37 / 163
純真な思い
しおりを挟む
「空を飛べば、世界中のあらゆるところへ行くことが出来ます」
飛行機の存在を、意義を疑問視する寧音にまっすぐな瞳を向けて忠弥は断言した。
「今はまだ性能が低いですが、いずれ大洋を越えることの出来る飛行機も出来ますので新旧両大陸へ一日で行けるようになりますよ」
「まさか……そんなの夢物語でしょう」
「いいえ、いずれかならず出来ます」
数百人を乗せて世界中の空を飛ぶ世界から転生してきた忠弥は断言した。
「でも、そんなことに何の意味があるんですか。船を使えば数日で着くのに」
「一日いや、半日で行けるようになります。数日かかっていた時間を他のことに使うことが出来ますよ」
「……出来たとしても、そんなに急いで何の意味がありますの。夢物語でしょう。そんな人がどれだけいるというのです。そもそも、今飛ぶ必要があるのですか」
忠弥の真っ直ぐな返答に何故か苛立ちを感じた寧音は強い言葉で問い返す。
だが忠弥は、明るく楽しそうに熱を持った声で答えた。
「人類が新たな領域に進むため、人類の進歩のためです」
「空を飛ぶことがどうして人類の進歩なのですか」
「人類が空を飛ぶためにはこれまでの知見を全て取り入れないとダメなんです。空を飛ぶには軽い素材でないと飛べない。しかし機体や風の力に対抗できるだけの強度も必要。だから軽くて強い素材を見つけ出さないといけません。それに空に飛んで行くには強力で軽強力なエンジンが必要です。エンジンは様々な素材の他に、設計や加工の技術も必要です。それらが出来る人たちを見つけ出して協力して貰う必要があります。つまり、これまでの人類の英知を全て取り入れた最先端の乗り物、それが航空機なのです」
「は、はあ……」
理路整然と熱く語る忠弥に寧音は圧倒された。
「で、でも、学校に行かないのはどうかと」
「学校に行くのはどうしてですか?」
「学ぶためです」
「学ぶのは学校だけではありません。自然や実物を見て観察することも学びです。むしろ実際に見て考える事が大事です」
「ですが、学校は重要なことを教えてくれます」
「確かに教えてくれるでしょう。しかし世界の全てを教えてくれるわけではありませんし、自分が必要としている情報が入ってくるとも限りません。私の場合は学校で教えて貰えることが、私が必要とすることが少なかったから、自分で得ようとしました。俺は空を飛びたかったからです。学校に行かなかったことは母校に済まないと思っています。しかし、教えられるばかりではなく、自分で進んでいって得たからこそ飛べたと考えています」
忠弥が言葉を発する度に、寧音の胸の中が熱くなってくる。
「でも、貴方の飛行は疑われていますよね」
「ええ、ダーク氏ですね。これから誤解を解きに行きます」
「ダーク氏との対談が怖くないのですか?」
「全然」
「何故ですか? 貴方の飛行を否定しようとしているのですよ」
自分の打ち立てた業績を否定されれば怒るのに泰然としていられるのか、寧音は疑問だった。
しかし忠弥は同じ態度のまま語る。
「私は空を飛びたかったから飛んだだけです。私が飛びたい飛び方で。後追いと言われたのが嫌だったからですよ」
「でも貴方のことを潰そうとするわよ」
「そんな事無いと思いますよ」
「どうして」
「空を飛びたい人は仲間ですから」
無垢な顔をして気負いもなく忠弥は答えた。
その笑顔が寧音には眩しかった。
「というわけで、私達は忙しいので、ここでおいとまさせて貰います。ではご機嫌よう」
そう言って昴は、忠弥の腕を引っ張って店を後にした。
「もうちょっと話したかったのに」
「ダメです、時間がありません。買い物も済みましたから、これから準備です」
「直接会場に向かえば」
「いいえ、ホテルで準備しませんと」
昴は早口でまくし立てる。
忠弥が寧音を言い負かして倉田のは嬉しいが、話している姿を見ると何故かイライラしたし、何か焦りが、恐怖が心の中に湧いてくる。
一刻も早く引き離さなければ、という衝動から、忠弥を連れ去った。
「自分が飛びたいから、か」
店に残った寧音は、忠弥の言葉を反芻していた。
祖父の作り出した岩菱を継ぐ男子と結婚し岩菱を支えるのが自分の役目だと思ってきた寧音には新鮮だった。
