52 / 163
問題は一つ一つ解決
しおりを挟む
「大洋横断では燃料消費を抑えるために高空を飛びます。横断飛行では高度三〇〇〇メートル周辺を飛んで目的地に向かいます」
飛行機が高く空を飛ぶのは地上への騒音を回避する為だけでは無い。
高度を上げると空気の密度が減る。気圧で言うと地上が一気圧の場合三〇〇〇メートルになると約〇.七気圧、一万メートルだと約〇.一気圧に下がる。
これは空気抵抗がその分減ることになり、燃費改善に役に立つ。
二一世紀において国際線の飛行機が一万メートル上空を飛行する理由は、気圧が低く空気抵抗の少ない上空を飛ぶことで燃料消費を抑えるためだ。
さすがに一万メートルまで上昇できる機体は作れないので三〇〇〇メートルで飛行させる。
「しかし上空だと、非常に寒くはありませんか?」
高度が百メートル上がる度に気温が〇.六度下がる。三千メートルなら一八度も下がってしまう。
日中に飛行予定だが、出発予定は早朝。最低気温から更に一八度下がるので防寒対策は必要だ。
「そのために電熱服を用意します」
上空の寒さに耐えるには防寒具だけでは無理だ。地上なら身体を動かすことで暖を取る事が出来るが、操縦席に身体を動かす余裕など無い。
そこで発電機から送られてくる電気を使って服の中の各所に取り付けられたヒーターを加熱させて暖を取る電熱服を用意していた。
「いま試作中で、漏電が無いか確認している。完璧な物が用意できるはず」
電熱服の弱点は漏電した場合、パイロットが感電することだ。実際、漏電して装着者が感電し亡くなる事故があり、安全の為に実験を繰り返させていた。
「機体やエンジンは大丈夫でしょうか?」
技術者が心配そうに尋ねる。三〇〇〇メートルの高地は彼等にとって未知だ。
標高三〇〇〇メートルの山はあるが、飛行とは別だ。一応装備実験用に三〇〇〇メートルの高地に研究所を作って実験出来る環境を整えつつあるが、実際の飛行とは違う。
「機体に氷が漂着する危険があるからね」
大西洋無着陸単独横断をなしえたリンドバーグも機体に氷が付いて墜落しかけた。
「そこで潤滑油を多くする。エンジンを通って暖められたオイルを翼の鋼管の内部に通して加熱して翼に氷が付くのを防ぐ」
水冷式ならクーラントを通すのだが今回使うエンジンは空冷式でクーラントは使わない。そのためエンジンオイルを翼のパイプに通して加熱させる。
いわば油冷式といえる方式を採用しエンジンの冷却と翼の凍結防止を両立させようと考えていた。
「ですがこれだとオイルが冷えすぎてエンジンがオーバークールしませんか?」
エンジンを冷やしすぎるとエンジンストールやアイドリングの不調が起きる、最悪の場合部品が摩耗して故障の原因となる。
特に星形エンジンで高々度を飛ぶ場合は起き易い。
二一世紀の車なら車載コンピューターで自動的に最適な回転数を取ったり、摩耗に強い部品を使う事で回避しているが、技術力が低い忠弥のチームはどんな現象にも自力で対処する必要がある。
「そこは実験して最適な回転数と、オイル供給量を調整するしかないな」
だが不明な点が多すぎるため、総当たりで実験して確かめるしか無かった。
「それとエンジンの後方にカウルフラップ――開閉式の覆いをつくる。これで空気の流入量を調整する」
空冷エンジンを冷却するのが空気なのだからエンジンに触れる空気量を減らせば冷却は弱くなる。
エンジンの後方に弁のような覆いを付けて閉じることで、エンジンルームに入る空気を通りにくくして空気の流入量を減らす、イコール冷却量を減らす方式にした。
第二次大戦の軍用機も使った方式であり上手く行くはずだ。
「あのエンジンを二つ取り付けてはどうでしょうか?」
技術者の一人が忠弥に提案した。
「二つ付ければ燃料にも機体にも余裕が出来ます。安全な機体を作れるのでは?」
確かにエンジンが二つあると燃料も機体も大型に出来る。
乗員を一人増やして交代で休めるし、燃料も多く積み込むことが出来るので余裕で大洋を渡れる。
