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聖夜祭休戦5
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連絡のあった前線基地に降り立った昴は荒々しく飛行機をエプロンに入れるとエンジンを停止させ、立ち上がって叫んだ。
「ベルケ!」
指揮所の前に立っている帝国軍の飛行服を着た男性が、昴の声に反応して振り返った。
ベルケの姿を確認した昴はベルケの前に駆け寄り尋ねた。
「生きていたのね」
「……エンジンに当たりましたが、運良く火は出ず。地上すれすれで態勢を立て直し、不時着して生き延びました」
「そう、そうか、良かったわ」
ベルケの言葉に昴は喜んだ。
前は、忠弥と自分にに銃を向けてきたベルケを嫌っていたが、その時はその時、今は今。
連合軍が優位に立っている精神的余裕もあり、昴はおおらかだった。
「忠弥が心配して会いたがっているわ。後方の基地まで来て」
「さすがにそれは……」
「今は聖夜祭の休戦中よ。問題ないわよ。不時着機の回収で交渉しに来たのなら、忠弥に相手の指揮官と会うのに問題ないわ」
「しかし、私には中間地帯に落ちた部下達を祖国に帰す義務が」
司令部に届けられた電文は中間地帯の不時着機および墜落機を回収するための交渉にやってきたベルケにどう対応するかの問い合わせだった。
「そんな事、あたしの権限で認めます!」
先頃までの戦果と軍への協力で空軍少佐に任命された昴だったが、部隊指揮官ではないため、勝手に休戦に同意することは出来ない。
だが、忠弥の婚約者と見なされていたし、持ち前の押しの強さから忠弥と同等とみられていて、空軍内では彼女の言葉には誰もが従った。
特に航空都市にいた人間には顕著でベルケも例外ではなかった。
「ですが……」
「ええい! いいからこいつに乗って飛んで行きなさい」
「は、はい」
昴はそのままベルケを自分の乗ってきた飛行機の操縦席へ押し込んで座らせ、離陸させた。
「……なぜ操縦させるのです」
半ば強引に操縦を押しつけさせられたベルケは後席の昴に尋ねる。
「お酒飲んでいて今になって酔いが回ってきたの。操縦は任せます」
離陸して気が抜けたのか昴は夢心地のような表情で答える。
「違います。どうして操縦を預けられるのです。私が、このまま帝国軍基地へ向かい貴方を捕虜にしたららどうするつもりなんです」
「そんな事しないでしょう」
「私は帝国軍人です」
「それ以前にベルケでしょう」
「……」
「ベルケはそんな卑怯なことしないし、戦うにしても正面から戦う。こんな棚ぼたを食うような人じゃないし、偶然巡ってきた良きことに水を差す奴でもない。それに」
「それに?」
「忠弥が一番信頼していて今会いたがっている人だから」
「……本当ですか?」
「ええ、パーティーしているんだけど、航空都市の時代が良かった。ベルケに会いたいと言っていたわ」
「だから、私を連れに?」
「ええ、忠弥のために頑張るって私決めたから。忠弥のために何でもするわ、夜空に輝く星、昴の名にかけて。好きな人の願い事くらい、星なら叶えてあげたいわ。ここで酔い潰れて、貴方に操縦を押しつけたのは情けないけど」
「……酔いを覚ましておいてください。聖夜祭はまだこれからでしょう」
「……ありがとう……」
「全く、無茶をしてくれるよ」
事情を聞いた忠弥は昴に呆れつつも、笑みを向け、心の中で感謝した。
そしてベルケの助けも借りて、後席で寝ていた昴を下ろし寝かせた。
「久しぶりだねベルケ」
「ご無沙汰しております」
「ああ、空では何度か会っているが顔を合わせるのは久方ぶりだ」
少々ぎこちなく二人は会話する。