祖父には大切にして貰っているが、その恩を返すためにも岩菱を発展させてくれる人と結ばれ支えるのが自分の役目だと考えていた。それが祖父への恩返しであり、岩菱に生まれた人間の宿命だと。
だから定められた事、言われたことをこなすことが大切だと思った。
しかし、そんな寧音に衝撃を与えたのが忠弥だった。
自分と同じ年齢で人類初の有人動力飛行を成し遂げた。物言いが出ているとはいえ、島津の助力があったとはいえ、ほぼ自力で作り上げ、空に飛んだのは驚きだった。
店で出会ったのは嬉しかったし、同時に更に衝撃だった。
自らの夢のために、学校の勉強から離れ、自分が必要と思ったことを実現するために飛び込んでいる忠弥の姿に、何も疑わず真っ直ぐ夢を実現し、疑われても自分が正しいと前を向いている姿が寧音には眩しかった。
「今日のお買い物はどうしますか?」
店員が寧音に尋ねてきた。
「……海にふさわしい服を……夕方から夜……長時間外にいても大丈夫な服を」
寧音は注文し服を着るとそのまま店を出て、乗っていた車に港に向かうように伝えた。
飛行機の存在を、意義を疑問視する寧音にまっすぐな瞳を向けて忠弥は断言した。
「今はまだ性能が低いですが、いずれ大洋を越えることの出来る飛行機も出来ますので新旧両大陸へ一日で行けるようになりますよ」
「まさか……そんなの夢物語でしょう」
「いいえ、いずれかならず出来ます」
数百人を乗せて世界中の空を飛ぶ世界から転生してきた忠弥は断言した。
「でも、そんなことに何の意味があるんですか。船を使えば数日で着くのに」
「一日いや、半日で行けるようになります。数日かかっていた時間を他のことに使うことが出来ますよ」
「……出来たとしても、そんなに急いで何の意味がありますの。夢物語でしょう。そんな人がどれだけいるというのです。そもそも、今飛ぶ必要があるのですか」
忠弥の真っ直ぐな返答に何故か苛立ちを感じた寧音は強い言葉で問い返す。
だが忠弥は、明るく楽しそうに熱を持った声で答えた。
「人類が新たな領域に進むため、人類の進歩のためです」
「空を飛ぶことがどうして人類の進歩なのですか」
「人類が空を飛ぶためにはこれまでの知見を全て取り入れないとダメなんです。空を飛ぶには軽い素材でないと飛べない。しかし機体や風の力に対抗できるだけの強度も必要。だから軽くて強い素材を見つけ出さないといけません。それに空に飛んで行くには強力で軽強力なエンジンが必要です。エンジンは様々な素材の他に、設計や加工の技術も必要です。それらが出来る人たちを見つけ出して協力して貰う必要があります。つまり、これまでの人類の英知を全て取り入れた最先端の乗り物、それが航空機なのです」
「は、はあ……」
理路整然と熱く語る忠弥に寧音は圧倒された。
「で、でも、学校に行かないのはどうかと」
「学校に行くのはどうしてですか?」
「学ぶためです」
「学ぶのは学校だけではありません。自然や実物を見て観察することも学びです。むしろ実際に見て考える事が大事です」
「ですが、学校は重要なことを教えてくれます」
「確かに教えてくれるでしょう。しかし世界の全てを教えてくれるわけではありませんし、自分が必要としている情報が入ってくるとも限りません。私の場合は学校で教えて貰えることが、私が必要とすることが少なかったから、自分で得ようとしました。俺は空を飛びたかったからです。学校に行かなかったことは母校に済まないと思っています。しかし、教えられるばかりではなく、自分で進んでいって得たからこそ飛べたと考えています」
忠弥が言葉を発する度に、寧音の胸の中が熱くなってくる。
「でも、貴方の飛行は疑われていますよね」
「ええ、ダーク氏ですね。これから誤解を解きに行きます」
「ダーク氏との対談が怖くないのですか?」
「全然」
「何故ですか? 貴方の飛行を否定しようとしているのですよ」
自分の打ち立てた業績を否定されれば怒るのに泰然としていられるのか、寧音は疑問だった。
しかし忠弥は同じ態度のまま語る。
「私は空を飛びたかったから飛んだだけです。私が飛びたい飛び方で。後追いと言われたのが嫌だったからですよ」
「でも貴方のことを潰そうとするわよ」
「そんな事無いと思いますよ」
