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【スピンオフ】腹黒王子とキスの魔法
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「そういえばさ、真城のやつ最近付き合い悪いよなー」
青木蒼太は学食のカレーをちびちびと口に運びながら言った。猫舌な彼はいつも人より食べるのが遅い。フーフーと息を吹きかけながら一生懸命に熱を冷まそうとする姿は見ていて飽きなかった。
「そうかな。俺はこの間偶然会って一緒に買い物に行ったけど」
「どーせ、女装してないだろ」
「してたよ?」
「はぁ!?なんだよそれ、俺も女装の真城とデートしてぇっつーの」
「あははっ。中身は真城なのに」
「でも可愛いじゃん!世間の男にマウント取れるならそれでも全然良いだろーが!あーぁ。彼女欲しいなーっ」
青木は不貞腐れながら再びカレーを口に運ぶ。冷ますのを忘れ口に入れたカレーはやはり熱かったらしく、少し慌てて水を飲む姿は面白かった。
「なぁ、俺が女装してあげるって言ったら……青木はどうする?」
何となく聞いてみたかった。いつも真城も俺も青木にはイケメン属性と言われていたし、そんな風に見えているのであればきっとおかしな出来にはならないだろう。
「お前が?ダメだろ、真城よりでかいし、俺よりもでかい。全然ダメダメ。可愛くない」
「えー。青木より大きい女性も世の中には沢山いるんだけどなぁ……」
「誰がチビだって?」
「誰もそうだとは言ってないでしょ」
青木はリスのように口いっぱいに詰め込みながら怒る。
あぁ、やっぱりな。こいつはきっと俺をそう見ないんだろう。
気にしないようにいつも通り、くだらない話に付き合う友人としてその日も過ごした。
別に最初から同性が好きだった、とかではない。数ヶ月だけれど彼女もいたことがあるし、告白された側だったが、可愛いし気が合うと思ったから付き合った。でも結局、自分のそばには青木がいて、彼女よりも優先してしまうほど惹かれていた。
彼とは小学校と中学校が一緒の所謂幼馴染だった。高校は別だった。青木との空白の時間は約三年。最寄り駅や家の近所ですれ違うことはあったが、挨拶を交わす程度だった。もうつるむことはないのだろう、そう思っていたのだが、黒崎墨仁という祖父の付けた物珍しい名前だったからか、大学のオリエンテーションで配布されたプリントでその名前を見つけた青木は、俺を見つけると嬉しそうに声をかけてきた。久しぶりに青木に肩を組まれると、俺も嬉しくて懐かしくて、つい舞い上がった。その時から大学ではまた昔のように一緒に居ることが多くなった。
昔から青木は可愛い女の子がいれば声をかけるようなやつだった。中学生にもなれば口癖は「彼女が欲しい」だった。年頃だし、自分もそういうことを考えたこともあったけれど、一緒に居るのが楽しくて、もっと一緒に居たいと思えるのは女の子ではなく、青木だった。気がついたら自分の気持ちははっきりとしていて、その時ぐらいから「彼女が欲しい」と駄々をこねた様な言い方をする青木に腹が立ち、いつか青木の彼女になる顔も分からない女の子にも苛立ちを覚えた。つい最近でも、後輩の真城雪弥が付き合っていた彼女に振られたすぐ後に合コンを開いていた。一つ下の学年でよく見かけたことのあるその女の子は、幼い顔立ちの可愛い女の子で、青木も常に可愛いと言っていたのを覚えている。後輩のために合コンを開いたあたり、良い先輩と思うだろうが、あわよくばフリーになったばかりのあの子を……とかそんなことを口にしていたのを見て苛立った。むかついた俺は、合コン開催原因である真城で苛立ちを晴らすために、ちょっかいを出したのだ。
まぁ、彼も彼で今はそれなりに楽しんでいるようだった。
本当なら彼女が欲しいという彼の願いを応援してあげるのが友人なのも分かっていた。分かっていても、自分の気持ちを否定するようで嫌だった。高校で離れていた分、気持ちが落ち着けばよかったものの、彼に対する思いは募っていた。しかしそれと同時に「いけないことだ」と自分に枷をつけていたのは事実だった。同性からの好意など、あの女の子好きの青木が受け入れる訳かない。だから尚更違う学校で良かったと思ったのに、青木はその離れた距離を意図も簡単に詰めてくる。どうせ叶わない気持ちなら、突き放したいと思う癖に、そこに漬け込んで相変わらず自分を彼の側に置いている。そんな諦めの悪さに、自分でも呆れていた。
「なぁ、黒崎。今日合コン誘われたけど、お前も行くよな?」
青木はあたかも当然のような言い方をしたが、俺は首を横に振った。毎度合コンに行く際は決まって声を掛けてくれる。それは彼女の居ない俺に対しての彼なりの優しさなのだろうが、良い迷惑だった。
「いや、俺はいいよ。今日体調もあまり良くないし」
一呼吸置いて、冷静に答える。ワンテンポでも遅くしないと、何か言い出しそうだった。
「えー。イケメンが居ないと可愛い子来ないじゃん。この間は参加したくせに。まぁ、体調悪いなら仕方ないけど……」
「それに言っただろ、俺は彼女作る気ないって。この間は青木が真城のためだからって、無理矢理連れ出したじゃない」
講義が終わり、次の講義がない俺はいつも通り青木にくっついてイベ部の部室で時間を潰していた。横で執拗に行こうと誘う青木を無視して、読みかけの本に視線を戻す。不貞腐れた青木は椅子の背もたれを抱えるようにして座り直した。
「黒崎~ぃ。女の子は良いぞぉ?柔らかくて可愛いし、良い匂いがする」
「それ、ヘンタイのセリフ。外で言うなよ」
「なーんだよ、ノリ悪いなぁっ」
「悪かったね」
「まぁ、早く本調子になったら遊べば良いんだけどさぁ」
何年もこっちを見てくれない意中の人がいる合コンなんて耐えられないだろ。
喉元でつっかえる言葉を全部飲み込んだ。悟られたらこの長い間の友人関係が終わる。どうせ叶わない恋なら、修復が難しい関係になんてなりたくなかった。
「てかお前さ、昔っからだけど……女の子興味ないの?」
本の続きを読みたいのに、青木は俺の顔を覗き込んでくる。
そういう心臓に悪いのは、慣れていないからやめて欲しいんだけど……。
「興味が無いわけじゃないよ、彼女居たことあるし。ただ、今はいいかなってだけ。読書とか、一人の時間のが楽しいし、青木といる方が楽で良いよ」
「ふーん。ま、そう言ってられるのも今のうちだけどな。今夜で俺、彼女できるかもだし?」
青木はにやにやと笑いながら俺に棘を刺していく。無自覚で無意識はなんて罪なのだろう。行って欲しくはないけど仕方ない。痙攣らないように、俺はゆっくりと笑ってみせた。
「まぁ、頑張りなよ。童貞クン」
「あっ!それ言うな!!」
顔を赤くして俺の肩を軽くパンチする。大した痛みはないはずなのに、心臓のあたりがズキンと痛む。この時間が長く続けばいいのに。この鈍感野郎を引き止められるなら引き止めて、自分の気持ちを素直にぶつけたかった。
ぐるぐると腹のなかで黒い渦が立ち込める中、俺は青木を合コンに送り出した。スマホの画面が反射して映った自分は、眉間に皺を寄せて如何にも不機嫌だった。嫌だな、こんな役回りも。溜息が引っ切りなしに出てくる。それでも青木の邪魔はしたくなかった。
下を向き、足早に大学の校門を抜けた。すぐ目の前の横断歩道の信号が赤に変わり、足を止めると、後ろから声をかけられた。
「あれ、黒崎さん?」
振り向くと久々に女装をしていない真城を見たような気がした。
「真城?今日はましろちゃんじゃないんだ?」
そう言って揶揄うと、露骨に嫌な顔をされた。
「もうしないんで」
「えー。可愛いのに」
「黒崎さんが言うと嘘っぽいんですけど」
「それ褒めてる?」
「皮肉だよ。アンタ本当頭いいんだか分かんない……」
肩を落としながら呆れた口調で真城が言う。そう言いながら、顔は笑っているのがこの可愛い後輩の良いところだ。
「赤澤くんは一緒じゃないんだ?」
「あいつ、あと一コマあるって言うから。待ってらんないし」
「そこは待ってあげなよ」
「そういう黒崎さんこそ、今日は青木先輩と一緒じゃないんですか?」
こいつ……。
露骨に痛いところ付いてくる。さっき誘いを断る口実で体調が悪いと言ったが、本当に胃のあたりがムカムカしてきた。
「まぁ、どうせ合コンだとかカラオケオールとかでしょ。あの人、そういうの好きだから」
「分かっててなんで聞くかなぁ……」
「あ、やっぱり。カマかけてみたりして」
「真城、全然可愛くないよそれ」
「可愛くなくて結構です。で、そんな不機嫌そうな顔して歩いてる理由は?」
不機嫌なのは目の前にいる生意気な後輩の態度が気に食わないからだって言うのに。この前はうじうじと悩んでいたくせして、なんなんだよまったく。
「真城って実は空気読めないでしょ」
「黒崎さんがそれ言います?」
にやりと笑って俺を見上げる。この間のことが癇に障ったのだろう。
「真城、少しデートしようか」
「可哀想な先輩のために、仕方ないので今日は合意します」
「本当、可愛くないなぁ……」
真城は赤澤くんに連絡を入れ、俺と一緒に大学最寄駅の近くにあるカフェへ入った。例え事前に連絡があたとしても、前回のことがあるのだ、彼としては俺と真城が一緒に居る時点で面白くないだろうに。
「コーヒーで良いですよね」
「うん、ありがとう」
真城が店員にコーヒーを頼んでくれた。
「さてと。イケメンお兄さんは何が不満だったんですか?」
「うわぁ。直球な切り口」
「こういうのははっきりとした方がいいんでしょ?」
痛いところをつくのが得意な真城。嫌な子を揶揄ってしまったのだということに今更気がついた。
「分かったよ、ちゃんと話す」
「そうそう。正直に生きた方が楽ですよ。ただでさえ、アンタの腹の中はいつも真っ黒で何も見えないんだから」
皮肉たっぷりな真城に苦笑いを返すと、丁度店員がコーヒーを二人の前に運んできた。とにかく、さらっと話したらスッキリするだろう。溜め込みも良くない。そう思った俺は、一口コーヒーを飲み込むと、真城に腹の中の黒い渦を少しずつ曝け出した。
コーヒーが飲み終わる頃には全て話し終わった。実は青木とは古い付き合いだと言うこと。彼女が欲しいという彼の気持ちを知っているからこそ踏み出せないこと。今の関係を壊したくないこと。全部正直に話しをした。
「俺が言ったらさ、ブーメランかもですけど……。黒崎さんも大概面倒ですよね」
「あはは。本当、真城には言われたくないなぁ」
「涼しい顔してそういう事はさらっと言える癖に」
聞こえるように溜息をつかれた。言われても仕方ないのは分かってるからこそ、腹が立つ。忘れた頃に胃のむかつきまで思い出す始末だ。
「伝えもしないくせして、苦しむのはずるいですよ」
「経験者はやっぱり違うねぇ」
