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反省会
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「皆お疲れ様」
戻ってきた三人を忠弥は迎えた。
「さて、全員飛んでみてどうだった?」
思うように飛べなかったために三人は気まずい表情を浮かべていた。
しかし忠弥の視線に耐えられず、やがてベルケから徐々に話し始めた。
「二〇〇キロを超えたかったのですが、速力を出し切れませんでした」
「もっと飛んでいたかったのですが、自らの体力の限界を思い知らされました」
「ものすごい揚力が生まれるはずでしたのに飛べもしない……」
続いてサイクスが答え、最後にテストが半ば泣きながら言う。
「まあそれぞれ、思い通りにならなかっただろうが、何故だと思う?」
それぞれ考え込みつつ話す。
「計算上では二〇〇を超えているはずでした。抵抗になる部分があるようです」
「やはり単独での連続飛行は難しいです。二人以上にする必要が、そのためには大型機の製造が必要になります」
「……揚力をもっと効率よく生み出す必要があります」
「その通りだ」
三人の答えに忠弥は頷く。
「ベルケ、抵抗は何処だと思う?」
「中央の支柱とそこから出て行く張線ですね」
片持ち翼は薄くすると強度が足りず折れてしまう。そのため機体の中央に支柱を立ててそこから張ったワイヤーで支える形にしていた。
「しかし、長い翼を支えるには必要です」
「翼は必要かい?」
「え? 空を飛ぶには必要でしょう」
「最低限飛ぶのに必要な長さですか? 余っている部分があるのでは?」
「しかし翼が短くなると揚力が足りず、かなり速い速度に……」
そこまで言ってベルケは気がついた。
翼は揚力を生むが抵抗になることを。短くすればその分速くなる。
揚力は低下するがスピードアップを目指しているのだから、むしろ好都合。
離陸の時に長い加速が必要になるが、四〇〇〇メートルの滑走路があるのだから目一杯使って加速できる。
「早速、再設計します」
すぐにベルケは飛び出していった。
「サイクス、長距離を飛ぶ必要があるだろう」
「はい、乗員を二人にすべきですね。思うほど飛べないでしょうが」
「どうしてだ」
「二人乗りにすると燃料が積み込めません」
「どうして?」
「いや、エンジンの出力に限界がありますから」
「どうしてだ?」
「一発のエンジンでは無理です」
「何故一発ではダメなんだ。二つじゃダメなのか?」
「いえ、それだとエンジンの故障する確率が上がり、失敗する確率が上がります。大洋横断飛行の時のレポートでそのように」
「あのときはそうだった。だが今回はどうだ? 横断飛行の時は故障したら墜落しかなかったから単発にした。だが今回は飛行場上空の周回飛行だ。異常があれば降りれるが」
「それでは中断します」
「それが何故悪い。長距離飛行であって、何度でも挑戦できるぞ。それにエンジンが故障しても降りて原因を究明して故障しないようにすれば良い。兎に角長く飛べることを考えるんだ。長く飛ぶのに必要なのは」
「……燃料と交代用のパイロット、そしてそれらを積んで飛び上がれるエンジン出力」
「はい、双発機はそれを叶えられる条件が揃っています。今回は、エンジン故障が起きても着陸できますから使用しても問題ないでしょう」
「しかしエンジン故障が起きたら」
エンジン一つが着陸してくれるまで正常に稼働する確率が九割として、双発にした場合八割程度。飛行実験の成功率も八割になってしまう。
「ならば、エンジン故障が起きる原因を探求し再発防止に役立てれば良い」
「しかし」
「エンジンの稼働率が低下するようなら今後も飛行機を作る際、飛ぶ際の障害になる。エンジンの稼働率を上げることは喫緊の課題だ。エンジンの稼働率が飛行機の将来を決める大事な問題だ。やってみようとは思わないか」
「! 分かりました」
サイクスは意気揚々と、出て行った。
最後に入ってきたのは、テストだった。
「どうして失敗したか分かるか」
「……いいえ、何故あんなことになるのか。二一枚の翼で凄まじい揚力が生まれるはずだったのに」