「どうして」
「空を飛びたい人は仲間ですから」
無垢な顔をして気負いもなく忠弥は答えた。
その笑顔が寧音には眩しかった。
「というわけで、私達は忙しいので、ここでおいとまさせて貰います。ではご機嫌よう」
そう言って昴は、忠弥の腕を引っ張って店を後にした。
「もうちょっと話したかったのに」
「ダメです、時間がありません。買い物も済みましたから、これから準備です」
「直接会場に向かえば」
「いいえ、ホテルで準備しませんと」
昴は早口でまくし立てる。
忠弥が寧音を言い負かして倉田のは嬉しいが、話している姿を見ると何故かイライラしたし、何か焦りが、恐怖が心の中に湧いてくる。
一刻も早く引き離さなければ、という衝動から、忠弥を連れ去った。
「自分が飛びたいから、か」
店に残った寧音は、忠弥の言葉を反芻していた。
祖父の作り出した岩菱を継ぐ男子と結婚し岩菱を支えるのが自分の役目だと思ってきた寧音には新鮮だった。
祖父には大切にして貰っているが、その恩を返すためにも岩菱を発展させてくれる人と結ばれ支えるのが自分の役目だと考えていた。それが祖父への恩返しであり、岩菱に生まれた人間の宿命だと。
だから定められた事、言われたことをこなすことが大切だと思った。
しかし、そんな寧音に衝撃を与えたのが忠弥だった。
自分と同じ年齢で人類初の有人動力飛行を成し遂げた。物言いが出ているとはいえ、島津の助力があったとはいえ、ほぼ自力で作り上げ、空に飛んだのは驚きだった。
店で出会ったのは嬉しかったし、同時に更に衝撃だった。
自らの夢のために、学校の勉強から離れ、自分が必要と思ったことを実現するために飛び込んでいる忠弥の姿に、何も疑わず真っ直ぐ夢を実現し、疑われても自分が正しいと前を向いている姿が寧音には眩しかった。
「今日のお買い物はどうしますか?」
店員が寧音に尋ねてきた。
「……海にふさわしい服を……夕方から夜……長時間外にいても大丈夫な服を」
寧音は注文し服を着るとそのまま店を出て、乗っていた車に港に向かうように伝えた。
0
あなたにおすすめの小説
男女比1対5000世界で俺はどうすれバインダー…
アルファカッター
ファンタジー
ひょんな事から男女比1対5000の世界に移動した学生の忠野タケル。
そこで生活していく内に色々なトラブルや問題に巻き込まれながら生活していくものがたりである!
転生特典〈無限スキルポイント〉で無制限にスキルを取得して異世界無双!?
スピカ・メロディアス
ファンタジー
目が覚めたら展開にいた主人公・凸守優斗。
女神様に死後の案内をしてもらえるということで思春期男子高生夢のチートを貰って異世界転生!と思ったものの強すぎるチートはもらえない!?
ならば程々のチートをうまく使って夢にまで見た異世界ライフを楽しもうではないか!
これは、只人の少年が繰り広げる異世界物語である。
のほほん異世界暮らし
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。
それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
狼になっちゃった!
家具屋ふふみに
ファンタジー
登山中に足を滑らせて滑落した私。気が付けば何処かの洞窟に倒れていた。……しかも狼の姿となって。うん、なんで?
色々と試していたらなんか魔法みたいな力も使えたし、此処ってもしや異世界!?
……なら、なんで私の目の前を通る人間の手にはスマホがあるんでしょう?
これはなんやかんやあって狼になってしまった私が、気まぐれに人間を助けたりして勝手にワッショイされるお話である。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~
空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。
もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。
【お知らせ】6/22 完結しました!
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる