新世界の空へ飛べ~take off to the new world~ アルファポリス版

葉山宗次郎

文字の大きさ
36 / 163

昴のプライド

しおりを挟む
「あら、昴さん」

「い、岩菱っ、い、いえ、寧音さん」

 入ってきた岩菱寧音に昴は珍しく驚きの表情を見せた。

「お久しぶりです、ご機嫌よう」

「ご、ご機嫌よう」

 寧音が丁寧に頭を下げたので、昴も同じように少しぎこちなく頭を下げて挨拶する。

「お元気そうで何よりです。最近、学校に来ないの心配していましたが」

「……ええ、飛行機の手伝いをしていまして。学校へ通う余裕などありませんでしたわ」

 島津のライバル相手、岩菱財閥の孫娘である岩菱寧音に負けまいと買ったばかりのドレスの裾を踊らせ必要以上に胸を反らして言う。

「知り合いなの?」

 隣にいた忠弥が尋ねた。

「え、ええ、私が通う学校の同級生です」

 忠弥に尋ねられて昴はバツが悪そうに答えた。

「昴さん、こちらの方は?」

「あら、ご存じないの?」

 寧音の問いかけに昴は上から目線で高笑いしながら答える。

「我が島津が支援する皇国の歴史に残る偉人、二宮忠弥ですわ」

「! 先日、人類初の有人動力飛行を成功させた」

 新聞やニュース映画で名前は知っていたが実際に見たのは初めである寧音は驚いた。
 目の前の同い年の少し小柄な少年が、疑義を抱かれているとはいえ、一人で空へ飛んでいったのは驚きだった。

「ええ、その二宮忠弥ですわ」

 珍しく驚いた寧音の姿を見た昴は優越感に酔い忠弥の腕に自分の腕を絡めた。

「人類初の有人動力飛行を成功させるべく日夜研究していた忠弥を私が見つけ出し、島津は手を差し伸べましたの」

 偶然車が故障していたところに忠弥が現れて修理したのが縁だとは言わなかった。
 異性とはいえ同年代に直せるハズがないと高をくくり、使用人にしようと嵌めるべく修理を許したこと、は忘却の彼方だった。
 そんな昴の態度に忠弥は苦笑する。
 もし、あそこで車が故障しなければ、そして昴が修理を許してくれなければ強行して昴とは一緒に居なかったし、空を飛ぶことも出来なかった。
 例え、真実を忠弥が知ったとしても昴への感謝の思いは変わらない。
 むしろ、チャンスが巡ってきたことに更に感謝を強めるだろう。
 そんな事はしらず、昴は鼻高々に寧音に向かって言い続ける。

「忠弥は全力を上げて飛行機製作に没頭し、先日の偉業を達成させましたの。私もそのお役に立ちたいと願い、微力ながら尽くしておりましたの」

「……成績が悪かったはずですが、そのような余裕があるのですか」

「うっ」

 忠弥と違い、成績が悪い昴は寧音に指摘されて言葉に詰まる。
 だが、強気に言い返す。

「そ、そんな些細な事で人類の発展のお手伝いから手を引くわけにはゆきませんわ」

「学校でお勉強をして卒業して社会の役に立つ事こそ重要では」

 優等生の寧音は模範解答を言う。
 日頃から成績不良で寧音から注意を受けたり、勉強を教えられる立場にある昴は、劣等感を抱いていた。

「そ、そんなのかつての事、今は空を飛ぶ時代ですわ」

 しかし、ライバルである岩菱の孫娘に負けたくない、というプライドの高さから反発し、反論する。

「空を飛ぶこと、飛び方を学校で教わりますか? 今まで行われていないので教えて貰えないでしょう」

 昴達の通う女子校は良妻賢母の育成を目的としており、学問や技術より家庭で役に立つ知識を教える事が多い。
 そのため数学や物理などの教育は最小限しか行われておらず、飛行機など当然教えていない。
 そもそも、飛行機という存在が去年まで、忠弥が作り上げるまで存在しなかった事を考えれば当然だった。

「学校で教えてもらえなければ、飛行機のある場所、空を飛べる場所へ行くべきです。それが忠弥の元だっただけです。同時に忠弥のお助けも出来るので一石二鳥です」

 寧音が黙り込んだのを見て言い負かしたと昴は思った。
 実際は昴の突拍子もない屁理屈に寧音は唖然呆然としただけだったのだが。
 すぐに思考能力が回復すると寧音は昴に尋ね返す。

「人が生活するのは地上です。地上で生活が出来なければ、料理や掃除など生活する術を、周りの人々と共に生きていく知識と技能を体得しなければ生きていけませんよ。それを学ぶのが学校です」

「で、でも、人類は新たな領域に進む事で発展を」

 忠弥が常日頃から言っていることを昴は言うが、ただ言っているだけのオウムがえしで、言葉に説得力も力強さも無かった。
 そのため寧音は静かに、断固とした口調で反論する。 

「家事が出来ないのに偉業に専念する人を助けることなんて出来るのですか? 昴さんはお裁縫も料理も不得意だったと思うのですが」

「ぐっ」

 理路整然とした寧音の反論と飛行機作りの時、自分が作った夜食を持って行ったときの忠弥の顔を思い出したに昴は黙り込んだ。
 言い返せない昴に寧音は更に尋ねる。

「そもそも、飛行機が何の役に立つのですか? ただ空を飛ぶだけで何の役にも立たないでしょう」

「いいえ、役に立ちます」

 昴に代わって忠弥が話しかけた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

構造理解で始めるゼロからの文明開拓

TEKTO
ファンタジー
ブラック企業勤めのサラリーマン・シュウが転生したのは、人間も街も存在しない「完全未開の大陸」だった。 ​適当な神から与えられたのは、戦闘力ゼロ、魔法適性ゼロのゴミスキル《構造理解》。 だが、物の仕組みを「作れるレベル」で把握できるその力は、現代知識を持つ俺にとっては、最強の「文明構築ツール」だった――! ​――これは、ゴミと呼ばれたスキルとガラクタと呼ばれた石で、世界を切り拓く男の物語。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

帰国した王子の受難

ユウキ
恋愛
庶子である第二王子は、立場や情勢やら諸々を鑑みて早々に隣国へと無期限遊学に出た。そうして年月が経ち、そろそろ兄(第一王子)が立太子する頃かと、感慨深く想っていた頃に突然届いた帰還命令。 取り急ぎ舞い戻った祖国で見たのは、修羅場であった。

優の異世界ごはん日記

風待 結
ファンタジー
月森優はちょっと料理が得意な普通の高校生。 ある日、帰り道で謎の光に包まれて見知らぬ森に転移してしまう。 未知の世界で飢えと恐怖に直面した優は、弓使いの少女・リナと出会う。 彼女の導きで村へ向かう道中、優は「料理のスキル」がこの世界でも通用すると気づく。 モンスターの肉や珍しい食材を使い、異世界で新たな居場所を作る冒険が始まる。

処理中です...