新世界の空へ飛べ~take off to the new world~ アルファポリス版

葉山宗次郎

文字の大きさ
110 / 163

ヴォージュ要塞戦の決着

しおりを挟む
「次から次にキリが無い」

 ベルケは、離陸してから通算六機目を撃墜してから呟いた。
 直ぐに離陸するために燃料の給油を最小限で済ませていた。お陰で機体重量が軽くなり、素早い加速と短い離陸距離を手に入れた。
 発進の際にはフットブレーキだけで無く、整備員にも協力して貰ってスロットを上げて飛び出そうとする機体を限界まで掴んで抑えて貰った。
 お陰で爆発的な加速で飛び出し、離陸することが出来た。
 スピードを上げるため、機体が浮いても超低空を維持して加速を続ける。
 迫ってくる敵機は、機体を横滑りさせて躱す。
 一方的に攻撃される時間をベルケは、強靱な精神力で耐えきり、十分に加速すると上昇して、反撃に移った。
 数の優位を行かすと言っても攻撃できるのは、後方に食らいついて至近距離に近づいた時だけだ。
 接近してきた連合の戦闘機を、ベルケは優秀な旋回性能を生かして、後ろに素早く回り込み、銃撃を加えて撃墜した。
 連合の戦闘機は忠弥の訓練の賜物か、二機一組で攻撃してくるため、上手く合わせれば二機同時に撃墜出来る。
 これを何度も繰り返し六機も撃墜出来た。

「エース・イン・ア・デイですかね」

 忠弥が始めたエースの称号制度。五機撃墜すれば、エースの称号が与えられる。
 そして一日で五機撃墜を達成した操縦士のことをエース・イン・ア・デイと呼ぶ。
 これを達成したのは、連合では忠弥と相原少佐と他に数名のみだ。

「我々はしょっちゅうですよ」

 帝国軍航空隊は保有機数とパイロットが少ない。
 そのため、パイロットは一日に何度も出撃しており戦闘の機会が多いため、帝国のパイロットは一日に複数機を撃墜することが多い。
 ベルケも一日に五機以上撃墜したことが三回ほどある。
 それだけ連合側の機体が多いと言うことだが、出撃しないわけにはいかない。放って置けば敵機の数が増えるだけだ。
 今日の空襲で帝国航空隊は壊滅した。だが、まだ諦めない。
 どんな状況になっても再び飛び立つ。その様を見せつけてやるつもりでベルケは飛び立った。
 そして後ろから新たな戦闘機がやって来た。
 同じように躱して撃墜しようとする。

「!」

 だが、その機体はベルケの旋回を予知したように最初の一撃を加えた後、旋回して追撃をかけてきた。
 ベルケは慌てて、垂直降下して躱すしかなかった。

「忠弥さん」

 機体の動き方から忠弥の機体だとベルケは直ぐに分かった。

「本懐です」

 再び相まみえたことをベルケは喜んだ。機体を立て直すと加速し再び上昇する。
 互いに相手の動きを予測し、間合いを計る。
 最初に仕掛けてきたのは忠弥だった。ベルケの機体に向かって再び一撃離脱を試みる。
 ベルケは再び旋回して躱す。だが今度は降下の息を伊を付けて先ほどまでとは地合う軌道を描いて二回目を躱す。
 そして忠弥の背後に付いた。

「貰いました!」

 後は背後にピッタリと付いたまま追いかける。
 最小限の燃料しか積み込んでいないためにベルケの機体は軽く、スピードが出る。
 スピード自慢の忠弥の皇国戦闘機にも追いつける。
 スピードは互角、旋回性能も上昇能力はベルケが上。
 忠弥の背後にピッタリと付いて追いかけることは容易い。
 忠弥は右に左に上に下に、旋回を繰り返しベルケを離そうとする。
 しかし、ベルケはピッタリと食いつきい攻撃の瞬間を待つ。
 そして、忠弥が真っすぐ降下していく瞬間にベルケは引き金を引いた。
 その瞬間、忠弥は機体を急上昇させた。
 計っていたかのようなタイミングでの上昇、しかも降下していたため加速していた機体の上昇は早く攻撃のチャンスを逃した。