「ふざけてるんですか」
「ふざけないとやってられないだろ」
「……黒崎さん。あの時、あなたが俺に受け入れれば楽だって言ってくれたから、俺は太陽の所に行けた。言わない後悔より言って後悔した方が全然良いって自分で分かってるんでしょ」
本ッッッ当にこいつ、可愛いくないなぁ……。
「話を聞いてもらった手前、悪いけど今は言う気にはなれない。君に偉そうなことを言ったのは俺だけど、自分では伝える勇気も振られる勇気もないんだよ」
立ち上がって、その場を離れようと鞄と伝票を取った。店の入り口が開いて、赤澤くんが入ってくるのも見えたし頃合いだろう。
「黒崎さんっ」
「時間、ありがとね。これ以上は君にも何かしそうだから」
「何かって……」
「コーヒー代は俺が持つよ。じゃ、またな。赤澤くん、真城返すね」
「えっ、あ、はい」
席を離れると、真城は追いかけて来なかった。
そりゃ呆れたんだろうな、こんな口先だけの格好悪いとこ見せたんだから……。
卑屈にしかなれない自分が嫌で仕方ないから、周りには見えないように隠して、黙って、全部飲み込んできたっていうのに。いざ曝け出したら途端にただの意気地なしだった。格好悪いを通り越して情け無い。
店の外を出ると、暗く厚い曇が迫ってきていて、今にも雨が降り出しそうだった。
待ち合わせ時間まで微妙な時間。小腹が空いているわけでもないが、近くにあるファストフード店にでも寄って時間を潰そうと思い、軽めのバーガーと飲み物を頼んで、カウンター席に座っていた。ぼうっと外を眺めながらバーガーにかぶりつく。入店時に曇り始めを感じてはいたが、もうすっかり上空はグレーの雲で覆われていた。よく見ると窓ガラスに水滴がつき始め、雨が降りはじめていた。
「うわー、マジかよ。傘ねぇっつーの」
思わず声に出して言った。都合良く俺の鞄に折りたたみ傘なんて入っていた試しがない。
止むかな、なんて空を見上げるが、厚い雲で覆われてた空は見える範囲全てがグレー一色に染まっている。止む気配は毛頭無い。
あー、どうしたもんかなぁ……。
今日の合コンは、誘ってくれた顔見知りは居るのだが、傘がないから迎えに来てと軽々しく言えるほど仲が良いわけではなかった。こういう時、黒崎墨仁の顔が思い浮かぶ。あいつがいたら、スマートに傘を出して「入る?送るから良いよ」と面倒くさがらずに言ってくれのだが、あいにく、その黒崎は居ない。今日は体調が悪いと言っていたし、こんなことで呼び出す訳にもいかなかった。
あーでもない、こーでもないと考えるうちに、手に持っていたはずのバーガーはすっかり腹の中に収まっていた。幸い土砂降りという程の雨ではなく、走ればなんとかなりそうにも見える。しかし濡れたまま合コンに行くなど、自ら自分を下げているようにしか見えない。
「いやぁ、びしゃびしゃになったら格好つかないな……」
そもそも、びしょ濡れで通してくれる店なんてないはずだ。自分がアルバイトだったらげんなりする。再び窓の外をぼうっと眺めていると、運が俺に舞い降りてきたのか、黒崎が折りたたみ傘をさしながら歩いているのが見えた。
「ラッキー!やっぱ俺ってついてるじゃん!」
急いで飲み物を喉に流し込み、トレーとゴミを片付けて外へ出た。店の入口で黒崎に電話をかけると、数秒後にスマホを取り出したのが見えた。
「青木?どうしたの?」
「あ、黒崎!悪い、向かい側の店見えるか?そうそう!あのさっ、傘入れて!」
黒崎と目が合う。手を振ると、苦笑いを浮かべて小さく振り返してくれた。
「合コンは?」
「まだ時間あるんだけど、雨降ってたからさ。偶然見えたからそのまま入れてもらって駅まで行こうかなって」
「そっか」
黒崎は小さく笑ったが、少しふらついているように見えた。
「そういえば、お前体調大丈夫なの?」
「ん、あぁ。多分。さっきより良くなってるよ」
見え見えの嘘だな……。
いつも人に合わせて歩いているのは知っていたが、今の足の運び方は一段と遅くて俺が合わすほどだ。こいつの傘に入るのはミスだったかもしれない。
「ていうか、俺ばっかに傘傾けるなよ。ちゃんと持って」
「え、あぁ。ちゃんと持ってるよ」
「あのなぁ……。お前どう見てもふらついてるだろ。断ってくれたって良かったのに……。ほら、俺が持つから」
奪い取るように黒崎から傘を取り上げた。
世話を焼かせているのは俺なんだけれど、肩を冷やして熱でも出されたらたまったもんじゃない。しかし、傘を取り上げたは良いが、俺の身長が低いせいで、黒崎は少し屈みながら歩く形になり、かえって余計にしんどそうだった。申し訳なく思って、なるべく踵を上げて歩いていると、黒崎が何かに躓いた。
あーもぅっ。俺のせいじゃんっ!
「黒崎、お前んち寄ってから俺出かけるから傘貸せよ」
「うん……ごめん」
黒崎の住むマンションは、大学の最寄り駅から少し歩いたところにあった。一人暮らしのクセして綺麗なマンションに住んでいるところはいつも羨ましく思う。昔は近所にいたと思っていたのに、いつの間にか実家を出ていた。そう言う俺はまだ実家暮らしだが。ふらふらの黒崎を支えながら、傘を雑にたたみ、エントランスへ入った。
「鍵出せるか?」
「うーん……」
黒崎はこめかみを数回擦ると、鞄に手を突っ込んでガサガサと中を探った。すぐに出てきそうな雰囲気がないため、痺れを切らした俺は、鞄を受け取り代わりに鍵を出した。引っ張るように黒崎を連れてエレベーターに乗り込み、階数ボタンを押して黒崎の部屋の前まで来る。エントランスから部屋の前へ来るだけで予想以上に疲れた。腕時計を見たら待ち合わせ時間になっていた。
あーあ、遅刻だ。
しかし、こんなにもぐったりとした黒崎を見ると放ってはおけなかった。
「ほら、開いたぞ」
壁にもたれている黒崎を引っ張り中へ入れた。触って気がついたが、汗と熱がすごい。
「お前……やっぱ体調クッソ悪いじゃん」
「あはは、だよねぇ。さっきちょっとヒートアップしたから余計かも……」
「はぁ?お前具合悪いのに何してきたんだよ」
玄関に入るなり、黒崎はその場に座り込んだ。
「ふふふ、床……冷たくて気持ちいい……」
「おい、バカ。んなとこで寝るな!」
俺は黒崎の靴を脱がし、引きずるようにベッドへ運ぶ。
「ったく……。お前、俺よりでかいくせに軽すぎだろ。ちゃんと食ってないんじゃないの?」
「んー……そんなこと、ないと思う……」
「つーか俺、今日は男じゃなくて女の子をベッドに運ぶ予定があったって言ったろ。具合が悪いなら寄り道しないで帰っておけっつーの!」
図々しく傘に入っておきながら、俺は熱でうわ言を話す黒崎に文句を言う。しかし、脱力して全体重を俺に預ける黒崎を運ぶのは一苦労だった。顔に似合わず物が散乱している部屋は、足の踏み場も困るほどで、至る所に分厚い本が積み上げられていた。
「お前なぁ……。片付けぐらいしろって」
俺は溜息を吐きながら、足でどうにか物を端に寄せながら道を作った。避けきれなかった本の山は、色んな方向へ崩れてしまったが、黒崎をベッドに連れて行くのがやっとで、崩れた山に関してはもう見て見ぬふりをした。
「おーい、生きてるかぁ?つーか、常備薬と体温計はどこにあるんだ?」
ベッドに寝かせた黒崎の頬をぺしぺし軽く叩くと、さっきのように返事はなく、眉間に皺を寄せて小さく唸るだけだった。
「ったく……」
仕方なく、スマホで今日の幹事にキャンセルの連絡をし、その辺の棚を覗きこんで薬を探す。まぁ、棚といっても隙間もない程に埋まった本棚だけど。
「何もねぇなぁ。お前、本以外にも置いとかないといつか死ぬぞ」
呆れながらベッドの方へ向き直る。黒崎は返事の代わりに数回咳をした。
「なんか食いたいものあるか?この青木蒼太様が買い物に行ってやるぞー」
黒崎の荒い息遣いが部屋に響くだけで、返事はない。
「勝手に色々やるからな」
一応断りを入れ、俺はキッチンに回った。シンクの周りには綺麗なに整頓されていたが、食器棚にはどれだけ飲めば気が済むのかと言わんばかりのインスタントコーヒーの瓶が並んでいる。せめてカップ麺でもあればと思ったが、一つも見当たらなかった。冷蔵庫はミネラルウォーターと残り少しの食材や使いかけの調味料があるだけで、すぐに食べれそうな物は何もない。
やっぱり。全然食ってねぇじゃん……。
俺は溜息を吐きながら冷蔵庫の扉を閉めた。学校では色んなことをスマートにこなすやつなのに、生活力はここまでゼロに等しいとは。こういうギャップに萌える女の子はいるかも知れないが、側で見ているこっちは心配だ。
「鍵、かりるからな。着替えは……これで良いか。ほら、着替えて寝とけ。薬と何か買って来る」
そう言って、クローゼットから着替えになりそうな服を唸る黒崎に投げつけると、俺は財布と傘を持って部屋を出た。
解熱剤、ビタミン剤、スポーツドリンク、そして適当な食料を買って黒崎のマンションに戻って来ると、中途半端に着替えたままベッドの上で突っ伏している黒崎を見つけた。
「おいおい、死体かよ……。ほら、袖に腕通すぐらい頑張れ」
買い物袋をテーブルに置いて着替えの続きを手伝ってやる。黒崎の首や額にじわりと汗が滲んでいるのが目に入った。
「うー……」
唸りつつ、薄めで俺を見上げる。顔は赤くて、少し涙目、そして息は荒く熱い。ぼうっとしているその瞳に自分が映り、思わずごくりと喉が鳴った。いけないものを見ている気がして、咄嗟に目を逸らす。
「あお、き?」
「ん、あぁ、喉乾いたか?スポドリ買ってきたからこれ飲め」
「こっち」
黒崎はえへへっと笑いながら、俺の両頬に手を添えた。
「ちょ、何すんだよっ。取り出せないだろ」
テーブルの上にある袋に手を伸ばすが、身体が黒崎に引き寄せられてうまく届かない。
「おい、どこにそんなバカ力残って」
んちゅ。
思いきり引き寄せられたかと思った瞬間、唇に熱くて柔らかいものがあたった。
「ん、ふっ」
え…………今のって………。
驚きのあまり上手く息が出来なかった。何が起きたか理解するのに数秒掛かり、事態を把握した時には重なるだけの唇の間から、ぬるりとした舌がゆっくりと侵入してきた。
「ちょ、ま……んぁっ」
熱い舌に絡め取られ、捕まった先が音を立て吸われた。痺れる感覚と水音が頭の中で響き渡る。離れようとすればするほど絡めとられ、ぴったりとくっついて離れない。息を吸うのがどんどん難しくなり、小さな隙間から入る空気と黒崎から運ばれてくる熱い息を吸い込んだ。黒崎の熱が身体中に入ってくる感じがして、背筋にびりっと電気が走る。
「くろ、さ……きっ!」
黒崎の胸を押し退けて、やっとの思いで離れると、そのまま黒崎は寝落ちした。すうすうと聞こえてくる寝息に腹が立つ。
「っざけんなよ……っ!寝惚けて何してくれてんだっつーの……っ」
自分の声が震えて聞こえる。
なんなんだこいつ……なんで、こんなことした……?