二一世紀の飛行機で小型機以外が双発以上なのも機体を大型化出来るからというのが理由の一つだ。
「いや、無理だな」
しかし忠弥は否定した。
「残念だけどエンジンの信頼性がイマイチなんだよね。稼働率は良いとこ八割から九割と言ったところかな。それに双発にすると出力の余裕が無くてどちらかのエンジンが故障したら墜落しかない」
星形エンジンにより強力な航空エンジンを手に入れたが、一基のエンジンが停止してももう一基のエンジンで飛べるほど出力に余裕が無く、片方が停止したら墜落してしまう。
そしてエンジンの信頼性――離陸してから着陸までエンジンが動き続けてくれる確率は80%。
単発ならそのままの数値だが、双発にすると両方とも無事に動く確率は80%×80%で64%。
そして、双発機にした場合はどちらかのエンジンが停止すると墜落し失敗するので、エンジンの信頼性は飛行の成功に直結する。
だから双発は単発より、成功率が16%も落ちる。
勿論、エンジンの調整や整備には気を使っているが、現状では八割の信頼性では双発を選んだら失敗する確率が大きくなる。
「成功率の高い単発で行きましょう」
「分かりました」
忠弥は一つ一つの問題に対して丁寧に説明して技術者を納得させた。
飛行機が高く空を飛ぶのは地上への騒音を回避する為だけでは無い。
高度を上げると空気の密度が減る。気圧で言うと地上が一気圧の場合三〇〇〇メートルになると約〇.七気圧、一万メートルだと約〇.一気圧に下がる。
これは空気抵抗がその分減ることになり、燃費改善に役に立つ。
二一世紀において国際線の飛行機が一万メートル上空を飛行する理由は、気圧が低く空気抵抗の少ない上空を飛ぶことで燃料消費を抑えるためだ。
さすがに一万メートルまで上昇できる機体は作れないので三〇〇〇メートルで飛行させる。
「しかし上空だと、非常に寒くはありませんか?」
高度が百メートル上がる度に気温が〇.六度下がる。三千メートルなら一八度も下がってしまう。
日中に飛行予定だが、出発予定は早朝。最低気温から更に一八度下がるので防寒対策は必要だ。
「そのために電熱服を用意します」
上空の寒さに耐えるには防寒具だけでは無理だ。地上なら身体を動かすことで暖を取る事が出来るが、操縦席に身体を動かす余裕など無い。
そこで発電機から送られてくる電気を使って服の中の各所に取り付けられたヒーターを加熱させて暖を取る電熱服を用意していた。
「いま試作中で、漏電が無いか確認している。完璧な物が用意できるはず」
電熱服の弱点は漏電した場合、パイロットが感電することだ。実際、漏電して装着者が感電し亡くなる事故があり、安全の為に実験を繰り返させていた。
「機体やエンジンは大丈夫でしょうか?」
技術者が心配そうに尋ねる。三〇〇〇メートルの高地は彼等にとって未知だ。
標高三〇〇〇メートルの山はあるが、飛行とは別だ。一応装備実験用に三〇〇〇メートルの高地に研究所を作って実験出来る環境を整えつつあるが、実際の飛行とは違う。
「機体に氷が漂着する危険があるからね」
大西洋無着陸単独横断をなしえたリンドバーグも機体に氷が付いて墜落しかけた。
「そこで潤滑油を多くする。エンジンを通って暖められたオイルを翼の鋼管の内部に通して加熱して翼に氷が付くのを防ぐ」
水冷式ならクーラントを通すのだが今回使うエンジンは空冷式でクーラントは使わない。そのためエンジンオイルを翼のパイプに通して加熱させる。
いわば油冷式といえる方式を採用しエンジンの冷却と翼の凍結防止を両立させようと考えていた。
「ですがこれだとオイルが冷えすぎてエンジンがオーバークールしませんか?」
エンジンを冷やしすぎるとエンジンストールやアイドリングの不調が起きる、最悪の場合部品が摩耗して故障の原因となる。
特に星形エンジンで高々度を飛ぶ場合は起き易い。
二一世紀の車なら車載コンピューターで自動的に最適な回転数を取ったり、摩耗に強い部品を使う事で回避しているが、技術力が低い忠弥のチームはどんな現象にも自力で対処する必要がある。
