新世界の空へ飛べ~take off to the new world~ アルファポリス版

葉山宗次郎

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飛行試験

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 忠弥から許可を受けた。三人とも機体を作り始めた。
 最初に完成させたのはベルケだった。設計通り単葉機を作り上げ、飛行前の地上試験も終了し飛行許可が下りる。
 ベルケはすぐさまエンジンを稼働させ暖まるとすぐに飛び出した。

「それ、行くぞ!」

 素早く機体を操作して滑走路を離陸。そのまま全速力を出し矢のようなスピードで飛んで行く。
 そして左旋回して飛行場の周りを一周すると、再び滑走路に戻り、端から猛スピードで進入し始めた。

「来たぞ! 計測用意!」

 滑走路の端で待機していた観測員が飛行機の通過と同時に旗を振る。
 ベルケはまっすぐ滑走路の上空を飛び抜け、また端から出て行って左旋回する。

「通過に要した時間を計測しろ」

 スピード計はあるが、まだ十分に信頼できないため、予め距離が分かっている標点間を駆け抜けた時間から割り出す方が正確に計測できる。
 今回は滑走路を使って計測していた。
「良い成績のようです。一八〇キロは出ています」
 かなり良い成績だ。
 第一次大戦の戦闘機は時速一八〇キロが最高速度だった。
 それを考えれば十分に速い。

「また来ます」

 再び周回して滑走路に入ってきたベルケの機体は全速力で駆け抜ける。

「短縮しています」

 一回だけの計測ではタイムが悪い可能性があるため、複数回行い、平均を出して記録とするのが普通だ。

「来ます!」

 三回目の計測にやってきた。
 機体になれたのか飛行姿勢が安定している。
 編に傾いていたり斜めに進入すると余計な距離を走ることになるし、抵抗が大きい。
 まっすぐに飛べる方が記録は出やすい。
 滑走路に進入したベルケは一挙に駆け抜ける。

「一九〇超えました」

 時速一九〇キロ超。
 地球ではフランスの初期の飛行家モーリス・プレヴォがドゥペルデュサン・モノコック・レーサーで打ち立てた記録だ。
 ライト兄弟の初飛行から一〇年で成し遂げた快挙だった。
 記録が割るとベルケはすぐさま滑走路に進入し着陸した。
 機体の重量を軽くして速度を出すために燃料さえ最小限、三周するだけに必要な量に抑えていたのだ。
 おかげでベルケはスピード記録を出すことに成功した。

「くそうっ! 二〇〇を超えられなかったか!」

 残念そうにベルケは大声を出す。

「次は私だ」

 次に行ったのはサイクスだ。
 設計した単発機で速力を落として長時間飛ぶことにしていた。
 それも失速寸前の速度で飛ぶ。
 速力を上げると抵抗が二乗に比例して増大するからだ。
 二倍の速力を出そうとすると抵抗は四倍になり四倍の出力が必要になる。
 よって燃料消費も単純計算で四倍になる。
 だが速力を半分に減らせば抵抗は四分の一、燃料消費も四分の一になる。その分、長く飛べるので結局長距離を飛べる。
 最高速度と巡航速度で航続距離が違う理由の一つだ。

「上手く飛んでいるな」

 大洋横断とは違い三角コース、離陸した飛行場近くの決められた三箇所をぐるぐる回るのだ。
 何か問題があってもすぐに飛行場に戻れる。
 しかし、十数時間過ぎたくらいで戻ってきた。

「もう無理です」

 体力の限界だった。単独で乗り込んだサイクスには困難だった。
 大洋横断の時二人乗りにしたのも疲労を考慮しての事だった。
 一人なら燃料を大量に積み込むことが出来るが、ずっと飛び続けるなど、まして操縦から何から何まで全てを操作しなければならないため、仕事量は多い。
 それを一人でこなし続けるのは大変だ。
 二人乗りにしたのも球形だけで無く仕事量を分担するためである。
 リンドバーグは単独で横断を成し遂げたが、あれは訓練で不眠不休で連続飛行できるようになれて行き四九時間の単独連続飛行が出来るようになったからだ。
 そのような訓練をしていないサイクスには無理な話だった。

「自動化すればいくらかはマシだが、無理だな」

 だが、自動化しようにもそのための機械は技術レベルが低いため、大型化しやすく重量増大になる。
 結局操縦士に操作させた方が軽くなる。
 人間が一番汎用性の高い部品なのだ。そのためパイロットへの負担が大きくなる。

「自動化と機体の大型化を考えないといけないな」

 そのことを教えるために忠弥はあえてサイクスの単発案を認めたのだ。
 報告書からだけでは理解できないこと、実際に自分で動いてみなければ分からない事があるからだ。

「最後に私だね」

 最後に行ったのはテストだ。
 二一枚の翼を持つ機体が現れるとどよめきが走った。
 さすがにこれほど多くの翼を持った飛行機など前代未聞だ。

「見ていろ、大空に舞い上がってやる」

 意気込んでテストは飛行機のスロットルを全開にして加速を始める。

「あれ?」

 だが、なかなか前に進まない。
 のろのろとした動きで飛びそうもない。

「おい! 早く飛ぶんだ!」

 叫ぶがなかなかスピードは上がらない。ようやく加速が付いてもほんの十数メートル空に浮かんだだけだった。

「なぜだあああっっっ」

 テストの嘆きを残して飛行機は、空から地上へゆっくりと降り始めた。



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