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26 新感覚スイーツ店
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(新感覚スイーツ店「おかしのオルゴール」の開店よ!)
来店した領民は祝祭に招かれたように目を輝かせ、目利きの貴族ですら満足げにうなずいていた。
身分に関わらず、誰もが足を止めるのは、店中を彩るスイーツたち。
「わぁっ、かわいい!」
「宝石みたい!」
草原風エリアにはカラフルなうさぎまんじゅう。枝の段にはリスのしっぽロールケーキ。雪山の棚には氷湖を滑る白くまゼリー。
キャラスイーツがずらりと並ぶ光景を見ていると、お菓子の世界が現実に飛び出してきたようで心が弾む。
「これは……我が邸の調度品より洗練されている!」
「お母さん、誕生日のお祝いに、こんなに素敵なケーキを食べてもいいの?」
子どもたちの歓声と大人たちの感嘆が広がっていく。
店員もにこやかに応対し、かつてのくすんだ顔色はもうどこにもない。
その光景に、心地よい緊張感が胸に宿る。
(私も接客しよう! ……あら?)
賑わいを見渡すと、ただ一人だけ、空気に馴染めていない人物がいた。
店の隅に立つ初老の男性だ。背筋を伸ばし、旅装用の外衣は上質。貴族だろうか。
ポップなキャラスイーツを見つめる横顔は堅物そのもの。「来慣れてません」オーラがにじみ出ている。
「いらっしゃいませ。よろしければ、ご案内いたします」
笑顔で声をかけると、彼は私の顔を見てわずかに目を見開く。
その表情を見て、なぜか懐かしさが込み上げる。
男性は小さく咳払いをした。
「価格が安すぎるのではないか?」
(やっぱりそこを突かれるわよね)
もちろん従業員のマニュアルに組み込んで、答えられるようにしている。
「魔道具で製造効率を上げ、甘味植物も独自に栽培しています。安全性は食品ギルドのお墨付きです」
「あの黒い菓子は……?」
「スパイ犬ティラミスです」
「……ひとつ、試してみよう」
彼は渋面のままティラミスを買い、テラス席へ向かう。
まるで毒見でもするように慎重にひと口。もぐもぐ……無表情。さらにひと口。もうひと口……って、手の動きが速い!
(食べるたびにスピードが上がってますけど!?)
完食した男性は、なにかを熟考するような真剣な表情をしている。
「上品な甘さだな」
(そうそう、わかってくれるのね!)
この店の砂糖は、はぐれ聖樹の地で召喚されたアーススライム、アシュの頭に生えていた異界のカブを増やして精製した特製品。
前世の甜菜のようなもので、まろやかな甘みが特徴だ。
「スライム葛まんじゅうも味見しよう」
彼は大真面目な表情のまま、そちらもぺろりと平らげた。
(あらら……この人、完全に甘党に目覚めちゃったわね)
帰り際、彼の手には大きな菓子箱があった。
保冷保存剤として蓄冷石を入れてあるから、しばらくは楽しめるはずだ。
◇
店を閉めたあと。
翌日に備えて確認しながら廊下を歩いていると、店内の後片付けをする従業員の声が聞こえてくる。
「……今日、誰も怒鳴られなかったな。それどころか、お客様の笑い声ばかりだった」
「あんなに忙しかったのに、休憩もあった。夢じゃないよな?」
「オーナーが事前に対応を説明してくれたから、自信を持って接客できたわ」
少し開いた扉をそっと覗くと、従業員たちの顔には充実した笑みが浮かんでいる。
(疲れてるはずなのに、元気が出てきたわ)
そんな手ごたえを、静かに実感する。
こうして「おかしのオルゴール」は初日から大盛況を収めた。
帝国内でも噂が飛び交い、品質と価格の評判はあっという間に広まっていった。
◇
五日後。
大盛況となった「おかしのオルゴール」の応接間で、私はひとり緊張しながら立っていた。
大司教から“非公式の面会を願いたい”と書状が届いたのだ。
三大派閥の一角が、わざわざ公爵領まで足を運ぶなんて、ただ事じゃない。
公爵家宛てではなくて店舗への連絡だから、派閥争いやエトワールの召喚能力の件ではないだろうけど。
(まさかキャラスイーツが「教会を冒涜している」とか言いに来るわけじゃないわよね? それとも、私に個人的な話とか? いやいや。そんなわけない、はずだけど……彼は一応、私の――)
ノックが三回鳴り、私は背筋を伸ばす。
「どうぞ、お入りください」
従業員が扉が開き、純白の外衣をまとった人物が現れた。
「大司教猊下、エドモン・クレール様がお越しです」
(あっ!)
その厳格な顔を見た瞬間、頭が真っ白になる。
開店初日、爆速でスイーツを平らげていた、あの堅物男!
(いや、驚くのはそっちじゃない。彼が中身がぎゅうぎゅうに詰まったうちの菓子箱を右手に提げてるのは、まだわかるとして――)
「いた! おかぁしゃま!」
(左手でエトワールと手をつないでるって、どういうこと!?)