空戦では互いに死力を尽くして戦い、出し切っているので遺恨はない。
色々と話したいことはあるがいざとなると、どうも滑らかに話すことが出来ない。
「あっ、ベルケ!」
その時、テストがベルケを見つけ叫んだ。
すぐさま気がついた連合軍の兵士達が駆け寄り、ベルケを取り囲む。
「よくもここに顔を出せたな」
連日の戦闘で気が立っている将兵達は、汚い言葉を浴びせる。
戦闘で死んだ仲間や、地上部隊に配属され要塞戦で戦死した友人を持つ者もいる。
そこへ現れた敵の航空隊の指揮官に向けてそれまでため込んでいた憎悪をむき出しにしていた。
「どうしたんじゃ?」
そこへやってきたのはパーティーを楽しんでいた碧子だった。
「子供はすっこんでいろっ!」
「無礼な!」
浴びせられた罵声を素早く叱責した。
「妾は皇国空軍司令官碧子内親王であるぞ! 他国の将兵とはいえ、罵声を浴びせられるいわれはない!」
「! し、失礼いたしましたっ!」
慌ててその場の共和国側の先任であるテストが頭を下げて謝罪した。
それをみた他の将兵も黙り込んだ。
碧子は更にたたみかける。
「ただいま我々は休戦中である! 互いに戦わぬと誓った以上、敵対行為は厳禁じゃ! 戦っての遺恨はあるじゃろう。じゃが休戦を互いに認めたからには人として約定を勝手に破棄することは許されぬ! 各国に隔たりはあろうが、祖国の名誉のため、休戦を自ら破棄する様な真似は止めよ! 感情に振り回され、相手をけなす派己と祖国をけなす行為であると心得よ!」
碧子の言葉に、圧倒され全員が渋々ながらも従い、黙り込んだ。
騒ぎの真ん中にいたテストはバツが悪くなったのか、部下を引き連れてその場を離れた。
「ありがとうございます司令官閣下」
「気にせんで良い。司令官の役目じゃ。それにせっかく昴が作ってくれた機会じゃ。それを無碍にしとうない」
「ありがとうございます」
碧子なりに昴の事を思ってくれていることに忠弥は感謝して礼を言った。
「ベルケ!」
指揮所の前に立っている帝国軍の飛行服を着た男性が、昴の声に反応して振り返った。
ベルケの姿を確認した昴はベルケの前に駆け寄り尋ねた。
「生きていたのね」
「……エンジンに当たりましたが、運良く火は出ず。地上すれすれで態勢を立て直し、不時着して生き延びました」
「そう、そうか、良かったわ」
ベルケの言葉に昴は喜んだ。
前は、忠弥と自分にに銃を向けてきたベルケを嫌っていたが、その時はその時、今は今。
連合軍が優位に立っている精神的余裕もあり、昴はおおらかだった。
「忠弥が心配して会いたがっているわ。後方の基地まで来て」
「さすがにそれは……」
「今は聖夜祭の休戦中よ。問題ないわよ。不時着機の回収で交渉しに来たのなら、忠弥に相手の指揮官と会うのに問題ないわ」
「しかし、私には中間地帯に落ちた部下達を祖国に帰す義務が」
司令部に届けられた電文は中間地帯の不時着機および墜落機を回収するための交渉にやってきたベルケにどう対応するかの問い合わせだった。
「そんな事、あたしの権限で認めます!」
先頃までの戦果と軍への協力で空軍少佐に任命された昴だったが、部隊指揮官ではないため、勝手に休戦に同意することは出来ない。
だが、忠弥の婚約者と見なされていたし、持ち前の押しの強さから忠弥と同等とみられていて、空軍内では彼女の言葉には誰もが従った。
特に航空都市にいた人間には顕著でベルケも例外ではなかった。
「ですが……」
「ええい! いいからこいつに乗って飛んで行きなさい」
「は、はい」
昴はそのままベルケを自分の乗ってきた飛行機の操縦席へ押し込んで座らせ、離陸させた。
「……なぜ操縦させるのです」
半ば強引に操縦を押しつけさせられたベルケは後席の昴に尋ねる。
