太陽くんとましろちゃん

杏西モジコ

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太陽は真っ白天使に恋をした

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 失敗した。特にこの席はダメだった。
 俺はあまりにも考えなしの行動をとったと、数分前の自分を恨んだ。付き合っていた彼女にフラれたばかりで参っていた俺を先輩が気を利かせて連れ出した。行き先も告げられずに到着した場所は個室チェーン店の居酒屋で、向かい側には女の子が数名座っている。つまり、合コンだ。新しい恋へと切り替えてしまえば気持ちだって晴れるだろうという、先輩の耳打ちを真に受け、俺は息巻いて席についた。だが、その席で最大のミスを犯したのだ。
 先程から、というよりも開始してからずっと女の子の視線は俺の隣の席へ集まっている。それもそのはず、俺の隣には俗に言うイケメンが座っていた。その男はサラサラな栗色の髪の毛を持ち、整った顔立ちをしている。身長も高く、ゆったりとしたシャツにニットを着ていた。綺麗な顔のインテリ系、とてもいうのだろうか。話し方もゆったりとしていて、同性の俺から見ても優しそうな雰囲気がある。俺をここに連れ出した同じサークルの青木先輩の幼馴染みで、名前を黒崎墨仁といった。しかも、うちの大学で最も偏差値の高い教育学部らしい。それも首席入学である。何も知らない俺は、その隣りに席を陣取ってしまったのだ。こんな席だ、対してパッとするところの無い自分に目の前の女の子が興味を持つわけがない。不貞腐れたように目の前のグラスを淡々と空にしていると、それに気がついたイケメン黒崎は、飲み物のメニューを差し出してきた。
「次は何飲む?」
 俺は首を振った。
「いや、瓶ビールで良いです。誰も飲んでないし」
 乾杯用に出された瓶ビールは、テーブルの上に並べられたまま誰も手をつけていなかった。栓は抜かれているので、一口も飲まずに残すのは気が引ける。黒崎さんは一番近くの瓶を手に取ると、俺にグラスを持たせた。
「好きなの飲めば良いのに」
 グラスまで持たせておいてなんなんだよ、と思ったがそこはグッと堪える。
「いや、勿体ないし」
 注がれたビールを一気に飲み干すと、また黒崎さんは俺のグラスに注ぎ始めた。
「あの、自分でやるので……」
「ん、酔った?送るから大丈夫だよ。青木にはキミが振られたってことも聞いているし、ここは飲んで嫌なことは忘れて良いんじゃない?」
 送るとかそういう問題ではないし、いくら後輩だとしても初対面の相手に一言余計だ。そう思いつつも先輩の友人となると断るのも癪で、俺は彼の注いだビールをまた喉へ流し込んだ。


「んじゃ、そろそろゲームしようぜ」
 幹事の青木先輩がにやにやとやたら楽しそうに言った。頬を赤らめているところからして、相当に酔っ払っている。
「なんのゲーム?」
「やろやろー!」
 周りもだんだんとお酒が回って色々なセーブがきかなくなっている。呂律の回らない声主が多く、俺は遠目で苦笑いを浮かべた。
「じゃあ、定番の……山手線ゲーム!」
 青木先輩の大きな声で拍手が鳴る。古い、と野次を飛ばす人もいたが、みんな楽しそうに笑っていた。
「ちゃんと罰ゲームあるからな~。それじゃあ、お題は普通に山手線の駅名!真城、お前から!」
 青木先輩が俺を指差した。まさか矛先がこちらに向くとは思っていない上に、グラスに入ったビールを飲んでいる最中だった。咄嗟に飲み込んだが、炭酸が喉のあたりで膨れ、上手く声が出せない。むしろ焦って何か喋ろうとして噎せてしまい、周りがどかんと笑い転げた。
「初っ端罰ゲーム決定!」
 青木先輩はゲラゲラと笑いながら、俺の肩を抱いて黒崎さんとの間に割り込んできた。
「まだ何も言ってないですよっ!」
「いやいや。酒の席では噎せたり、溢した時点で罰ゲームってセオリーなんだよ。つーわけで、お前、女装な」
「だから、さっきのは無しでしょ!」
「何言ってんだよ、決まりだ決まり。先輩命令だっつーの」
 青木先輩はバシバシと背中を痛いぐらいの勢いで叩く。こういうのがアルハラと言うのではないか。眉間に皺を寄せ、酔っ払って聞く耳を持たない青木先輩を思い切り睨むと、隣で黒崎さんがクスリと笑った。
 くっそ、他人事だと思って……!
 睨みをきかせていると、寄りかかってきた青木先輩は更に体重を込めてきた。
「明後日、女装したまま大学来いよ。そんで、俺とこいつが写真を撮ってこのメンツに拡散する!」
 先輩はこいつ、と言いながら先程から変に絡んでくる黒崎さんを指した。周りはイェーイ、なんて言って盛り上がっている。
「そんな無茶苦茶な……」
「これが飲み会の洗礼だよ、後輩クン」
 そんな洗礼受けるぐらいなら、一人で傷心していた方が何百倍もマシだ。人の気も知らないで、なんなんだまったく。俺はおもちゃかっつーの。
 小さく舌打ちをして、グラスに入っていた残りのビールを半ばヤケになって流し込む。こうなりゃ、もう彼女なんてどうだって良い。実際、今日は女の子と何一つ盛り上がっていない。寧ろ、俺をネタに盛り上がる奴らしかいないじゃないか。だんだんとこの空気に苛立って、俺は全体に聞こえるように言ってやった。
「めちゃくちゃ可愛くなってやるから覚悟しろよ!」
 フラれた腹癒せに来たはずの合コンで、俺は勢いよく啖呵を切った。
 しかし、勢いに任せて啖呵を切ったことを後に物凄く後悔するのだった。



「うん、我が弟ながら嫉妬に狂いそうなほど可愛い」
 カシャリとスマホのシャッター音が部屋に響いた。その一回を皮切りに、姉さんのスマホは俺に向いたまま休むことなくシャッターを鳴らす。姉さんは何度も同じ角度から写真を撮っては「うん、顔面最高」と一人で頷いている。というのも、合コンの帰宅後、罰ゲームの件を姉に愚痴ったら、なぜか物凄い気合いを入れて色んなメイク道具を引っ張り出してきたのだ。何を隠そう、この姉、趣味がコスプレなのである。ただの愚痴のつもりだったが、そのコスプレ魂に火をつけてしまっていたらしい。気が付いた時には、頼んでもいないのに長さや色の違うのウィッグを数種類並べ、更には自分が着ている服や着なくなった服をごっそりと俺の部屋へ持ち込み、聞いてもいないことをベラベラと喋りながら人の身体に当てがって、あーでもない、こーでもないと忙しなく動き始めていた。
「雪弥は肌も白いし、ピンク系が似合うと思ったんだよ~。うん、可愛い。ムカつくぐらい完成されてる」
 淡いピンクのトップスに、クリーム色のロングスカートを着せられ、栗色でセミロングのウィッグを被せられた。色も光の加減でピンクに見える、今時の女の子がしてそうな髪色だ。メイクもされ、鏡で見れば確かに映っているのは自分では無いように見えた。
「これがきっかけでコスイベに興味が湧いたらいつでも言ってね……!姉弟でやれたら超エモいしバズる」
「悪いけどそれは絶対に無いよ、姉さん。でも、うん。俺じゃないみたい……。ありがと」
 溜息混じりでお礼を言い、重たい腰を上げて姉に借りたバッグを持った。
「え、もう行くの?」
 まだ写真を撮り足りないのか、残念そうに姉さんが言った。
「近所の人に見られる前にさっと消えたい」
「私の友達が泊まったって言えば大丈夫よ」
「喋ったら俺だってわかるだろ」
 姉さんはそれはそうだ、と笑った。他人事だと思って楽しんでいるのはわかるが、世間的にはまだ驚かれることのが多い行為だということも分かってほしい。そもそも何の兆しもなかった俺が急に女装した時点で騒ぎのタネになる。
「とりあえず、行ってきます」
「一応黙ってれば可愛いからナンパに気をつけなさいよ。あと、なるべく可愛く笑うこと。声も頑張って高めに出して。あと、猫背には注意。それから……」
「行ってきます」
 俺は遮るように玄関のドアを閉めた。閉じたドアの奥から姉がまだ騒いでいたが、これ以上玄関先で騒ぐ方がご近所の注目の的になってしまう。
「……よし」
 覚悟を決めた俺は、慣れない靴を履いた足を一歩前へと動かした。今日は姉が用意した大きめなパンプスを履いた。踵をつけると、コツコツという音を立てた。普段履いている靴とは違ってカパカパして、面積が少ない。足の甲に風が当たるのが不思議だった。初めて履いたスカートにも違和感があり、歩くたびにふくらはぎのあたりで裾がふわふわと揺れ、その慣れない感覚に戸惑ってしまった。色んなことが気になり、ただ歩くだけなのに神経を無駄にすり減らす。怖くて早歩きすら出来ない。女の子ってこんなに大変だったのかと思わぬ形で実感した。
 結局、早めに出たというのに、駅に着くのにはいつもよりも時間がかかってしまった。


 大学に着く頃には靴擦れができ、歩き方はもっとぎこちなくなっていた。おかげで教室へ向かうのも億劫になった。踵のすぐ上が靴に当たるだけで、激痛が走り、無意識に爪先立ちになる。とにかく座りたい。慣れないと疲れるだろうから、と言って姉さんはわざわざヒールの低い靴を選んでくれていたが、正直もう限界だった。何度も突っかかり、転びそうになる。大学に来るだけでこんな思いをしなければいけないのか。何度も言うが、これを毎日さらりとこなしてしまう女の子達って本当に凄い。すくそばを通りすぎて行く女の子達はスタスタと足速に歩いている。きっと、彼女達も最初はこの痛みを味わったに違いない。自分の踵を見ながら、俺はそんなことを思った。

 地味な痛みが歩行の邪魔をするため、とうとう俺は目についたベンチに腰掛けた。座る時はスカートを整えてから、という姉さんの教えをきちんと守り、教え込まれた作法で腰を下ろす。どこで誰が見ているかもわからない。そもそも女装だ。女の子になり切らなければ、今後の大学生活に支障が出る。
 それもこれも、全部青木先輩のせいだ……!
「あっ」
 俺は青木先輩に連絡をしていなかったことを思い出した。パンプスを脱ぎ、足を伸ばしながら小さなカバンからスマホを取り出した。足がつるぐらいに伸ばし、強張っていたふくらはぎの筋肉をほぐす。スマホで青木先輩に連絡を入れて、腕を頭の上で組みながら、ぐいっと伸びをした。ピキッという音が背中から鳴る。ゆっくりと息を吐き、俺はそのまま空を見上げた。大学に来るだけでグラウンドのトラック十周分走った程度には疲れている。頭に昇っていた血が一気に下がっていった。いつもなら、こんな数時間でどっと疲れることはない。これを毎日やれと言われたら絶対に無理だと思い、余計に目の前を通過して行く女の子達に尊敬の眼差しを向けてしまう。
 まぁ、今日一日ぐらいだし、どうせ明日からは長い春休みだ。きっと良い笑い話になるだろう……。
 誰にも声をかけられていない俺は、ただベンチで休んでいる一人の女子学生にしか見えないはず。靴擦れ以外にまだ何のトラブルも起きていないせいで、気持ちに余裕さえ出てきていた。