「その翼が問題だったんだよ」
「まさか」
「速度の上昇が抑えられて仕舞う原因は何だ?」
「抗力――飛行機を止めようとする抵抗が増えるからです」
「ああ、翼も大きな抵抗だ。二一枚もあると壁が出来るようなものだ」
現代の飛行機が特別な例外を除いて単葉、一枚の翼しか持たないのは、抵抗が大きな要因だ。
抵抗が少ない方がエンジンの出力を有効に使える。抵抗があるとエンジンは実力を出し切れない。
「しかし、それ以上に揚力が生まれるはず。少し走っただけでも浮かべるはずでは」
「翼が密集しすぎると翼同士で発生する乱流で揚力は低下するんだよ」
複葉機でも翼が上下で離れた箇所に設置されている理由に上下の翼の間隔が狭いと、互いに気流が干渉して揚力が生まれにくいからだ。
翼は真ん中に行くほど上面が膨らみ、やがて萎んでいく形となっているのは、上面を通る気流の速度が高くなり、同時に気圧が低下。その気圧が低下したため、相対的に翼の下の空気圧が高まる。
これによって翼が上に向かって吸い上げ、押し上げられるように揚力が発生するためと言われている。
翼の形によって上下で気圧差を発生させることで揚力を生み出しているのだ。
しかし、翼が密集していると、せっかく作った気圧の差が、すぐ隣にある翼によって打ち消されてしまう。
「しかし、翼の幅を狭めれば干渉は抑えられるのでは?」
翼の幅が狭ければ気流の干渉を最小限に抑えられるのは事実でありフィリップスの多様機の翼の幅が狭いのは、その効果を狙っての事だ。
「だが、今度は整備や製作に多大な時間が掛かるだろう」
「うっ」
忠弥に言われてテストは黙り込んだ。
指摘されたとおり、翼の製造に多大な労力が必要だった。
「二枚か三枚にして、揚力を最大限にするよう設計するんだ。そうすれば上手くいくよ」
「どちらにすれば」
「それは君が調べて決めることだ。自分で考えなければ無意味さ。何より自分で作ってみたいと思わないか」
「……はいっ!」
生気を取り戻したテストは、すぐに製作するべく駆け出していった。
「皆、今度は良い飛行機を作ってくれよ」
出て行った三人を見ながら忠弥は呟いた。
戻ってきた三人を忠弥は迎えた。
「さて、全員飛んでみてどうだった?」
思うように飛べなかったために三人は気まずい表情を浮かべていた。
しかし忠弥の視線に耐えられず、やがてベルケから徐々に話し始めた。
「二〇〇キロを超えたかったのですが、速力を出し切れませんでした」
「もっと飛んでいたかったのですが、自らの体力の限界を思い知らされました」
「ものすごい揚力が生まれるはずでしたのに飛べもしない……」
続いてサイクスが答え、最後にテストが半ば泣きながら言う。
「まあそれぞれ、思い通りにならなかっただろうが、何故だと思う?」
それぞれ考え込みつつ話す。
「計算上では二〇〇を超えているはずでした。抵抗になる部分があるようです」
「やはり単独での連続飛行は難しいです。二人以上にする必要が、そのためには大型機の製造が必要になります」
「……揚力をもっと効率よく生み出す必要があります」
「その通りだ」
三人の答えに忠弥は頷く。
「ベルケ、抵抗は何処だと思う?」
「中央の支柱とそこから出て行く張線ですね」
片持ち翼は薄くすると強度が足りず折れてしまう。そのため機体の中央に支柱を立ててそこから張ったワイヤーで支える形にしていた。
「しかし、長い翼を支えるには必要です」
「翼は必要かい?」
「え? 空を飛ぶには必要でしょう」
「最低限飛ぶのに必要な長さですか? 余っている部分があるのでは?」
「しかし翼が短くなると揚力が足りず、かなり速い速度に……」
そこまで言ってベルケは気がついた。
翼は揚力を生むが抵抗になることを。短くすればその分速くなる。
揚力は低下するがスピードアップを目指しているのだから、むしろ好都合。
離陸の時に長い加速が必要になるが、四〇〇〇メートルの滑走路があるのだから目一杯使って加速できる。
「早速、再設計します」
すぐにベルケは飛び出していった。
「サイクス、長距離を飛ぶ必要があるだろう」
「はい、乗員を二人にすべきですね。思うほど飛べないでしょうが」