心臓が張り裂けそうに鳴っている。熱を出しているのは目の前で眠りこける黒崎なのに、身体中は熱く火照って、汗腺からどっと汗が吹き出していた。
黒崎が怖かった。こんなことされるなんて思ってもいなかった。いつも優しくて、俺の我儘に付き合ってくれて。なのに……どうして。
しつこく深く重なった唇は、まだ熱を持っている。
「くっそ……」
俺はスポドリと薬を力強くテーブルに置き、寝落ちした黒崎に粗っぽくベッドの布団をかけると、何も言わずに傘だけ借りて部屋から出た。
頭が酷く重くて、身体も熱い。汗でべたついた全身が怠くて動くことがやっとだった。目が覚めたら見慣れた天井がぼやけた視界に入り、ここが自分の部屋なのだということがわかった。
あれ、俺どうやって入ったっけ……。
ハンバーガーショップから出てきた青木に呼び止められて、傘が無いから待ち合わせ場所まで送ることになったはず……だ。
所々、会話したことも覚えてはいるが、はっきりとしない。
それから……えーと、どうしたんだっけ。
記憶を手繰り寄せるが、全く思い出せない。熱でぼうっとしたまま歩いていたのは覚えている。もしかして、青木……送ってくれた?
身体を起こすと、雑にかけられた布団と自分の朝着ていた服がベッドの下に丸まって落ちているのが見えた。床に積み上げていた本の山が崩れて、至る所に散乱している。テーブルの上には結露で水浸しになったスポーツドリンクのペットボトルと、その横には解熱剤が置かれていた。そばに置かれたビニール袋から何か入っているのが見える。全部身に覚えがない。積まれた本を避けてベッドに入るのは慣れたもので、ここまで崩すことはなかったし、解熱剤など購入した記憶はない。スポーツドリンクなんて、好んで買うことは殆どなかった。
「あ…………」
それで全部悟った。
「うわぁ……まじか」
一気に頭痛の痛みが増した。とにかく青木に迷惑かけてしまったことを謝ろうと思い、ベッドの下に置いたままの鞄からスマホを取り出した。画面にはアプリの通知が溜まっていた。最初にメッセージアプリの通知を開いた。数時間前に青木からメッセージが入っていた。
『鍵は玄関ポストに入れた。傘借りていく。ゼリーとか適当に冷蔵庫にぶち込んだから薬飲んで寝ろ』
簡素なメッセージだが、嬉しかった。
あいつ、合コン行くって言っていたのに……。俺の看病をしてくれたのか。
胸のあたりがきゅうっと締め付けられる。嬉しくて、ぼうっとする頭が少し冴えた気がした。画面をスクロールすると、スタンプの次にもう一言メッセージがあった。
『それと、さっきのことは忘れとく。また学校でな』
さっきのこと?
さっき、さっき……とは?
青木に会う前にほんの少しだが真城に苛立っていたことは思い出せる。しかし、他がピンとこない。青木と何があったのだろうか。考えてもやはり思い出せなくて、部屋の隅から隅までに視線を向ける。
もしかしてこの酷く散らかった部屋を記憶から消しておく……とか?まさか、そんなことな訳ないか。
じゃあ、なんだ?
思い出せないまま、俺はとりあえず『送ってくれてありがとう』とだけメッセージを送っておいた。
次の日になってもあの感覚が消えなかった。熱くて、苦しくて、頭がクラクラするあの感覚。唇の感触、息遣い。舌の動き。俺まで発熱しているかのように身体中に熱を持ち、そればかりが頭から離れない。キスは初めてじゃないにしろ、あんなのは初めてだった。それに、あの熱を帯びた黒崎の表情を思い出すだけで胸が高鳴り、下半身まで疼き出す。同級生の発熱で欲情までする始末だ。俺は文字通り頭を抱えた。
相手が寝惚けていたとはいえ、こんなにくっきり爪痕を残すものなのだろうか。そもそも、俺は男で、黒崎も男だ。あいつは彼女を作る気がないと言っていたし、まぁ、経験が無いわけじゃないだろうが。
じゃあ、なんでキスをする前に俺のことを呼んだんだ……?
胸の中で何かを閉じ込めているような、苦しさがあった。
どうしよう。今日、学校で普通に顔を合わせられるか。いや、無理だな、無理……!
思い出すだけで、心臓が跳ねるように鳴る。忘れると言っておきながら忘れられずにいるなんて、黒崎とのキスを肯定してるようなものだ。あれは夢だ、きっと夢。考えるだけで身体中がこんなに火照っているのは俺にもあいつの熱が移っただけだ。そうに違いない。
鳴り止まない心臓の音を、どうにか落ち着かせようと、深呼吸を繰り返しながら何度も何度も頭の中で忘れろと自分に言い聞かせた。
「青木、昨日はごめん。色々ありがとう助かった」
昼前の講義で、俺を見つけた黒崎はいつも通り横の席に座り、頭を下げてきた。
「お、おぅ。もぅ熱は、いいのか?」
「うん。寝たらだいぶ。多分だけど知恵熱かな……ちょっと昨日色々あったから」
色々あった?そりゃ、俺の台詞じゃねぇのかよ。お前のせいで合コンには行けないし、家まで運ばされるし、挙げ句の果てに……。
思い出したら顔がどんどん赤くなるのを感じた。
「青木?顔……え、もしかして俺移した?」
俺はぶんぶんと首を振った。
「いや、熱とかじゃなくて!さっき走ってきたから暑くてさっ」
「そっか。なら良かった」
俺の苦しい言い訳を掘り下げることなく、黒崎はにこりと笑ってノートとペンケースを鞄から取り出す。今まで黒崎の笑った顔なんてどうってことなかったはずなのに、余計に顔が赤く染まる。
くっそ、意識してるのは俺だけかよ……!なんでこいつ、こんな涼しい顔してるんだ。あれがイケメン界隈では挨拶とか言うのか。舌まで突っ込むキスが?
咄嗟に顔を背け、少しでもバレない様にと口元は手で覆った。心臓はバクバクだ。耳の中で音がするような錯覚さえする。
「本当に大丈夫?」
「だ、大丈夫、大丈夫」
覗き込まれ、目が合って肩が跳ねた。綺麗なサラサラの髪が揺れるとろこまで視線を奪われる。
あぁ、もう。調子が狂って仕方ない。
俺が好きなのは女の子、女の子!
どうにかして考えないようにしないと、変な気を起こしかねない。いやいや、変な気ってなんだ?
ゆっくりと視線を黒崎に向けると、目が合った。
「青木?」
ビクッと思わず強張る。
「昨日、合コン行けなかったこと怒ってる?」
「えっ、いや。そんなことないけど」
「え、違うの?」
「お、俺がそんな小さいことで怒るわけないだろっ」
「んー、いつもなら怒るとこだと思うんだけど……」
黒崎は首を傾げながら言った。
このやろう……全部お前のせいだよ!
簡単に文句を言えたらいいのだが、当の本人は忘れているらしいことをわざわざ思い出させる訳にもいかない。
だって、きっと、俺が相手だったとか知ったら……どう思う?
気持ち悪いとか思われるのはなんか嫌だった。かといって何も知らないで居られるのも腹が立つ。俺だけが気にしてるこの現状だってなんだか気に入らない。
「俺、時間まで少し寝る。教授が来たら教えて」
「あ、うん」
顔を突き合わすのも気恥ずかしくなり、俺は机に突っ伏した。黒崎の声が消えるようだったが、それを拾っている余裕はない。
暫くして騒ついていた教室が急に静まった。教授が入って来たのがわかり、黒崎に起こされる前に顔を上げた。横目で黒崎の顔を見ると、何か言いたげだったがレジュメが配られ始めると、黙って講義を受け始めた。
おかしい。どう考えても青木の態度が不自然だ。やはり昨日、俺と何かあったに違いない。あの態度は完全に俺が原因だということは間違いなかった。いつも講義の後は一緒に学食へ向かうのだが、今日は昨日のお詫びをしに行くからと言って、足早にどこかへ行ってしまった。いつもなら何も気にしないで送り出すのだが、俺の顔を見ようとしないまま言われることが不思議でならなかった。
更に次の日もその次の日も、青木は俺を避けた。教室へ行っても、もう隣りには誰かを座らせていたし、昼になればそそくさと消える。タイミングを見計らって声をかけるが、俺の声に被せて通りすがりの友人に声をかけどこかへ消えてしまう。態とらしくて苛立つ程だった。
何で、どうして?
俺は一体、お前に何をした?
呼吸が苦しくなるぐらいショックだった。好きな人にそんなことをされるなんて、生きている心地がしなかった。しかし、思い出そうにも、あの日に青木と何があったかが思い出せない。ぼやけた視界で見えていたのは確かに青木だったけれど、何かしたかとかは記憶になかった。この状況が続くのも気分が悪いため、俺は痺れを切らして青木に問い詰めることを決めた。このまま避けられ続けているのも限界だった。悪気のない俺が悪いならさっさと謝りたい。いつもみたいに、俺に我儘を言う青木が恋しかった。
しかし、意を決してスマホで連絡を入れたが返って来なかった。そうなると、強行手段だ。こちらからあいつの行きそうな場所を探すしかない。いつもの部室、合コン仲間がいるであろう喫煙所、人が多く集まる中庭。しかしどこを回っても青木は見つからなかった。もう学内から出てしまったのかと思ったが、週に一度六限のゼミに出席しているのを知っていたし、今日はその日だった。学内からは出ていないと踏み、念の為ゼミ室も覗いたが、やはり居ない。そこにも居ないとなると、心当たりはあと一つだけだった。青木は授業をサボる時によく部室棟の屋上へ繋がる階段の踊り場にいることが多い。今回は居るかどうかはわからないけれど、もう他の場所は考えられなかった。
教室棟から部室棟へ移動し、裏手の階段を上がる。この階段は部室には繋がらず、屋上直結の階段で普段は人があまり入らない。見当違いかもしれないが一段一段ゆっくりと上って行く。屋上手前の踊り場まで来ると、青木の姿が見えた。
「青木」
声をかけると、びくっと肩が揺れた。
何をそんな怯える必要があるのだろうか……。
振り向いた彼は耳を赤くしていた。
「くろ、さき」
青木は大きく見開いた目で俺を見た。喉仏がゆっくり動き、ゴクリと唾を飲むのがわかった。視線がぶつかると、頬を少し赤らめて思いきり目を逸らされた。
「ちょっと良い?」
しゃがんで、座っている青木と目線を合わせるために顔を覗き込む。赤い顔が更に赤くなり、後退りされた。その仕草に胸が締め付けられるように痛む。
「学校、来てたんだ?」
「え、あ、うん。悪いな、ちょっと昼にイベ部の活動とかあって忙しくて」
視線がずれる。嘘をついているのなんてバレバレだ。四年生の今、活動が忙しい訳なんてないのだ。
「あのさ、熱で何も覚えてなかったのは本当に悪いんだけど……。青木のその態度、あの日の俺が原因なんだよね?」
率直に聞いた。その方がこいつには手っ取り早いと思った。青木の目がきょろきょろと泳ぐ。焦って口が震えているようにも見えた。
「お、お前がっ!わ、悪いんだからなっ!」
ぎゅっと目をつぶって、大きな声で青木が言った。
「だから、それ。何したの俺」
壁に手をついて聞いた。強張る青木は恐る恐る俺を見る。聞き出したい本心が消えてしまいそうなほど、その表情に欲情した。
「き、キス……したんだよ!おまえが……俺にっ」
今にも火を吹きそうなほど顔を真っ赤にさせながら青木は言った。
「………………は」
「だからぁっ!お前がっ!急に俺のこと押さえつけてキスしたって言ってんだよバカ!」
「え…………えぇっ?!」
冷や汗が身体中から噴き出る。一気に寒気までしてきた。
キ、キス?俺と、青木が?