 しばらくすると青木先輩から返事が返ってきて、後ほど黒崎さんと一緒に向かうと言われた。一瞬誰のことかと思ったが、合コンで視線を集めていたイケメンのことだった。青木先輩が変なことを言い出さなければ、きっと二度と関わらないはずだったのに。あの日、俺は結局飲み疲れて立ち上がるのもやっとになり、彼に支えてもらいながら電車に乗り込んだ。腰に回された手に不快感を覚えたのはその時が初めてで、送ってもらっている身でありながら相当嫌な顔をしていただろう。しかも最寄駅で降ろしてもらったというのに、お礼もきちんとした覚えがない。酒のせいとは言え、その時が初対面だった相手に迷惑をかけすぎたと後々反省をした。その後、彼とは会うことはなかったため、距離感も微妙なままである。今日これから会うと思うと、急に胸焼けしてきた。
 そんな事よりも、先程からチラチラと歩行者がこちらを見てくるような気がする。というか見られている。広い大学なのだから、一人ぐらい知らない人がいてもおかしくはない、とか誰も考えないのだろうか。いや、そもそも裸足でベンチに座りながらストレッチする女子大生なんて、まず俺が見たことない。そりゃ、視線が集まるはずだ。
「誰?」
「さぁ?」
「見たことある?」
「ない」
 そんな会話が近くを通る人たちから聞こえてきた。もしかしたらウィッグがズレていて、あいつやばくない?みたいな、そんな会話かもしれないとまで思い、慌ててカバンのポーチから鏡を取り出したが、そうではなかった。やっぱり、裸足で座っている変な女の子がいると思われてしまったかもしれない。
 居た堪れず、ベンチの近くの自販機で飲み物を買おうと、慣れないパンプスを履き直すと、靴擦れの痛みがに足がぐらついた。
「わっ」
「あ、ちょっ」
 倒れる、と身構えていたのだが、身体が少し斜めになり、後ろから何かに引っ張られていた。ガシッと力強く手首を掴まれ、優しく腰を誰かに抱かれている。
「大丈夫……ですかっ?」
 振り向くと、赤いパーカーを着た童顔のひょろっとした男が俺を支えていた。
「あ、えと……ありがとう」
 なんとなく目を逸らして、お礼を言った。不思議と腰を抱かれても不快感がなかった。
「良かった、転ばなくて……って、うわ!足真っ赤!これ、もしかして靴擦れ?」
 彼は慌てながら優しく俺の腕を引き、近くのベンチに座らせた。
「大丈夫、だから」
「俺、絆創膏あるから!」
 彼はメッセンジャーバッグの外ポケットから絆創膏を取り出すと、俺の前に屈んで片足に触る。
「ちょっ」
「すぐだから」
 片一方の手で踵を持ち、痛いとこを触らないように、壊れ物を触るようにゆっくりと丁寧に貼られた。まるで、お伽話のお姫様のような扱いだ。こんな扱いをされたのは初めてで、全身がピリピリとするほど緊張した。
「うん、これで大丈夫」
 そう言って顔を上げた彼と目が合い、顔が火を噴くほど熱くなるのを感じた。
「わっ、え、あー……す、すみませんっ!」
「えっ、なんで謝って」
「ごめんなさいっ、ごめんなさい!女の子の足を勝手に触って本当にっ!そのっ」
「ちょ、落ち着いてってば」
「お、俺!ち、痴漢とかじゃなくて、ただその、本当にっ」
「わ、わかってるから、少し落ち着いて!」
 真っ赤になったと思ったら、だんだんと青くなっていく顔。百面相を見ているようで面白いとも思ったのだが、謝れ続けられるのも困る。
「いや、でも!本当に、ごめんなさいっ」
 急に深々と頭を下げられた。
「ちょっ、えぇ……」
 困っている俺の背後では、周囲の人がなんの騒ぎだと騒がしくなり、こちらを通りすがりに気にする様子が伺えた。人が集まってこられても厄介だ。その中には普段から授業で顔を突き合わせる人も少なからずいるだろう。
「と、とにかく、別に怒ってないから……。むしろありがとう。だから顔上げて?」
 男は深々と下げた頭をゆっくりと上げた。慌てたせいで額に滲んだ汗が光っている。そんな彼と視線がぶつかると、ブワッと全身が逆立つような感覚がした。
 よくわからないけれど、とりあえず怒ってないことを全面的に伝えないとと思い、にこりと笑ってやると、彼は俺のその顔を見上げて思いがけない言葉を発した。
「可愛い……」
「…………は?」
「天使は……実在したかもしれない……」
「え……?何言って」
「あのっ」
 両手を掴まれ、沢山中に詰められたニセモノの胸の前でぎゅっと握られた。
「ちょっ」
「僕と付き合ってくださいっ」
 純粋な彼のキラキラとした目は真剣そのもので、まっすぐと俺を見ている。
 ま、マジかよ……!
 俺はゴクリと唾を飲み込んだ。どうしよう、さっきも言ったが彼の目は真剣で、ガチだ。俺の目を逸らさず、じっと見据えて離さない。そのくせ、一文字に結んだ口は小さく震えている。小っ恥ずかしいほどに真っ直ぐな告白に、俺は顔が熱くなって行くのを感じた。
 これはあれだ、彼を傷付けないように断らなければ。そうでないと「男に一目惚れして、白昼堂々と男に告白した男」として、彼に最悪なトラウマを植え付けてしまう。とにかく、慎重に……。
「あ、あの……」
「彼氏、いるんですか?!」
 俺は勢いに負けてぶんぶんと首を振る。
「じゃあっ!」
 ぎゅっと握られた手は、先程よりも強くなり、離そうにも離れない。
「あの、ちょっと離してほしいな~……なんて」
「あっ、ごめんね……。この手を離したら二度と会えないってそんな気がしちゃって……」
 少しだけ力を緩められたが、やはり離す気はないようだ。うるうるとした瞳に思わずドキっとさえする。しかし、状況が状況なだけにどうあっても罪悪感の方が強い。とにかく離れようともう一度手を引っ込めようとしたが、その潤んだ瞳と必死な顔に強く振り払うことが出来なかった。それに、可愛いとか天使とか言われた時は何を言い出すのかと思ってしまったが、正直悪い気はしない。いや、でも。俺は別に男と付き合うためにこの格好をしているわけではない。あくまでも罰ゲーム。不本意だが、青木先輩に笑われるためにやっていることなのだ。それに、後々知った彼に文句を言われても困る。最悪の場合、弁護士を連れて来られて「精神的苦痛を与えられた」なんて言われてしまうかもしれない。ここはやはり正直に話してやろうと、俺は気持ち悪がられる覚悟をした。
「……キミ、名前は?」
「あ、赤澤太陽ですっ!」
 食い気味に言われて、少し仰け反った。真っ赤になりながら、必死に俺を捕まえているこいつが一瞬可愛く見える。
「太陽……くん?」
「はいっ!」
「あの」
「いた!真城だっ!間違いないっ」
 大きな声にビックリして、思わず太陽の手を振り払った。振り向くと、遠くから青木先輩と黒崎さんが手を振りながらこちらに向かってくるのが見えた。
 最悪だ。タイミングが悪過ぎる。この状態を説明したところで二人には大笑いされるだけだし、彼にはとんだ恥をかかせてしまう。
「あの、ごめんね。今日はちょっと人と待ち合わせしてて。えーっと、連絡先……」
「ちょっとまって」
 太陽はメッセンジャーバッグからルーズリーフを取り出すと、電話番号とメッセージアプリのIDをさらさらっと書いて俺に渡した。
「ここに、連絡ください!俺、待っているから」
「えっと、うん。必ず連絡する。今日は大事な約束があって……その、失礼しますっ」
 そう言って受け取ったルーズリーフを手早く折ってカバンの中にしまい、太陽に軽く手を振ると、俺は逃げるように先輩達の方へ走っていった。


 家に帰ると、俺はウィッグを脱ぎ捨て、ベッドに横たわった。思っていた以上に頭の中は蒸れて、家に着く頃には肌寒いとは言いつつも頭の中は大量の汗をかいていた。足だってパンパンで、棒のように動かない。両足の靴擦れは、絆創膏を貼った上からもずっとパンプスに当たって痛かった。貼ってもらった絆創膏にも血が滲んでいる。
 あれから青木先輩と黒崎さんと証拠の写真撮って、そのまま昼食を食べて解散になった。スマホのメッセージアプリを開くと、青木先輩からその写真が送られてきていた。
 加工アプリを使わずにこのクオリティか……。その辺の女の子より可愛いんじゃね、俺。
 写真をスクロールしながら自画自賛していると、部屋の外から足音が聞こえてきた。
「ゆーきーやー?帰ってるのー?」
 部屋の扉がコンコンっとノックされ、気の抜けた返事をすると、部屋着に着替えた姉さんが入ってきた。
「うわ、なにその格好……台無し。で、どうだった?」
「どうって、何が」
「ナンパされた?」
「あー」
 姉さんに言われて、太陽とのやりとりを思い出した。
 俺、そういえば告られたんだった……。
 悪い気はしないが、相手は男だ。だがそれをそのまま姉に話すのはまた別問題だった。苦笑いを隠すように手の甲で口元を押さえながら「可愛いって言われたかな」と濁しながら答えた。
「やっぱり?だって可愛いかったもん!どう、またやる?」
「そうだな~。まぁ、悪い気はしなかった……。でも足がクソ痛くてもう勘弁してほしいかな」
「パンプス?慣れれば平気だってば。靴もゴツくないスニーカーなら今日の服にだって合うし、どうにでもなるわよ。次の服決めていい?一緒にお買い物いこ!」
「へいへい。まぁ、そのうちな……。今日は疲れたし着替えて風呂入ってさっさと寝るから、ほら出てって」
 楽しそうにあれやこれやを提案する姉を無理矢理押し出すと、俺は部屋の扉を閉めた。


 風呂に入って改めて靴擦れの痛みを確認した。靴擦れをしたのは初めてではないが、久々な上にここまで痛みを感じるものだと忘れていた。それに加えて、慣れない靴を履いたせいで、普段使わない筋肉を酷使し、膝から下が棒のようだった。幸いにも明日からは長い春休みに入る。外出しない日があっても神様は何も言わないだろう。髪の毛をタオルで拭きながら部屋へ戻ると、姉さんに返し忘れていたカバンが目に止まった。
 そうだ、返さないと……。
「あ、中にまだ入れっぱなしだ」
  忘れないうちに返しておこうと、財布とカモフラージュに持たされた薬用リップと小さな鏡しか入れていない化粧ポーチを取り出した。これがなんのためになるのだろうかと思ったが、姉曰く、大半の女性は持ち歩いているそうだ。いや、だとしても小さすぎだろ。無いのと同じじゃん、などと言いたいことを言うと、口が裂けても外で言うなと釘を刺されたのだった。
 そのポーチとバッグを持ち、姉さんの部屋へ向かおうとした時だった。カサっと音を立てながら雑に折られたルーズリーフがカーペットに落ちた。
「あーやばい、忘れてた」
 拾い上げて中身を確認すると、少し歪な字だが、はっきりと大きく電話番号とメッセージアプリのIDが書かれていた。俺はしばらく書かれた数字を見つめた。
 連絡すべきだろうか。一瞬だけ躊躇したが、俺はスマホを手に持つと、メッセージアプリを開いた。IDの検索画面を開き、メモに書いてあるナンバーを打ち込む。検索を押し、友達登録さえすればメッセージは送れるはずだ。が、しかし。すんなりと検索を押すことができなかった。
 もう二度とあの姿になることもない。罰ゲームの女装が割と気に入ってしまっては、やった意味もないのだ。それに、連絡さえ来なければ彼も諦めるはずだ。そう思ってそのまま机の上にルーズリーフを放り投げ、俺はタオルで頭を拭きながら、姉の部屋に向かったのだった。


