51 / 163
海峡横断
しおりを挟む
「下りてきたぞ!」
技術者達が大急ぎで着陸した機体に駆け寄ってきて忠弥に言う。
「海峡横断成功おめでとうございます」
忠弥が下りたのは皇都周辺に確保したバイクレース場の一角だ。
六キロ四方ある飛行場の用地は取得し第一次建設が始まっているが、完成まで待てない。
大洋横断はすぐにでも開始しなければ間に合わない。
そのためバイクレース場の敷地を借りて飛行実験を行っていた。
忠弥は先ほど大東島にある自社工場付属飛行場から飛び立ち、この皇都のレース場に降り立った。
これまでは航続距離が短い上に飛行機の信頼性が低くて海上を飛ぶのは無謀だった。
エアロドゥオームやフライングライナーが飛んだのは安全のため、それも波の少ない川だ。着水時の衝撃が元々小さく、周りに救助要員もいる。
しかし、海に着水した場合、波が荒く機体がバラバラになる可能性もある。無事に着水できても救助が間に合わない恐れがある。
そのため万が一の事故を懸念して普及型でも陸上でしか飛ばず、海を越えるときは船に載せたり分解して運んでいた。
だが、今回の飛行で飛行機が海の上でも故障せずに飛びきれる事を証明した。
これは大洋横断に向けた第一歩だった。
エンジンが停止すると機内のパイロット、忠弥が大声で叫ぶ。
「直ぐに機体の確認を頼む! 異常が無いか調べるんだ」
異常が無いことは忠弥も分かっている。だが、問題が無いか確認するのが技術者だ。
目的は大洋横断であり、少しのミスも許されない。
機体は直ぐに分解されて異常が無いか厳しくチェックされる。
少しでも異常があれば、チェックして改善していく。
そうした地道な努力が必要だった。
「エンジンの方はどうだ?」
「オイルに異常はありません」
ピストンやシリンダーが擦れ合い、摩耗すると削れた金属片がオイルに混ざる。それが無いか確認することは重要だ。
「取り外して分解して確認を頼みます。異常が出ている場所があるのか確認してください」
「分かりました!」
忠弥の言葉に技術者は嬉しそうに言う。この新しい普及型には星形エンジンを搭載している。小型で全長が短いのに出力が大きい。スペースが限られる航空機にピッタリだ。
今回開発した星形エンジンは二〇〇馬力のエンジンで今までよりも遥かに高出力だ。
おかげでスピードが向上して、時速一五〇キロ以上で飛び、予定より早く海峡横断が出来た。スピードレコード――速度記録用に機体を軽量化すれば時速二〇〇キロも夢ではない。
しかし、今まで島津で扱ったことが無いエンジンの上、未知の高出力であるため、どのような異常が出てくるか分からず、何度もテスとしては分解し異常が無いか確認している。
この日も空を飛んで異常が出ていないか確認しに行く。
「新型の設計は出来ていますか?」
「ええ、大分出来ています」
忠弥に尋ねられた技術者が答えた。
「今回は強度を重視して木材では無く鋼管を使います。これで強度が保たれるはずです」
これまでは木を使って機体を製造していたが、重くなってしまう。
必要強度的には木は金属より軽い、同じ力に耐えるのに木材の方が軽いが虫食いや品質のばらつきを考えると安全係数、安全の為に必要強度を確保する幅より更に厚くする必要があり、結果的に金属製の機体より木製の方が重くなってしまう。
そこで、鋼管で骨組みを作りその回りを布で覆う飛行機にした。
「良いぞ翼は予定通り高翼配置にします」
主翼を機体のどの位置に配置するかによって性能が決まる。
低翼機――機体の下に翼を取り付ける低翼機は飛行時の運動性を高め、翼に取り付ける脚を短く出来るメリットがある。だが重心が揚力の中心より上のため安定性を損なってしまう。旅客機は低翼が多いがこれは翼の下にエンジンを取り付けることで翼を防音板代わりにするためだ。
中翼機――機体の中央部に翼があるため空気抵抗が小さくなる。だが、翼と機体の接続が難しい。
高翼機――機体の上面に取り付けるタイプで低翼機に比べて安定性に優れ、下方視界に優れる。
パラソル翼機――高翼配置より更に高い位置に傘のように取り付けたもので、高翼より更に上に取り付けたい機体、水しぶきを浴びやすい飛行艇に採用される。機体から離れている翼を支える為の支柱を付ける必要があり空気抵抗が増す。
