架空戦記 旭日旗の元に

葉山宗次郎

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江草隆繁 ピケット艦への攻撃

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『方位三二〇に敵電探反応、攻撃されたし』
「了解、攻撃する。本部小隊続け」

 電子彩雲の指示に従い、ロケット弾装備の零戦改は手はず通り進路を変更し降下を始める。
 胴体下方についた落下式増槽を落として、速度を出しやすくる。降下の勢いもあってすぐに時速は五〇〇キロ近くになる。
 妙なことになったな
 海面に向かって降下しつつ江草は考えた。
 高橋と共に江草は一流の艦爆乗りとして勇名を馳せて来た。
 これまで急降下爆撃で沈めてきた船の数は数えきれないほどだ。
 しかし、今乗っているのは艦爆ではなく艦戦だ。
 仕事の内容は攻撃隊のために敵艦を撃破すること。そのため両翼に対艦攻撃用のロケット弾をぶら下げて敵艦に向かっているが、艦爆でないことが心穏やかでない。
 自分の部下も全員、艦爆から艦戦へ転換している。
 ミッドウェーで上空援護がないために空母三隻が撃沈あるいは大破した。
 その戦訓から艦戦を増やしたのは間違いではない。
 それが艦爆からの転換というのが気にくわない。
 もちろん、九九艦爆が特徴的な固定脚のため敵戦闘機に狙われやすく損失が大きいことは分かっている。
 後継機の彗星はよい機体だがエンジンが気難しく稼働率が半分以下というひどい有様で艦爆という機種がろくな働きをしなくなり始めている。
 だが一番大きな原因は急降下爆撃が実行不可能な戦術になりつつあることだ。
 米軍の防空力が向上したため、突入前高度三〇〇〇メートルへ濃密な高射砲射撃、特に最近は近接信管が使用されはじめ、敵艦隊上空へ進むだけで撃墜されてしまう。
 損害を乗り越えて敵艦に向けて急降下中でも敵艦の近接防御、ボフォース四〇ミリ砲、アイスキャンディー――ブローニング五十口径機関銃が雨のように降り注いできては、急降下爆撃という戦術そのものが自殺行為となっている。
 そのため攻撃方法が海面すれすれを飛んで機関砲が狙いにくくする低空攻撃以外にない。
 江草たちが零戦改に乗っている理由もそれだ。
 高速の零戦で水面すれすれを通り敵に迅速に接近して迎撃機を振り切り、対空砲の射程をスピードで突っ切り敵に接近して攻撃する。
 これが一番、効果的で生存率の高い戦法になったのだ。
 だが、艦爆一筋、急降下で多大な戦果を挙げてきた江草には面白くない。
 もちろん長年指揮官をしてきた江草は米軍の防空力向上と急降下爆撃の危険をよく知っている。
 しかし、自分が長年心血を注いで磨き上げてきた腕を決戦で使えないのは残念だ。
 だが、この決戦に勝たなければ日本が勝てないことも知っている。
 有効な戦術を使い勝利に貢献することこそ士官であり自己満足のために攻撃するなどおろかだ。
 だから江草は上空から目標を見つけて狙いを定めた。

「前方の駆逐艦を攻撃する」

 フレッチャー型駆逐艦。
 五基の主砲をこちらに向けている。
 単独で航行しているのはレーダーピケット任務、本隊に接近する自分たちを見つけ出すために出ているのだろう。
 そのため本隊の援護はない。
 戦闘機が配属されているはずだが、マリアナの第一航空艦隊や味方の制空隊が抑えているため、江草たちが狙われることはなかった。
 だからゆっくりと着実に接近してゆく。
 敵の射程外で降下して敵艦のいる方向へ全速で突き進む。
 水平線上に敵艦が浮き上がってきた。
 四〇ミリが放たれてきたが無視して狙いを定める。
 やがて敵艦に距離三〇〇〇まで接近すると発射スイッチを押した。
 両翼の下に装備されたロケット弾各一九発、合計三八発が駆逐艦に向かう。
 部下の三機も発射したため合計一四四発が駆逐艦に向かう。
 広い散布界のため九割は外れたが、数が多いため十二発が命中し、弾頭の焼夷弾がさく裂し、周囲に炎をまき散らした。
 駆逐艦の甲板は火だるまになった。
 対空火器はすべて甲板上に配置されている。
 炎の温度は数百度、銃身は耐えられても操作する機銃手は生身のため耐えられない。
 機銃弾を跳ね返す楯も回り込んでくる熱気を防ぐことはできない。
 何より問題なのは、遠方から接近する敵機を探知するレーダーアンテナが熱によって変形、特に送信部と受信部が焼き切れ、機能停止した。
 他のピケット艦も江草の部下たちが攻撃し、機能不全とした。
 ただでさえマリアナからの航空攻撃に対応するため引き抜かれていた西側のピケット艦は一隻残らず沈黙。
 第五艦隊は西への目を、攻撃隊を見つける目を失った
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