 数日後、靴擦れはかさぶたにかわり、自分のスニーカーを履いても違和感と痛みを感じなくなった。姉さんはあれから次はどうするだの色々と言ってくるが、適当にあしらった。二度とあれはごめんだ。すでにあの二人の先輩にも合コン参加メンバーにも知られた訳だし、下手にあの格好はできない。笑いのネタとしては最高だが、そう感じ取るのにもまだ時間がかかりそうだ。そして、なによりも太陽のあの純粋な顔がチラつき、何とも言えない罪悪感で胸のあたりがざわついた。もうダメだ。人を騙すなんて。しかもあんな純粋な人間の純粋な部分を傷つけるなんて。人としてやって良いことと悪いことの線引きはきっちりとしておきたかった。
 しかし、春休みだからといって、大学に行かないわけでもない。サークルの新入生勧誘期間に向けての話し合いがあったため、俺は顔を合わせたくない青木先輩のいる部室へ渋々出向いていった。
 女装をした時と同じ時間に自宅を出たが、全く別の近道を使ったのかと思うほど、大学には早く着いた。同時に、女の子になるのは体力が必要だと感じた。いつもは歩幅が大きく、堂々と歩いても疲れないのだが、彼女達と同じ格好でそれはできない。やっぱり、いつもの、普通の格好の方が断然楽だと感じた。

 サークルの部室は、授業が行われている校舎の向かいにある部室棟と呼ばれる建物にあり、校門からは中庭を通っていくのが近道だった。今日は春休み初日だというのに、学内には学生が多い。きっと俺と同じ理由で来ているがほとんどで、これから開催されるであろう花見やら歓迎会と称した飲み会の幹事決めのために来たのだろう。特に中庭は陽当たりがよく、人が多く集まっているようにも見えた。
 歩いている途中、中庭に行く道にこの間女装をした時に座ったベンチがあることを思い出した。よくもまぁ、あんな目立つところに座って休んだものだ。我ながら感心する。目線の先にベンチが見えて、誰かが座っているのが見えた。俺はあの時の自分に苦笑いをしながら、なんとなくそのベンチを見ないよう視線を逸らし、まだ蕾が膨らんだ状態の桜の木々を見上げながらその前を歩いた。
「まだ来ないのか?天使ちゃんからの連絡」
「天使ちゃんって……。マシロちゃんっていうんだってば!」
「幻だって。フツーに考えて、太陽みたいな童貞相手にするか?」
「うるさい、うるさい!童貞言うなっ!あれは運命だよ、約束したから絶対連絡くるっ」
「あはははっ!わかったわかった、奢るからとりあえずメシ行こ、な?」
「そこでましろんとのこと作戦練ろうぜ」
「おい、気安くましろんとか呼ぶなって!可愛いけどっ」
 一瞬、背筋が凍るかと思うほど冷たい風が吹いた。冷や汗がどっと溢れる。心臓が破裂するのではと思うぐらいに早く脈を打ち、手のひらが冷たくなって手汗が滲むのを感じた。
 マシロちゃん、太陽……?
 今のって……。いや、今の会話って……!!
 ごくりと唾を飲み込み、ゆっくりベンチの方へ視線を向けると、先日俺の靴擦れを気遣って絆創膏を貼ってくれたアイツがしょげた顔をして仲間に慰められていた。
 いや、マジか。マジか、マジか!
 まさかまだ待っているなんて……。
 あのざわざわとした感覚がまた胸のあたりを弄ってくる。あの男の潤んだ顔を再び思い出し、罪悪感が再び込み上げた。俺は居た堪れず、足早にベンチを通り越し、中庭を抜けて部室棟へ向かった。

 

「お、やっときた」
 部室の扉を開けると、待ってましたとばかりにニヤニヤと笑った青木先輩が、数人のサークルメンバーと一緒に扉を開けた俺に視線を向けた。
「お疲れ……さまっす」
 視線の数的に、自分以外のメンバーが揃っていることを把握した。心臓はまだうるさい。急いできたせいもあって、息が上がり、呼吸も苦しかった。
「うっす。んじゃ、はじめるか」
 青木先輩は、息を整える俺を横目に話題を切り出した。俺は急いで窓際の空いている椅子に腰掛け、大きく深呼吸をした。
 俺の所属しているサークルは、十数人という少人数のサークルで、最近は周りからただの飲みサー呼ばわりされている。だが、実際は大学の謂わゆる生徒会的な団体と協働してイベントを企画するサークルだ。通称「イベ部」と呼ばれていて、入った当初からこの略し方はめちゃくちゃダサいと思っていた。しかし、ダサい呼び名ではあるが、やる事はきちんとやるサークルだ。それに、学祭や学校行事の運営を行うのは大変だけれども楽しかったりもする。住めば都とはこのことだろう。イベ部という略称だって、今はしっかりと自分の中に馴染んできている。そんなやりがいのあるサークルだからこそ、失くさないためにも毎年春休みから新入生の勧誘準備に力を入れるのだ。
「じゃ、本題。ただ、学校行事を手伝うサークルっていうとさすごい入り辛いと思うだろうから、イメージ変換が課題だと思うんだけど、どうよ?」
 サークルの部長が議題を出した。今日はサークルの中心にいる人たちと、部室に余裕持って入れる人数だけが集まっていた。だが、蓋を開ければもともと全体数が少ないサークルだ。本当は片手で数えられる人数が休んでいるだけで、何かを決めるのには充分な人員である。
「たしかに。なんか堅いイメージがあるっていうか。そんなこと実際にはないのにね」
「じゃあさ、イベントごとに率先して参加してるよ~アピールできりゃ良いじゃん。ほら、去年のハロウィンコスプレ大会!楽しかったし」
「あー!有り有り。そしたら勧誘の時期にコスプレとかどうよ?」
「それいけるっ!大学ってこうやって自由だよアピいけそう!」
 先輩達が各々の意見を言い合う。この場合、他に案があっても流れ的には乗った方が良いだろう。周りも乗り気なように見えた。実際、楽しくできれば良いと思ったし、名案だと思った。去年のハロウィンコスプレ衣装なら、きちんとクリーニングもして、部室のロッカーに仕舞い込んである。一年生としてその雑用をやった手前、再度その衣装を使うことに抵抗はない。
「そしたら、真城は女装だな」
「へっ?」
 思わず声が裏返った。青木先輩がこちらをニヤニヤと見ている。
「いやいや、ないない」
 苦笑いで誤魔化しながら首を振ると、他の女性陣達が俺の顔をじっと見てきた。
「悔しいけど、真城って顔良いからね……化粧映えしそう」
「うんうん。体力的に男の子入って欲しいし、ここは美人になる可能性踏んでも良いよねっ」
「いや、待ってくれ。俺の意見はっ」
 青木先輩がすかさず肩を組んできた。この状況、まさにデジャヴすぎる。
「罰ゲームをこのための練習だって正当化すれば、噂なんて消えるだろ」
「は?」
 耳打ちをされ、先輩を見ると、悪魔のようにニヤニヤと笑っている。この人は頭が良いのか悪いのか全くわからない。
「待ってくださいよ、噂なんか流れてました?」
 勧誘期間に女装することは一旦置いといて、俺は青木先輩に詰め寄った。少なくとも俺はそんな噂を耳にしてはいない。すると、青木先輩は誤魔化すように「あーじゃあ、わかったわかった」と、何が分かったのか分からない遮り方をした。
 この人、また適当なことを……!
「なら、こうしよう。数名だけ女子は男装!男子は女装!これで良いだろ。二名ぐらいはちゃんと笑いに寄せる方がベストだ!」
 青木先輩の提案に、部長が笑いながら決定事項だと声を上げると、口々に異議なし!声とともに、賛成多数が率先して楽しそうに作戦を練り始め、俺一人の意見なんて通らないまでに話が進んでいった。

 後になって、俺が学校に来なくなるのではないかと黒崎さんが心配をしていたことを知った。そんな心配をしてくれるのなら、やる前に青木先輩を止めてくれれば良かったのに。考えれば考えるだけ溜息が出てしまう。過ぎた事はしょうがないとはいえ、また女装をすることは億劫だった。何より、太陽のことが気になる。やはり、こうなってしまった以上、連絡をとるべきだろうか。IDは既に入力してある。検索履歴から飛べばすぐにメッセージを送る事は可能だ。このまま黙っていることも出来るが、勧誘時期に女装だと言いふらしながら校内で出くわした方がショックが大きいだろう。というか、俺の方も色々ダメージを食う。だとしたら、彼の心の傷的にも先に知ってしまった方が良いのかもしれない。あぁ、でも、どう切り出したらいいんだろうか……。
 悶々としながら帰路につき、自宅へ帰ると机の上に数日間放置したあのルーズリーフを手に取った。
 俺なら知らないままより、全部知ってから一発ぶん殴る方がマシかな……。
 そう思うと、善は急げだ。早い方があっちもダメージが軽くなって、殴られる可能性も低くなるだろう。俺はスマホのメッセージアプリを開き、彼のIDを検索履歴から表示した。


