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事業を譲渡するか否か
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「なっ」
島津の未来の中核部門である航空部門を渡せという寧音、いや岩菱の要求に昴は絶句した。
ジッと昴を見続けている寧音は内心にんまりと笑った。
偉業を成し遂げた忠弥と一緒にいる昴のことを嫉妬してつい、意地悪をしてしまった。
祖父から言われていたのは、航空部門の技術供与、航空機製造権だ。
航空部門をまるごと渡せとは言っていない。
寧音の独断であり交渉戦術、最初は飲めない条件を突きつけて相手をパニックあるいは不安にして、本命の要求を突きつける。
本命の方を始めに出したら拒絶されるが、到底のめない条件を出された後なら緩く感じて仕舞う人の心理を利用したものだ。
「まあ、それは出来ないでしょう。では代わりに昭弥さんをお借り……」
「お断りします」
「交換条件として共和国での建設認可を得る助力を……え?」
予想外の言葉に寧音は驚いた。
「航空部門は島津の未来を掛けた部門なので譲る事は出来ません。それでは」
「ちょっ……」
寧音が止めるのも聞かず、昴はその場を後にした。
「どういうことなの」
確かに岩菱も寧音も忠弥を欲していたし、昴が拒絶するのも織り込み済みだった。
しかし、共和国での建設認可を得る必要がある。
そのために激昂しながらも話を聞くだろうと寧音は考えていた。
だが、話を聞かずに全てを拒絶するような昴の行動が寧音には予想外であり理解できなかった。
「ただいま戻りました」
寧音の話を聞いた後、昴はそのまま家に戻ってきた。
学校での事は到底話す気にはなれなかった。何より、今で深刻な顔をしていた父である義彦を見たのなら尚更だ。
「お父様、どうかなされたのですか」
「岩菱から連絡があってね共和国での建設認可を手助けする代わりに航空部門の買収を持ち出してきたよ」
「ついに来たのですか」
「知っていたのか、どうしたんだい?」
昴が知っていたことに驚いた義彦が尋ねると昴は学校で寧音に同じ事を言われたことを話した。
「なるほど、岩菱も本気で来るようだね」
最近飛行協会の営業部門が成果を出し始めている。
特に陸軍の参謀本部測量部は地図作成の成果、測量に十年かかるといわれた場所――森があり、小高い丘の他、沼や川が入り組んだ湿原の測量が僅か数十分の飛行で完了してしまったのを見て、国内の測量効率向上のため大金を支払うと言っていた。
他にも宣伝飛行を見て宣伝のインパクトに希望する企業が多かった。
航空産業の将来性を見て一番進んでいる島津の航空部門を取り込みに来たのは間違いない。
「航空部門をお売りになるのですか」
「まあ、売却した方が良いだろう。金額は投資額の五倍だしね」
「これから大きな市場になるのにですか!」
売却という言葉に昴は反応して止めるように言った。
「投資という意味では十分な利益を得ているからね」
成長途中でベンチャーを大手が買い取ることは多い。
ベンチャーが作り上げるのに掛かった費用以上の買収額が提示されれば売ることは妥当と言える。
「ですが、それでは将来得られる利益が」
しかし、売った後で更に価値が上がることが有るのもベンチャーによくあることだ。
日本でも川西が中島知久平の航空部門に出資したが、なかなか利益が上がらないことに頭にきて買い取れと迫り、中島に売ったら、あとで中島が日本どころか世界的にも大きな中島飛行機を作り上げてしまい、川西が深く後悔したという逸話は有名だ。
「売り時を見定めるのは難しいよ。少なくても投資額以上の値が付いたのなら十分に売りだ」
だが、まだ値上がると思って売り時を逃し、無価値になることも多々ある。
事業の買収売却を行ってきた島津にとって航空部門を売るのは悪くない話だった。
