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とある技術者の追憶2
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知らない人には分からないでしょうけど、新しい形式の飛行機で最初に作られた機体は壊すために作るんです。
地上試験用零号機って私たちはいうんですけど、忠弥さんはそれで耐久試験をしているところを見せてくれたんです。
飛行機は設計通り作っても計算通りに強度があるか確かめる必要があるんですよ。そのために実際に使う機体と同じ構造の機体にピストンなどで負荷を掛けて壊れないか確認するんです。
人が乗っても、空を飛んでも負荷に耐えられるか試すんです。
それが終わっても想定された飛行時間を飛べるか確かめるための試験を行います。
これは翼などをピストンで規定回数、今だったら何万回も翼の先端を上下させるんですよ、素人が見たら折れるくらいに。
その試験も行っていました。
人類初の有人動力飛行を成功させるためにひたすら実験していましたよ。
誰もいったことの無い未知の分野に飛び込んでいく人というのはこういう人かと思いましたよ。一生付いていこうと思いましたね。
直ぐに島津産業への出向社員に志願しましたよ。
原付二輪の技術導入が表向きでしたが、実際は航空機の製作でした。
他の社からも同様の人間がいまして出向では無く、完全に移籍した人もいました。
私は篤志家の支援で学校に入って会社に入れて貰ったんで、入った会社に恩返ししなければと思い残したんですよ。
本当なら直ぐに移籍したかったですよ。
まあ、十分に恩を返したと思ったら移籍しましたけど。
でも、直後に新大陸から有人動力飛行成功のニュースが入ってきて忠弥さん落ち込みましたが。
あんなに熱心に作業していましたから落胆も仕方なかったですよ。
ですが昴さんの発破で復活できたそうです。
「昴は本当に僕の道を示してくれる夜空の星です」
と、忠弥さんはその後何度も言ってしましたよ。もっとも昴さんには黒歴史らしく二度と言わないでと話す度に怒られますが。しかし、昴さんの言葉が無ければ忠弥さんは復活できず、我々の初飛行もありませんでした。
人類初の夢が破れたと嘆きもありましたが、新大陸の情報が正確に回ってくるに連れて霧消しましたね。新大陸の飛行は俺たちの目指す飛行と違う、って合い言葉で本当の人類初の有人動力飛行を実現させると息巻いていましたよ。
忠弥さんも飛行用の試作一号機が出来てから滑空飛行の実験を何度も行い準備していました。
そして、いよいよ重要な部品、エンジンの開発です。
残念な事に、市場には飛行に使えるエンジンはありませんでした。出力の大きなエンジンはありますが、重量が重いのです。重量当たりの出力が大きいエンジン、軽くて出力のエンジンが少なかったんです。そして私たちの飛行機に合う大きさ、重量、出力のエンジンはありませんでした。
無ければ作れば良い。
といって作り始めることになりました。
まずエンジンの構造材として出来たばかりのアルミ合金を使いました。島津産業が自動車用にライセンスを取ろうとしていたので、取引先に特注でアルミ製エンジンブロックを作って貰いました。そして削り出しは自分たちで行い、部品を組み上げていきました。
何故なら、余計な物を乗せないためです。
エンジンが非力なため余計な物を機体には乗せていません。強度のある機体ですが、軽量化のため動力飛行を数十回行う程度の強度しかありません。なのでエンジンにも軽量化が求められました。
そのためにどの部品が必要か不要か徹底的に考えて厳選しました。
例えば
スパークプラグ
――良質な火花を放つための部品。
――動力飛行はほんの五分程度で済ませるので良質でなくて結構、火花を飛ばせればよし
――よってプラグは不要、簡単な接点を作り火花を飛ばす。
気化器
――吸気の際にガソリンを適切な濃度で噴霧する器機
――短時間の間、噴霧するだけなら気化器でなくともガソリンをそのまま噴霧すれば良い
――よって気化器は不要、吸気口へ燃料管から霧吹きのノズルを付けて噴霧
ラジエター
――エンジンを冷却するためにエンジンの周りに付ける冷却水を入れる場所
――飛行は短時間。冷却水と言っても最後は空気に流す。また過熱しないほど短時間の飛行で済む終了させる予定
――よってラジエターは不要、空冷にして地上でアイドリング後直ぐに飛び立ち、オーバーヒートする前に終える。またエンジンオイルの導管を増やし、エンジンオイルを循環させることで冷却の一助にする。
バッテリー
――エンジンの点火に必要な電気を溜める蓄電池。鉛電池のため重い。
――エンジンの点火に必要だが、エンジンが回れば発電機の電力で十分だしダイナモの方が軽い。
――飛行機の外部に置き、エンジン点火時にケーブルで接続。点火後はダイナモの電力で賄う
こんな感じて実際の飛行を想定して部品を厳選していましたよ。
何故その部品は必要か、どんな役割を果たすのか、この飛行に必要な物か、何度も確かめて削りに削りました。
特に忠弥さんの思い切りの良さには皆唖然としたましたよ。しかし非常に合理的で今でも一つ一つが良いアイディアだったと思っていますよ。他で使う事はまずありませんが。
そして動力飛行用のエンジンを完成させたんですが部品を削りすぎたんで粗末なエンジンと皆思っていました。
しかし、驚くほど調子よく回りました。
長時間の運転は無理でしたけど、動力飛行の間は確実に軽快に回るエンジンが出来ました。