 人を好きになって、自分から告白したのは初めてだった。初恋は中学生の時、同じクラスになった女の子だった。身長が低くて、少しだけ垂れ目な子。ぴょこぴょこ動くのが可愛いと思っていた。三年間、ただの片想いだった俺は、卒業式でこの想いを告白しようと決心していた。だが、いざ呼び出そうとした時、彼女がテニス部のエースに告白をしているのを見かけてしまい、そこで俺の気持ちは簡単に砕け散ってしまった。呆気なくその初恋は幕を閉じたのだ。好きになってもそんな結末があるなんて知らなかった。読んできた本や見てきたドラマの結末は、必ずハッピーエンドだったから。自分が悲しくなる恋なんて、もうしないと思ったほどには、初恋のその傷は大きかった。
 しかし、高校生になると周りにカップルが増え、やっぱり彼女がほしくなった。だが、やはり気持ちを伝えるタイミングが遅く、良いなと思った子はどんどん彼氏を作っていく。彼女達の中で、俺は「ただの仲の良い男友達」に留まるようになり、だんだんと関係の浅い友人が増えた。それはそれで楽しかったが、大学に入ってからは更に周りにはカップルが増えていく始末。ぶっちゃけ僻んでもいたが、自分の行動が遅いせいなのは分かっていたし、中学の時のことがトラウマになっているのか分からないが、本気で人を好きになることはほとんどないに等しかった。
 そんな中、春休み前に出会ったのが『マシロちゃん』だった。
 転びかけた彼女の腕と身体を支えた時、驚くほど軽く、その華奢な身体にまるで透明な羽根が生えているような気がした。見た目も可愛いらしく、学内にいたら間違いなく男女問わず騒がれていそうな存在だった。その姿に目を奪われれば、時間が経つことすら忘れてしまいそうな、そんな雰囲気を纏った綺麗な子だった。思わず口に出して「可愛い」と言った時は、自分でも理性が働かないことがあるのだということを知ってしまうほど。気持ちまで募って、勢いよく一瞬で生まれた想いまで告げてしまった。あの日からずっと彼女のことが頭から離れない。ずっともやもやとしていて、バイト中も集中できなかった。
 もう一度会いたい……。
 そう思うのに、彼女がどこの学部の何年生かも分からず、探せず終いだった。連絡先をこちらが聞いておけば良かったとさえ後悔した。待っているだけがこんなに苦しいなんて。こんなにも夢中になることなんて、今までの人生であっただろうか。中学生の時に好きになったあの子にだって、そんな想いを抱いたことはなかったはず。居ても立って居られず、サークル活動の合間や、バイトのない日は彼女と出会ったベンチの近くへ足を運んだ。時間のある限り、彼女に会うために尽くそうと決めたのだ。いつも一緒にいるメンツには「諦めろ」とか「きっと夢だったんだろ」とか極め付けに「マシロって名前の女の子はこの大学にはいない」とまで言われる始末だ。わざわざ調べてくれた彼には申し訳ないが、彼を信用するというよりも、いないという事実を信じることができなかった。だって彼女は俺の前にいたのだから。この手に触れた事実があるのだから。もしかしたら、この大学の学生じゃないのかもしれない。だけど少なくとも彼女は存在したのだ。いることはいる。ならばきっと会える。いや、絶対にもう一度会う、会いたい……!
 連絡が来ない数日間。モヤモヤという胸の苦しさと戦いながら、彼女からの連絡を待った。暇があれば画面を確認し、画面更新をする。SNSでも学内で誰か見かけていないか検索をする毎日。周りに呆れられ、溜息を吐かれようが、虚しくなろうが続けていた。そしてつい先程、知らないIDからアプリに新規メッセージが受信されたのだ。
 
「わ、えっ、やばいやばいやばいやばいっ!どうしよう……来ちゃった!?」
 嬉しさと困惑が一体化して頭の中は真っ白だった。狭いアパートの自室で大きな声を出してしまい、壁が薄いことを思い出して咄嗟に口に手を当てた。
「落ち着け、俺……。まずは深呼吸、深呼吸……!」
 ゆっくり息を吸って、ゆっくり吐いて……。
 数回深呼吸を繰り返し、震える手でアプリを起動した。
 変な期待はしてはダメだ。新しい企業アカウントのお知らせの可能性だってある……。
『こんにちは、先日はありがとう』
 簡素なメッセージではあるが、嬉しくて身体中にまとわりついていたモヤモヤが晴れ、かわりに心臓がものすごい勢いで鳴っているのが耳の奥の方で聞こえてくる。文面から分かる。これは紛れもないあのマシロちゃんからのメッセージだ。ゴクリと唾を飲み込むと、既に震えていた手が更に震えて、ベッドの上にスマホを投げ落としてしまった。喉の奥がカラカラになり、噎せながらスマホを拾いあげた。何度見返しても画面上には彼女からのメッセージがある。目をこすっても、そのメッセージは霞むことも消えることもない。
「き、きてる……!夢じゃ、ない……っ」
  嬉しくてじわっと目が潤み、鼻の奥がつうんと少し痛んだ。
 こうしてはいられない、すぐに返事をしないと……!
 スマホをベッドに置き、正座をして震える手を片手で支えながら、指先で文字を打ち込んだ。


 数回メッセージのやり取りをした。簡素なメッセージはポコポコと音を立てて届き、その度に嬉しくて仕方なかった。だが、彼女はあまり自分のことを話してはくれない。あの大学に通っていることは確からしいが、どこの学部なのか、サークルは何に所属しているのか、何の授業に出ているとか……。そういう質問はさらりとかわされた。あわよくば毎日会いたいという気持ちが滲み出てしまっているのかもしれない。遠回しの質問は逆に警戒してしまうのだろうか。確かにあの日、俺は初対面の彼女の足を断りもなく触れてしまった。よくよく考えれば通報案件だろう。嫌われていても仕方ない。
 だったら……。
『ましろさんに会いたい』
 それだけを打ち込んで送信しようと考えた。返事によっては俺のことを嫌っていないことが分かるかもしれない。いや、でもまわりくどいだろうか。ストレートにそのまま伝えてしまった方が良いのでは。
 考えるだけで、いざ送信は押せない。この場合、どうしたら良いのか恋愛初心者には全く検討もつかない。彼女はあの時のお礼を伝えるためだけにメッセージを送っているのだ。俺とどうこうなりたいとは一ミリも考えていないだろう。
 いや、だとしても……!!
 やっぱり誰が何と言おうともう一度会いたいことには変わらない。何度も自分を奮い立たせる。しかし、打ち込んでは消してを繰り返すだけ繰り返し、結局何時間も言い出すことができなくて自分のヘタレ具合いに嫌気がさした。それでも会話を途切れさせたら終わりだと思ってしまって、他愛のない話を送り合う。それだけでも嬉しくて、お伽話みたいな言い換えをするなら、灰色の毎日がカラフルな世界一変したような感じだ。
 ただ、何も伝えずにこのまま終わらせてしまったら後悔するのは目に見えていた。またモヤモヤが募り、余計な不安が自分を襲って眠れない日々が続くだろう。
「……よしっ」
 意を決して『もう一度会いたいです』という、その言葉を入力して、震える親指を抑えながら送信ボタンを押した。既読は直ぐについたが、メッセージの返信は先程のリズムから外れたようだ。ピタリと止んだ受信音がドキドキと高鳴っていた心臓音と自分の気分まで下げていく。
 あぁ……やっぱり……。がっつきすぎた。絶対嫌われたじゃん……!
 手にスマホを握りしめたまま、文字通り肩を落としながら枕に顔面を突っ伏した。これ以上ないってぐらいの大きくて深い溜息を吐く。こんなことなら誰かに相談してから返事を返せば良かった。
 あーあ、幸せ逃げたじゃん。俺の大バカ野郎め。いきなりあんなメッセージを送らなければよかったと、自己嫌悪に陥った。
 ああでもない、こうでもない。色んな不安が頭の中で浮かんでは消える。いや、言わないよりは言って後悔した方が格好いいだろう。そう自分に言い聞かせること数十分。彼女からの受信音はもう二度と鳴らないだろうと、諦めかけた時だった。
 ポコン。
 メッセージの受信音が、部屋に響いた。
『今週末なら都合、つきます』
 その文字列を見て心臓が止まるぐらいの衝撃が走った。
 マジか。マジか、マジか!?
 ベッドの上で数回両手を上げて一人万歳三唱を行う。生きてて良かった、なんて大袈裟だけれど、それぐらい嬉しくてそれ以外の言葉が浮かんでこなかった。
 神様、仏様、イエス様、お釈迦様!今日という日を僕に与えてくださってありがとうございます!!
 心の中で何度も復唱し、腫れるほど頬をつねって夢ではないことを確認した。
「痛いっ!やっぱり……!夢じゃないっ」
 やったぁ、と大きな声を出す。嬉しさのあまり、周りに気が回らない。ドン、と隣の部屋から壁を蹴られる音がして、俺は我に返った。


 あれ程嫌だと言ったのに、自ら女装をする決断を下すことになるとは思ってもみなかった。姉さんにまた事情を話すと、やたらと嬉しそうに二つ返事で了承され、約束の土曜日は無駄に早く起こされた挙句、諸々の準備をさせられた。起き抜けに浴室へ放り込まれ、除毛クリームで全身をつるつるにするよう言われたかと思えば、風呂から出るなり顔に冷たいパックをつヒンヤリしていて付けた時は思わず肩が上がった。
 前回の反省を踏まえて、今日は事前に用意しておいたスニーカーを履くことにしていた。俺が普段履いているようなゴツゴツとしたスニーカーではなくて、シンプルな可愛いらしいスニーカーだ。ブランドものでもなく、安めで雑貨屋なんかで購入できるものを姉さんが用意してくれていて、三日前から履き慣らしておいた。今日の服装は俺好みで、白い花柄の黒いロングスカートに白いパーカー。その上にデニムのジャケットを羽織る。よく見る女の子の服装だけれど、幼さがあって可愛いと思う。まぁ、着ているのが俺でなければ。
 こんなに可愛い服を同性の、しかも男のために着ることが来るとは思っても見なかったけど……。
「あと、事情は何であれ『私』ってちゃんと言いなさい。今日は女の子、女子なんだから」
 慣れた手つきで俺にメイクをしながら姉さんが言った。
「俺が?」
「私、でしょ」
「……わ、私……」
「そうそう。社会人になったら使う一人称の一つだと思えば、別に変じゃないでしょ?はい、目少し瞑って」
『私』なんて言い慣れていないから、口にしただけで身体中から毛が逆立つ気がした。だが姉さんの言うことも一理ある。それに今日は練習だ、練習。新入生勧誘期間のための練習だ。そう何度も自分に言い聞かせる。それにこの間初めて自分の女装を見て割と自信は持った方だ。突然告白をされるぐらいだし、こんなことを言ったら誰かに殴られても仕方ないだろうけど、その辺の女の子よりはモテる自信もあった。ふふん、と鼻を鳴らして笑っていると、姉さんにじっとして!と怒られた。

「はい、終わりっ」
 数十分経って、姉さんがメイクを終えた。俺が大きな欠伸をしながら、お礼を言うと姉さんは怖い顔を向けてきた。
「仕方ないじゃん……慣れないんだから」
「おしゃれは我慢って言うでしょ?」
 そうは言われてもじっと耐えているのもしんどい上に、今日はいつも以上に早く起こされたのだ。目を閉じてと言われるたびに、そのまま眠りにつきそうになっても仕方ないだろう。
「ほら、見て。この間より可愛くできたっ!」
 鏡を渡され、映り込む別人の自分を見つめる。確かに、前回よりも気合が入っている気がする。でもそれって、逆に『楽しみすぎて頑張ってしまった女の子』にならないだろうか。今日は太陽から高ポイントを獲得するためにメイクをするわけじゃない。開き直っていたのは確かだが、あくまでも正直に全てを打ち明けるキッカケにするメイクなのだ。これでは寧ろその逆な気がして変に不安が込み上げる。
「姉さん、これ」
「うん、可愛いから大丈夫」
「いや、そうじゃないんだけど……」
「アンタが前に付き合ってた彼女より全然可愛い」
「……その話が発端なんだからやめてくれよ」
 頭を抱える俺をよそに、姉さんは以前と変わらず楽しそうだった。相変わらずスマホのシャッター音が止まらない。
「逆に楽しんでみたら?そのしかめっ面、せっかく可愛くしてあげたのに勿体ないんだけど」
「楽しむって……どうやって」
「イケメンに愛想振りまいて騙すとか」
「うーわ、サイテー」
 苦笑いをしながら答えると、姉さんは俺の被っているウィッグを手で梳かした。
「悔しいけど本当に手のひらで男を転がしてそうな女の子にしか見えないもの。でも高嶺の花ってそんな感じでしょ?それに、こういうのは楽しんだ方が良いじゃない」
 姉さんの話は多少し引っかかる箇所があったが、鏡に映る自分を見て俺も同意はする。確かにこれは、よく見る可愛い系の小悪魔女子だ。ここまで別人に見えるなら楽しんだ方が気持ちも楽だというのにも頷ける。
「女の子はデートの前に新しい服とか買っちゃうの。そういう気持ち考えたら、きっと振られない彼氏にはなれるはず」
「だから傷を抉ぐるなってーの」
 にやにやと鏡に映る姉さんはこの間と同じで、俺よりも何倍も楽しそうだった。