忠弥は、大洋を越えるために燃料を大量に積み込む必要があることから、安定性を重視して高翼配置にした。パラソル型だと支柱がある分空気抵抗が大きくなり、燃費が悪化する。
燃費を良くして大量の燃料で飛びきることが狙いだ。
「積み込むものも最低限に済ませておこう。燃料計にエンジン温度計、回転計と計器類は最小限に。タイヤも小さいものにして空気抵抗を少なくする」
タイヤは引き込み脚にしたいが、引き込むための機構、動かせる、かつ、着陸時の衝撃に耐えられる、地上数メートルから静止状態の飛行機が落下しても耐えられる程度の強度は欲しい。
目下、研究中だが、実用化していないので固定脚する。
その代わりにタイヤを小さくして空気抵抗を減らす。離着陸の時、地面に凹凸があると操縦しづらいが、舗装滑走路の完成が予定されており問題無いと忠弥は判断している。
機体も大事だが、周辺環境の整備がこの計画の大きな根幹であり、いずれやってくる大洋横断飛行全盛を迎えるための環境整備もこの計画の目的だ。
技術者達が大急ぎで着陸した機体に駆け寄ってきて忠弥に言う。
「海峡横断成功おめでとうございます」
忠弥が下りたのは皇都周辺に確保したバイクレース場の一角だ。
六キロ四方ある飛行場の用地は取得し第一次建設が始まっているが、完成まで待てない。
大洋横断はすぐにでも開始しなければ間に合わない。
そのためバイクレース場の敷地を借りて飛行実験を行っていた。
忠弥は先ほど大東島にある自社工場付属飛行場から飛び立ち、この皇都のレース場に降り立った。
これまでは航続距離が短い上に飛行機の信頼性が低くて海上を飛ぶのは無謀だった。
エアロドゥオームやフライングライナーが飛んだのは安全のため、それも波の少ない川だ。着水時の衝撃が元々小さく、周りに救助要員もいる。
しかし、海に着水した場合、波が荒く機体がバラバラになる可能性もある。無事に着水できても救助が間に合わない恐れがある。
そのため万が一の事故を懸念して普及型でも陸上でしか飛ばず、海を越えるときは船に載せたり分解して運んでいた。
だが、今回の飛行で飛行機が海の上でも故障せずに飛びきれる事を証明した。
これは大洋横断に向けた第一歩だった。
エンジンが停止すると機内のパイロット、忠弥が大声で叫ぶ。
「直ぐに機体の確認を頼む! 異常が無いか調べるんだ」
異常が無いことは忠弥も分かっている。だが、問題が無いか確認するのが技術者だ。
目的は大洋横断であり、少しのミスも許されない。
機体は直ぐに分解されて異常が無いか厳しくチェックされる。
少しでも異常があれば、チェックして改善していく。
そうした地道な努力が必要だった。
「エンジンの方はどうだ?」
「オイルに異常はありません」
ピストンやシリンダーが擦れ合い、摩耗すると削れた金属片がオイルに混ざる。それが無いか確認することは重要だ。
「取り外して分解して確認を頼みます。異常が出ている場所があるのか確認してください」
「分かりました!」
忠弥の言葉に技術者は嬉しそうに言う。この新しい普及型には星形エンジンを搭載している。小型で全長が短いのに出力が大きい。スペースが限られる航空機にピッタリだ。
今回開発した星形エンジンは二〇〇馬力のエンジンで今までよりも遥かに高出力だ。
おかげでスピードが向上して、時速一五〇キロ以上で飛び、予定より早く海峡横断が出来た。スピードレコード――速度記録用に機体を軽量化すれば時速二〇〇キロも夢ではない。
しかし、今まで島津で扱ったことが無いエンジンの上、未知の高出力であるため、どのような異常が出てくるか分からず、何度もテスとしては分解し異常が無いか確認している。
この日も空を飛んで異常が出ていないか確認しに行く。
「新型の設計は出来ていますか?」
「ええ、大分出来ています」
忠弥に尋ねられた技術者が答えた。
「今回は強度を重視して木材では無く鋼管を使います。これで強度が保たれるはずです」
これまでは木を使って機体を製造していたが、重くなってしまう。
必要強度的には木は金属より軽い、同じ力に耐えるのに木材の方が軽いが虫食いや品質のばらつきを考えると安全係数、安全の為に必要強度を確保する幅より更に厚くする必要があり、結果的に金属製の機体より木製の方が重くなってしまう。