「いや、嘘!え、いや、そんなはず」
「嘘じゃねぇよ!どうしてくれんだよっ……気になって俺……っ」
「ご、ごめんっ!熱でどうかしてたとはいえ、本当に」
頭の中が真っ白になった。あぁ、ばれた。どうしよう、青木にもう近づくなと言われたら。俺。どうすればいい。生きていけるのかわからない。何したら許されるんだ。どうしよう、本当に。どうしたら……。
「青木。ごめん」
ひたすらに謝った。全身が震えて言葉も浮かばない。
「あ、謝んなよっ。俺が意識してるみたいで調子狂ってただけだし!それにほら、お前もあの時、熱出てたしさ!」
息継ぎを忘れ、青木が一気に喋った。
「それに、俺こそ忘れるって言って忘れないでごめん。気にしてる俺のがどうかしてるんだって」
胸の痛みと心臓の鼓動が増した。
「そんなことない……。青木じゃなきゃ俺、絶対してないよ……」
思わず声が出てしまっていた。咄嗟に口を抑えたが、青木は聞き逃していなかった。
「俺、だから?……どういうことだよ」
「それは……」
青木が、好きだから。そう伝える勇気と振られる勇気がないだけで、困惑させてしまった。それをすっと言えてしまえば楽なのに、関係が崩れるのが怖くて踏み込めないのだ。
「黒崎、俺は怒ってる訳じゃない。俺はお前の気持ちが分からなくて……」
「好き、なんだ……」
眉を寄せて困っている青木の顔に居た堪れず、俺は自分の胸の内を明かした。
「……ずっと、お前が好きだったんだ。気持ちを伝えられないことに悩んでた。あの日は悩みすぎて頭がショートしたんだ。頭の中は青木でいっぱいで、考えるだけで熱が上がった……だから、無意識に……ごめん」
下を向いたまま目の前の青木の顔を見ることができない。伝える勇気も振られる勇気もなかった俺がとうとう言ってしまった。喉元と目頭が熱くなり、鼻の奥がつうんと痛む。
終わった。好きな人との良好な関係は、自分の無意識な行動によって呆気なく終わった。明日からは他人になるのかと、そう考えるだけで今にも目から涙が溢れそうだった。
「す、好きって……いつから……」
青木の声が震えていた。無理もない。同性から好意を伝えられるなんて、人によっては恐怖だろう。ましてや毎日つるんでいたやつから告白されれば尚のことだ。
「……だいぶ前だよ。中学ぐらいから。でも、諦めたこともあった。青木は女の子が好きだし……。だから自分も変わろうって思って、女の子とも付き合ったこともある。でも、ダメだった。嘘をついているのは苦しくて、しんどくて。だったら友達として一緒にいるぐらいで良いと思っていたんだ」
青木が俺の方をじっと見ているのがわかる。突然のことで整理がつかないだろうに、真剣に考えてくれようとしているのも分かる。でもきっと、『彼女が欲しい』とそればかり言っていた青木にとって、俺は恋愛対象外の何者でもないのだろう。
「し、知らなかった」
「当たり前だろ。必死に隠していたんだから」
力無く笑った。隠していたものはもうポロポロとこぼれ落ちていく。我慢していた涙も溢れ始めていた。
「忘れて良いよ、全部。俺のこの気持ちも、俺のことも。気持ち悪いだろ」
「は?」
「青木はさ、ずっと女の子が好きじゃん。キスをするのも、それ以上も、女の子のが絶対良いだろ。俺じゃダメなんだって。ずっと、分かっていたから」
そう、分かっていたから言えなかった。突き放されるのが怖かった。俺が好きな気持ちを押し殺せば、青木に迷惑をかけることもなかった。だから今の今までやってこれたのだろう。だった今度は俺が離れて全部なかったことにしてしまえば良いだけだ。幸い、大学生活はもう一年もない。就職してもう会うことさえなければ、綺麗さっぱり忘れられる気がした。
「……だからって、全部無しにするのか?」
顔を上げると、真っ赤な顔をした青木と目が合った。
「意味ワカンねぇよ」
「いや、青木が一番わかってるだろ」
「ワカンねぇって言ってんの!」
立ち上がった青木に、突き飛ばされた。背中に鈍い痛みが走る。手をつくと、小さな砂利が食い込んでちくちくと痛い。
「今更無しにできる訳ないだろ……!さっきも言ったけどな、あれからお前でいっぱいでこちとらどうしていいかワカンねぇんだよ!」
目には薄っすらと涙を浮かべているのが見える。
なんで……お前が泣くんだよ……っ!
「そりゃ、可愛い女の子のが百倍好きだよ、エロいし、柔らかいし!でも、あの日からお前がそれ以上に気になって気になって仕方ないんだよ!こっちだってお前で頭の中いっぱいで、四六時中考えてんだよ!それなのに、勝手に俺の中荒らしておいてごめんなんて、忘れろなんて……許さねぇからな!」
そう言って、青木は俺の胸ぐらを掴むと乱暴に唇を重ねた。カサついた唇がだんだんと熱くなる。心臓が強く鳴った。鳴りすぎて頭の中で反響し、自分の鼓動が青木にまで聞こえそうなほどだった。驚きと嬉しさで頭がぼうっとする。
「ん……んんぅ」
息をするのを忘れ、声が漏れる。俺の胸ぐらを掴んでいた青木の手が離れると、今度は俺の片手を握った。指を触られるだけで、背中が跳ねる。自分じゃないみたいで恥ずかしくなり、思わず力強く青木の手を握り返した。
「責任……取らせるからな」
「……え?」
唇を離した青木は、顔を背けて小さな声で言った。
「言っただろ、俺の頭の中はお前でいっぱいだって」
言われるとは思っても見なかった言葉に、ぎゅっと胸が締め付けられる。
「俺……可愛いくもないし、柔らかくもない。エロくは……なるかもしれないけど」
「だ、だから何だよっ」
「俺、青木のこと好きなままで良いの……?」
今度は俺の重ねた手が震える。好きで好きでたまらない気持ちはもう止まらない。青木が真っ赤に染める頬を見るだけで愛おしいと思うほどに、もう離れたくはないのに、相手の気持ちを何度も確認したくなる。
「ダメって言っても好きでいるんだろ」
呆れた青木が溜息を吐いたが、数秒後に俺を見て柔らかく微笑んだ。心臓がギュッときつく掴まれる。苦しくて、嬉しくて、愛おしくて。目に溜まった涙がゆっくりとこぼれ落ち、俺は手を伸ばして青木に抱き付いた。
「ちょ、ばか!お前俺よりでかいの分かってんだよな!?」
「ふふふ、ごめん。だからもう少しだけ、このままでもいい?」
耳元で囁くと、青木は暴れるのをやめた。
「聞くなよ、んなこと……」
夢かもしれない。こんな日が来るとは思ってなかった。むしろ最悪な結果しか考えていなかった。気持ちを伝えて良かったと心の底から思った。嬉しくて、幸せすぎて、腕の力は緩められない。離れたくない、離したくない。どこにもいかないと言われても、それでもずっとこうしていたいと思った。
「ねぇ、青木。目閉じて」
「な、なんだよ」
「キス、したい」
「……さっきしただろ」
「ねぇ、お願い。もう一度俺からしたい。ね、良いよね?」
「お前のキスってなんかほら、場所選んだ方がっ……んんっ」
恥ずかしがる姿は食らい付きたくなるほど可愛い。甘くて厚みのある舌を吸うと、喉の奥で誘うような声が漏れた。もっと、自分の上に重みをかけて欲しい、身体中で感じたい。もどかしくて甘いキスを刻み込む。辿々しいが俺のキスを返すように青木の舌が口内を這う。歯列をなぞられて背中がびくんと跳ねると、それを受け止めるよう、青木の腕が俺の背中へ伸びた。
「んぅ、あ……ふぅ、んんっ」
行き交う息も唾液も甘い。もっと欲しくて、せがむように青木の舌に自分を絡めていく。もう二度と青木とのキスを忘れないよう、俺は何度も深く唇を重ねた。
「言う気、無かったんじゃないんですか?」
イベ部の部室に行くと、時間を潰している真城が声をかけてきた。青木は昼休みに広げたのであろう荷物を部室に入るなり片付け始める。
「あ、ばればれなんだ?」
「青木先輩、顔真っ赤だし。黒崎さんは清々しいほどの笑顔だしさ。どうせ押し倒したか何かしたんでしょ?」
胡散臭いのはいつもだけど、と憎らしい一言を付け加えて、真城は部室の奥で他の部員にちょっかいを出されている青木を見ながら言った。
「まぁね。俺は女装してないけど」
「……黒崎さん。それ、喧嘩売ってます?」
「あはは。真城、顔怖いよ」
「……ったく」
真城は眉間に皺を寄せながら、机の上で鳴るスマホの画面を確認した。つんけんしていた表情が急に柔らかくなる。
自分だって分かりやすいくせによく言うよ。
そんな真城を見てくすりと笑うと、怪訝そうな顔で俺を見ていた。
「何ですか」
「いやぁ、やっぱりましろちゃんは可愛いなぁって思って」
「……ほんと、この腹黒崎さんは」
「あはは。番犬が来る前に俺は退散するよ」
きっと、赤澤くんがそろそろ迎えに来る頃なのだろう。ややこしいこと言われる前に消えておかないと、この間のこともある。
「それじゃあね」
真城ににこりと笑って見せて、俺はリュックのファスナーが締まらないと騒いでいる青木の腕を引いて部室を後にした。
リュックの中からペンケースがまだ出てるというのに、黒崎は力任せに俺の腕を引いて部室を出て行った。
「ったく、少しぐらい待てってば。くっそ、これダメだ布噛んでる」
ファスナーの金具に布が食い込んでいるを見つけ、イライラに任せながら無理矢理引っ張ったがビクともしない。
「さてと……。ねぇ、俺ん家で続き……しない?」
夢中でファスナーを直しているところを黒崎は耳元で変なことを囁きながら邪魔をしてくる。くすぐったくてリュックを落としそうになった。あの時の潤んだ熱っぽい黒崎の顔がフラッシュバックして身体中の熱が顔に集中してくるのを感じた。
「ちょ、やめろって!それに、今日はダメだ、約束があ……」
まずい。やばいやばいまずい。
さっきのさっきでこれはだいぶまずい。
「約束?ねぇ。それってもしかして合コ」
「あーーーーーっ、ちが、ちがう!あれだ、飲み会!そ、そう、ただの飲み会!
「ただの飲み会ねぇ……」
黒崎の口から小さな溜息が漏れる。
「青木、俺のこと好きなんだよね?」
「そっ……そうだって言ったろ」
じゃなきゃ付き合わねぇよ。ていうか、家行くのは絶対まずい。さっきのキスといい、前回のキスといい、黒崎は自分がどんな顔をしているのか知った方が良いと思う。相手が同性であってもあんな顔を見せられたらこっちだって歯止めは効かなってしまう。
「それに、これは昨日した約束だし、別に女の子がどうとかって訳じゃなくて」
「ふぅん」
黒崎は俺を掴む腕を離したが、ジト目を向けるのをやめようとはしない。
「……あーもぅ。分かったよ、行かねぇって。その代わりお前の部屋、まずは掃除だからな!」
「え?別に本が多いだけで汚れてないけど」
「足の踏み場がない部屋に人を通すなっ」
「あはは。良いじゃん、後にも先にも部屋にあげるのは青木だけだから」
不覚にも、その言葉に胸がキュッとなった。
いやいや、そうじゃない、そうじゃなくて!