 約束の時間はお昼。ちょうどランチでどこに行くにも混み合う頃合いだろう。逆にこれを狙っており、どこにも入れないまま全てを話し、さっさと帰ってくる。これが俺の計画だった。
 この間と同様に姉さんからカバンやらポーチを借りた。中にはリップやら小さなミラー、スマホにハンカチ、財布を入れ込んだ。小さなカバンにこれだけ沢山の物を入れていると思うと、女の子の持ち物は四次元ポケットにも思える。普段から大学に行く際に、少しでも身軽にしたくて、必要最低限の物しか持ち歩かない自分とはやはり違う生き物のだと思った。
 電車に乗って、大学の最寄りより二駅前で降りた。駅前だけ栄えていて、映画館や人気のカフェや、少し歩けばショッピングモールなどがある所だ。春休み期間ということで、多くの人が行き交っている。指定してきたのはあちら側で、家が近いとかそんな理由かと思っていた。不安要素は大学付近だということだが、休みのこの混雑に紛れてどうせ誰にも見つかりっこないだろう。
 流石に女性ものの腕時計は用意出来なかったため、スマホで時間を確認をした。まだ少々時間がある。することも無いし、フラフラして迷っても困る。俺はまっすぐ待ち合わせの駅前広場にある大きなモニュメントへ向かった。
 人が交差するたびに、ロングスカートの裾が捲れて脛のあたりがサワサワと気になってしまう。
 スカートは失敗だったか……。
 人の行き交いもそうだが、春独特の強い風がスカートを靡かせる。駅からそんなに距離が無いはずの待ち合わせ場所なのに、裾に引っ付いた布が邪魔で歩き難く、ほんの少しの距離が遠く感じた。
 モニュメントの近くにやっと着くと、どっと疲れが出てきた。カバンからミラーを取り出し、ウィッグがズレていないか適当に確認をする。大丈夫そうだったが、無意識にこんな身だしなみまでチェックする自分に恥ずかしくなった。いや、どうせならあいつの記憶に残るぐらいの良い女になっても良い。俺という『ましろ』という女はもうこの世に存在しないのだ。好きなようにやっても後腐れないだろう。
「ま、ましろさんっ」
 不貞腐れたことを考えていた途中、名前を呼ばれた。振り向くと、この間とは違うパーカーを着た太陽がぎこちない笑顔をこちらに向けて立っていた。
「あ、太陽……くん。こ、こんにちは」
 からかってやろうとか考えていたくせに、いざとなると気恥ずかしくなって声が上擦った。
「こ、こんにちは!あー良かった……」
 太陽は俺の顔を見るなりほっと胸をなで下ろす。
「あの、どうかした?」
「あー……あはは。この間からちょっと時間空いたから、本当に来てくれるのかなって。気になって俺すげー早く着いちゃって余計に不安が募ったというか……。でも、来てくれたから嬉しくて」
 気の抜けたような笑い方をしながら彼は言った。本当に俺が来るのか不安だったのが伝わる。割と早めに着いたと思っていた自分よりも、もっと早く待ち合わせ場所に来てしまうぐらい気持ちも焦っていたようで、少し申し訳なくなった。
「きょ、今日の服!この間と感じが違って、その、凄く似合ってるね」
「あ、ありがとう……。つい最近買ったばかりなの」
 これは全然嘘ではない。姉さんがスニーカーに合わせて着るならこれだ、といって用意してくれた。背も丈ももともと大きくはない俺を見越して、多分自分が今後着ても大丈夫な服を選んでいるあたりは、ちゃっかりしているけれど。
「それじゃ、行きましょうかっ」
「え、どこに?」
「お店、予約したんです。あの、パスタとか好きですか?」
「す、好きですけど……」
 腹にたまらないからあまり食べない、とは言えずにこりと返すと太陽はまた嬉しそうに笑う。それにしてもまさかそう来るとは……。俺は奥歯を噛み締めた。
 勝手にデート初心者、むしろ女の子の扱いなんて知らないやつだろうと決めつけていた。そういえば、こいつには心配やら相談に乗ってくれるような友達がこの間あのベンチにいたのを思い出す。ヘタレに見えてしっかりしているのかもしれない。
 なかなか歩き出さない俺を不思議そうに見て、尽かさず側に駆け寄ってきた。
「もしかして、また靴擦れした?」
「えっ、いや、ううん。大丈夫。行こっか」
 覗き込まれた時、一瞬ドキッとした。前髪から覗く太陽の目に思わず視線が奪われる。いやいやいや。相手は男だ。それも見てくれ的に童貞でヘタレ。今時の女の子がドキッとするタイプには見えない。俺は心の中で首を必死に振って邪念を払うと、太陽の横に並んで店へ向かった。

 昼時だから仕方ない。予約してくれていた店内も、バタバタと店員があちらの席へこちらの席へと行ったり来たりと忙しそうだった。
「良かった……やっぱ予約して正解だったなぁ。ここ、友達がお薦めしてくれたんだ」
 フフンと鼻を鳴らして勝ち誇った様な顔をしながら太陽がメニューを閉じた。やっぱり、相談相手がいたか。
 先程店員に注文をしたが、俺に遠慮をしてなのか大して頼んでいない気がした。もっと食べればいいのに。俺の方が我慢しているんだぞ、色々と。
「ありがとう。気を遣わせてごめんね」
「えっ。いや、俺がしたくてしたっていうか……お店勝手に決めちゃってごめん……」
 首を振って、そんなことない、と伝えると目があって太陽が嬉しそうに目を細めた。
「謝ってばかりだね、太陽くん。この間はもっと必死謝ってきたけど」
 急に足を触って、靴擦れをしたところに絆創膏を貼り、我に返って必死に謝ったことを思い出させると、太陽の顔はみるみる赤くなっていった。
「あの時は本当にっ」
「ほら、また」
「うっ……」
「あははっ」
 必死になにかを言い出そうとするのに、言葉に詰まって何も言えない彼を揶揄うのは思っていた以上に楽しくて、その困った顔に胸が高鳴った。くすくすと俺が笑い続けると、太陽は苦笑いを浮かべて別の話題を振った。
「そういえば今更なんだけど、ましろ……さん、で名前合ってる?」
「うん」
 太陽はホッとして前のめりになっていた身体を背もたれにつける。本名は真城雪弥だが、まぁこの際はその方が女の子みたいな名前だし、間違いでもないから大丈夫だろう。
「さんは付けなくても良いよ。歳も近いでしょ?」
「えっと、じゃあ……ましろちゃん」
 俺の名前を呼び、太陽の顔がまた赤くなる。そろそろこいつ、顔から火を噴く勢いだ。
「ましろちゃん、かぁ……」
 この間、通りすがりの太陽を見た時に彼の友達がふざけて俺のことを「ましろん」と呼んでいるのを思い出した。
「何でも良いよ。太陽くんが呼びやすければ」
「そっ、か……そう、するね」
 会話が途切れた。注文も先程終わらせてしまったし、メニューをもう一度見るのも何だか落ち着きがない。沈黙が耐えれずスマホをカバンから取り出したが、太陽の寂しそうな視線が少し気になって仕方なく画面を伏せたままテーブルに置いた。
「あの、ましろちゃん。この間の事なんだけど」
「この間のって……あぁ」
 思い出した。こいつは俺に告白をしていたんだった。
 太陽に目を合わると、緊張と照れを隠すようにグラスの水を一気に飲み干した。そんな姿を目の当たりにした俺も、何故か緊張が伝染してきてしまう。
 どうしよう、何から話せば良いのだろう……。
 出来るだけ傷つけない方法は何だ?この後の関係を良好に保てる方法を……。いや、この状況を楽しむのなら、このままからかって遊んでみても……。
 二人して相手の出方を伺っていると、店員が先程注文した二人分のパスタを運んできた。
 湯気の立つ出来立てのパスタを目の前にしても、太陽は真剣な顔のまま自分が握ったグラスを穴があくほど見つめている。
「あの……お腹空いちゃった」
「あ、俺もっ」
「やっと顔上げた」
 俺がくすりと笑うと、彼の喉がゴクリと音を鳴らすのが聞こえた。フォークを渡すと、ゆっくりと手を出して受け取る。
 俺相手にそんなに緊張しなくても良いというのに。遊んでやろうとか考えていたくせに、申し訳なさが込み上げてきた。
「い、いただきますっ」
 言葉の放ち方は焦っているくせに、動きがゆっくりすぎてなんだか歪だった。こんな面白い人が目の前にいて、笑わずにはいられなかった。