例え、将来莫大な利益がもたらされるとしても、必ずしもそうではない。
「それに自分が広げられるかどうかも問題だ」
最近でこそ全国的な販売網を広げている島津だが、その販売組織は岩菱と違って弱小だ。
政党の党首となっているが影響力も小さい。
現に共和国への建設認可を求めようとしても伝がないので、攻めあぐねている状況だ。
だが、歴史も規模も違う岩菱なら海外にも強い影響力があり、共和国への働きかけも出来る。
「岩菱に送った方が発展しやすいとは思わないかい?」
「忠弥を岩菱に売るのですか!」
「航空部門は事実上彼の持ち物だ。航空部門は忠弥君でもっている売却すれば当然彼も移ることになるだろう」
「そんなのダメです!」
昴は強く叫んで否定した。
「航空事業は島津の未来の根幹です。それにお父様が政界に進出できたのも航空事業が宣伝塔になり人々に認知されたからです。ここで売却しては、島津は滅びます」
昴は必死になって売却を止めようとする。
「どうかなさいましたか」
岩菱の屋敷の奥に部屋を貰った忠弥が出てきて尋ねた。
「いや、岩菱が共和国で飛行場建設を協力する見返りに航空部門を売って欲しいと言ってきた」
「うーん、それは」
話を聞かされて忠弥は悩み出した。
「どうした悩むことかい? 岩菱の方が大きくてネットワークも大きいし設備もある。飛行機を作るのが早いよ」
飛行機の発展を第一に考える忠弥ならすぐに飛びつくだろうと考えていた義彦は忠弥が悩み出したことが意外だった。
「いや、島津さんは最初にチャンスを与えてくれましたから。良い条件を出されたからといってすぐに移るのはどうかと」
忠弥は歯切れ悪く、答えた。
一応恩義があって島津の元にいるが、条件としては岩菱の方が良いため本心では移りたいのだろう。
忠弥の歯切れの悪さから義彦は、そこまで読み取った。
忠弥が自分に対して恩義を感じてくれている事が嬉しかった義彦は笑顔で尋ねた
「なあ忠弥君、一つ聞いて良いか?」
「なんでしょう?」
「君が浮かべる未来の空はどうなっているんだい?」
島津の未来の中核部門である航空部門を渡せという寧音、いや岩菱の要求に昴は絶句した。
ジッと昴を見続けている寧音は内心にんまりと笑った。
偉業を成し遂げた忠弥と一緒にいる昴のことを嫉妬してつい、意地悪をしてしまった。
祖父から言われていたのは、航空部門の技術供与、航空機製造権だ。
航空部門をまるごと渡せとは言っていない。
寧音の独断であり交渉戦術、最初は飲めない条件を突きつけて相手をパニックあるいは不安にして、本命の要求を突きつける。
本命の方を始めに出したら拒絶されるが、到底のめない条件を出された後なら緩く感じて仕舞う人の心理を利用したものだ。
「まあ、それは出来ないでしょう。では代わりに昭弥さんをお借り……」
「お断りします」
「交換条件として共和国での建設認可を得る助力を……え?」
予想外の言葉に寧音は驚いた。
「航空部門は島津の未来を掛けた部門なので譲る事は出来ません。それでは」
「ちょっ……」
寧音が止めるのも聞かず、昴はその場を後にした。
「どういうことなの」
確かに岩菱も寧音も忠弥を欲していたし、昴が拒絶するのも織り込み済みだった。
しかし、共和国での建設認可を得る必要がある。
そのために激昂しながらも話を聞くだろうと寧音は考えていた。
だが、話を聞かずに全てを拒絶するような昴の行動が寧音には予想外であり理解できなかった。
「ただいま戻りました」
寧音の話を聞いた後、昴はそのまま家に戻ってきた。
学校での事は到底話す気にはなれなかった。何より、今で深刻な顔をしていた父である義彦を見たのなら尚更だ。
「お父様、どうかなされたのですか」
「岩菱から連絡があってね共和国での建設認可を手助けする代わりに航空部門の買収を持ち出してきたよ」
「ついに来たのですか」
「知っていたのか、どうしたんだい?」
