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第二章

落としどころ

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ユリウスがシモンズ学院長ともめてる頃
ジーナは転移でインディー王国の王宮に戻っていた。

「ロベルト、ロベルト殿下はどこ?」

「殿下はキーウィに向けて出兵されました。
たったあれだけの手勢では、死ににいくようなものだと申し上げましたが、お聞き入れにならず。
マリーン妃殿下まで伴って往かれました」

ジーナは、それを聞いてすぐに飛び出した。

『ジーナ 落ち着いて。ロベルトは大丈夫。戦いが始まる前に追い付くよ』

ジーナは、頭の中で響くユウトの言葉にも反応する余裕が無かった。







ロベルト率いる約5000の部隊は、キーウィまで残り2kmの所で陣を構えていた。

キーウィの町の外にはおよそ10万の軍勢が陣を構え、アチコチで篝火が焚かれているのが見える。


明日の朝には戦闘が始まる。両軍共に緊張した夜を迎えていた。









「使者をたてて、この町を明け渡す?
たかだか5000の敵兵、おそるるに足りません
夜明けから2時間も有れば勝敗は決しますぞ!
ユリウス様、全軍の士気に関わります。攻撃をしましょう。」

「5000人を殺すのか?
戦えば我が軍にも数千の死人が出るぞ。
この地は元々インディー王国の領土
我々は自国に戻るだけだ」

「それでは、皇帝陛下の命令でここまで来た者たちに何の恩賞も有りません。
陛下への忠誠心にも関わります
その不満をどう抑えるのですか?」

「自分の欲に目が眩んて居るものは、わたしは、要らない。
この街を見て何を思う。
アチコチ破壊され、女や子どもも犯され殺され、死体は弔うこともなくゴミのように扱われている。
なぜ他者の物を奪うことで利を得ようとするのだ。
そんなあさましい行いを私は許さない。
罪深き者には、罰をあたえる。」

「そんな考えでは、軍は成立しません。
力により支配し、服従させた者を、命令一つで死をも恐れず敵に立ち向かわせねばなりません」

「オルドー・ビンテージ伯爵、それだったらぼくは軍は要らないよ。
仲間がいればいい。
ぼくと共に、正義を心に戦える仲間だけでいいよ。」

「わかりました。私は古い人間で、そうした考えには素直について行けませんが、ユリウス様にお仕えすると決めた以上、お言葉に従います。」

「では、キャロライナを使者にそしてテイルとルークを従者に派遣します。」







キャロライナを先頭に、白旗を掲げたテイル、ツンドラ帝国旗を掲げたルークの3人は、やっと白みはじみた日の出前にロベルトの軍に向って歩を進めた。

陣迄あと少しの所で、敵将が出迎えてきた。

「我が名はロベルト・インディー
ここまで我が国領土を犯しながら、今頃使者とはどういうことだ!」

「私はキャロライナ・ビンテージ
 ユリウス・ツンドラ皇帝代理の命令により参りました。
昨日ユリウス皇帝代理の手により、プチーン前皇帝は捕縛されました。
現在ユリウス皇帝代理がツンドラ帝国軍全軍の指揮権を掌握しています。
ユリウス皇帝代理は、貴国との戦争を好まず、撤退を表明しています。
そこで、停戦協定を結ぶことを提案します。

こちらから提案の協定内容は、以下です。

お互いに傷つけ合うことをなくし、ツンドラ帝国兵の安全な帰国を促すことを目的とする。

ツンドラ帝国軍は5日以内に撤退を完了すること
インディー王国、ツンドラ帝国共に相手に対していかなる賠償も求めない。
停戦合意前に行われた相手国及び相手国民に対する破壊、暴力、略奪などの犯罪に対して恩赦をあたえる。

以上です。

合意いただけるなら、
ジーナ殿のツンドラ王宮破壊も罪に問わないということです」

「なに? ジーナがツンドラ王宮を破壊?」

「はい、王宮が立っていた場所は、今は、巨大な穴が有るだけです。
私はつい先日までジーナ姫と机を並べ学んでいた者です。
私は王宮が破壊されるその場にもおりましたので、ジーナ姫の凄まじき力をこの目に刻んでいます。
あの方にとって、我らが10万の兵など、取るに足らないものでしょう。」

「プチーン前皇帝の今後の処遇はどうなる。」

「無益な戦争を引き起こした張本人として罪に問われると思います。
しかしこれは私の個人的見解です。」

「それでは、こちらからの停戦の為の要求を言おう。
まずプチーン前皇帝の公開処刑を求める。そしてその場には、こちらの代表も送り見届ける。
そして、この戦で命を落とした一人一人の者の亡骸をちゃんと埋葬すること。
そして、キーウィの町復興に必要な資金及び人員の提供。
そして、最後に、皇帝代理本人の我が国に対する謝罪の言葉を要求する。
以上だ」

「その要求ですと、撤退は5日で完了はしませんが」

「侵略や征服が目的で無くなった軍で有れば、敵ではないでしょう。
我が国にも、悪人もいれば善人もいます。
帝国軍兵が、敵のままか、客となれるかは、その行動次第です。」

「ロベルト殿下のお言葉。敬服致します。
ユリウス皇帝代理に確かにお伝えします。」


ちゅどーん


その時近くに何かが落ちてきて白煙があがった。

「ジーナが来た」テイルが言った。

「ロベルト 無事でよかった。」

「ジーナ 今はこちらの帝国軍からの停戦の使者、キャロライナ殿との交渉中だ、少し控えてくれ」

「ロベルト殿下、たった一人でツンドラ帝国王宮を消し去ったジーナ姫がここにいらっしやることも、あわせてユリウス皇帝代理に報告してもよろしいでしょうか?
我が軍にも頭の固い者がおりまして、愚かにも未だ勝てる気でいるのです。」

「逆にジーナに敵意や恨みを持つのではないか?
まぁ かと言ってジーナを屠れる者もいないであろう。
キャロライナ殿の裁量にお任せする」
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