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問題は一つ一つ解決
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「大洋横断では燃料消費を抑えるために高空を飛びます。横断飛行では高度三〇〇〇メートル周辺を飛んで目的地に向かいます」
飛行機が高く空を飛ぶのは地上への騒音を回避する為だけでは無い。
高度を上げると空気の密度が減る。気圧で言うと地上が一気圧の場合三〇〇〇メートルになると約〇.七気圧、一万メートルだと約〇.一気圧に下がる。
これは空気抵抗がその分減ることになり、燃費改善に役に立つ。
二一世紀において国際線の飛行機が一万メートル上空を飛行する理由は、気圧が低く空気抵抗の少ない上空を飛ぶことで燃料消費を抑えるためだ。
さすがに一万メートルまで上昇できる機体は作れないので三〇〇〇メートルで飛行させる。
「しかし上空だと、非常に寒くはありませんか?」
高度が百メートル上がる度に気温が〇.六度下がる。三千メートルなら一八度も下がってしまう。
日中に飛行予定だが、出発予定は早朝。最低気温から更に一八度下がるので防寒対策は必要だ。
「そのために電熱服を用意します」
上空の寒さに耐えるには防寒具だけでは無理だ。地上なら身体を動かすことで暖を取る事が出来るが、操縦席に身体を動かす余裕など無い。
そこで発電機から送られてくる電気を使って服の中の各所に取り付けられたヒーターを加熱させて暖を取る電熱服を用意していた。
「いま試作中で、漏電が無いか確認している。完璧な物が用意できるはず」
電熱服の弱点は漏電した場合、パイロットが感電することだ。実際、漏電して装着者が感電し亡くなる事故があり、安全の為に実験を繰り返させていた。
「機体やエンジンは大丈夫でしょうか?」
技術者が心配そうに尋ねる。三〇〇〇メートルの高地は彼等にとって未知だ。
標高三〇〇〇メートルの山はあるが、飛行とは別だ。一応装備実験用に三〇〇〇メートルの高地に研究所を作って実験出来る環境を整えつつあるが、実際の飛行とは違う。
「機体に氷が漂着する危険があるからね」
大西洋無着陸単独横断をなしえたリンドバーグも機体に氷が付いて墜落しかけた。
「そこで潤滑油を多くする。エンジンを通って暖められたオイルを翼の鋼管の内部に通して加熱して翼に氷が付くのを防ぐ」
水冷式ならクーラントを通すのだが今回使うエンジンは空冷式でクーラントは使わない。そのためエンジンオイルを翼のパイプに通して加熱させる。
いわば油冷式といえる方式を採用しエンジンの冷却と翼の凍結防止を両立させようと考えていた。
「ですがこれだとオイルが冷えすぎてエンジンがオーバークールしませんか?」
エンジンを冷やしすぎるとエンジンストールやアイドリングの不調が起きる、最悪の場合部品が摩耗して故障の原因となる。
特に星形エンジンで高々度を飛ぶ場合は起き易い。
二一世紀の車なら車載コンピューターで自動的に最適な回転数を取ったり、摩耗に強い部品を使う事で回避しているが、技術力が低い忠弥のチームはどんな現象にも自力で対処する必要がある。
「そこは実験して最適な回転数と、オイル供給量を調整するしかないな」
だが不明な点が多すぎるため、総当たりで実験して確かめるしか無かった。
「それとエンジンの後方にカウルフラップ――開閉式の覆いをつくる。これで空気の流入量を調整する」
空冷エンジンを冷却するのが空気なのだからエンジンに触れる空気量を減らせば冷却は弱くなる。
エンジンの後方に弁のような覆いを付けて閉じることで、エンジンルームに入る空気を通りにくくして空気の流入量を減らす、イコール冷却量を減らす方式にした。
第二次大戦の軍用機も使った方式であり上手く行くはずだ。
「あのエンジンを二つ取り付けてはどうでしょうか?」
技術者の一人が忠弥に提案した。
「二つ付ければ燃料にも機体にも余裕が出来ます。安全な機体を作れるのでは?」
確かにエンジンが二つあると燃料も機体も大型に出来る。
乗員を一人増やして交代で休めるし、燃料も多く積み込むことが出来るので余裕で大洋を渡れる。
二一世紀の飛行機で小型機以外が双発以上なのも機体を大型化出来るからというのが理由の一つだ。
「いや、無理だな」
しかし忠弥は否定した。
「残念だけどエンジンの信頼性がイマイチなんだよね。稼働率は良いとこ八割から九割と言ったところかな。それに双発にすると出力の余裕が無くてどちらかのエンジンが故障したら墜落しかない」
星形エンジンにより強力な航空エンジンを手に入れたが、一基のエンジンが停止してももう一基のエンジンで飛べるほど出力に余裕が無く、片方が停止したら墜落してしまう。
そしてエンジンの信頼性――離陸してから着陸までエンジンが動き続けてくれる確率は80%。
単発ならそのままの数値だが、双発にすると両方とも無事に動く確率は80%×80%で64%。
そして、双発機にした場合はどちらかのエンジンが停止すると墜落し失敗するので、エンジンの信頼性は飛行の成功に直結する。
だから双発は単発より、成功率が16%も落ちる。
勿論、エンジンの調整や整備には気を使っているが、現状では八割の信頼性では双発を選んだら失敗する確率が大きくなる。