昴が知っていたことに驚いた義彦が尋ねると昴は学校で寧音に同じ事を言われたことを話した。
「なるほど、岩菱も本気で来るようだね」
最近飛行協会の営業部門が成果を出し始めている。
特に陸軍の参謀本部測量部は地図作成の成果、測量に十年かかるといわれた場所――森があり、小高い丘の他、沼や川が入り組んだ湿原の測量が僅か数十分の飛行で完了してしまったのを見て、国内の測量効率向上のため大金を支払うと言っていた。
他にも宣伝飛行を見て宣伝のインパクトに希望する企業が多かった。
航空産業の将来性を見て一番進んでいる島津の航空部門を取り込みに来たのは間違いない。
「航空部門をお売りになるのですか」
「まあ、売却した方が良いだろう。金額は投資額の五倍だしね」
「これから大きな市場になるのにですか!」
売却という言葉に昴は反応して止めるように言った。
「投資という意味では十分な利益を得ているからね」
成長途中でベンチャーを大手が買い取ることは多い。
ベンチャーが作り上げるのに掛かった費用以上の買収額が提示されれば売ることは妥当と言える。
「ですが、それでは将来得られる利益が」
しかし、売った後で更に価値が上がることが有るのもベンチャーによくあることだ。
日本でも川西が中島知久平の航空部門に出資したが、なかなか利益が上がらないことに頭にきて買い取れと迫り、中島に売ったら、あとで中島が日本どころか世界的にも大きな中島飛行機を作り上げてしまい、川西が深く後悔したという逸話は有名だ。
「売り時を見定めるのは難しいよ。少なくても投資額以上の値が付いたのなら十分に売りだ」
だが、まだ値上がると思って売り時を逃し、無価値になることも多々ある。
事業の買収売却を行ってきた島津にとって航空部門を売るのは悪くない話だった。
例え、将来莫大な利益がもたらされるとしても、必ずしもそうではない。
「それに自分が広げられるかどうかも問題だ」
最近でこそ全国的な販売網を広げている島津だが、その販売組織は岩菱と違って弱小だ。
政党の党首となっているが影響力も小さい。
現に共和国への建設認可を求めようとしても伝がないので、攻めあぐねている状況だ。
だが、歴史も規模も違う岩菱なら海外にも強い影響力があり、共和国への働きかけも出来る。
「岩菱に送った方が発展しやすいとは思わないかい?」
「忠弥を岩菱に売るのですか!」
「航空部門は事実上彼の持ち物だ。航空部門は忠弥君でもっている売却すれば当然彼も移ることになるだろう」
「そんなのダメです!」
昴は強く叫んで否定した。
「航空事業は島津の未来の根幹です。それにお父様が政界に進出できたのも航空事業が宣伝塔になり人々に認知されたからです。ここで売却しては、島津は滅びます」
昴は必死になって売却を止めようとする。
「どうかなさいましたか」
岩菱の屋敷の奥に部屋を貰った忠弥が出てきて尋ねた。
「いや、岩菱が共和国で飛行場建設を協力する見返りに航空部門を売って欲しいと言ってきた」
「うーん、それは」
話を聞かされて忠弥は悩み出した。
「どうした悩むことかい? 岩菱の方が大きくてネットワークも大きいし設備もある。飛行機を作るのが早いよ」
飛行機の発展を第一に考える忠弥ならすぐに飛びつくだろうと考えていた義彦は忠弥が悩み出したことが意外だった。
「いや、島津さんは最初にチャンスを与えてくれましたから。良い条件を出されたからといってすぐに移るのはどうかと」
忠弥は歯切れ悪く、答えた。
一応恩義があって島津の元にいるが、条件としては岩菱の方が良いため本心では移りたいのだろう。
忠弥の歯切れの悪さから義彦は、そこまで読み取った。
忠弥が自分に対して恩義を感じてくれている事が嬉しかった義彦は笑顔で尋ねた
「なあ忠弥君、一つ聞いて良いか?」
「なんでしょう?」
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