「そこは実験して最適な回転数と、オイル供給量を調整するしかないな」
だが不明な点が多すぎるため、総当たりで実験して確かめるしか無かった。
「それとエンジンの後方にカウルフラップ――開閉式の覆いをつくる。これで空気の流入量を調整する」
空冷エンジンを冷却するのが空気なのだからエンジンに触れる空気量を減らせば冷却は弱くなる。
エンジンの後方に弁のような覆いを付けて閉じることで、エンジンルームに入る空気を通りにくくして空気の流入量を減らす、イコール冷却量を減らす方式にした。
第二次大戦の軍用機も使った方式であり上手く行くはずだ。
「あのエンジンを二つ取り付けてはどうでしょうか?」
技術者の一人が忠弥に提案した。
「二つ付ければ燃料にも機体にも余裕が出来ます。安全な機体を作れるのでは?」
確かにエンジンが二つあると燃料も機体も大型に出来る。
乗員を一人増やして交代で休めるし、燃料も多く積み込むことが出来るので余裕で大洋を渡れる。
二一世紀の飛行機で小型機以外が双発以上なのも機体を大型化出来るからというのが理由の一つだ。
「いや、無理だな」
しかし忠弥は否定した。
「残念だけどエンジンの信頼性がイマイチなんだよね。稼働率は良いとこ八割から九割と言ったところかな。それに双発にすると出力の余裕が無くてどちらかのエンジンが故障したら墜落しかない」
星形エンジンにより強力な航空エンジンを手に入れたが、一基のエンジンが停止してももう一基のエンジンで飛べるほど出力に余裕が無く、片方が停止したら墜落してしまう。
そしてエンジンの信頼性――離陸してから着陸までエンジンが動き続けてくれる確率は80%。
単発ならそのままの数値だが、双発にすると両方とも無事に動く確率は80%×80%で64%。
そして、双発機にした場合はどちらかのエンジンが停止すると墜落し失敗するので、エンジンの信頼性は飛行の成功に直結する。
だから双発は単発より、成功率が16%も落ちる。
勿論、エンジンの調整や整備には気を使っているが、現状では八割の信頼性では双発を選んだら失敗する確率が大きくなる。
「成功率の高い単発で行きましょう」
「分かりました」
忠弥は一つ一つの問題に対して丁寧に説明して技術者を納得させた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
優の異世界ごはん日記
風待 結
ファンタジー
月森優はちょっと料理が得意な普通の高校生。
ある日、帰り道で謎の光に包まれて見知らぬ森に転移してしまう。
未知の世界で飢えと恐怖に直面した優は、弓使いの少女・リナと出会う。
彼女の導きで村へ向かう道中、優は「料理のスキル」がこの世界でも通用すると気づく。
モンスターの肉や珍しい食材を使い、異世界で新たな居場所を作る冒険が始まる。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
帰国した王子の受難
ユウキ
恋愛
庶子である第二王子は、立場や情勢やら諸々を鑑みて早々に隣国へと無期限遊学に出た。そうして年月が経ち、そろそろ兄(第一王子)が立太子する頃かと、感慨深く想っていた頃に突然届いた帰還命令。
取り急ぎ舞い戻った祖国で見たのは、修羅場であった。
構造理解で始めるゼロからの文明開拓
TEKTO
ファンタジー
ブラック企業勤めのサラリーマン・シュウが転生したのは、人間も街も存在しない「完全未開の大陸」だった。
適当な神から与えられたのは、戦闘力ゼロ、魔法適性ゼロのゴミスキル《構造理解》。
だが、物の仕組みを「作れるレベル」で把握できるその力は、現代知識を持つ俺にとっては、最強の「文明構築ツール」だった――!
――これは、ゴミと呼ばれたスキルとガラクタと呼ばれた石で、世界を切り拓く男の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる