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飛行場
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「計画が進んでいない?」
準備を進めていた忠弥の元に連絡が入ったのは、出発直前だった。
「旧大陸の飛行場建設許可が下りない」
申し訳なさそうに義彦は頭を下げた。
「どうしてですか?」
「用途不明の建築物を作ることは前例がないのでダメだと当局が言ってきた」
「飛行場を作るため、と説明していましたが」
「飛行場というのは前代未聞で前例がなく、審査に時間が掛かるそうだ」
「そんな馬鹿な」
確かに六キロ四方ぐらい広大な土地で滑走路と駐機場、格納庫を持っているが、安全のための空き地が大半であり危険は無い。
ガソリンなどの危険物も取り扱うが、少量だ。
「安全のために広く土地を取っているんですよ」
「だが、ダメだそうだ。担当者が何を言っても聞いてくれない」
「そんな」
飛行機は飛行場から飛行場へ飛んでいく。
無事に着陸できる場所がなければ危険だ。
広い土地さえ有れば何処にでも着陸できるので、砂浜や牧場を発着地にした例は多い。
一九三〇年代無着陸太平洋横断飛行を行ったパイロット達が青森県の淋代海岸を離陸地にしたのは日本本土の東端に近く、北アメリカ大陸への最短コースなる上、砂地が堅く燃料を満タンにした飛行機が離陸しやすく、長い滑走距離が得られるためだ。
だから海岸でも良いのだが、やはり専用の滑走路と設備のある飛行場に着陸した方が安全だ。
「なんとか交渉できませんが?」
「やっているが、どうもダーク氏が裏で手を回しているようだ」
「どういうことです」
「大洋横断など不可能だと言っているが、万が一成功されると困るので共和国の知り合いに頼んで建設を遅らせているようだ」
「そして、その間に自分が大洋横断を成功させる」
「そういうことだ」
怒りを通り越して忠弥は呆れた。
だが、問題であることは確かだ。
「交渉は、認可は下りそうですか」
「済まない、共和国での島津の影響力は低い。色々と伝をたどっているが、許可が下りそうにない」
「本当に出来ないんですか?」
その時、話を聞いた昴が尋ねてきた。
「ああ、色々と伝をたどっているが見つからない」
尊敬している父が見せる初めての弱り切った顔に昴は、顔を曇らせる。
「私に出来る事はありませんか?」
尋ねてくる昴の表情に気がついた義彦は笑いかけて、言う。
「外国での交渉だからね。昴が居なくても大丈夫だよ」
「ですが」
「大丈夫だって。それより、今日は学校だろう。早く行きなさい」
「……はい」
「なんとか出来ないかな」
父に言われて学校に向かうが、昴の心は晴れなかった。
あんなに深刻な顔をした父親の顔を見たことがない昴は不安だった。
何時も颯爽と、たとえどんな困難が襲いかかろうとも果敢に挑戦していった父があんなに気弱になっている。
これほどの窮地は未だになかった。
自分でもなんとか出来ないか、と思うが思いつかない。
しかし同時に、この事態に安堵している昴がいた。
「どうしましたの、昴さん」
「はひっ」
突然声を掛けられた昴は素っ頓狂な声を上げてしまう。
「尋ねたのにそのような声を上げるのは酷いのでは」
「ね、寧音さん」
自分の苦手な岩菱寧音に声を掛けられて昴は怯んだ。
いつもなら根拠のない自信で胸を張って追い返すのだが、今は不安でいっぱいで何も言い返せなかった。
自分がいつの間にか学校の自分の席に座っていることに気がつかないほど、気が塞いでいる状態では致し方なかった。
「それより聞きましたわ。共和国での飛行場建設が遅れているそうですね」
「ど、どうしてそれを」
「大洋横断飛行は今や皇国中で噂になっていますから。様々な情報が入ってきますわ」
穏やかな笑みを浮かべる寧音だったが、昴の頭の中では警告音が鳴っていた。
確かに大きな計画だし海外との交流が盛んになっているが、海外との連絡が海底ケーブルを使った電信程度しかないため、海外の情報を受け取るのが難しい。
そのため大洋横断飛行の計画は秋津皇国内での動きしか、皇国内には流れていない。
共和国での飛行場建設が遅れていることを知っているのは、海外に強い伝を持つ人々ぐらいだ。
確かに皇国週数の財閥である岩菱ならばあり得る。
しかし、これほどクリティカルに問題を言ってくるのはおかしい。
「まさか寧音さん。貴方が、岩菱が計画の邪魔を……」
もし、岩菱が裏にいて妨害しているとしたら、知っているのもあり得る話だった。
そして何か取引を持ちかけてくるであろう事も。
「まさか、私たち岩菱はそんな事はしません。ただ、ダーク氏と少し伝がりますので、そちらから話が来ますの」
穏やかに寧音は話す。
暗にダーク氏との対談を仕掛けた事を誇示している。
悪びれる様子もなく、ただ岩菱の力を見せつけている。これから本題を切り出すために。
教室内の話だが、これは事実上、岩菱と島津という財閥同士の戦争だった。
おてんばで奔放な昴だがこの半年ほどの出来事で恐ろしく成長し、胆力が付き冷静に物事を見る事が手着るようになっていた。
「そこでご提案があります」
「何でしょう」
「岩菱は共和国に強力なネットワークがあります。それを使えば飛行場建設の許可を下ろすことは可能です」
隆盛著しい島津だったが、財閥が発足してからまだ月日は浅い。一方、開国前より海外との取引を行っていた岩菱は海外との伝が多く共和国にも多数の人脈がある。
許可が降りるかもしれない。
「当然見返りを求めるのでしょう?」
「勿論」
