K

蜜奈

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黒猫と親友

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いつも通りの光景…何処を見ても人間の足、足、足。少しほこりっぽい、そんな週末の大通りを僕は歩く。
たまに僕の真っ黒で不吉な見た目を忌み嫌って、石を投げらける。
痛い…痛いけどもう慣れた。
いつのまにか孤独さえも望むようになり、僕は今日もこの大通りを堂々と歩く。

少し休みたくなって小道に入ったとき…
「!!?」
突然僕の体が宙に浮いて、驚いた。
「こんばんは。素敵なおチビさん。」
どうやら廃れた服を着たこの人間の腕の中にいるようだ。
「僕らよく似ている。」
あまりにも真剣な目で言われたものだから、余計に頭が混乱して、僕は必死に逃げ出した。
(逃げなきゃ。離れなきゃ。あの人間の温もりなんて信じちゃダメだ!僕は孤独なんだ!)
僕はそう頭の中で繰り返してとにかく走った。
生まれて初めて感じた優しさが、頭から離れない。
後悔の念からか、無意識に振り返った時、その人間の笑顔が目の前に見えた。
「やんちゃなやつめ!」
汗だくのその男はそう呟いて再び僕を抱きかかえる。もう僕に抵抗する理由はなくなってしまった。
僕は安心して、男の腕の中で眠った。

「おはよう。おチビちゃん。」
目が覚めると知らない部屋にいた。どこを見ても絵ばかり。
(優しい絵だな…)
上手いわけではないが、昨日抱きかかえられたときのあの温もりをそのまま感じる絵だ。
「あっ、ずっとおチビちゃんは嫌だよな!お前の名前は今日からホーリーナイトだ。」
僕には意味はよく分からなかったが、綺麗な名前だな、と思った。

…人間の親友と出会ってから一年。
僕の親友は、真っ黒な僕ばかり描いていた。
「ホーリーナイト、いつもありがとうな。」
僕は自分の姿を見たことがないから分からないけれど、部屋を埋め尽くすまでに増えたスケッチブックたちを見て、
(お前には僕がこんな風に見えるのか。)
と嬉しく思う。
ーーーーーーーーーーーーーガタンッ!
(……え?)
突然倒れて動かなくなった親友。
「ミャオ!ミャ…ミャー!」
必死で叫ぶが届かない。どうして動いてくれないの?いつもみたいに素敵な笑顔を見せてよ!ねぇ…何で…。
「…届けて…くれ…。」
「…夢をみて飛び出した…僕の帰りを待つ人へ…走って…!」
きっとあの人のことだ。いつも楽しそうに話していたあの人のことだ。
(今まで僕を描いてくれてありがとう…絶対届けるよ!だから…安心して、眠ってね。)

僕は親友の手紙を口にくわえて、思い出いっぱいの、その家を出た。
雪の降る冬の山道を走り続ける。途中で出会った子供に、
「見ろよ、悪魔の使者だ!」と石を投げつけられる。
(一人だったあの頃を思い出すな…)
でも!何とでも呼ぶがいいさ。
僕には、“holy night”という消えない名前があるから。
「この名前は“聖なる夜”って意味なんだぞ!」
親友が僕に言った言葉が思い浮かぶ。
僕は、優しさも温もりも全部が詰まったその名前を呼ばれるのが好きだった。

真っ黒で不吉で忌み嫌われていた僕の意味は、この日にあったんだろう、と今全てに納得がいった。
(ああ…そうか…僕はこの日のために生まれてきたんだ。手足がもげてもいいや。血が滲んでもいいや。この手紙を届けなくちゃ。)
走って、転んで、傷だらけになって走り続けたら、暗い山道に灯が見えた。
(とうとう親友の故郷に辿り着けた!あと少し…あと少しだけもってくれ!)
動かなくなりつつある僕の身体に言い聞かせて、最後の力を振り絞って走る。

(…見つけた)
この家だ。部屋にあった写真の小さな一軒家だ。
そのまま僕の視界は真っ白になり、親友のもとへと向かう。

親友の恋人が自分の家に帰ってくると、一匹の黒猫が倒れていた。
冷たくなった黒猫が手紙を咥えているのに気がついて、封を開けた。
その手紙に何が描いてあったのか。
恋人は黒猫の名前にアルファベットひとつを加えて、庭に埋めた。
その名前はーーーーー聖なる騎士“holy knight”
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