  彼女に振り回される彼氏って、こういうことを言うのだろうか。惚けた考えばかりが浮かんで、目の前のパスタの味がまったく分からなかった。彼女は楽しそうに笑いながらゆっくりと食べているし、少し長い髪を耳にかける仕草は、胸のあたりがヒュンとなるほどに綺麗だと思った。食べている時の上目遣いも、ぐっとくるものがあって、何度かかち合う視線もゆっくり離してはまた引き戻す、そんなことを繰り返していた。
「お腹いっぱいだね」
 綺麗になった皿の上に、音を立てずにフォークを置く。仕草ひとつひとつが丁寧で、より惹かれていった。彼女は振り向いて店員に声をかけると、食後のデザートと言って、コーヒーを二つ頼んでくれた。そろそろこの間の件を言い出さないと。あんな一瞬で好きになるなんてありえないってきっと思われている。彼女は優しいから、それを言わずして伝えようと俺の話を遮っているはずだ。
「コーヒー、苦手だった?」
「えっ?」
「難しい顔してるから。苦いの嫌い?」
 慌てて首を振る。良く見せようとして嘘をついた。いつもコーヒーには角砂糖を五個も入れてしまう。
「なら良かった」
 ふふふっと楽しそうに笑うましろちゃんは眩しくて、コーヒーの苦味なんて一瞬で消してくれそうだ。
「あの、ましろちゃん」
「あ、はいっ」
 かしこまる姿も可愛い。少し眉をハの字に寄せて俺を見ていた。
「俺、この間いきなりなこと言っちゃってきっと困らせたと思う……んだけど」
 ちらりと彼女の様子を伺うと、真剣にこちらを見てくれていた。向こう側から店員が二人分のコーヒーカップを持ってくるのが見えて、一度深呼吸をする。
「太陽くん、続けて」
 店員からコーヒーカップを受け取り、ミルクを入れながらましろちゃんが言った。角砂糖は流石に手元にないため、俺もミルクを入れてマドラーでゆっくりとかき混ぜる。
「初めて会った時、俺凄い失礼なこともしたし……。なんてやつだって思ったよね……。でも居ても立ってもいられなくて、なんていうか、咄嗟に手を伸ばしてたっていうか……」
 ましろちゃんはコーヒーカップを両手で持って、こちらを見ていた。そういう仕草は計算なのか分からないけれど、やっぱり可愛いと思ってしまう。
「天使っていうのは言い過ぎだと思ってるけど?」
 ふふふ、とまた可愛く言う。いや、言い過ぎなものか。また首を振ると、「コーヒー冷めちゃうよ」と言われた。
「俺、衝撃走ったっていうか、めちゃくちゃ運命って思ったし……。だからその、咄嗟に言った感じはあるんだけど、あれは本心なんだ。でもやっぱ引いたよね……?」
 恐る恐る尋ねると、ましろちゃんは首を横に振った。
「ううん、引いてない。太陽くんは真っ直ぐで良いと思う。そういうのは大事にした方が良いなって。でもね……私、思ってるほど天使じゃないよ」
 申し訳なさそうな表情で、困ったように話す彼女。さっきまでと雰囲気が変わった気がした。
「あのね、太陽くん。私も話があるんだ」
 両手で持っていたコーヒーカップがソーサーに置かれた。
「実はさ」
 ましろちゃんは言いかけて数秒後、目を見開いた。視線の先はお店の入り口に向けられていて、彼女は咄嗟に下を向いた。
「え、ましろちゃん?」
「あれ、真城?」
 俺の後ろから声が聞こえ、振り向くと、彼女と初めて会った時に見かけた男性二人組が立っていた。一人がやたらと優しそうなイケメンで目を引いたのを思い出す。彼氏はいないと聞いていたが、意中の人かもしれない。そう思うと俺の背筋はピンと張り、訝しげに彼らを見上げてしまった。
「気に入ったの?その格好。てか今日も可愛いく仕上がってんな」
 その男性の一人は周囲を気にしながら小声でましろちゃんに近づいてきた。
「ちょっ、何なんですか」
 嫌な感じがして、声を出した。我ながら腰の引けた震え声が情けない。
「なんだよ、もしかしてナンパされたのか?」
「違うっ」
 ましろちゃんが大きな声で言い放った。周りの人が少し騒ついてこちらに視線を投げてくるのがわかる。
「あ、分かった。新歓のために女装の練習してくれてるんだろ?」
「ちょっと本当に、先輩黙って」
「俺的にはこっちのが可愛いから全然いいけどな~。お前、顔は良い方だからその方が女の子も寄らないでこっちもやっとモテることができて都合がいいわ」
「先輩っ!」
「青木、やめてやれ」
 入ってくる会話の内容が全く理解できなかった。目の前には顔を真っ青にしたましろちゃんが立っているし、俺の顔を見てしまったという男性二人が気まずそうな顔をしている。知り合い同士がかち合うことはよくあることだが、蚊帳の外以上におかしな情報が頭の中に入ってきた気がした。
 新歓のための練習……?女装……?
「えっと……まずった?」
「はぁ……ごめんね」
 男性二人がましろちゃんにそう言って店からそそくさと出ていった。ましろちゃんはゆっくりと腰を下ろし、あはは、と苦笑いをしながら青い顔をしてコーヒーカップを啜った。


「アッチっ!」
 焦って口に含んだコーヒーはまだ少し熱く、慌ててカップから口を離すとコーヒーが数滴服に飛んだ。
「やばっ!あー……絶対怒られる」
 咄嗟にコーヒーと一緒に持ってきてもらったおしぼりを掴んで水滴が飛んだ箇所を拭く。茶色く滲んだそれは、洗濯で落ちるのか心配になった。
「あの、さっきのって……」
「ん、えーと……。まぁ、もう良いか。そ、これ女装。言うに言い出せなくてその、ここまで来ちゃったというか……」
「じゃあ、本当に……」
 目の前に座る太陽の顔は、だんだんと真っ青になっていく。そりゃ、さっきのさっきまで気持ちが募って好きで好きで仕方ない女の子がまさか恋愛対象外だったなんてな。俺なら絶対トラウマになる。
「あぁ、本当だよ。私……いや俺は男。キミと同性。自分で言うのもなんだけど、元が良いからって罰ゲームで女装させられてたんだよ。そこにたまたま通りかかったってだけ。流れ弾食らったとでも思ってくれない?」
 スラスラと言葉が出てくる自分に感心する。自己防衛にしても程があるだろう。でも窮地に立った口は止まらなかった。
「ちょっとまって、よく分からない……。えっと、だってほらましろちゃんは女の子の格好してるし!」
「とりあえず落ち着けって。そんなに信じられないって言うなら脱いでやろうか?」
 すると太陽は下を向いたまま、首が飛んでいく勢いで首を横に振った。まぁ、見たかないよな、そんな現実。
「でも、ごめん。本当は今日、それを伝えようと思って来た。黙ってて悪かったよ」
 太陽は下を向いたきり、全然顔を上げない。現実も女装男も見たくないっていう感じだろう。このまま本当にトラウマを産むことになってしまったら申し訳が立たない。とんでもないことをしていると分かっていたが、ここに来て取り返しのつかないことをしている実感に、俺の中でも焦りと罪悪感が込み上げる。
「本当にごめん。申し訳ないと思ってるよ。ってか、俺なら殴ってブチキレるところなんだけど……。なぁ、一発殴ってもいいぞ」
 太陽はまた強く首を横に振った。きっと何をしても許してはくれないだろう。舞い上がっていた気持ちを踏みにじったのだ。ショックも大きければ傷も深い。ごめんじゃ済まないこともわかっていた。
 でも……。
「あのさ、こんな形でこんなことを言うのは信じられないかもなんだけど。俺、このデート少しだけ楽しみにしてた……。その、これは嘘じゃないから」
 傷口に塩を塗ってしまっただろうか。でも、これは本心だった。新しい靴を履いて、新しい服を着て、ちょっと早めに家を出る。自分でも少し、いやかなり浮かれていたと思う。女装なんていうリスキーな体験も相まって、今まで付き合った女の子とのデートよりも何倍もドキドキした。おかげで昨夜はよく眠れないほどに。
「まぁ、今は何言われても信じられねぇよな……」
 一瞬、ぴくりと太陽の身体が動いたが、俺の本心を聞いても顔を上げようとはしない。やはり傷つけてしまった。居たたまれなくて、カバンから財布を取り出し二人分のランチ代を置いた。これがお詫びになるかっていったら、絶対にならないのだろうけれど。
「……変なこと言って悪かったな。それじゃあ……」
 下を向いたままの太陽に別れを告げて、俺は店を後にした。


 ぽっかりと大きな穴が開いてしまった。この間までの数日間は全てに満たされていて、すごい楽しかったのに。あの日のことは全然思い出せなくて、ましろちゃんとお店でパスタを食べた終えたところの記憶で止まってしまった。いや、止めていた、というのが半分正解な気がする。あの人が「自分は男だ」と言い張ったあの瞬間、全てを夢だと思って信じなかった。いや、信じることができなかった。きっと、この間のあの先輩達と一緒に俺をからかって楽しんでたのかもしれない。俺も信じやすいし、単純なのはわかっている。あの人が最後に寂しそうに言った「楽しみにしていた」という言葉も取ってつけたもので、きっと本心ではないだろう。
 きっとそうだ、きっと。
 楽しかった記憶に蓋をし、この間のことをなかったことにしていく。サークルの仲間と会って遊んだり、バイトに時間を使ったりすればそんなことは考えなくて済む。余計なことを考えないように、俺はスケジュールを埋めながら残りの春休みを過ごした。


「勧誘期間?」
 バイトの先輩がどうしてもというからシフトを一週間分交換していたら(その方がましろちゃんのことも考えなくて済んだし)、知らないうちにサークル大事な話し合いに欠席していたようで、明日から設けられる新入生の勧誘期間初日の担当になっていた。
 春休みも終わり、今日はシラバスを片手に時間割を組み立てをするだけだったはずが、サークルの部室に行く羽目になってしまった。
「それ、なにするの?」
「ビラとか配って適当に声かけるんだよ。お前もされただろ」
「されたけど、もう一年前だし……」
 ふわりとした記憶が浮かぶ。色んなサークルのビラを貰った気はするが、よく覚えていない。
「ジジイかよ、一年前ぐらい覚えてろって」
 そんなことを言われたって、俺は結構あがり症で、大学に入学したすぐの頃なんか友達ができるかできないかで毎日バクバクの心臓で登校していたんだぞ……!
 そんな俺が勧誘期間なんていう初っ端の記憶を鮮明に語れる方が不思議だろう。先輩達に流されるまま、結局一番最初に声をかけてきたこのバスケットサークルに入ったのだ。まぁ、話せる友達ができたのは有り難いと思っているけど。本音を言えばもう少し考えて所属するか否かを決めたかったところだ。
「まぁ、いいや。これが準備物」
 簡易的に必要事項だけがまとめられたプリントを渡された。準備物といっても机や椅子を外に出すぐらいで終わりそうだ。
「可愛い子がいたら、絶対に逃すなよ」
「新入生に手出すなよ……」
 小さな声でツッコミを入れるが、思わず呟いた言葉が自分へのブーメランにも聞こえて嫌気がさす。自分だって少し前に可愛いと思った女の子に声をかけて、しまいにはその日のうちに告白までしてしまっている。その件は忘れようとしているのに、男だと聞いてからの方が気になって仕方ない。あの日は驚きのが大きい上に、騙されたと強く思ってしまった。自分が数日間有頂天になる程思い焦がれた相手が同性と聞いて、ショックを受けない訳がない。しかし、数日あけた今では、内心落ち着き始めている。というよりも、寧ろ更に気になって仕方ない存在になっていた。ほんの少しの同情から生まれた歪な関係に、今も縛られていているのは正直嫌になる半面、なんであの時、きちんとお別れが出来なかったのかと、日に日に自分が嫌になるばかりだった。全面否定するようなあんな態度、取らなければ良かったと後悔が募る。それと同時に、彼が俺に見せていた笑顔は偽物だと思いたくない、全部をまるっと信じたくない気持ちが募って仕方ない。
 もう一度会えたら……、なんて思うが会えたところで何を話せば良いのかは分からない。そもそも本来の姿を知らない俺は学内で彼を探す術すらない。罰ゲームって聞いた時点で彼の女装も趣味でも何でもないのだ。あの格好で偶然出会うなんてことはもうないだろう。だが、どうしたって気になって仕方ない。もう一度会えるなら……。今の俺なら男の姿のままでも彼を見つけられる気もする。そうやって複雑な思いが入り混じり、毎日頭痛に悩まされていた。