「お酒飲んでいて今になって酔いが回ってきたの。操縦は任せます」
離陸して気が抜けたのか昴は夢心地のような表情で答える。
「違います。どうして操縦を預けられるのです。私が、このまま帝国軍基地へ向かい貴方を捕虜にしたららどうするつもりなんです」
「そんな事しないでしょう」
「私は帝国軍人です」
「それ以前にベルケでしょう」
「……」
「ベルケはそんな卑怯なことしないし、戦うにしても正面から戦う。こんな棚ぼたを食うような人じゃないし、偶然巡ってきた良きことに水を差す奴でもない。それに」
「それに?」
「忠弥が一番信頼していて今会いたがっている人だから」
「……本当ですか?」
「ええ、パーティーしているんだけど、航空都市の時代が良かった。ベルケに会いたいと言っていたわ」
「だから、私を連れに?」
「ええ、忠弥のために頑張るって私決めたから。忠弥のために何でもするわ、夜空に輝く星、昴の名にかけて。好きな人の願い事くらい、星なら叶えてあげたいわ。ここで酔い潰れて、貴方に操縦を押しつけたのは情けないけど」
「……酔いを覚ましておいてください。聖夜祭はまだこれからでしょう」
「……ありがとう……」
「全く、無茶をしてくれるよ」
事情を聞いた忠弥は昴に呆れつつも、笑みを向け、心の中で感謝した。
そしてベルケの助けも借りて、後席で寝ていた昴を下ろし寝かせた。
「久しぶりだねベルケ」
「ご無沙汰しております」
「ああ、空では何度か会っているが顔を合わせるのは久方ぶりだ」
少々ぎこちなく二人は会話する。
空戦では互いに死力を尽くして戦い、出し切っているので遺恨はない。
色々と話したいことはあるがいざとなると、どうも滑らかに話すことが出来ない。
「あっ、ベルケ!」
その時、テストがベルケを見つけ叫んだ。
すぐさま気がついた連合軍の兵士達が駆け寄り、ベルケを取り囲む。
「よくもここに顔を出せたな」
連日の戦闘で気が立っている将兵達は、汚い言葉を浴びせる。
戦闘で死んだ仲間や、地上部隊に配属され要塞戦で戦死した友人を持つ者もいる。
そこへ現れた敵の航空隊の指揮官に向けてそれまでため込んでいた憎悪をむき出しにしていた。
「どうしたんじゃ?」
そこへやってきたのはパーティーを楽しんでいた碧子だった。
「子供はすっこんでいろっ!」
「無礼な!」
浴びせられた罵声を素早く叱責した。
「妾は皇国空軍司令官碧子内親王であるぞ! 他国の将兵とはいえ、罵声を浴びせられるいわれはない!」
「! し、失礼いたしましたっ!」
慌ててその場の共和国側の先任であるテストが頭を下げて謝罪した。
それをみた他の将兵も黙り込んだ。
碧子は更にたたみかける。
「ただいま我々は休戦中である! 互いに戦わぬと誓った以上、敵対行為は厳禁じゃ! 戦っての遺恨はあるじゃろう。じゃが休戦を互いに認めたからには人として約定を勝手に破棄することは許されぬ! 各国に隔たりはあろうが、祖国の名誉のため、休戦を自ら破棄する様な真似は止めよ! 感情に振り回され、相手をけなす派己と祖国をけなす行為であると心得よ!」
碧子の言葉に、圧倒され全員が渋々ながらも従い、黙り込んだ。
騒ぎの真ん中にいたテストはバツが悪くなったのか、部下を引き連れてその場を離れた。
「ありがとうございます司令官閣下」
「気にせんで良い。司令官の役目じゃ。それにせっかく昴が作ってくれた機会じゃ。それを無碍にしとうない」
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碧子なりに昴の事を思ってくれていることに忠弥は感謝して礼を言った。
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