架空戦記 旭日旗の元に

葉山宗次郎

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米軍の被害

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「被害は?」

 司令長官のスプールアンスは旗艦重巡洋艦インディアナポリスで幕僚に尋ねた。
 ハルゼーと違い小家族主義のスプールアンスは、合衆国史上最大の艦隊を率いる身となっても長年愛用している重巡から離れる気はなかった。
 いや大艦隊を率いるからこそ司令部の人間は厳選し互いを知り合っているようにしなければならないと考えていた。
 そのためインディアナポリスに乗れるだけの幕僚しか司令部には入れていない。
 だからと言って私的な結びつきを重視するのではなく、合衆国海軍きっての知将として配下の幕僚にそれ相応の能力を求めていた。
 しかし、その厳選された幕僚たちでさえ青ざめていた。

「攻撃を受けた空母群は壊滅です。空母と軽空母が一隻ずつ撃沈、もう一隻の空母は大破炎上中。夜明けまでには沈むでしょう」

 日本軍の攻撃は的確だった。
 四〇〇機以上の攻撃機による集中攻撃を受けては幾らダメージコントロールに定評のあるアメリカ海軍の空母でも浮いてはいられない。
 特に南山が攻撃した空母は、艦橋への銃撃により艦の幹部の多数が戦死した。
 CICも雷撃による発電機損傷、電源喪失により機能停止、ダメージコントロール要員に的確な指示が出せず、沈没してしまった。
 読み上げられる被害の大きさに幕僚たちは戦慄した。
 保有する四個空母群の一つが消滅した。
 サイパンへの上陸も始まったこの時期に活動を活発化させた陸上航空隊と日本の機動部隊を相手をしなくてはならない。
 さらに上陸した部隊への支援もある。
 そして主戦力である空母への被害。保有する空母の内四分の一を失った。
 通常なら作戦中止、撤退が定石だ。

「ワシントンの作戦部長から通信です」

 通信兵が受信した通信文もって部屋に入って来た。

「マリアナ攻略は本戦争の趨勢を決める戦いである。撤退は許されない。ありとあらゆる手段を用いて攻略せよ」

 陸軍主体のノルマンディーへの上陸が成功した今、海軍主体のマリアナ攻略を成功させなければ発言権を持てないと考えたキング部長らしい命令だ。
 同時に海軍次官時代から合衆国海軍を私の海軍と言ってはばからない大統領の意向であるとスプールアンスは見抜いていた。
 これ以上の損害が出ても続行だろう。

「諸君命令は下った。何としても遂行しよう」
「しかし、どう対応するのです。敵の機動部隊が出てきたのは確実です」

 撃墜した敵機のパイロットを尋問した結果、彼らが空母から発艦したことはわかっている。
 襲撃してきた機種が艦載機であることからも明らかだ。
 しかし、日本機動部隊の位置を米機動部隊はつかんでいなかった。

「しかも陸上航空部隊も襲撃してきています。現有戦力で戦うのは難しいのでは?」
「その通りだ」

 スプールアンスは幕僚の意見を肯定した。

「だからこそ、順番を誤ってはいけない。しかも深夜までに明日の作戦を立てないといけない」
「攻撃するのですか」
「自ら動かなければ勝利はつかめないよ」

 知将として有名なスプールアンスだが、意外に血の気が多い。
 トラック襲撃の際は自ら戦艦に乗り込み脱出する艦艇の追撃に出て行ったほどだ。

「先ほど敵艦隊の誘導電波らしいものをキャッチしました。ミッチャー司令官が夜間雷撃の許可を求めております」
「いや、ダメだ。間もなく電波は途切れるだろう。攻撃隊が帰還するとき合流できず多数が失われるし明け方に誘導のための電波を出す必要が出てくる」

 事実夜半過ぎに電波が途切れ、再び日本機動部隊の位置をスプールアンスの艦隊は見失った。もし攻撃隊を発進させても空振りになったのは間違いない。

「一応、この後の作戦方針は立ててみた。みんな検討頼む」

 そう言ってスプールアンスは自分の作戦案を参謀に伝えた。
 はじめは半信半疑だった参謀たちもスプールアンスの作戦案を聞いて徐々に目の輝きを取り戻していった。
 そして会議が終わると、作戦実行のため各部署へ飛んで行った。
 だが状況はさらに悪化していた。



 サイパン島中央部タポチョ山ではサイパン島守備隊が再び集結し二度目の総攻撃を開始した。
 夕方、日本機動部隊が米機動部隊に打撃を与えたことから、米軍の艦砲射撃が薄れていると考えての事だった。

「突撃!」

 深夜、日本軍は総攻撃を開始した。
 総攻撃を警戒していた米軍だったが、連日の攻撃により損害が大きく、物資の揚陸も遅れており武器弾薬が不足していた。
 その上に、日本機動部隊に空母が攻撃されたことから支援艦艇が迎撃のために離脱したことも大きく、艦砲射撃の援護も少なく日本軍の反撃を阻めなかった。
 この日の日本軍の攻撃は順調に進み、米軍の橋頭堡を半分奪回するに至った。。
 日本側の予想通り、米軍は機動部隊の攻撃によって混乱しており、支援の艦艇も出てこなかった。
 そのまま夜が明けて、海での戦いが新たな段階に入ったため、米軍側は日本軍第二回総攻撃への対応は遅れることとなる。
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