 次の日、授業もなければオリエンテーションもないため、サークル活動をしている学生は勧誘準備のために一限よりも早い時間から学校へ来ていた。俺もその一人で、昨日渡されたプリントを手に、同学年の男子と椅子や机を借りに行ったりと、学内と中庭を行ったり来たりの往復をさせられていた。
「太陽、設置は大丈夫だからビラを部室から持ってきてくれないか?」
 同じ日に当番になっていた先輩が、俺の持ってきた机にダンボールで作ったサークル名の書かれた看板を取り付けていた。ゴテゴテの飾りが施されていて、手作り感とやっつけ感が滲み出ている。すでに接着剤が剥がれかけており、今にも壊れそうなその看板は今日から三日間も働きっぱなしだそうだ。
「行けばわかるし、多分誰かいるだろうから」
 せっかく落ち着つけそうだったが、先輩の頼みとなると落胆の声を漏らすこともできない。俺は二つ返事で部室へ戻って行った。
 サークルの部室は中庭を抜けた部室棟の二階にあった。俺以外にもせっせと部室棟から諸々の荷物を運び出す学生がちらほら見える。勧誘期間は三日間しかない。それ以外の日は新入生自らが仮入部や本入部の申し出が無い限り、上級生からサークルや部活動に誘い込む機会は殆ど無いのだ。ここを逃すとその年の部員は減り、存続が危うくなっていく。同好会に降格すると、部室もなくなってしまう。自分達の城のため、どこの部もサークルも準備に準備を重ねたのだろう。でなければ、一限よりも早い時間に大学になんか来やしない。俺は出来るだけ足早に階段を上って部室へ向かった。


 気が進まない。あれから太陽のことが気になって仕方なかったし、これ以上学内という太陽がいつどこで見ているかわからない場所で「ましろちゃん」になることは果たして良いことなのだろうかと、自問自答はまだ続いていた。しかも最悪な形でバレたばかりだ。あの格好で再び会うことを決めたのは自分。結果的に俺が嘘を重ねてあいつを騙したのだ。先輩達は何も悪くない。全部自分が悪い。こんな気持ちになるのなら、さっさと全部話して互いにとっておかしな思い出として、笑い話にした方がマシだった。だけどもう、全部遅い。後悔して、今更猛省した。彼の気持ちを踏みにじったことに胸が痛い。毎日、あの日の太陽の楽しそうに笑う顔が浮かんでは苦しくなった。何度か連絡を試みたが、そんなことをして余計に傷つけてしまったらと思うと気が引けた。本当はただ謝りたいというわけじゃない。彼のあの嬉しそうな顔が崩れてしまったことがショックで、何度も何度も関係を修復したいと願ってしまった。そんなことを思う権利は俺にはないというのに。スマホのメッセージアプリを開いて、何度目かの溜息を吐く。下手したら一日中繰り返していた。
 あぁ、もう……どうかしている。
 数日前はどう回避しようか困惑していた相手に、四六時中思いを寄せている時点でどうかしている。それも相手は男だ。新しい恋をして振られたことを吹っ切るはずの合コンに行き、結果的に何故か新しく知り合った男のことばかり考えている。
 それもこれもこの罰ゲームで始めた女装のせいだ。人を傷つけた行為なのだ、もうそこで辞めれば良いのにそれでも約束は約束だからと、サークルのために馬鹿正直に姉さんからメイクを教わり、姉さん程上手くは出来ないが一人で準備が出来るようにまでなってしまった。我ながら本当に飽きれてしまう。
「おーい、美人が台無しだぞ」
 部室の鏡の前で大きな溜息を吐くと、背後から青木先輩が覗き込んできた。
「うわー。やっぱお前この方が良いわ。マジ可愛いって。この格好でずっといてくれるなら全然付き合えるわ」
 青木先輩は真剣な顔をして言っていた。この人のやること言うことは全て冗談だ。本心で俺と付き合う気は毛頭無い。俺と付き合いたいって言った男は後にも先にも太陽だけだろう。
「うん、ほんとすごいよ……。青木もやれば良いのに。化けるかもしれないよ?」
 青木先輩の横で、手伝い要員として駆り出された黒崎さんが立っている。ここ最近よくサークルにこの顔を出すが入部希望者ではないらしい。新入生より、まずこの人を口説き落とすべきだろうが。
「こんな美人が既にいるんだったらやる意味無いだろ?こいつの顔見てみろよ、今日で学内一付き合いたい女子に昇格間違い無しだぞ」
「青木の女装が見れるって言うから手伝いに来たのに……」
「残念だったな、この物好きが」
 嫌味ったらしく青木先輩が黒崎さんに言った。
「あいにくですけど、俺は空気の読めない方とお付き合いは無理ですね」
「まだ怒ってんのかよ。謝ったじゃん。それに相手は男だったし、寧ろ助けてやっただろ?」
 今度は先輩が大きなため息をついた。オーバーな動きまで見せるから少し腹が立つ。それに助けてやったなんてのは思い上がりだ。
「だからだっての」
 仕上げにグロスを塗って、立ち上がった。今日はワンピースを着ていた。姉さん曰く、スカートなら男性体型が綺麗に隠れるらしい。セミロングの髪を耳にかけて、カチュームをつけた。まだ肌寒いから、今朝自分が着てきたデニムのジャケットを羽織ると、青木先輩は「カレジャケかよ」と軽くツッコミを入れた。
「男避けっすよ」
 鼻で笑ってやると、二人は苦笑いを返す。冗談で答えてやったが、半分は本気だ。また変な気を持ったやつが現れても面倒くさい。
「さて、そろそろ外行きますか」
 俺はサークルの勧誘ビラの入ったダンボールを持ち上げようとした。だが、しゃがみ込んだところで黒崎さんに止められた。
「一応、今は女の子ってことだからね」
 そう言って、中に入っていた束を少しだけ手渡され、後は任せろと箱を持って先に出て行く。青木先輩はダンボールには目もくれず、部室にあったパイプ椅子を二脚重ね持つと、俺と黒崎さんの後ろにくっつく形で部室を出た。
 イベ部の部室は三階にあり、今日は一応スニーカーではあったが、準備で忙しくする人が行き交うためワンピースがふわりと浮かぶ。ゆっくり歩いて行かないと、捲れて最悪なことになりかねない。慎重に、なるべく早く、確実に一段ずつ降りていく。ゆっくり歩く俺にしびれを切らした青木先輩は先に行くと言って、パイプ椅子のぶつかり合うガチャガチャ音を立てながら数段飛ばして階段を降りて行った。
「焦ってもまだ新入生来ないぞ」
「わかってるって」
 黒崎さんから注意を受け、若干不機嫌な顔を見せたが、直ぐに鼻歌混じりに歩き出す。
 この浮かれ野郎め……。
 勧誘期間に変なテンションの先輩がいたというマイナスイメージを新入生に与えるのだけは勘弁してほしい。俺の不機嫌な表情を読み取ったのか、隣にいた黒崎さんは苦笑いをしていた。
 前から思っていたが、本当にこの人は青木先輩の何なんだろう。気になった上に目があって、口を開きかけた時、先程軽快なリズムで階段を降りていったはずの青木先輩の大きな声とガシャン、というパイプ椅子の落下音が階段に響いた。
「やっぱり。やると思った……」
 呆れた俺をよそに、ダンボールを持ったまま黒崎さんは早足で階段を下っていく。それを見て慌てて後を追うと、青木先輩は部室棟の出入口で人とぶつかっていた。
「まったく……浮かれすぎだよ、何してんだ」
 ダンボールを置いて黒崎さんが呆れながら青木先輩に駆け寄った。
「こっちもボーッとしてて」
 ぶつかった相手と青木先輩はどうやら出入口を出る手前でぶつかってしまったらしい。先輩は、「こいつが急に振り返ってきた!」と、腰をさすりながら言う。
「注意散漫な先輩も悪いでしょ……」
 思わず溜息混じりに呟いた。しゃがみ込んで、ぶつかった相手に手を差し伸ばし、「大丈夫ですか?」と声をかけた。
 すると、その相手の顔を見て俺は息を飲んだ。
「あ……」
「ま、ましろちゃん……?」
 ぶつかった視線が何かを貫いたかのように、身体が動かない。青木先輩がぶつかった相手は太陽だった。しかし、こんなのところで会うとは思わなかった。いや、会うかもしれないけれど、素顔は知らないはずだからと勝手に安心していた。まさか同じ日に部室棟で出会うとは思ってもみなかった。
 しかも、寄りによってこんな格好の日に……。
 ガチャガチャとパイプ椅子とダンボールを持ち直した先輩達は、俺に何かを言っていたようだが、全く耳に入らない。すべての神経が太陽に向いていて、それ以外の世界が遮断されていた。
「ひ、久しぶり……」
 視線がぶつかったまま、俺から口を開いた。何が久しぶり、だ。どのツラ下げて言っているのだろうか。自分が嫌で嫌で仕方ない。
「……久しぶり」
 数秒の間があき、小さな声が返ってきた。全く相手にされないと思っていたからか、嬉しくて思わず手の甲で口元を隠す。
「怪我は……?」
「だ、大丈夫っ」
「そっか……。じゃ、急いでるから……」
 鳴り止まない心臓音が太陽に聞こえないように、ついさっき駆け寄った時にばらけてしまったビラを掻き集めた。それを見ていた太陽も一緒になってビラを掻き集め始める。
「いいよ、お前も急いでるんだろ」
 太陽は無言で束を整える。そんなに時間はかからないことなのに、すごく長い時間が過ぎているような錯覚に陥った。
「これ……」
 恐る恐る束を渡してきた太陽は、以前よりも俺の方を見ないようにしていた。あからさま過ぎて何も言えない。嫌な痛みが胸を刺した。
「……どうも」
 俺は束を受け取り、自分の拾った分と合わせた。
「それじゃあ……」
 そう言って太陽は部室棟の中へ戻って行った。たった少しだが会話ができたことに喜んでいた自分とは別に、二度と会いたくない相手に再会してしまった彼のことを考えると、また胸が痛む。それもこれも全部自分が悪い。彼を傷付けたのは間違いなく俺だ。今更許されるのは虫が良すぎる話だろう。不思議に込み上げた悔しさに鼻の奥がつうんと痛むのを感じた。奥歯を噛み締め、俺はビラを抱えて先輩たちのところへ戻った。

 