当然とばかりに寧音は切り出した。
「島津の飛行機部門を岩菱に譲っていただきます」
準備を進めていた忠弥の元に連絡が入ったのは、出発直前だった。
「旧大陸の飛行場建設許可が下りない」
申し訳なさそうに義彦は頭を下げた。
「どうしてですか?」
「用途不明の建築物を作ることは前例がないのでダメだと当局が言ってきた」
「飛行場を作るため、と説明していましたが」
「飛行場というのは前代未聞で前例がなく、審査に時間が掛かるそうだ」
「そんな馬鹿な」
確かに六キロ四方ぐらい広大な土地で滑走路と駐機場、格納庫を持っているが、安全のための空き地が大半であり危険は無い。
ガソリンなどの危険物も取り扱うが、少量だ。
「安全のために広く土地を取っているんですよ」
「だが、ダメだそうだ。担当者が何を言っても聞いてくれない」
「そんな」
飛行機は飛行場から飛行場へ飛んでいく。
無事に着陸できる場所がなければ危険だ。
広い土地さえ有れば何処にでも着陸できるので、砂浜や牧場を発着地にした例は多い。
一九三〇年代無着陸太平洋横断飛行を行ったパイロット達が青森県の淋代海岸を離陸地にしたのは日本本土の東端に近く、北アメリカ大陸への最短コースなる上、砂地が堅く燃料を満タンにした飛行機が離陸しやすく、長い滑走距離が得られるためだ。
だから海岸でも良いのだが、やはり専用の滑走路と設備のある飛行場に着陸した方が安全だ。
「なんとか交渉できませんが?」
「やっているが、どうもダーク氏が裏で手を回しているようだ」
「どういうことです」
「大洋横断など不可能だと言っているが、万が一成功されると困るので共和国の知り合いに頼んで建設を遅らせているようだ」
「そして、その間に自分が大洋横断を成功させる」
「そういうことだ」
怒りを通り越して忠弥は呆れた。
だが、問題であることは確かだ。
「交渉は、認可は下りそうですか」
「済まない、共和国での島津の影響力は低い。色々と伝をたどっているが、許可が下りそうにない」
「本当に出来ないんですか?」
その時、話を聞いた昴が尋ねてきた。
「ああ、色々と伝をたどっているが見つからない」
尊敬している父が見せる初めての弱り切った顔に昴は、顔を曇らせる。
「私に出来る事はありませんか?」
尋ねてくる昴の表情に気がついた義彦は笑いかけて、言う。
「外国での交渉だからね。昴が居なくても大丈夫だよ」
「ですが」
「大丈夫だって。それより、今日は学校だろう。早く行きなさい」
「……はい」
「なんとか出来ないかな」
父に言われて学校に向かうが、昴の心は晴れなかった。
あんなに深刻な顔をした父親の顔を見たことがない昴は不安だった。
何時も颯爽と、たとえどんな困難が襲いかかろうとも果敢に挑戦していった父があんなに気弱になっている。
これほどの窮地は未だになかった。
自分でもなんとか出来ないか、と思うが思いつかない。
しかし同時に、この事態に安堵している昴がいた。
「どうしましたの、昴さん」
「はひっ」
突然声を掛けられた昴は素っ頓狂な声を上げてしまう。
「尋ねたのにそのような声を上げるのは酷いのでは」
「ね、寧音さん」
自分の苦手な岩菱寧音に声を掛けられて昴は怯んだ。
いつもなら根拠のない自信で胸を張って追い返すのだが、今は不安でいっぱいで何も言い返せなかった。
自分がいつの間にか学校の自分の席に座っていることに気がつかないほど、気が塞いでいる状態では致し方なかった。
「それより聞きましたわ。共和国での飛行場建設が遅れているそうですね」
「ど、どうしてそれを」
「大洋横断飛行は今や皇国中で噂になっていますから。様々な情報が入ってきますわ」
穏やかな笑みを浮かべる寧音だったが、昴の頭の中では警告音が鳴っていた。
確かに大きな計画だし海外との交流が盛んになっているが、海外との連絡が海底ケーブルを使った電信程度しかないため、海外の情報を受け取るのが難しい。
そのため大洋横断飛行の計画は秋津皇国内での動きしか、皇国内には流れていない。
共和国での飛行場建設が遅れていることを知っているのは、海外に強い伝を持つ人々ぐらいだ。
確かに皇国週数の財閥である岩菱ならばあり得る。
しかし、これほどクリティカルに問題を言ってくるのはおかしい。
「まさか寧音さん。貴方が、岩菱が計画の邪魔を……」
もし、岩菱が裏にいて妨害しているとしたら、知っているのもあり得る話だった。
そして何か取引を持ちかけてくるであろう事も。
「まさか、私たち岩菱はそんな事はしません。ただ、ダーク氏と少し伝がりますので、そちらから話が来ますの」
穏やかに寧音は話す。
暗にダーク氏との対談を仕掛けた事を誇示している。
悪びれる様子もなく、ただ岩菱の力を見せつけている。これから本題を切り出すために。
教室内の話だが、これは事実上、岩菱と島津という財閥同士の戦争だった。
おてんばで奔放な昴だがこの半年ほどの出来事で恐ろしく成長し、胆力が付き冷静に物事を見る事が手着るようになっていた。
「そこでご提案があります」
「何でしょう」
「岩菱は共和国に強力なネットワークがあります。それを使えば飛行場建設の許可を下ろすことは可能です」
隆盛著しい島津だったが、財閥が発足してからまだ月日は浅い。一方、開国前より海外との取引を行っていた岩菱は海外との伝が多く共和国にも多数の人脈がある。
許可が降りるかもしれない。
「当然見返りを求めるのでしょう?」
「勿論」
当然とばかりに寧音は切り出した。
「島津の飛行機部門を岩菱に譲っていただきます」
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