「そういう問題じゃねぇだろ……もぅ!」
黒崎はくすりと笑う。理性を保つこっちの身にもなって欲しい。頬を若干赤く染めているのを見て、可愛いと思ったのは言わないでおこう。
青木蒼太は学食のカレーをちびちびと口に運びながら言った。猫舌な彼はいつも人より食べるのが遅い。フーフーと息を吹きかけながら一生懸命に熱を冷まそうとする姿は見ていて飽きなかった。
「そうかな。俺はこの間偶然会って一緒に買い物に行ったけど」
「どーせ、女装してないだろ」
「してたよ?」
「はぁ!?なんだよそれ、俺も女装の真城とデートしてぇっつーの」
「あははっ。中身は真城なのに」
「でも可愛いじゃん!世間の男にマウント取れるならそれでも全然良いだろーが!あーぁ。彼女欲しいなーっ」
青木は不貞腐れながら再びカレーを口に運ぶ。冷ますのを忘れ口に入れたカレーはやはり熱かったらしく、少し慌てて水を飲む姿は面白かった。
「なぁ、俺が女装してあげるって言ったら……青木はどうする?」
何となく聞いてみたかった。いつも真城も俺も青木にはイケメン属性と言われていたし、そんな風に見えているのであればきっとおかしな出来にはならないだろう。
「お前が?ダメだろ、真城よりでかいし、俺よりもでかい。全然ダメダメ。可愛くない」
「えー。青木より大きい女性も世の中には沢山いるんだけどなぁ……」
「誰がチビだって?」
「誰もそうだとは言ってないでしょ」
青木はリスのように口いっぱいに詰め込みながら怒る。
あぁ、やっぱりな。こいつはきっと俺をそう見ないんだろう。
気にしないようにいつも通り、くだらない話に付き合う友人としてその日も過ごした。
別に最初から同性が好きだった、とかではない。数ヶ月だけれど彼女もいたことがあるし、告白された側だったが、可愛いし気が合うと思ったから付き合った。でも結局、自分のそばには青木がいて、彼女よりも優先してしまうほど惹かれていた。
彼とは小学校と中学校が一緒の所謂幼馴染だった。高校は別だった。青木との空白の時間は約三年。最寄り駅や家の近所ですれ違うことはあったが、挨拶を交わす程度だった。もうつるむことはないのだろう、そう思っていたのだが、黒崎墨仁という祖父の付けた物珍しい名前だったからか、大学のオリエンテーションで配布されたプリントでその名前を見つけた青木は、俺を見つけると嬉しそうに声をかけてきた。久しぶりに青木に肩を組まれると、俺も嬉しくて懐かしくて、つい舞い上がった。その時から大学ではまた昔のように一緒に居ることが多くなった。
昔から青木は可愛い女の子がいれば声をかけるようなやつだった。中学生にもなれば口癖は「彼女が欲しい」だった。年頃だし、自分もそういうことを考えたこともあったけれど、一緒に居るのが楽しくて、もっと一緒に居たいと思えるのは女の子ではなく、青木だった。気がついたら自分の気持ちははっきりとしていて、その時ぐらいから「彼女が欲しい」と駄々をこねた様な言い方をする青木に腹が立ち、いつか青木の彼女になる顔も分からない女の子にも苛立ちを覚えた。つい最近でも、後輩の真城雪弥が付き合っていた彼女に振られたすぐ後に合コンを開いていた。一つ下の学年でよく見かけたことのあるその女の子は、幼い顔立ちの可愛い女の子で、青木も常に可愛いと言っていたのを覚えている。後輩のために合コンを開いたあたり、良い先輩と思うだろうが、あわよくばフリーになったばかりのあの子を……とかそんなことを口にしていたのを見て苛立った。むかついた俺は、合コン開催原因である真城で苛立ちを晴らすために、ちょっかいを出したのだ。
まぁ、彼も彼で今はそれなりに楽しんでいるようだった。
本当なら彼女が欲しいという彼の願いを応援してあげるのが友人なのも分かっていた。分かっていても、自分の気持ちを否定するようで嫌だった。高校で離れていた分、気持ちが落ち着けばよかったものの、彼に対する思いは募っていた。しかしそれと同時に「いけないことだ」と自分に枷をつけていたのは事実だった。同性からの好意など、あの女の子好きの青木が受け入れる訳かない。だから尚更違う学校で良かったと思ったのに、青木はその離れた距離を意図も簡単に詰めてくる。どうせ叶わない気持ちなら、突き放したいと思う癖に、そこに漬け込んで相変わらず自分を彼の側に置いている。そんな諦めの悪さに、自分でも呆れていた。
「なぁ、黒崎。今日合コン誘われたけど、お前も行くよな?」
青木はあたかも当然のような言い方をしたが、俺は首を横に振った。毎度合コンに行く際は決まって声を掛けてくれる。それは彼女の居ない俺に対しての彼なりの優しさなのだろうが、良い迷惑だった。
「いや、俺はいいよ。今日体調もあまり良くないし」
一呼吸置いて、冷静に答える。ワンテンポでも遅くしないと、何か言い出しそうだった。
「えー。イケメンが居ないと可愛い子来ないじゃん。この間は参加したくせに。まぁ、体調悪いなら仕方ないけど……」
「それに言っただろ、俺は彼女作る気ないって。この間は青木が真城のためだからって、無理矢理連れ出したじゃない」
講義が終わり、次の講義がない俺はいつも通り青木にくっついてイベ部の部室で時間を潰していた。横で執拗に行こうと誘う青木を無視して、読みかけの本に視線を戻す。不貞腐れた青木は椅子の背もたれを抱えるようにして座り直した。
「黒崎~ぃ。女の子は良いぞぉ?柔らかくて可愛いし、良い匂いがする」
「それ、ヘンタイのセリフ。外で言うなよ」
「なーんだよ、ノリ悪いなぁっ」
「悪かったね」
「まぁ、早く本調子になったら遊べば良いんだけどさぁ」
何年もこっちを見てくれない意中の人がいる合コンなんて耐えられないだろ。
喉元でつっかえる言葉を全部飲み込んだ。悟られたらこの長い間の友人関係が終わる。どうせ叶わない恋なら、修復が難しい関係になんてなりたくなかった。
「てかお前さ、昔っからだけど……女の子興味ないの?」
本の続きを読みたいのに、青木は俺の顔を覗き込んでくる。
そういう心臓に悪いのは、慣れていないからやめて欲しいんだけど……。
「興味が無いわけじゃないよ、彼女居たことあるし。ただ、今はいいかなってだけ。読書とか、一人の時間のが楽しいし、青木といる方が楽で良いよ」
「ふーん。ま、そう言ってられるのも今のうちだけどな。今夜で俺、彼女できるかもだし?」
青木はにやにやと笑いながら俺に棘を刺していく。無自覚で無意識はなんて罪なのだろう。行って欲しくはないけど仕方ない。痙攣らないように、俺はゆっくりと笑ってみせた。
「まぁ、頑張りなよ。童貞クン」
「あっ!それ言うな!!」
顔を赤くして俺の肩を軽くパンチする。大した痛みはないはずなのに、心臓のあたりがズキンと痛む。この時間が長く続けばいいのに。この鈍感野郎を引き止められるなら引き止めて、自分の気持ちを素直にぶつけたかった。
ぐるぐると腹のなかで黒い渦が立ち込める中、俺は青木を合コンに送り出した。スマホの画面が反射して映った自分は、眉間に皺を寄せて如何にも不機嫌だった。嫌だな、こんな役回りも。溜息が引っ切りなしに出てくる。それでも青木の邪魔はしたくなかった。
下を向き、足早に大学の校門を抜けた。すぐ目の前の横断歩道の信号が赤に変わり、足を止めると、後ろから声をかけられた。
「あれ、黒崎さん?」
振り向くと久々に女装をしていない真城を見たような気がした。
「真城?今日はましろちゃんじゃないんだ?」
そう言って揶揄うと、露骨に嫌な顔をされた。
「もうしないんで」
「えー。可愛いのに」
「黒崎さんが言うと嘘っぽいんですけど」
「それ褒めてる?」
「皮肉だよ。アンタ本当頭いいんだか分かんない……」
肩を落としながら呆れた口調で真城が言う。そう言いながら、顔は笑っているのがこの可愛い後輩の良いところだ。
「赤澤くんは一緒じゃないんだ?」
「あいつ、あと一コマあるって言うから。待ってらんないし」
「そこは待ってあげなよ」
「そういう黒崎さんこそ、今日は青木先輩と一緒じゃないんですか?」
こいつ……。
露骨に痛いところ付いてくる。さっき誘いを断る口実で体調が悪いと言ったが、本当に胃のあたりがムカムカしてきた。
「まぁ、どうせ合コンだとかカラオケオールとかでしょ。あの人、そういうの好きだから」
「分かっててなんで聞くかなぁ……」
「あ、やっぱり。カマかけてみたりして」
「真城、全然可愛くないよそれ」
「可愛くなくて結構です。で、そんな不機嫌そうな顔して歩いてる理由は?」
不機嫌なのは目の前にいる生意気な後輩の態度が気に食わないからだって言うのに。この前はうじうじと悩んでいたくせして、なんなんだよまったく。
「真城って実は空気読めないでしょ」
「黒崎さんがそれ言います?」
にやりと笑って俺を見上げる。この間のことが癇に障ったのだろう。
「真城、少しデートしようか」
「可哀想な先輩のために、仕方ないので今日は合意します」
「本当、可愛くないなぁ……」
真城は赤澤くんに連絡を入れ、俺と一緒に大学最寄駅の近くにあるカフェへ入った。例え事前に連絡があたとしても、前回のことがあるのだ、彼としては俺と真城が一緒に居る時点で面白くないだろうに。
「コーヒーで良いですよね」
「うん、ありがとう」
真城が店員にコーヒーを頼んでくれた。
「さてと。イケメンお兄さんは何が不満だったんですか?」
「うわぁ。直球な切り口」
「こういうのははっきりとした方がいいんでしょ?」
痛いところをつくのが得意な真城。嫌な子を揶揄ってしまったのだということに今更気がついた。
「分かったよ、ちゃんと話す」
「そうそう。正直に生きた方が楽ですよ。ただでさえ、アンタの腹の中はいつも真っ黒で何も見えないんだから」
皮肉たっぷりな真城に苦笑いを返すと、丁度店員がコーヒーを二人の前に運んできた。とにかく、さらっと話したらスッキリするだろう。溜め込みも良くない。そう思った俺は、一口コーヒーを飲み込むと、真城に腹の中の黒い渦を少しずつ曝け出した。
コーヒーが飲み終わる頃には全て話し終わった。実は青木とは古い付き合いだと言うこと。彼女が欲しいという彼の気持ちを知っているからこそ踏み出せないこと。今の関係を壊したくないこと。全部正直に話しをした。
「俺が言ったらさ、ブーメランかもですけど……。黒崎さんも大概面倒ですよね」
「あはは。本当、真城には言われたくないなぁ」
「涼しい顔してそういう事はさらっと言える癖に」
聞こえるように溜息をつかれた。言われても仕方ないのは分かってるからこそ、腹が立つ。忘れた頃に胃のむかつきまで思い出す始末だ。
「伝えもしないくせして、苦しむのはずるいですよ」
「経験者はやっぱり違うねぇ」
「ふざけてるんですか」
「ふざけないとやってられないだろ」
