肩に乗る。
 もう仲良くなってる。

「いしまる、おともだちふえて、うれちぃね!」

 エトワールが笑いながら手にした青い石を空にかざすと、それはキラリと輝いた。
 その様子にほっこりして、つい頬がゆるむ。

「良かったな」

「え?」

 顔を上げると、公爵が私を見つめている。

「なにか気付いたんだろう」

「……わかるんですか?」

「ああ。アルージュのことだからな。顔を見ればわかる」

 微笑みかけられ、私は自分の頬に片手を当てる。

(そんなにわかりやすいの、私)

 けれど確かに、確信があった。

(エトワールが名付けた、いしまる。あの石が赤から青に変わって召喚を起こしたんだから、間違いないわ)

 私はすぐに、はぐれ聖樹周辺の廃石を回収し、ラボラの工房へ送った。

  ◇

 数日後。
 ラボらから「重大な成果がでた」と連絡を受け、私は再び工房を訪れた。

「本日は、アルージュ様が発見された“廃石の変色”について検証し、動力として実用テストを行います!」

 きりっとした宣言とともに、ラボラは瓶の蓋を開けた。
 ざざっと塩が流れ落ち、中から赤い石が姿を現す。

「アルージュ様の仮説どおりです。灰色の廃石を塩で浄化すると赤に変わり、魔力を蓄えると青になります!」

「やっぱりね」

 干上がった塩湖の塩で廃石は浄化され、灰から赤になったのだ。

 そして、いしまる――赤い廃石がエトワールの魔力を吸って青くなり、召喚が起きたのもその証拠だ。

 この浄化廃石に魔力を補充すれば、何度でも使える“バッテリー”になる。

 高価な魔石の代わりにできれば、動力コストはほぼゼロだ。

 ラボラは青い廃石を加工した“魔充具”をハンドミキサーに組み込み、スイッチを押す。
 ウイーンと軽快な音を立てて、羽根が滑らかに回った。

「アルージュ様、完璧です! ゴミだった廃石が、再生動力になります!」

「これで銅貨数枚でケーキが買えるわ!」

「素晴らしいです!」

 ラボラと頷き合うと、胸の奥がじんわりと温かくなった。

 前世では「お姉ちゃんなんだから、高価なお菓子は我慢しなさい」と、妹の食べる姿を見ているだけだった。
 でもこの価格帯なら、気軽に食べられるようになる。

(高すぎる魔石問題は、これで解決よ!)

 ラボラは感極まったようにハンドミキサーを握りしめる。

「私もついに……この調理魔道具でシフォンケーキを作ってみせます!」

「まずはメレンゲからね!」

「お任せください!」

 ウィーン!

 次の瞬間。
 ラボラが勢いよく羽根をボウルに突っ込み、卵白が爆散。
 祝いの花吹雪のように飛び散った。

「卵白、なぜか舞いました!」

「舞ったんじゃなくて、暴発したのよ!」

 天才的な魔道具師――料理の腕は、残念方向で天才的だった。

   ◇

 こうして調理魔道具の量産準備が整い、私たちは公爵領へ戻った。

「アシュ、エトといっしょにかえろうね」

 エトワールの召喚したアーススライムは、いつの間にか”アシュラーイム”から、“アシュ”と呼ばれるようになっていた。

 頭にはえていたカブは庭に植え替えるとすくすく育ち、アシュものんびりとそばで過ごしている。
 そのおかげか土はふかふかになり、花壇の草花の育ちも良くなった。

 さらに、元詐欺オーナー・アクトゥの従業員たちも無事に体調を回復し、改めて雇用契約を結ぶ。
 正式なスタッフとして迎えることができた。

「アルージュ様のおかげです! もう包丁を持っても指が痛みません!」

「よかったわ。じゃあ次は、魔道具を使った新メニューの開発ね。味見係、お願いできる?」

「アルージュ様の噂の甘味を!? 光栄です!!」

 そんな風に笑い合いながら、試行錯誤して商品メニューを洗練させていった。

 並行して、従業員たちと領内を清掃し、枯れた聖樹のそばに転がっていた廃石を回収する。
 すべて塩で浄化してラボラに送り、動力の確保も万全だ。

   ◇

(ついに、この日が来たわ……!)

 よく晴れた早朝。
 朝の陽射しに、小城のような店舗の白壁が光る。
 新スイーツ店の前にはすでに行列ができ、通りには明るい声が飛び交っていた。

「ねぇ、聞いた? 画伯でもある公爵夫人の芸術的な甘味、孤児院や学舎のお祝いで配られたんですって!」

「しかも慈善活動までしているらしい。ゴミ廃石を拾って領内を綺麗にしてくれたって評判だ」

「今日は娘の誕生日なの。ここのお菓子、ずっと楽しみにしていたのよ」

 ざわめきがあちこちで弾ける中、店の扉が開いた。

 その先は宮殿のようだ。
 焼きたての甘い香りが、風に乗ってふわりと広がる。
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