 逃げるようにその場を離れた。心臓がおかしなほど高鳴っていてどうにかなりそうだ。焦燥感よりも高揚感のが近い。何故だろうか、あんな嘘をつかれたというのに、あの人にまた会えたという気持ちが昂ぶってしまう。
 もう会えないとばかり思っていたのに……。
 部室にビラの入ったダンボール箱を取りに行った時だった。すでに他の部員がブースへ運び出した後だったと言われ、仕方なしに踵を返していると、部室の机にスマホを置いてきてしまったことに気がついた。慌てて振り向いたため、真後ろに人がいたことに気がつかなかった俺は、そのまま勢いよくぶつかってしまったのだ。しかもそのぶつかった相手は、つい最近あのパスタ屋で見かけた「ましろちゃん」の知り合いだった。俺が急に立ち止まって振り向いたのがいけない。互いに怪我はなかったものの、ぶつかった時に相手がパイプ椅子を手放したため大きな音が響いてしまった。おかげで、階段からはパスタ屋で見かけたもう一人の男の人と、俺がずっと会いたくて焦がれた「ましろちゃん」が降りてきたのだ。
 折角再び会えたというのに、俺は驚きと気まずさで何も言い出すことが出来ず、逃げるようにその場を去ってしまった。
 あのデートの日、何も言えなかったことをずっと後悔していたのに。なんでまた、逃げたんだよ……。
 そうは言っても、本当は怖くて仕方なかった。きっと自分の中で「ましろちゃん」は、まだ好きで、好きで好きでたまらない存在なのだろう。最初は見た目だけに惚れたのかもしれない。だが、連絡を取ったあの数日間も凄く楽しかった。ここ数日は毎日浮かれていたし、自分の関わるもの全てに花が咲いたような気がした。騙されていた、全部嘘で同性でした、と本人からそうはっきりと言われても、それでもこんなに考えてしまうし、なんならさっきもう一度会っただけでこんなにも心臓がうるさい。
 こんなに胸がざわつくことなんて、他にあっただろうか。
 慌てて部室へ戻ると、中にいたサークルの先輩達に驚かれた。
「あ、やっぱ戻ってきた。ほら、スマホ忘れてんぞ」
 大した段数の階段じゃないのに、息が荒くなっていて、呼吸を整えながら先輩からスマホを受け取った。
「何、慌ててんだよ。見られちゃいけないデータでも入ってんのか?」
「ち、違いますよ」
「ふーん。ま、アレだろ。さっき下に見たことない可愛い子いるってメッセきたから、アドレスでも聞き出そうとして取りに来た……ってそんな感じか?」
 先輩がニヤニヤと笑いながら言うと、窓を開けて下を覗き込んだ。
「ほら、あの辺人多くないか?」
 先輩が言った方向には確かに人が多く見えた。でも、二階の窓からだと全体を見渡すのは少し無理がある。 しかし、その見たことない可愛い子というのは、何となく誰だか分かっていた。
「お、新情報キタ!」
 もう一人、窓辺で見知らぬ美女を探していた先輩が、スマホの画面を見ながら言った。どうやら、下の中庭にいる誰かから連絡を受けたらしい。
「イベ部の人らしいぞ。誰かの手伝いかもな。あのイケメン黒崎の近くにいるのを見たって聞いたけど、あいつの彼女かも?」
「でも黒崎に彼女がいるなんて聞いたことないけど?」
「マジか。じゃあ俺、声かけに行ってこようかな」
「ちょ、待ってください、それはダメ!」
 咄嗟に出た大きな声に。自分でもビックリして慌てて口を塞いだ。冗談混じりだったが、その先輩の目が本気に見えて思わず叫んでしまった。
「どうしたんだよ、急に」
「もしかして、お前の知り合い?」
 窓の方を見ながら先輩達が言った。知り合いと言えば知り合いだが、上手く説明ができない。
「す、すみませんっ、俺、手伝いあるのでっ」
 先輩達に顔を覗かれた俺は、それを避けるように部室から飛び出した。勢いで飛び出した俺は、とにかく中庭まで走った。焦りすぎて足が縺れそうになり、部室棟の入口で躓きそうになったのを、なんとかバランスをとって踏みとどまる。他の準備の学生が通りすがりに変な目で見てきたが、気にしているほど余裕がなかった。
「あぁっ!もうっ」
 両脚の太ももを拳でガツンと殴り、自分に気合を入れると、俺は新入生勧誘ブースを走ってワンピースを着た「ましろちゃん」を探した。イベント部の場所がどこに設置されているかもわからない上に、この大学のサークル数は膨大で、かなりのブースが設けられていた。インカレのサークルも含めたら結構な数で、小さなスペースを詰めあって作られたエリアは、狭い中庭内では収まらず、校門へ続く通りにも広がっていた。息が上がり、四月の少し涼しい風が気持ちいいぐらいに感じる。喉もカラカラに乾き、呼びながら探すのは難しかった。ぜいぜい言いながら走っては歩き、走っては歩きを繰り返す。バスケットボールのサークルに所属しているくせして体力が殆ど無くて情けない。
 どこに、どこにいるんだろうか。
 自分は逃げた身だ。これ以上彼に付き纏っても意味がない。あっちだって迷惑だろう。気持ち悪がられるのがオチだ。追いかけても関係を発展させることなどできやしない。諦めたら楽なのは分かっているのに、何も知らない他人に、あの人を「可愛い」と言われるのが何より腹が立って、居ても立っても居られなかった。
 走るのをやめ、クールダウンがてらゆっくりと歩く。後ろポケットに入れていたスマホが鳴りっぱなしだった。きっとサークルの先輩が持ち場を離れたことに激怒しているのだろう。ここまで来たら諦めきれず、辺りを見ながら歩いた。すると、離れたところに人だかりが出来ているのを見つけた。
「え、雪弥なの、マジ?」
「うーわ、俺騙されたわ」
「めっちゃ別人だし、可愛すぎ!」
「女の私ですら嫉妬するレベルなんですけどっ」
 きゃあきゃあと騒ぐ女の子達の声が響く。手に持っている手作りの看板や服装などから推察するに、他のサークルの勧誘担当者達が持ち場を離れてとあるブースに群がっているようだった。聞こえてくる内容が気になって、そのブースを遠目から確認すると、そこは探していたイベント部のブースだった。
 人と人の間から中を覗くと、その中心に困ったように笑っているあの人を見つけた。すると、俺は人集りの開いた狭い隙間に体をねじ込ませると、咄嗟に手を伸ばして彼の腕を掴んだ。
「えっ、おまっ……!」
 目をまん丸に見開いて驚いている彼の腕を自分の方へと引く。周りの人も驚いて、俺と「ましろちゃん」から離れた。
「ちょっ、どうしたんだよ」
「どうもしない……はず、なんだけどっ」
「……何だよ。笑いに来たのか?女装癖、オカマ?否定はしないでやるよ、こんなに似合ったらモテるのが楽しくて仕方ないからな」
 震える声で皮肉めいたことを話す彼に、俺は首を強く振った。
「……笑わない、笑えるわけないっ」
 掴む腕に力が入ってしまう。彼の表情が歪んだが、この手を振り払われたらもうこれっきりだ。
「そりゃそうだよな、冗談でも笑えないよな。だっておまえ……」
「俺は本気だったんだよ!本気で、惹かれたんだよ……。誰にも渡したくないってぐらい衝撃的で、笑った顔も、俺に気をつかう優しさも。全部惹かれたんだよ……!」
 何を言ってるか、自分でもわからなかった。それぐらい必死だった。この手を離したくない気持ちが溢れて出てしまった。
 数秒の間を置いて、周りがざわつき始めた。ハッとして「ましろちゃん」の顔を見ると、今にも火を吹きそうな赤い顔で俺を睨んでいた。
「あ、そのっ……ごめ」
「クソっ……!おまえ、こっち来い!」
「ましろちゃん」が俺の腕を掴むと勧誘ブースから急足で連れ出した。
「ちょ、ましろちゃん、どこ連れてくのっ?」
 掴まれた腕が痛み、自然と眉をハの字に寄せた。
「その、ましろちゃんって言うのを今すぐやめろ。雪弥で良い」
「えっと、雪弥……ちゃん?」
「雪弥で良いって言ってんだよっ!」
 急に振り向いた彼は、目には涙をたくさん溜めていた。
「えっ!な、何で泣いて」
「バカ!お前、なんであんなとこでなんつーこと言うんだよっ!この大バカ!」
「えぇっ……!ごめん、だってなんかその、他の人に好きになられたら困るっていうか……その、必死で」
「……っとにお前……。バカでアホすぎんだろ……。そんなの、冗談でも太陽ぐらいしか言わないっつーの!」
 彼から鼻の啜る音がして、恥ずかしさのあまりに泣かせてしまったのが分かると、ぎゅんと胸を締め付ける苦しさが増し、思わずそのまま抱きしめてしまった。
「ちょ、本当なにやってんだよ!離せっ」
「やっぱり……。ましろちゃんは天使だ」
「はぁ?」
 背中をばしばしと叩かれているのに、全然痛くもない。むしろそれが心地良いぐらいだった。呆れられたのか、諦めたのかわからないが、雪弥は次第に抵抗をするのをやめた。
「……俺、冗談で人に好きとか言えないよ」
「あのな、太陽。前にも言ったけど、俺は男だぞ」
「うん。知ってる……分かってる」
「女装しておまえのこと騙したんだぞ」
「うん。でも、それがあったから会えた」
 雪弥は大きな溜息を吐いた。
「……あのなぁ……。俺がお前なら殴ってるところだぞ」
「俺は殴らないよ。だって、好きな人を傷つけられないし」
「……俺は傷つけたよ」
「あんなの、かすり傷だってば。それに、ましろちゃんが好きになってから毎日楽しかったし、全然痛くも痒くもない」
 雪弥はぎゅっと俺の背中に腕を回した。
「おまえ本当にバカだな」
 クスクスと嬉しそうに笑う雪弥の吐息が耳に触れる。さっきまでざわざわとしていた胸の違和感がさらりと消えた気がした。


「雪弥って、本当に男だったんだね」
 着替えてメイクを落とし、太陽との待ち合わせ場所に向かうと、開口一番に太陽が言った。待ち合わせ場所はあのベンチだ。女装ではない姿を見せるのがここにきて気恥ずかしくなり、着替えに少し時間をかけすぎてしまった。ベンチに座っている太陽は俺を待っている間、終始キョロキョロしていて落ち着きがないのが部室の窓からも丸見えだった。そんな彼を見ていたせいで、自分にも緊張が伝染したのだろう。
「だから言っただろ。俺は男だって」
 えへへと笑う太陽は、あの日のデートの時よりも余裕があって嬉しそうだった。
「それから俺は年上だ」
 そうだったのかと太陽は一瞬だけ驚いた顔をしたが、すぐさま笑顔に戻る。
「なら、俺の好きな人がたまたま年上の男の人だったってだけ、ですね」
 こいつ、どんだけお花畑なんだよ……まったく。
 急に改まって敬語を使われると調子が狂う。俺は短い溜息を吐くと、太陽の額を指で弾いた。
「痛っ!」
「敬語は禁止。たった一歳なんてどうでも良いただろ。ったく……。さっきまで普通に話してきてただろうが。急にヒヨってんじゃねぇよ」
「うぅ……、だって」
「だってじゃなくて。ほら、呼んでみろよ」
「えぇ……それじゃあ……雪弥」
 改めて呼ばれるとこっちが照れてしまう。
「ゆ、雪弥さん」
 なんと返したら良いのが分からず、俺が黙り込んでいると、何を勘違いしたのか太陽が不安そうな声で俺の名前を呼んだ。
「さんって……まぁ良いや。ほら、置いてくぞ」
「えっ、ちょっと待って!行くってどこに?」
 慌てて俺の横に並び、自然と手に持っていた着替えやメイク道具を入れている大きな荷物を俺の手から受け取る。
「良いよ、重くないから」
「これぐらいやらせて欲しいんだ。ほら、えーと……カレシの特権……?」
 真っ赤になりながらも格好つける。台無しとは言わないが、やはりしまらない。
「あのな……太陽」
「なに?」
「俺、まだお前と付き合うなんて言った覚えないから」
「えっ、えええっ!だ、だってこの流れって普通はっ!」
「あははっ」
 真っ赤だった顔から一気に熱が引いて行くのがわかり、ころころと変わる表情が少し可愛く見えた。


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