「……黒崎さん。あの時、あなたが俺に受け入れれば楽だって言ってくれたから、俺は太陽の所に行けた。言わない後悔より言って後悔した方が全然良いって自分で分かってるんでしょ」
本ッッッ当にこいつ、可愛いくないなぁ……。
「話を聞いてもらった手前、悪いけど今は言う気にはなれない。君に偉そうなことを言ったのは俺だけど、自分では伝える勇気も振られる勇気もないんだよ」
立ち上がって、その場を離れようと鞄と伝票を取った。店の入り口が開いて、赤澤くんが入ってくるのも見えたし頃合いだろう。
「黒崎さんっ」
「時間、ありがとね。これ以上は君にも何かしそうだから」
「何かって……」
「コーヒー代は俺が持つよ。じゃ、またな。赤澤くん、真城返すね」
「えっ、あ、はい」
席を離れると、真城は追いかけて来なかった。
そりゃ呆れたんだろうな、こんな口先だけの格好悪いとこ見せたんだから……。
卑屈にしかなれない自分が嫌で仕方ないから、周りには見えないように隠して、黙って、全部飲み込んできたっていうのに。いざ曝け出したら途端にただの意気地なしだった。格好悪いを通り越して情け無い。
店の外を出ると、暗く厚い曇が迫ってきていて、今にも雨が降り出しそうだった。
待ち合わせ時間まで微妙な時間。小腹が空いているわけでもないが、近くにあるファストフード店にでも寄って時間を潰そうと思い、軽めのバーガーと飲み物を頼んで、カウンター席に座っていた。ぼうっと外を眺めながらバーガーにかぶりつく。入店時に曇り始めを感じてはいたが、もうすっかり上空はグレーの雲で覆われていた。よく見ると窓ガラスに水滴がつき始め、雨が降りはじめていた。
「うわー、マジかよ。傘ねぇっつーの」
思わず声に出して言った。都合良く俺の鞄に折りたたみ傘なんて入っていた試しがない。
止むかな、なんて空を見上げるが、厚い雲で覆われてた空は見える範囲全てがグレー一色に染まっている。止む気配は毛頭無い。
あー、どうしたもんかなぁ……。
今日の合コンは、誘ってくれた顔見知りは居るのだが、傘がないから迎えに来てと軽々しく言えるほど仲が良いわけではなかった。こういう時、黒崎墨仁の顔が思い浮かぶ。あいつがいたら、スマートに傘を出して「入る?送るから良いよ」と面倒くさがらずに言ってくれのだが、あいにく、その黒崎は居ない。今日は体調が悪いと言っていたし、こんなことで呼び出す訳にもいかなかった。
あーでもない、こーでもないと考えるうちに、手に持っていたはずのバーガーはすっかり腹の中に収まっていた。幸い土砂降りという程の雨ではなく、走ればなんとかなりそうにも見える。しかし濡れたまま合コンに行くなど、自ら自分を下げているようにしか見えない。
「いやぁ、びしゃびしゃになったら格好つかないな……」
そもそも、びしょ濡れで通してくれる店なんてないはずだ。自分がアルバイトだったらげんなりする。再び窓の外をぼうっと眺めていると、運が俺に舞い降りてきたのか、黒崎が折りたたみ傘をさしながら歩いているのが見えた。
「ラッキー!やっぱ俺ってついてるじゃん!」
急いで飲み物を喉に流し込み、トレーとゴミを片付けて外へ出た。店の入口で黒崎に電話をかけると、数秒後にスマホを取り出したのが見えた。
「青木?どうしたの?」
「あ、黒崎!悪い、向かい側の店見えるか?そうそう!あのさっ、傘入れて!」
黒崎と目が合う。手を振ると、苦笑いを浮かべて小さく振り返してくれた。
「合コンは?」
「まだ時間あるんだけど、雨降ってたからさ。偶然見えたからそのまま入れてもらって駅まで行こうかなって」
「そっか」
黒崎は小さく笑ったが、少しふらついているように見えた。
「そういえば、お前体調大丈夫なの?」
「ん、あぁ。多分。さっきより良くなってるよ」
見え見えの嘘だな……。
いつも人に合わせて歩いているのは知っていたが、今の足の運び方は一段と遅くて俺が合わすほどだ。こいつの傘に入るのはミスだったかもしれない。
「ていうか、俺ばっかに傘傾けるなよ。ちゃんと持って」
「え、あぁ。ちゃんと持ってるよ」
「あのなぁ……。お前どう見てもふらついてるだろ。断ってくれたって良かったのに……。ほら、俺が持つから」
奪い取るように黒崎から傘を取り上げた。
世話を焼かせているのは俺なんだけれど、肩を冷やして熱でも出されたらたまったもんじゃない。しかし、傘を取り上げたは良いが、俺の身長が低いせいで、黒崎は少し屈みながら歩く形になり、かえって余計にしんどそうだった。申し訳なく思って、なるべく踵を上げて歩いていると、黒崎が何かに躓いた。
あーもぅっ。俺のせいじゃんっ!
「黒崎、お前んち寄ってから俺出かけるから傘貸せよ」
「うん……ごめん」
黒崎の住むマンションは、大学の最寄り駅から少し歩いたところにあった。一人暮らしのクセして綺麗なマンションに住んでいるところはいつも羨ましく思う。昔は近所にいたと思っていたのに、いつの間にか実家を出ていた。そう言う俺はまだ実家暮らしだが。ふらふらの黒崎を支えながら、傘を雑にたたみ、エントランスへ入った。
「鍵出せるか?」
「うーん……」
黒崎はこめかみを数回擦ると、鞄に手を突っ込んでガサガサと中を探った。すぐに出てきそうな雰囲気がないため、痺れを切らした俺は、鞄を受け取り代わりに鍵を出した。引っ張るように黒崎を連れてエレベーターに乗り込み、階数ボタンを押して黒崎の部屋の前まで来る。エントランスから部屋の前へ来るだけで予想以上に疲れた。腕時計を見たら待ち合わせ時間になっていた。
あーあ、遅刻だ。
しかし、こんなにもぐったりとした黒崎を見ると放ってはおけなかった。
「ほら、開いたぞ」
壁にもたれている黒崎を引っ張り中へ入れた。触って気がついたが、汗と熱がすごい。
「お前……やっぱ体調クッソ悪いじゃん」
「あはは、だよねぇ。さっきちょっとヒートアップしたから余計かも……」
「はぁ?お前具合悪いのに何してきたんだよ」
玄関に入るなり、黒崎はその場に座り込んだ。
「ふふふ、床……冷たくて気持ちいい……」
「おい、バカ。んなとこで寝るな!」
俺は黒崎の靴を脱がし、引きずるようにベッドへ運ぶ。
「ったく……。お前、俺よりでかいくせに軽すぎだろ。ちゃんと食ってないんじゃないの?」
「んー……そんなこと、ないと思う……」
「つーか俺、今日は男じゃなくて女の子をベッドに運ぶ予定があったって言ったろ。具合が悪いなら寄り道しないで帰っておけっつーの!」
図々しく傘に入っておきながら、俺は熱でうわ言を話す黒崎に文句を言う。しかし、脱力して全体重を俺に預ける黒崎を運ぶのは一苦労だった。顔に似合わず物が散乱している部屋は、足の踏み場も困るほどで、至る所に分厚い本が積み上げられていた。
「お前なぁ……。片付けぐらいしろって」
俺は溜息を吐きながら、足でどうにか物を端に寄せながら道を作った。避けきれなかった本の山は、色んな方向へ崩れてしまったが、黒崎をベッドに連れて行くのがやっとで、崩れた山に関してはもう見て見ぬふりをした。
「おーい、生きてるかぁ?つーか、常備薬と体温計はどこにあるんだ?」
ベッドに寝かせた黒崎の頬をぺしぺし軽く叩くと、さっきのように返事はなく、眉間に皺を寄せて小さく唸るだけだった。
「ったく……」
仕方なく、スマホで今日の幹事にキャンセルの連絡をし、その辺の棚を覗きこんで薬を探す。まぁ、棚といっても隙間もない程に埋まった本棚だけど。
「何もねぇなぁ。お前、本以外にも置いとかないといつか死ぬぞ」
呆れながらベッドの方へ向き直る。黒崎は返事の代わりに数回咳をした。
「なんか食いたいものあるか?この青木蒼太様が買い物に行ってやるぞー」
黒崎の荒い息遣いが部屋に響くだけで、返事はない。
「勝手に色々やるからな」
一応断りを入れ、俺はキッチンに回った。シンクの周りには綺麗なに整頓されていたが、食器棚にはどれだけ飲めば気が済むのかと言わんばかりのインスタントコーヒーの瓶が並んでいる。せめてカップ麺でもあればと思ったが、一つも見当たらなかった。冷蔵庫はミネラルウォーターと残り少しの食材や使いかけの調味料があるだけで、すぐに食べれそうな物は何もない。
やっぱり。全然食ってねぇじゃん……。
俺は溜息を吐きながら冷蔵庫の扉を閉めた。学校では色んなことをスマートにこなすやつなのに、生活力はここまでゼロに等しいとは。こういうギャップに萌える女の子はいるかも知れないが、側で見ているこっちは心配だ。
「鍵、かりるからな。着替えは……これで良いか。ほら、着替えて寝とけ。薬と何か買って来る」
そう言って、クローゼットから着替えになりそうな服を唸る黒崎に投げつけると、俺は財布と傘を持って部屋を出た。
解熱剤、ビタミン剤、スポーツドリンク、そして適当な食料を買って黒崎のマンションに戻って来ると、中途半端に着替えたままベッドの上で突っ伏している黒崎を見つけた。
「おいおい、死体かよ……。ほら、袖に腕通すぐらい頑張れ」
買い物袋をテーブルに置いて着替えの続きを手伝ってやる。黒崎の首や額にじわりと汗が滲んでいるのが目に入った。
「うー……」
唸りつつ、薄めで俺を見上げる。顔は赤くて、少し涙目、そして息は荒く熱い。ぼうっとしているその瞳に自分が映り、思わずごくりと喉が鳴った。いけないものを見ている気がして、咄嗟に目を逸らす。
「あお、き?」
「ん、あぁ、喉乾いたか?スポドリ買ってきたからこれ飲め」
「こっち」
黒崎はえへへっと笑いながら、俺の両頬に手を添えた。
「ちょ、何すんだよっ。取り出せないだろ」
テーブルの上にある袋に手を伸ばすが、身体が黒崎に引き寄せられてうまく届かない。
「おい、どこにそんなバカ力残って」
んちゅ。
思いきり引き寄せられたかと思った瞬間、唇に熱くて柔らかいものがあたった。
「ん、ふっ」
え…………今のって………。
驚きのあまり上手く息が出来なかった。何が起きたか理解するのに数秒掛かり、事態を把握した時には重なるだけの唇の間から、ぬるりとした舌がゆっくりと侵入してきた。
「ちょ、ま……んぁっ」
熱い舌に絡め取られ、捕まった先が音を立て吸われた。痺れる感覚と水音が頭の中で響き渡る。離れようとすればするほど絡めとられ、ぴったりとくっついて離れない。息を吸うのがどんどん難しくなり、小さな隙間から入る空気と黒崎から運ばれてくる熱い息を吸い込んだ。黒崎の熱が身体中に入ってくる感じがして、背筋にびりっと電気が走る。
「くろ、さ……きっ!」
黒崎の胸を押し退けて、やっとの思いで離れると、そのまま黒崎は寝落ちした。すうすうと聞こえてくる寝息に腹が立つ。
「っざけんなよ……っ!寝惚けて何してくれてんだっつーの……っ」
自分の声が震えて聞こえる。
なんなんだこいつ……なんで、こんなことした……?
