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爆撃の被害
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爆撃目標に到達できないと爆撃機乗りが判断したとき、爆弾を落として身軽になり、帰還するという事は第一次大戦や第二次大戦でも起きたことだ。
ただ少しでも損害を与えようと、ルート上の目立つ目標に爆弾を嫌がらせで落とすことが多い。
この飛行船も同じ考えで、帰還航路上にあった街へ爆弾を落とした。
「ああっ」
船体から離れて落下していく爆弾を見て昴は悲鳴を上げた。
叫ぶが爆弾は、自由落下して行きデパートの近くに落ちた。
激しい爆発が起き、建物は爆煙に包まれ姿が消える。
先日宝石を売ってくれたジョン・クラークの顔が昴の頭の中で鮮明に思い出される。
自分のために宝石を選んでくれた少年と出会った場所が爆煙に包まれていた。
「っこのおおおっっっ」
一瞬呆然とした昴は、すぐに脳天が沸騰するほどの怒気を爆発させ叫んだ。
操縦桿を倒しスロットルを押し込んで増速すると率いていた小隊も僚機も置き去りにして飛行船に突進する。
「絶対に落としてやる!」
人々が暮らす場所に爆弾を落とし破壊していった悪魔に、破壊者にこの手で天誅を食らわさなければ気が済まなかった。
先日自分が訪れた場所を、楽しい時を過ごした場所を、永遠に消し去った連中を打ち倒さなければ、自分が守ると約束した場所を破壊した飛行船を撃墜することを決意していたあ。
だが重量物である爆弾を落として身軽になった飛行船は高度と速度を上げて離脱を図る。
これまでの遅さが嘘のように機敏に上昇し、昴から離れていこうとする。
それでも昴はなおも飛行船に食いつこうと機体を接近させる。
「うわああああっっっ」
船体を覆う布の縫い目さえ見えるほど飛行船に近づくと昴はトリガーを握りつぶすほどの力で引き、船体に銃弾をたたき込む。
しかし、すぐに機関銃は沈黙した。
「弾切れっ」
二丁の機関銃には五〇〇発ほどの弾丸が装填されている。
しかし機関銃の発射速度は毎分五〇〇発であり一分も引き金を引いていると、弾切れを起こしてしまう。
昴は何度も攻撃を仕掛けたため、弾切れになってしまった。
「畜生っ」
「昴、戻るんだ」
忠弥が無線を通じて命じた。
「でも、落とさないとまた帰ってくるわよ」
「その前に僕たちが落ちる。燃料は残っているかい?」
忠弥に言われて燃料計を見る。すでに燃料の残りは三十分を切っていた。
戦闘でエンジンの出力を上げっぱなしにしていたため燃料消費が多くなっており、急激に消費してしまった。
「他の機体も燃料がなくなりかけている。すぐに引き返すんだ」
「……分かったわ」
昴は忠弥の忠告に従い、機体を翻して飛行場に向かって戻っていった。
翌日、昴はクラークハロッズへ赴くために街の中を歩いていた。だが、その足取りは重かった。
昨日、爆煙に包まれたクラークハロッズの建物の光景がフラッシュバックして最悪の事態を考えて仕舞うからだ。
そのショックは激しく着陸した昴は機体から降りるとすぐに宿舎に戻りベッドの上に突っ伏してそのまま眠ってしまったほどだ。
起きても気分が優れずベッドの中で眠り続けようとしたが、爆煙に包まれる建物の光景を思い出してしまって眠ることも出来ない。
気になって仕方が無かったために、踏ん切りを付けるべく、クラークハロッズがどうなったか自分の目で確かめるべく街の中心街へ向かった。
何時もの快活な昴ならばすぐに突くはずだったが、昨日のことを考えると足取りは重い。 だが、自ら赴くことが義務であると思った昴は引き返す気にはなれず、進んでいく。
昴が歩みを進め、中心部に近づくにつれ、爆撃の痕跡が見えてきた。
中心部を狙って投下されたのだから当然だったが、被害を見るにつけ昴の心は締め付けられる。
最初は道の端に小さな破片が転がっていただけだったが、徐々に破片の大きさが大きくなり、片づけようとする住人が増えていた。
そして、中心近くで二階部分が大きく破損し屋根と壁が崩れた建物を見たとき昴の背筋に冷たいものが走った。
直前まで人が住んでいたようで、破口の部分は壊れていたが、内部はテーブルやドレッサーなどのインテリアがそのままの状態で置かれていた。
崩れた部分と取り残され無事だが外に露出してしまった対照的な光景に、日常の中に戦争が入り込み突如牙を剥いた事を象徴する姿に昴は息をのんだ。
あのデパートも同じように崩壊しているのではないか。
そんな不安が昴の脳裏によぎる。
足取りは更に重くなるが昴は前に進んだ。
そして、最後の曲がり角を過ぎて、クラークハロッズの建物が見える場所まで来た。
建物全体は無事なようだった。
地面の手前に大きなクレーターがある事から、爆弾は建物の手前に落ちたようだった。
だが、投下されたのが大型爆弾だったため、衝撃はすさまじく、爆風が建物を襲い、壁の一部が崩落し、デパートの中が見えていた。
やはり無傷では済まなかったことに昴は衝撃を受けた。