「逃がすか!」

 ワンテンポ遅れてベルケも上昇し忠弥を追いかける。ほぼ垂直に登っていった忠弥だったが流石に加速は弱まり減速している。
 後はベルケが、機首を忠弥の方に向けて銃撃すれば撃墜出来る。
 速度の遅くなった戦闘機の背後を捕らえて銃撃することなど簡単だとベルケが思った。
 その時だった。
 突然、忠弥の機体が、急速に背面を見せた。
 まるでその場で主翼を軸にして回転し、機体の前後を入れ替えたかのような凄まじい方向転換したようだった。
 見たことの無い機動にベルケは目を見開いた。

「!」

 だが驚いた瞬間がベルケの命取りになった。
 発砲までの時間が遅れて、忠弥の攻撃を許した。
 忠弥の機体から放たれた機銃弾は、ベルケの機体のエンジンに命中し、煙を噴いて地上に落ちていった。



「何とかなったな」

 後方に張り付かれて追いかけられてきたときは命が縮まったが、奥の手ストールターン――急上昇して上昇の頂点で急旋回して機体を反転させて攻撃に移る空戦技だ。
 急上昇時と反転の瞬間が危険なために使いにくい技だが、初見のベルケ相手には効いた。
 落ちていく機体を最後まで見ようとしたが地上の対空砲火が凄まじく、忠弥は途中で断念して、機体を旋回させた。
 ベルケが地上に降りたかどうかだけでも見届けたかったが、出来なかった。

「他に離陸してくる機体はないようだな」

 忠弥は周りを見て安堵の溜息を吐いた。
 新たに離陸してくる帝国軍機はなく空は連合の物だった。
 要塞上空の制空権は連合軍が完全に確保し、回りを飛んでいるのは連合軍機だけだった。

「よし、帰るか」

 忠弥は大勝利を確信して、帰路に就いた。



 忠弥の予想通り、戦いは連合の大勝利だった。
 のちに大空襲と呼ばれた、この日の一〇波以上に及ぶ波状攻撃により、帝国軍航空隊の機材は八割以上を喪失。
 滑走路や地上設備にも大損害が生じ、作戦能力をほぼ失い後退した。
 ヴォージュ要塞上空は連合側の天下となり、大空襲翌日から包囲していた帝国軍に対する攻撃を開始。
 包囲していた帝国軍の重砲群と後方補給基地に対して攻撃を敢行。
 要塞を砲撃していた重砲群と、包囲していた将兵の食料を断った。
 攻撃続行不能となった帝国軍はこれ以上の攻勢を断念。
 撤退を開始した。
 以降、帝国軍の進撃は止まり、両軍とも塹壕に籠もって先頭は膠着状態になる。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

男女比1対5000世界で俺はどうすれバインダー…

アルファカッター
ファンタジー
ひょんな事から男女比1対5000の世界に移動した学生の忠野タケル。 そこで生活していく内に色々なトラブルや問題に巻き込まれながら生活していくものがたりである!

転生特典〈無限スキルポイント〉で無制限にスキルを取得して異世界無双!?

スピカ・メロディアス
ファンタジー
目が覚めたら展開にいた主人公・凸守優斗。 女神様に死後の案内をしてもらえるということで思春期男子高生夢のチートを貰って異世界転生!と思ったものの強すぎるチートはもらえない!? ならば程々のチートをうまく使って夢にまで見た異世界ライフを楽しもうではないか! これは、只人の少年が繰り広げる異世界物語である。

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

狼になっちゃった!

家具屋ふふみに
ファンタジー
登山中に足を滑らせて滑落した私。気が付けば何処かの洞窟に倒れていた。……しかも狼の姿となって。うん、なんで? 色々と試していたらなんか魔法みたいな力も使えたし、此処ってもしや異世界!? ……なら、なんで私の目の前を通る人間の手にはスマホがあるんでしょう? これはなんやかんやあって狼になってしまった私が、気まぐれに人間を助けたりして勝手にワッショイされるお話である。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~

空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。 もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。 【お知らせ】6/22 完結しました!

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

処理中です...