心臓が張り裂けそうに鳴っている。熱を出しているのは目の前で眠りこける黒崎なのに、身体中は熱く火照って、汗腺からどっと汗が吹き出していた。
黒崎が怖かった。こんなことされるなんて思ってもいなかった。いつも優しくて、俺の我儘に付き合ってくれて。なのに……どうして。
しつこく深く重なった唇は、まだ熱を持っている。
「くっそ……」
俺はスポドリと薬を力強くテーブルに置き、寝落ちした黒崎に粗っぽくベッドの布団をかけると、何も言わずに傘だけ借りて部屋から出た。
頭が酷く重くて、身体も熱い。汗でべたついた全身が怠くて動くことがやっとだった。目が覚めたら見慣れた天井がぼやけた視界に入り、ここが自分の部屋なのだということがわかった。
あれ、俺どうやって入ったっけ……。
ハンバーガーショップから出てきた青木に呼び止められて、傘が無いから待ち合わせ場所まで送ることになったはず……だ。
所々、会話したことも覚えてはいるが、はっきりとしない。
それから……えーと、どうしたんだっけ。
記憶を手繰り寄せるが、全く思い出せない。熱でぼうっとしたまま歩いていたのは覚えている。もしかして、青木……送ってくれた?
身体を起こすと、雑にかけられた布団と自分の朝着ていた服がベッドの下に丸まって落ちているのが見えた。床に積み上げていた本の山が崩れて、至る所に散乱している。テーブルの上には結露で水浸しになったスポーツドリンクのペットボトルと、その横には解熱剤が置かれていた。そばに置かれたビニール袋から何か入っているのが見える。全部身に覚えがない。積まれた本を避けてベッドに入るのは慣れたもので、ここまで崩すことはなかったし、解熱剤など購入した記憶はない。スポーツドリンクなんて、好んで買うことは殆どなかった。
「あ…………」
それで全部悟った。
「うわぁ……まじか」
一気に頭痛の痛みが増した。とにかく青木に迷惑かけてしまったことを謝ろうと思い、ベッドの下に置いたままの鞄からスマホを取り出した。画面にはアプリの通知が溜まっていた。最初にメッセージアプリの通知を開いた。数時間前に青木からメッセージが入っていた。
『鍵は玄関ポストに入れた。傘借りていく。ゼリーとか適当に冷蔵庫にぶち込んだから薬飲んで寝ろ』
簡素なメッセージだが、嬉しかった。
あいつ、合コン行くって言っていたのに……。俺の看病をしてくれたのか。
胸のあたりがきゅうっと締め付けられる。嬉しくて、ぼうっとする頭が少し冴えた気がした。画面をスクロールすると、スタンプの次にもう一言メッセージがあった。
『それと、さっきのことは忘れとく。また学校でな』
さっきのこと?
さっき、さっき……とは?
青木に会う前にほんの少しだが真城に苛立っていたことは思い出せる。しかし、他がピンとこない。青木と何があったのだろうか。考えてもやはり思い出せなくて、部屋の隅から隅までに視線を向ける。
もしかしてこの酷く散らかった部屋を記憶から消しておく……とか?まさか、そんなことな訳ないか。
じゃあ、なんだ?
思い出せないまま、俺はとりあえず『送ってくれてありがとう』とだけメッセージを送っておいた。
次の日になってもあの感覚が消えなかった。熱くて、苦しくて、頭がクラクラするあの感覚。唇の感触、息遣い。舌の動き。俺まで発熱しているかのように身体中に熱を持ち、そればかりが頭から離れない。キスは初めてじゃないにしろ、あんなのは初めてだった。それに、あの熱を帯びた黒崎の表情を思い出すだけで胸が高鳴り、下半身まで疼き出す。同級生の発熱で欲情までする始末だ。俺は文字通り頭を抱えた。
相手が寝惚けていたとはいえ、こんなにくっきり爪痕を残すものなのだろうか。そもそも、俺は男で、黒崎も男だ。あいつは彼女を作る気がないと言っていたし、まぁ、経験が無いわけじゃないだろうが。
じゃあ、なんでキスをする前に俺のことを呼んだんだ……?
胸の中で何かを閉じ込めているような、苦しさがあった。
どうしよう。今日、学校で普通に顔を合わせられるか。いや、無理だな、無理……!
思い出すだけで、心臓が跳ねるように鳴る。忘れると言っておきながら忘れられずにいるなんて、黒崎とのキスを肯定してるようなものだ。あれは夢だ、きっと夢。考えるだけで身体中がこんなに火照っているのは俺にもあいつの熱が移っただけだ。そうに違いない。
鳴り止まない心臓の音を、どうにか落ち着かせようと、深呼吸を繰り返しながら何度も何度も頭の中で忘れろと自分に言い聞かせた。
「青木、昨日はごめん。色々ありがとう助かった」
昼前の講義で、俺を見つけた黒崎はいつも通り横の席に座り、頭を下げてきた。
「お、おぅ。もぅ熱は、いいのか?」
「うん。寝たらだいぶ。多分だけど知恵熱かな……ちょっと昨日色々あったから」
色々あった?そりゃ、俺の台詞じゃねぇのかよ。お前のせいで合コンには行けないし、家まで運ばされるし、挙げ句の果てに……。
思い出したら顔がどんどん赤くなるのを感じた。
「青木?顔……え、もしかして俺移した?」
俺はぶんぶんと首を振った。
「いや、熱とかじゃなくて!さっき走ってきたから暑くてさっ」
「そっか。なら良かった」
俺の苦しい言い訳を掘り下げることなく、黒崎はにこりと笑ってノートとペンケースを鞄から取り出す。今まで黒崎の笑った顔なんてどうってことなかったはずなのに、余計に顔が赤く染まる。
くっそ、意識してるのは俺だけかよ……!なんでこいつ、こんな涼しい顔してるんだ。あれがイケメン界隈では挨拶とか言うのか。舌まで突っ込むキスが?
咄嗟に顔を背け、少しでもバレない様にと口元は手で覆った。心臓はバクバクだ。耳の中で音がするような錯覚さえする。
「本当に大丈夫?」
「だ、大丈夫、大丈夫」
覗き込まれ、目が合って肩が跳ねた。綺麗なサラサラの髪が揺れるとろこまで視線を奪われる。
あぁ、もう。調子が狂って仕方ない。
俺が好きなのは女の子、女の子!
どうにかして考えないようにしないと、変な気を起こしかねない。いやいや、変な気ってなんだ?
ゆっくりと視線を黒崎に向けると、目が合った。
「青木?」
ビクッと思わず強張る。
「昨日、合コン行けなかったこと怒ってる?」
「えっ、いや。そんなことないけど」
「え、違うの?」
「お、俺がそんな小さいことで怒るわけないだろっ」
「んー、いつもなら怒るとこだと思うんだけど……」
黒崎は首を傾げながら言った。
このやろう……全部お前のせいだよ!
簡単に文句を言えたらいいのだが、当の本人は忘れているらしいことをわざわざ思い出させる訳にもいかない。
だって、きっと、俺が相手だったとか知ったら……どう思う?
気持ち悪いとか思われるのはなんか嫌だった。かといって何も知らないで居られるのも腹が立つ。俺だけが気にしてるこの現状だってなんだか気に入らない。
「俺、時間まで少し寝る。教授が来たら教えて」
「あ、うん」
顔を突き合わすのも気恥ずかしくなり、俺は机に突っ伏した。黒崎の声が消えるようだったが、それを拾っている余裕はない。
暫くして騒ついていた教室が急に静まった。教授が入って来たのがわかり、黒崎に起こされる前に顔を上げた。横目で黒崎の顔を見ると、何か言いたげだったがレジュメが配られ始めると、黙って講義を受け始めた。
おかしい。どう考えても青木の態度が不自然だ。やはり昨日、俺と何かあったに違いない。あの態度は完全に俺が原因だということは間違いなかった。いつも講義の後は一緒に学食へ向かうのだが、今日は昨日のお詫びをしに行くからと言って、足早にどこかへ行ってしまった。いつもなら何も気にしないで送り出すのだが、俺の顔を見ようとしないまま言われることが不思議でならなかった。
更に次の日もその次の日も、青木は俺を避けた。教室へ行っても、もう隣りには誰かを座らせていたし、昼になればそそくさと消える。タイミングを見計らって声をかけるが、俺の声に被せて通りすがりの友人に声をかけどこかへ消えてしまう。態とらしくて苛立つ程だった。
何で、どうして?
俺は一体、お前に何をした?
呼吸が苦しくなるぐらいショックだった。好きな人にそんなことをされるなんて、生きている心地がしなかった。しかし、思い出そうにも、あの日に青木と何があったかが思い出せない。ぼやけた視界で見えていたのは確かに青木だったけれど、何かしたかとかは記憶になかった。この状況が続くのも気分が悪いため、俺は痺れを切らして青木に問い詰めることを決めた。このまま避けられ続けているのも限界だった。悪気のない俺が悪いならさっさと謝りたい。いつもみたいに、俺に我儘を言う青木が恋しかった。
しかし、意を決してスマホで連絡を入れたが返って来なかった。そうなると、強行手段だ。こちらからあいつの行きそうな場所を探すしかない。いつもの部室、合コン仲間がいるであろう喫煙所、人が多く集まる中庭。しかしどこを回っても青木は見つからなかった。もう学内から出てしまったのかと思ったが、週に一度六限のゼミに出席しているのを知っていたし、今日はその日だった。学内からは出ていないと踏み、念の為ゼミ室も覗いたが、やはり居ない。そこにも居ないとなると、心当たりはあと一つだけだった。青木は授業をサボる時によく部室棟の屋上へ繋がる階段の踊り場にいることが多い。今回は居るかどうかはわからないけれど、もう他の場所は考えられなかった。
教室棟から部室棟へ移動し、裏手の階段を上がる。この階段は部室には繋がらず、屋上直結の階段で普段は人があまり入らない。見当違いかもしれないが一段一段ゆっくりと上って行く。屋上手前の踊り場まで来ると、青木の姿が見えた。
「青木」
声をかけると、びくっと肩が揺れた。
何をそんな怯える必要があるのだろうか……。
振り向いた彼は耳を赤くしていた。
「くろ、さき」
青木は大きく見開いた目で俺を見た。喉仏がゆっくり動き、ゴクリと唾を飲むのがわかった。視線がぶつかると、頬を少し赤らめて思いきり目を逸らされた。
「ちょっと良い?」
しゃがんで、座っている青木と目線を合わせるために顔を覗き込む。赤い顔が更に赤くなり、後退りされた。その仕草に胸が締め付けられるように痛む。
「学校、来てたんだ?」
「え、あ、うん。悪いな、ちょっと昼にイベ部の活動とかあって忙しくて」
視線がずれる。嘘をついているのなんてバレバレだ。四年生の今、活動が忙しい訳なんてないのだ。
「あのさ、熱で何も覚えてなかったのは本当に悪いんだけど……。青木のその態度、あの日の俺が原因なんだよね?」
率直に聞いた。その方がこいつには手っ取り早いと思った。青木の目がきょろきょろと泳ぐ。焦って口が震えているようにも見えた。
「お、お前がっ!わ、悪いんだからなっ!」
ぎゅっと目をつぶって、大きな声で青木が言った。
「だから、それ。何したの俺」
壁に手をついて聞いた。強張る青木は恐る恐る俺を見る。聞き出したい本心が消えてしまいそうなほど、その表情に欲情した。
「き、キス……したんだよ!おまえが……俺にっ」
今にも火を吹きそうなほど顔を真っ赤にさせながら青木は言った。
「………………は」
「だからぁっ!お前がっ!急に俺のこと押さえつけてキスしたって言ってんだよバカ!」
「え…………えぇっ?!」
冷や汗が身体中から噴き出る。一気に寒気までしてきた。
キ、キス?俺と、青木が?