一瞬、気が遠くなり、倒れそうになる。
それでも脚に力を入れて踏ん張り、前に進む。
やがて、建物の破口の部分に布が横切っているのが目に入った。
ただ少しでも損害を与えようと、ルート上の目立つ目標に爆弾を嫌がらせで落とすことが多い。
この飛行船も同じ考えで、帰還航路上にあった街へ爆弾を落とした。
「ああっ」
船体から離れて落下していく爆弾を見て昴は悲鳴を上げた。
叫ぶが爆弾は、自由落下して行きデパートの近くに落ちた。
激しい爆発が起き、建物は爆煙に包まれ姿が消える。
先日宝石を売ってくれたジョン・クラークの顔が昴の頭の中で鮮明に思い出される。
自分のために宝石を選んでくれた少年と出会った場所が爆煙に包まれていた。
「っこのおおおっっっ」
一瞬呆然とした昴は、すぐに脳天が沸騰するほどの怒気を爆発させ叫んだ。
操縦桿を倒しスロットルを押し込んで増速すると率いていた小隊も僚機も置き去りにして飛行船に突進する。
「絶対に落としてやる!」
人々が暮らす場所に爆弾を落とし破壊していった悪魔に、破壊者にこの手で天誅を食らわさなければ気が済まなかった。
先日自分が訪れた場所を、楽しい時を過ごした場所を、永遠に消し去った連中を打ち倒さなければ、自分が守ると約束した場所を破壊した飛行船を撃墜することを決意していたあ。
だが重量物である爆弾を落として身軽になった飛行船は高度と速度を上げて離脱を図る。
これまでの遅さが嘘のように機敏に上昇し、昴から離れていこうとする。
それでも昴はなおも飛行船に食いつこうと機体を接近させる。
「うわああああっっっ」
船体を覆う布の縫い目さえ見えるほど飛行船に近づくと昴はトリガーを握りつぶすほどの力で引き、船体に銃弾をたたき込む。
しかし、すぐに機関銃は沈黙した。
「弾切れっ」
二丁の機関銃には五〇〇発ほどの弾丸が装填されている。
しかし機関銃の発射速度は毎分五〇〇発であり一分も引き金を引いていると、弾切れを起こしてしまう。
昴は何度も攻撃を仕掛けたため、弾切れになってしまった。
「畜生っ」
「昴、戻るんだ」
忠弥が無線を通じて命じた。
「でも、落とさないとまた帰ってくるわよ」
「その前に僕たちが落ちる。燃料は残っているかい?」
忠弥に言われて燃料計を見る。すでに燃料の残りは三十分を切っていた。
戦闘でエンジンの出力を上げっぱなしにしていたため燃料消費が多くなっており、急激に消費してしまった。
「他の機体も燃料がなくなりかけている。すぐに引き返すんだ」
「……分かったわ」
昴は忠弥の忠告に従い、機体を翻して飛行場に向かって戻っていった。
翌日、昴はクラークハロッズへ赴くために街の中を歩いていた。だが、その足取りは重かった。
昨日、爆煙に包まれたクラークハロッズの建物の光景がフラッシュバックして最悪の事態を考えて仕舞うからだ。
そのショックは激しく着陸した昴は機体から降りるとすぐに宿舎に戻りベッドの上に突っ伏してそのまま眠ってしまったほどだ。
起きても気分が優れずベッドの中で眠り続けようとしたが、爆煙に包まれる建物の光景を思い出してしまって眠ることも出来ない。
気になって仕方が無かったために、踏ん切りを付けるべく、クラークハロッズがどうなったか自分の目で確かめるべく街の中心街へ向かった。
何時もの快活な昴ならばすぐに突くはずだったが、昨日のことを考えると足取りは重い。 だが、自ら赴くことが義務であると思った昴は引き返す気にはなれず、進んでいく。
昴が歩みを進め、中心部に近づくにつれ、爆撃の痕跡が見えてきた。
中心部を狙って投下されたのだから当然だったが、被害を見るにつけ昴の心は締め付けられる。
最初は道の端に小さな破片が転がっていただけだったが、徐々に破片の大きさが大きくなり、片づけようとする住人が増えていた。
そして、中心近くで二階部分が大きく破損し屋根と壁が崩れた建物を見たとき昴の背筋に冷たいものが走った。
直前まで人が住んでいたようで、破口の部分は壊れていたが、内部はテーブルやドレッサーなどのインテリアがそのままの状態で置かれていた。
崩れた部分と取り残され無事だが外に露出してしまった対照的な光景に、日常の中に戦争が入り込み突如牙を剥いた事を象徴する姿に昴は息をのんだ。
あのデパートも同じように崩壊しているのではないか。
そんな不安が昴の脳裏によぎる。
足取りは更に重くなるが昴は前に進んだ。
そして、最後の曲がり角を過ぎて、クラークハロッズの建物が見える場所まで来た。
建物全体は無事なようだった。
地面の手前に大きなクレーターがある事から、爆弾は建物の手前に落ちたようだった。
だが、投下されたのが大型爆弾だったため、衝撃はすさまじく、爆風が建物を襲い、壁の一部が崩落し、デパートの中が見えていた。
やはり無傷では済まなかったことに昴は衝撃を受けた。
一瞬、気が遠くなり、倒れそうになる。
それでも脚に力を入れて踏ん張り、前に進む。
やがて、建物の破口の部分に布が横切っているのが目に入った。
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