「どうしてだ」
「二人乗りにすると燃料が積み込めません」
「どうして?」
「いや、エンジンの出力に限界がありますから」
「どうしてだ?」
「一発のエンジンでは無理です」
「何故一発ではダメなんだ。二つじゃダメなのか?」
「いえ、それだとエンジンの故障する確率が上がり、失敗する確率が上がります。大洋横断飛行の時のレポートでそのように」
「あのときはそうだった。だが今回はどうだ? 横断飛行の時は故障したら墜落しかなかったから単発にした。だが今回は飛行場上空の周回飛行だ。異常があれば降りれるが」
「それでは中断します」
「それが何故悪い。長距離飛行であって、何度でも挑戦できるぞ。それにエンジンが故障しても降りて原因を究明して故障しないようにすれば良い。兎に角長く飛べることを考えるんだ。長く飛ぶのに必要なのは」
「……燃料と交代用のパイロット、そしてそれらを積んで飛び上がれるエンジン出力」
「はい、双発機はそれを叶えられる条件が揃っています。今回は、エンジン故障が起きても着陸できますから使用しても問題ないでしょう」
「しかしエンジン故障が起きたら」
エンジン一つが着陸してくれるまで正常に稼働する確率が九割として、双発にした場合八割程度。飛行実験の成功率も八割になってしまう。
「ならば、エンジン故障が起きる原因を探求し再発防止に役立てれば良い」
「しかし」
「エンジンの稼働率が低下するようなら今後も飛行機を作る際、飛ぶ際の障害になる。エンジンの稼働率を上げることは喫緊の課題だ。エンジンの稼働率が飛行機の将来を決める大事な問題だ。やってみようとは思わないか」
「! 分かりました」
サイクスは意気揚々と、出て行った。
最後に入ってきたのは、テストだった。
「どうして失敗したか分かるか」
「……いいえ、何故あんなことになるのか。二一枚の翼で凄まじい揚力が生まれるはずだったのに」
「その翼が問題だったんだよ」
「まさか」
「速度の上昇が抑えられて仕舞う原因は何だ?」
「抗力――飛行機を止めようとする抵抗が増えるからです」
「ああ、翼も大きな抵抗だ。二一枚もあると壁が出来るようなものだ」
現代の飛行機が特別な例外を除いて単葉、一枚の翼しか持たないのは、抵抗が大きな要因だ。
抵抗が少ない方がエンジンの出力を有効に使える。抵抗があるとエンジンは実力を出し切れない。
「しかし、それ以上に揚力が生まれるはず。少し走っただけでも浮かべるはずでは」
「翼が密集しすぎると翼同士で発生する乱流で揚力は低下するんだよ」
複葉機でも翼が上下で離れた箇所に設置されている理由に上下の翼の間隔が狭いと、互いに気流が干渉して揚力が生まれにくいからだ。
翼は真ん中に行くほど上面が膨らみ、やがて萎んでいく形となっているのは、上面を通る気流の速度が高くなり、同時に気圧が低下。その気圧が低下したため、相対的に翼の下の空気圧が高まる。
これによって翼が上に向かって吸い上げ、押し上げられるように揚力が発生するためと言われている。
翼の形によって上下で気圧差を発生させることで揚力を生み出しているのだ。
しかし、翼が密集していると、せっかく作った気圧の差が、すぐ隣にある翼によって打ち消されてしまう。
「しかし、翼の幅を狭めれば干渉は抑えられるのでは?」
翼の幅が狭ければ気流の干渉を最小限に抑えられるのは事実でありフィリップスの多様機の翼の幅が狭いのは、その効果を狙っての事だ。
「だが、今度は整備や製作に多大な時間が掛かるだろう」
「うっ」
忠弥に言われてテストは黙り込んだ。
指摘されたとおり、翼の製造に多大な労力が必要だった。
「二枚か三枚にして、揚力を最大限にするよう設計するんだ。そうすれば上手くいくよ」
「どちらにすれば」
「それは君が調べて決めることだ。自分で考えなければ無意味さ。何より自分で作ってみたいと思わないか」
「……はいっ!」
生気を取り戻したテストは、すぐに製作するべく駆け出していった。
「皆、今度は良い飛行機を作ってくれよ」
出て行った三人を見ながら忠弥は呟いた。
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