「成功率の高い単発で行きましょう」
「分かりました」
忠弥は一つ一つの問題に対して丁寧に説明して技術者を納得させた。
飛行機が高く空を飛ぶのは地上への騒音を回避する為だけでは無い。
高度を上げると空気の密度が減る。気圧で言うと地上が一気圧の場合三〇〇〇メートルになると約〇.七気圧、一万メートルだと約〇.一気圧に下がる。
これは空気抵抗がその分減ることになり、燃費改善に役に立つ。
二一世紀において国際線の飛行機が一万メートル上空を飛行する理由は、気圧が低く空気抵抗の少ない上空を飛ぶことで燃料消費を抑えるためだ。
さすがに一万メートルまで上昇できる機体は作れないので三〇〇〇メートルで飛行させる。
「しかし上空だと、非常に寒くはありませんか?」
高度が百メートル上がる度に気温が〇.六度下がる。三千メートルなら一八度も下がってしまう。
日中に飛行予定だが、出発予定は早朝。最低気温から更に一八度下がるので防寒対策は必要だ。
「そのために電熱服を用意します」
上空の寒さに耐えるには防寒具だけでは無理だ。地上なら身体を動かすことで暖を取る事が出来るが、操縦席に身体を動かす余裕など無い。
そこで発電機から送られてくる電気を使って服の中の各所に取り付けられたヒーターを加熱させて暖を取る電熱服を用意していた。
「いま試作中で、漏電が無いか確認している。完璧な物が用意できるはず」
電熱服の弱点は漏電した場合、パイロットが感電することだ。実際、漏電して装着者が感電し亡くなる事故があり、安全の為に実験を繰り返させていた。
「機体やエンジンは大丈夫でしょうか?」
技術者が心配そうに尋ねる。三〇〇〇メートルの高地は彼等にとって未知だ。
標高三〇〇〇メートルの山はあるが、飛行とは別だ。一応装備実験用に三〇〇〇メートルの高地に研究所を作って実験出来る環境を整えつつあるが、実際の飛行とは違う。
「機体に氷が漂着する危険があるからね」
大西洋無着陸単独横断をなしえたリンドバーグも機体に氷が付いて墜落しかけた。
「そこで潤滑油を多くする。エンジンを通って暖められたオイルを翼の鋼管の内部に通して加熱して翼に氷が付くのを防ぐ」
水冷式ならクーラントを通すのだが今回使うエンジンは空冷式でクーラントは使わない。そのためエンジンオイルを翼のパイプに通して加熱させる。
いわば油冷式といえる方式を採用しエンジンの冷却と翼の凍結防止を両立させようと考えていた。
「ですがこれだとオイルが冷えすぎてエンジンがオーバークールしませんか?」
エンジンを冷やしすぎるとエンジンストールやアイドリングの不調が起きる、最悪の場合部品が摩耗して故障の原因となる。
特に星形エンジンで高々度を飛ぶ場合は起き易い。
二一世紀の車なら車載コンピューターで自動的に最適な回転数を取ったり、摩耗に強い部品を使う事で回避しているが、技術力が低い忠弥のチームはどんな現象にも自力で対処する必要がある。
「そこは実験して最適な回転数と、オイル供給量を調整するしかないな」
だが不明な点が多すぎるため、総当たりで実験して確かめるしか無かった。
「それとエンジンの後方にカウルフラップ――開閉式の覆いをつくる。これで空気の流入量を調整する」
空冷エンジンを冷却するのが空気なのだからエンジンに触れる空気量を減らせば冷却は弱くなる。
エンジンの後方に弁のような覆いを付けて閉じることで、エンジンルームに入る空気を通りにくくして空気の流入量を減らす、イコール冷却量を減らす方式にした。
第二次大戦の軍用機も使った方式であり上手く行くはずだ。
「あのエンジンを二つ取り付けてはどうでしょうか?」
技術者の一人が忠弥に提案した。
「二つ付ければ燃料にも機体にも余裕が出来ます。安全な機体を作れるのでは?」
確かにエンジンが二つあると燃料も機体も大型に出来る。
乗員を一人増やして交代で休めるし、燃料も多く積み込むことが出来るので余裕で大洋を渡れる。
二一世紀の飛行機で小型機以外が双発以上なのも機体を大型化出来るからというのが理由の一つだ。
「いや、無理だな」
しかし忠弥は否定した。
「残念だけどエンジンの信頼性がイマイチなんだよね。稼働率は良いとこ八割から九割と言ったところかな。それに双発にすると出力の余裕が無くてどちらかのエンジンが故障したら墜落しかない」
星形エンジンにより強力な航空エンジンを手に入れたが、一基のエンジンが停止してももう一基のエンジンで飛べるほど出力に余裕が無く、片方が停止したら墜落してしまう。
そしてエンジンの信頼性――離陸してから着陸までエンジンが動き続けてくれる確率は80%。
単発ならそのままの数値だが、双発にすると両方とも無事に動く確率は80%×80%で64%。
そして、双発機にした場合はどちらかのエンジンが停止すると墜落し失敗するので、エンジンの信頼性は飛行の成功に直結する。
だから双発は単発より、成功率が16%も落ちる。
勿論、エンジンの調整や整備には気を使っているが、現状では八割の信頼性では双発を選んだら失敗する確率が大きくなる。
「成功率の高い単発で行きましょう」
「分かりました」
忠弥は一つ一つの問題に対して丁寧に説明して技術者を納得させた。
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