架空戦記 旭日旗の元に

葉山宗次郎

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空母雷撃

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 エセックス級大型空母。
 全長270m、船体幅28m、排水量27000t、機関出力15万馬力、最大速力33ノット。
 100機の搭載機を有し2000名以上の乗員が乗り込む大型艦だ。
 太平洋戦争開戦前後に多数建造された空母であり、特に開戦してからは追加発注が行われ三二隻が就役した米軍の主力空母だ。
 南山は見つけた空母に向かって機体を旋回させる。
 向こうも南山に気がついて銃撃を加えてくる。
 アイスキャンディーと日本軍パイロットが呼ぶ長く直進する米軍の対空砲火、直線的に伸びる弾道の軌跡がアイスキャンディーのようにカラフルで長い残光を見せる。
 その景色は美しく、それが自らの命を奪う存在であることを理解していても見惚れてしまう。
 ボフォースだけでなくブローニングも加わり空母は活火山のように砲火を放つ。
 その中心に向かって南山は天山を突進させる。

「距離二〇〇〇」

 照準器に写る敵空母の大きさからおおよその距離を把握する。

「距離一〇〇〇、魚雷安全装置解除」

 偵察員に命じて魚雷がいつでも打ち出せるように準備させる。
 敵の対空砲火はさらに勢いを増し、自分たちを狙っているかのようだった。
 だが南山は冷静にそのときへ向かって天山を操縦する。

「距離六〇〇! 撃っ!」

 投下レバーを引き、魚雷が放たれる。
 魚雷は数メートル下の海面に突っ込んだあと、白い航跡を残して走り始める。

「うおおおっ」

 魚雷が放たれ、重量物が無くなった機体が浮き上がろうとする。
 それを南山は必死になって抑え、海面すれすれの高度を維持する。

「魚雷航走!」

 後ろを見ていた電信員が報告した。魚雷がまともに走らないことがあるので動くかどうか確認する必要があるので見ていた。
 今回も魚雷が無事に走り出したことに安堵しつつ八〇〇キロの重量物がなくなり浮き上がる機体を制御し、敵の放火に飛び込まないようにする。
 だが、海面にいつまでもへばりついている訳にはいかない。

「ぜ、前方に敵空母」

 海面からそそり立つような巨大な敵空母が目の前に迫っていた。
 敵の飛行甲板より下を飛んでいたため、このままではぶつかる。

「飛び越えるぞ!」

 回避している余裕はないため高度を上げて飛び越す。

「旋回機銃で敵の艦橋に挨拶してやれ」
「よ、宜候!」

 右へ九〇度旋回させた時、飛行甲板の上に到達した。

「打て!」

 引き金を引いて敵の艦橋に向かって銃弾を放った。
 高速で流れ去ったために当たったかは分からなかった。

「戦果確認!」

 銃を撃った余韻もない内に一番後ろの電信員が再び後方、飛び越えた敵空母の方向を見る。
 振り向いた直後、二本の水柱が敵空母の反対舷から上がった。

「二本命中! 我が小隊のものです!」
「何とかなったな」

 南山がつぶやくと機内に安堵の雰囲気が流れる。
 三番機も無事に命中させたようだ。新米なのによくやると南山は三番機の方へ視線を移す。
 すると、魚雷を投下して機体が軽くなって自然と上昇していた三番機に多数の銃弾が命中し、火を噴いて落ちていった。

「三番機墜落……」

 味方が落ちていく姿に唖然とする。だがその余裕もなかった。周囲の敵艦が南山の期待に集中砲火を浴びせていた。

「まだ終わっていないぞ。この輪形陣を突破しなければな」

 南山は巧みな操縦で砲火を躱し抜け出していった。
 敵機銃の射程外に出ると、ようやく機首を引き上げ、高度をとり、敵艦隊の様子を見る。

「少尉! 見てください我々が雷撃した敵空母が沈んでいきます! 他の空母も沈んでいきます」

 眼下には三隻の空母、エセックス級空母二隻、インディペンデンス級軽空母一隻が横転し沈み行く光景が見えていた。

「とりあえず空母群の一つは潰せたか。我々の攻撃隊はどうだ?」
「二、三、四、五……我が信濃艦攻隊の生き残りは六機ですね」
「……また生き残ったか……」

 七度目の空母への雷撃成功を何の感慨も無く南山は呟いた。

「少尉、どうしますか?」

 偵察員が尋ねた。
 艦攻隊の隊長機が撃墜されたか、はぐれたために見当たらず手近な艦攻で編隊を組んでおり、その中で最先任の南山が指揮を執っていた。

「母艦に向かいますか? マリアナに向かいますか?」
「夜間着艦は困難だ。テニアン飛行場へ向かう。続け」

 機動部隊への帰投が困難な場合はマリアナの陸上に向かうように指示されていた。
 この指示は的確であり、多くの機体がマリアナに向かい、着陸した。
 進路をテニアンに向け編隊を組み終わると南山はつぶやいた。

「はあ、疲れた。酒が飲みたい」



「報告します。攻撃隊攻撃成功です。これまでの戦果を総合しますと空母一、軽空母一撃沈確実、空母一撃破とのことです」

 薄暮攻撃のため戦果の確認が困難で鵜呑みにはできない。
 だが、米機動部隊に確実に損害を与えられたのは確実なようだ。

「そうか、やってくれたか」

 人殺し多聞丸の目に涙が流れた。
 敗北必至、攻撃失敗が戦う前から予測された中、米軍の激しい迎撃をモノともせず彼らは戦果を挙げてくれた。
 そのことに感謝し感動したのだ。

「よし! 誘導電波流せ!」
「敵に探知され我が方の位置を知られます!」
「構わん! 彼らは数時間も飛んでいるんだ。戦果を挙げて帰ってくるんだ。我が第一部隊のみでも収容させろ。探照灯も照射!」

 参謀は佐久田の方を向いた。
 長官の行動を止める事を期待しての事だ。

「収容は信濃と大鳳、海鳳のみにしましょう。敵の夜間雷撃があっても装甲空母の第一部隊ならば耐えられます。しかし攻撃隊の燃料が切れる二三〇〇には電波発信探照灯照射を止めます」
「よろしい」

 こうして攻撃隊の誘導が行われた。
 母艦に向かった少なからぬ機体が収容され搭乗員の命が助かった。
 
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