そして冬に入り始めたとき、遂にその時がきました。
地上試験用零号機って私たちはいうんですけど、忠弥さんはそれで耐久試験をしているところを見せてくれたんです。
飛行機は設計通り作っても計算通りに強度があるか確かめる必要があるんですよ。そのために実際に使う機体と同じ構造の機体にピストンなどで負荷を掛けて壊れないか確認するんです。
人が乗っても、空を飛んでも負荷に耐えられるか試すんです。
それが終わっても想定された飛行時間を飛べるか確かめるための試験を行います。
これは翼などをピストンで規定回数、今だったら何万回も翼の先端を上下させるんですよ、素人が見たら折れるくらいに。
その試験も行っていました。
人類初の有人動力飛行を成功させるためにひたすら実験していましたよ。
誰もいったことの無い未知の分野に飛び込んでいく人というのはこういう人かと思いましたよ。一生付いていこうと思いましたね。
直ぐに島津産業への出向社員に志願しましたよ。
原付二輪の技術導入が表向きでしたが、実際は航空機の製作でした。
他の社からも同様の人間がいまして出向では無く、完全に移籍した人もいました。
私は篤志家の支援で学校に入って会社に入れて貰ったんで、入った会社に恩返ししなければと思い残したんですよ。
本当なら直ぐに移籍したかったですよ。
まあ、十分に恩を返したと思ったら移籍しましたけど。
でも、直後に新大陸から有人動力飛行成功のニュースが入ってきて忠弥さん落ち込みましたが。
あんなに熱心に作業していましたから落胆も仕方なかったですよ。
ですが昴さんの発破で復活できたそうです。
「昴は本当に僕の道を示してくれる夜空の星です」
と、忠弥さんはその後何度も言ってしましたよ。もっとも昴さんには黒歴史らしく二度と言わないでと話す度に怒られますが。しかし、昴さんの言葉が無ければ忠弥さんは復活できず、我々の初飛行もありませんでした。
人類初の夢が破れたと嘆きもありましたが、新大陸の情報が正確に回ってくるに連れて霧消しましたね。新大陸の飛行は俺たちの目指す飛行と違う、って合い言葉で本当の人類初の有人動力飛行を実現させると息巻いていましたよ。
忠弥さんも飛行用の試作一号機が出来てから滑空飛行の実験を何度も行い準備していました。
そして、いよいよ重要な部品、エンジンの開発です。
残念な事に、市場には飛行に使えるエンジンはありませんでした。出力の大きなエンジンはありますが、重量が重いのです。重量当たりの出力が大きいエンジン、軽くて出力のエンジンが少なかったんです。そして私たちの飛行機に合う大きさ、重量、出力のエンジンはありませんでした。
無ければ作れば良い。
といって作り始めることになりました。
まずエンジンの構造材として出来たばかりのアルミ合金を使いました。島津産業が自動車用にライセンスを取ろうとしていたので、取引先に特注でアルミ製エンジンブロックを作って貰いました。そして削り出しは自分たちで行い、部品を組み上げていきました。
何故なら、余計な物を乗せないためです。
エンジンが非力なため余計な物を機体には乗せていません。強度のある機体ですが、軽量化のため動力飛行を数十回行う程度の強度しかありません。なのでエンジンにも軽量化が求められました。
そのためにどの部品が必要か不要か徹底的に考えて厳選しました。
例えば
スパークプラグ
――良質な火花を放つための部品。
――動力飛行はほんの五分程度で済ませるので良質でなくて結構、火花を飛ばせればよし
――よってプラグは不要、簡単な接点を作り火花を飛ばす。
気化器
――吸気の際にガソリンを適切な濃度で噴霧する器機
――短時間の間、噴霧するだけなら気化器でなくともガソリンをそのまま噴霧すれば良い
――よって気化器は不要、吸気口へ燃料管から霧吹きのノズルを付けて噴霧
ラジエター
――エンジンを冷却するためにエンジンの周りに付ける冷却水を入れる場所
――飛行は短時間。冷却水と言っても最後は空気に流す。また過熱しないほど短時間の飛行で済む終了させる予定
――よってラジエターは不要、空冷にして地上でアイドリング後直ぐに飛び立ち、オーバーヒートする前に終える。またエンジンオイルの導管を増やし、エンジンオイルを循環させることで冷却の一助にする。
バッテリー
――エンジンの点火に必要な電気を溜める蓄電池。鉛電池のため重い。
――エンジンの点火に必要だが、エンジンが回れば発電機の電力で十分だしダイナモの方が軽い。
――飛行機の外部に置き、エンジン点火時にケーブルで接続。点火後はダイナモの電力で賄う
こんな感じて実際の飛行を想定して部品を厳選していましたよ。
何故その部品は必要か、どんな役割を果たすのか、この飛行に必要な物か、何度も確かめて削りに削りました。
特に忠弥さんの思い切りの良さには皆唖然としたましたよ。しかし非常に合理的で今でも一つ一つが良いアイディアだったと思っていますよ。他で使う事はまずありませんが。
そして動力飛行用のエンジンを完成させたんですが部品を削りすぎたんで粗末なエンジンと皆思っていました。
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長時間の運転は無理でしたけど、動力飛行の間は確実に軽快に回るエンジンが出来ました。
そして冬に入り始めたとき、遂にその時がきました。
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