「いや、嘘!え、いや、そんなはず」
「嘘じゃねぇよ!どうしてくれんだよっ……気になって俺……っ」
「ご、ごめんっ!熱でどうかしてたとはいえ、本当に」
頭の中が真っ白になった。あぁ、ばれた。どうしよう、青木にもう近づくなと言われたら。俺。どうすればいい。生きていけるのかわからない。何したら許されるんだ。どうしよう、本当に。どうしたら……。
「青木。ごめん」
ひたすらに謝った。全身が震えて言葉も浮かばない。
「あ、謝んなよっ。俺が意識してるみたいで調子狂ってただけだし!それにほら、お前もあの時、熱出てたしさ!」
息継ぎを忘れ、青木が一気に喋った。
「それに、俺こそ忘れるって言って忘れないでごめん。気にしてる俺のがどうかしてるんだって」
胸の痛みと心臓の鼓動が増した。
「そんなことない……。青木じゃなきゃ俺、絶対してないよ……」
思わず声が出てしまっていた。咄嗟に口を抑えたが、青木は聞き逃していなかった。
「俺、だから?……どういうことだよ」
「それは……」
青木が、好きだから。そう伝える勇気と振られる勇気がないだけで、困惑させてしまった。それをすっと言えてしまえば楽なのに、関係が崩れるのが怖くて踏み込めないのだ。
「黒崎、俺は怒ってる訳じゃない。俺はお前の気持ちが分からなくて……」
「好き、なんだ……」
眉を寄せて困っている青木の顔に居た堪れず、俺は自分の胸の内を明かした。
「……ずっと、お前が好きだったんだ。気持ちを伝えられないことに悩んでた。あの日は悩みすぎて頭がショートしたんだ。頭の中は青木でいっぱいで、考えるだけで熱が上がった……だから、無意識に……ごめん」
下を向いたまま目の前の青木の顔を見ることができない。伝える勇気も振られる勇気もなかった俺がとうとう言ってしまった。喉元と目頭が熱くなり、鼻の奥がつうんと痛む。
終わった。好きな人との良好な関係は、自分の無意識な行動によって呆気なく終わった。明日からは他人になるのかと、そう考えるだけで今にも目から涙が溢れそうだった。
「す、好きって……いつから……」
青木の声が震えていた。無理もない。同性から好意を伝えられるなんて、人によっては恐怖だろう。ましてや毎日つるんでいたやつから告白されれば尚のことだ。
「……だいぶ前だよ。中学ぐらいから。でも、諦めたこともあった。青木は女の子が好きだし……。だから自分も変わろうって思って、女の子とも付き合ったこともある。でも、ダメだった。嘘をついているのは苦しくて、しんどくて。だったら友達として一緒にいるぐらいで良いと思っていたんだ」
青木が俺の方をじっと見ているのがわかる。突然のことで整理がつかないだろうに、真剣に考えてくれようとしているのも分かる。でもきっと、『彼女が欲しい』とそればかり言っていた青木にとって、俺は恋愛対象外の何者でもないのだろう。
「し、知らなかった」
「当たり前だろ。必死に隠していたんだから」
力無く笑った。隠していたものはもうポロポロとこぼれ落ちていく。我慢していた涙も溢れ始めていた。
「忘れて良いよ、全部。俺のこの気持ちも、俺のことも。気持ち悪いだろ」
「は?」
「青木はさ、ずっと女の子が好きじゃん。キスをするのも、それ以上も、女の子のが絶対良いだろ。俺じゃダメなんだって。ずっと、分かっていたから」
そう、分かっていたから言えなかった。突き放されるのが怖かった。俺が好きな気持ちを押し殺せば、青木に迷惑をかけることもなかった。だから今の今までやってこれたのだろう。だった今度は俺が離れて全部なかったことにしてしまえば良いだけだ。幸い、大学生活はもう一年もない。就職してもう会うことさえなければ、綺麗さっぱり忘れられる気がした。
「……だからって、全部無しにするのか?」
顔を上げると、真っ赤な顔をした青木と目が合った。
「意味ワカンねぇよ」
「いや、青木が一番わかってるだろ」
「ワカンねぇって言ってんの!」
立ち上がった青木に、突き飛ばされた。背中に鈍い痛みが走る。手をつくと、小さな砂利が食い込んでちくちくと痛い。
「今更無しにできる訳ないだろ……!さっきも言ったけどな、あれからお前でいっぱいでこちとらどうしていいかワカンねぇんだよ!」
目には薄っすらと涙を浮かべているのが見える。
なんで……お前が泣くんだよ……っ!
「そりゃ、可愛い女の子のが百倍好きだよ、エロいし、柔らかいし!でも、あの日からお前がそれ以上に気になって気になって仕方ないんだよ!こっちだってお前で頭の中いっぱいで、四六時中考えてんだよ!それなのに、勝手に俺の中荒らしておいてごめんなんて、忘れろなんて……許さねぇからな!」
そう言って、青木は俺の胸ぐらを掴むと乱暴に唇を重ねた。カサついた唇がだんだんと熱くなる。心臓が強く鳴った。鳴りすぎて頭の中で反響し、自分の鼓動が青木にまで聞こえそうなほどだった。驚きと嬉しさで頭がぼうっとする。
「ん……んんぅ」
息をするのを忘れ、声が漏れる。俺の胸ぐらを掴んでいた青木の手が離れると、今度は俺の片手を握った。指を触られるだけで、背中が跳ねる。自分じゃないみたいで恥ずかしくなり、思わず力強く青木の手を握り返した。
「責任……取らせるからな」
「……え?」
唇を離した青木は、顔を背けて小さな声で言った。
「言っただろ、俺の頭の中はお前でいっぱいだって」
言われるとは思っても見なかった言葉に、ぎゅっと胸が締め付けられる。
「俺……可愛いくもないし、柔らかくもない。エロくは……なるかもしれないけど」
「だ、だから何だよっ」
「俺、青木のこと好きなままで良いの……?」
今度は俺の重ねた手が震える。好きで好きでたまらない気持ちはもう止まらない。青木が真っ赤に染める頬を見るだけで愛おしいと思うほどに、もう離れたくはないのに、相手の気持ちを何度も確認したくなる。
「ダメって言っても好きでいるんだろ」
呆れた青木が溜息を吐いたが、数秒後に俺を見て柔らかく微笑んだ。心臓がギュッときつく掴まれる。苦しくて、嬉しくて、愛おしくて。目に溜まった涙がゆっくりとこぼれ落ち、俺は手を伸ばして青木に抱き付いた。
「ちょ、ばか!お前俺よりでかいの分かってんだよな!?」
「ふふふ、ごめん。だからもう少しだけ、このままでもいい?」
耳元で囁くと、青木は暴れるのをやめた。
「聞くなよ、んなこと……」
夢かもしれない。こんな日が来るとは思ってなかった。むしろ最悪な結果しか考えていなかった。気持ちを伝えて良かったと心の底から思った。嬉しくて、幸せすぎて、腕の力は緩められない。離れたくない、離したくない。どこにもいかないと言われても、それでもずっとこうしていたいと思った。
「ねぇ、青木。目閉じて」
「な、なんだよ」
「キス、したい」
「……さっきしただろ」
「ねぇ、お願い。もう一度俺からしたい。ね、良いよね?」
「お前のキスってなんかほら、場所選んだ方がっ……んんっ」
恥ずかしがる姿は食らい付きたくなるほど可愛い。甘くて厚みのある舌を吸うと、喉の奥で誘うような声が漏れた。もっと、自分の上に重みをかけて欲しい、身体中で感じたい。もどかしくて甘いキスを刻み込む。辿々しいが俺のキスを返すように青木の舌が口内を這う。歯列をなぞられて背中がびくんと跳ねると、それを受け止めるよう、青木の腕が俺の背中へ伸びた。
「んぅ、あ……ふぅ、んんっ」
行き交う息も唾液も甘い。もっと欲しくて、せがむように青木の舌に自分を絡めていく。もう二度と青木とのキスを忘れないよう、俺は何度も深く唇を重ねた。
「言う気、無かったんじゃないんですか?」
イベ部の部室に行くと、時間を潰している真城が声をかけてきた。青木は昼休みに広げたのであろう荷物を部室に入るなり片付け始める。
「あ、ばればれなんだ?」
「青木先輩、顔真っ赤だし。黒崎さんは清々しいほどの笑顔だしさ。どうせ押し倒したか何かしたんでしょ?」
胡散臭いのはいつもだけど、と憎らしい一言を付け加えて、真城は部室の奥で他の部員にちょっかいを出されている青木を見ながら言った。
「まぁね。俺は女装してないけど」
「……黒崎さん。それ、喧嘩売ってます?」
「あはは。真城、顔怖いよ」
「……ったく」
真城は眉間に皺を寄せながら、机の上で鳴るスマホの画面を確認した。つんけんしていた表情が急に柔らかくなる。
自分だって分かりやすいくせによく言うよ。
そんな真城を見てくすりと笑うと、怪訝そうな顔で俺を見ていた。
「何ですか」
「いやぁ、やっぱりましろちゃんは可愛いなぁって思って」
「……ほんと、この腹黒崎さんは」
「あはは。番犬が来る前に俺は退散するよ」
きっと、赤澤くんがそろそろ迎えに来る頃なのだろう。ややこしいこと言われる前に消えておかないと、この間のこともある。
「それじゃあね」
真城ににこりと笑って見せて、俺はリュックのファスナーが締まらないと騒いでいる青木の腕を引いて部室を後にした。
リュックの中からペンケースがまだ出てるというのに、黒崎は力任せに俺の腕を引いて部室を出て行った。
「ったく、少しぐらい待てってば。くっそ、これダメだ布噛んでる」
ファスナーの金具に布が食い込んでいるを見つけ、イライラに任せながら無理矢理引っ張ったがビクともしない。
「さてと……。ねぇ、俺ん家で続き……しない?」
夢中でファスナーを直しているところを黒崎は耳元で変なことを囁きながら邪魔をしてくる。くすぐったくてリュックを落としそうになった。あの時の潤んだ熱っぽい黒崎の顔がフラッシュバックして身体中の熱が顔に集中してくるのを感じた。
「ちょ、やめろって!それに、今日はダメだ、約束があ……」
まずい。やばいやばいまずい。
さっきのさっきでこれはだいぶまずい。
「約束?ねぇ。それってもしかして合コ」
「あーーーーーっ、ちが、ちがう!あれだ、飲み会!そ、そう、ただの飲み会!
「ただの飲み会ねぇ……」
黒崎の口から小さな溜息が漏れる。
「青木、俺のこと好きなんだよね?」
「そっ……そうだって言ったろ」
じゃなきゃ付き合わねぇよ。ていうか、家行くのは絶対まずい。さっきのキスといい、前回のキスといい、黒崎は自分がどんな顔をしているのか知った方が良いと思う。相手が同性であってもあんな顔を見せられたらこっちだって歯止めは効かなってしまう。
「それに、これは昨日した約束だし、別に女の子がどうとかって訳じゃなくて」
「ふぅん」
黒崎は俺を掴む腕を離したが、ジト目を向けるのをやめようとはしない。
「……あーもぅ。分かったよ、行かねぇって。その代わりお前の部屋、まずは掃除だからな!」
「え?別に本が多いだけで汚れてないけど」
「足の踏み場がない部屋に人を通すなっ」
「あはは。良いじゃん、後にも先にも部屋にあげるのは青木だけだから」
不覚にも、その言葉に胸がキュッとなった。
いやいや、そうじゃない、そうじゃなくて!
「そういう問題じゃねぇだろ……もぅ!」
黒崎はくすりと笑う。理性を保つこっちの身にもなって欲しい。頬を若干赤く染めているのを見て、可愛いと思ったのは言わないでおこう。
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