来店した領民は祝祭に招かれたように目を輝かせ、目利きの貴族ですら満足げにうなずいていた。
身分に関わらず、誰もが足を止めるのは、店中を彩るスイーツたち。
「わぁっ、かわいい!」
「宝石みたい!」
草原風エリアにはカラフルなうさぎまんじゅう。枝の段にはリスのしっぽロールケーキ。雪山の棚には氷湖を滑る白くまゼリー。
キャラスイーツがずらりと並ぶ光景を見ていると、お菓子の世界が現実に飛び出してきたようで心が弾む。
「これは……我が邸の調度品より洗練されている!」
「お母さん、誕生日のお祝いに、こんなに素敵なケーキを食べてもいいの?」
子どもたちの歓声と大人たちの感嘆が広がっていく。
店員もにこやかに応対し、かつてのくすんだ顔色はもうどこにもない。
その光景に、心地よい緊張感が胸に宿る。
(私も接客しよう! ……あら?)
賑わいを見渡すと、ただ一人だけ、空気に馴染めていない人物がいた。
店の隅に立つ初老の男性だ。背筋を伸ばし、旅装用の外衣は上質。貴族だろうか。
ポップなキャラスイーツを見つめる横顔は堅物そのもの。「来慣れてません」オーラがにじみ出ている。
「いらっしゃいませ。よろしければ、ご案内いたします」
笑顔で声をかけると、彼は私の顔を見てわずかに目を見開く。
その表情を見て、なぜか懐かしさが込み上げる。
男性は小さく咳払いをした。
「価格が安すぎるのではないか?」
(やっぱりそこを突かれるわよね)
もちろん従業員のマニュアルに組み込んで、答えられるようにしている。
「魔道具で製造効率を上げ、甘味植物も独自に栽培しています。安全性は食品ギルドのお墨付きです」
「あの黒い菓子は……?」
「スパイ犬ティラミスです」
「……ひとつ、試してみよう」
彼は渋面のままティラミスを買い、テラス席へ向かう。
まるで毒見でもするように慎重にひと口。もぐもぐ……無表情。さらにひと口。もうひと口……って、手の動きが速い!
(食べるたびにスピードが上がってますけど!?)
完食した男性は、なにかを熟考するような真剣な表情をしている。
「上品な甘さだな」
(そうそう、わかってくれるのね!)
この店の砂糖は、はぐれ聖樹の地で召喚されたアーススライム、アシュの頭に生えていた異界のカブを増やして精製した特製品。
前世の甜菜のようなもので、まろやかな甘みが特徴だ。
「スライム葛まんじゅうも味見しよう」
彼は大真面目な表情のまま、そちらもぺろりと平らげた。
(あらら……この人、完全に甘党に目覚めちゃったわね)
帰り際、彼の手には大きな菓子箱があった。
保冷保存剤として蓄冷石を入れてあるから、しばらくは楽しめるはずだ。
◇
店を閉めたあと。
翌日に備えて確認しながら廊下を歩いていると、店内の後片付けをする従業員の声が聞こえてくる。
「……今日、誰も怒鳴られなかったな。それどころか、お客様の笑い声ばかりだった」
「あんなに忙しかったのに、休憩もあった。夢じゃないよな?」
「オーナーが事前に対応を説明してくれたから、自信を持って接客できたわ」
少し開いた扉をそっと覗くと、従業員たちの顔には充実した笑みが浮かんでいる。
(疲れてるはずなのに、元気が出てきたわ)
そんな手ごたえを、静かに実感する。
こうして「おかしのオルゴール」は初日から大盛況を収めた。
帝国内でも噂が飛び交い、品質と価格の評判はあっという間に広まっていった。
◇
五日後。
大盛況となった「おかしのオルゴール」の応接間で、私はひとり緊張しながら立っていた。
大司教から“非公式の面会を願いたい”と書状が届いたのだ。
三大派閥の一角が、わざわざ公爵領まで足を運ぶなんて、ただ事じゃない。
公爵家宛てではなくて店舗への連絡だから、派閥争いやエトワールの召喚能力の件ではないだろうけど。
(まさかキャラスイーツが「教会を冒涜している」とか言いに来るわけじゃないわよね? それとも、私に個人的な話とか? いやいや。そんなわけない、はずだけど……彼は一応、私の――)
ノックが三回鳴り、私は背筋を伸ばす。
「どうぞ、お入りください」
従業員が扉が開き、純白の外衣をまとった人物が現れた。
「大司教猊下、エドモン・クレール様がお越しです」
(あっ!)
その厳格な顔を見た瞬間、頭が真っ白になる。
開店初日、爆速でスイーツを平らげていた、あの堅物男!
(いや、驚くのはそっちじゃない。彼が中身がぎゅうぎゅうに詰まったうちの菓子箱を右手に提げてるのは、まだわかるとして――)
「いた! おかぁしゃま!」
(左手でエトワールと手をつないでるって、どういうこと!?)
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