そこで、鋼管で骨組みを作りその回りを布で覆う飛行機にした。
「良いぞ翼は予定通り高翼配置にします」
主翼を機体のどの位置に配置するかによって性能が決まる。
低翼機――機体の下に翼を取り付ける低翼機は飛行時の運動性を高め、翼に取り付ける脚を短く出来るメリットがある。だが重心が揚力の中心より上のため安定性を損なってしまう。旅客機は低翼が多いがこれは翼の下にエンジンを取り付けることで翼を防音板代わりにするためだ。
中翼機――機体の中央部に翼があるため空気抵抗が小さくなる。だが、翼と機体の接続が難しい。
高翼機――機体の上面に取り付けるタイプで低翼機に比べて安定性に優れ、下方視界に優れる。
パラソル翼機――高翼配置より更に高い位置に傘のように取り付けたもので、高翼より更に上に取り付けたい機体、水しぶきを浴びやすい飛行艇に採用される。機体から離れている翼を支える為の支柱を付ける必要があり空気抵抗が増す。
忠弥は、大洋を越えるために燃料を大量に積み込む必要があることから、安定性を重視して高翼配置にした。パラソル型だと支柱がある分空気抵抗が大きくなり、燃費が悪化する。
燃費を良くして大量の燃料で飛びきることが狙いだ。
「積み込むものも最低限に済ませておこう。燃料計にエンジン温度計、回転計と計器類は最小限に。タイヤも小さいものにして空気抵抗を少なくする」
タイヤは引き込み脚にしたいが、引き込むための機構、動かせる、かつ、着陸時の衝撃に耐えられる、地上数メートルから静止状態の飛行機が落下しても耐えられる程度の強度は欲しい。
目下、研究中だが、実用化していないので固定脚する。
その代わりにタイヤを小さくして空気抵抗を減らす。離着陸の時、地面に凹凸があると操縦しづらいが、舗装滑走路の完成が予定されており問題無いと忠弥は判断している。
機体も大事だが、周辺環境の整備がこの計画の大きな根幹であり、いずれやってくる大洋横断飛行全盛を迎えるための環境整備もこの計画の目的だ。
0
あなたにおすすめの小説
男女比1対5000世界で俺はどうすれバインダー…
アルファカッター
ファンタジー
ひょんな事から男女比1対5000の世界に移動した学生の忠野タケル。
そこで生活していく内に色々なトラブルや問題に巻き込まれながら生活していくものがたりである!
転生特典〈無限スキルポイント〉で無制限にスキルを取得して異世界無双!?
スピカ・メロディアス
ファンタジー
目が覚めたら展開にいた主人公・凸守優斗。
女神様に死後の案内をしてもらえるということで思春期男子高生夢のチートを貰って異世界転生!と思ったものの強すぎるチートはもらえない!?
ならば程々のチートをうまく使って夢にまで見た異世界ライフを楽しもうではないか!
これは、只人の少年が繰り広げる異世界物語である。
のほほん異世界暮らし
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。
それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
狼になっちゃった!
家具屋ふふみに
ファンタジー
登山中に足を滑らせて滑落した私。気が付けば何処かの洞窟に倒れていた。……しかも狼の姿となって。うん、なんで?
色々と試していたらなんか魔法みたいな力も使えたし、此処ってもしや異世界!?
……なら、なんで私の目の前を通る人間の手にはスマホがあるんでしょう?
これはなんやかんやあって狼になってしまった私が、気まぐれに人間を助けたりして勝手にワッショイされるお話である。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~
空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。
もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。
【お知らせ】6/22 完結しました!
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる