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攻撃目標の選定
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「敵大編隊を確認」
エンタープライズのCDCに管制官の声が響いた。
「機数は?」
ジェファーソン少佐は静かに尋ねた。疲労の色が濃いがそんなことも言っていられない。
敵艦隊を撃破しなければ味方が危うい。
「四百機以上、昨日とほぼ同数です」
「やはり来たか」
FCDOとして昨日はひどい目にあったジェファーソン少佐は静かに答えた。
敵の空襲がないと油断して直掩を下ろしてしまった。
だが今日は違う。
スプールアンス長官が増援をくれたこともあり、昨日のようなことにはならない。
「全迎撃機を上げるんだ。総力戦だ。六百機の戦闘機で撃破してやる」
「状況はどうだ?」
「非常に悪いです」
攻撃隊の通信を読んだ佐久田は山口に報告した。
すぐに報告するため、斜め読みして通信量から推計した不正確なものだったが、戦況が不利だと言うことは分かっていた。
「敵の戦闘機が多すぎます。概算で二百、下手をすれば三百。これは上空にいる戦闘機だけで敵空母に残っている機体も考えると六百でしょうか」
上空にすべての航空機を上げることはできない。
発艦スペースもそうだが燃料の補給や搭乗員の休息も考えると上空に上がっている機体のほかに同数の機体が空母で待機していると考えるのが普通だ。
「マリアナからの空襲がないので我々へ全力で迎撃にあたっているようです」
「そうか」
予想していたのか山口は落ち着いていたが、内心は苦虫を噛みつぶしたような気分だ。
先手必勝で発見次第発艦させたがマリアナの第一航空艦隊との連携を行わず、単独での攻撃では敵の迎撃が自分たちに集まってしまう。
だが、マリアナへの空襲が収まるのであれば、第一航空艦隊の出撃も近い。
「テニアン基地より報告。敵の空襲を再度受ける」
「どういうことだ!」
これには山口も驚いた。
敵は第一機動艦隊攻撃隊の迎撃に全力を尽くしているのではないのか。
どうしてマリアナを空襲する余裕があるのだ。
「しまった」
珍しく佐久田が顔をしかめつつ言った。
「どうしたのだ」
「アメリカは商船改造の護衛空母を大量に建造しています。毎週のように一隻完成し、すでに百隻ほどいます。半数ほどは大西洋に行っているでしょうが、残りは太平洋です。航空機の輸送にも使われていますが、揚陸の航空支援にも使われています」
「つまり正規空母は我々の相手をして護衛空母はマリアナへの空襲を継続して行っていると」
「はい」
佐久田の言わんとしていることを山口はすぐさま理解した。
「だが戦闘機はどこから調達したのだ」
「護衛空母の戦闘機を一時的に転属させたのでしょう。代わりに正規空母の攻撃機を護衛空母へ転属させて調整しているのでしょう」
「それでどうする、コクサ」
「護衛空母へ攻撃隊を出しましょう。我々からマリアナへ応援を送っても無意味です。このまま正規空母へ攻撃隊を送っても防空網を突破することはできません。護衛空母を撃沈しマリアナへの空襲を阻止します」
「待ちたまえ」
二人の間に参謀長の古村少将が割って入った。
「せっかく見つけた敵の正規空母を放っておくのか」
「残念ながら敵の防空網は堅固です。突破できる可能性はありません。ならばマリアナを攻撃している護衛空母群を攻撃すべきでしょう。今出ている攻撃隊の残存兵力を再建すれば、十分に打撃を与えられます」
「あんな小型艦を沈めたところで戦局に寄与しない」
古村は護衛空母攻撃を嫌がった。
商船より軍艦、中でも大型艦を攻撃する事が日本海軍は好んでいる。
商船改造の空母より正規空母を撃沈したいと望む者は多い。
だから古村の意見に同意する者が多かった。
「しかし、護衛空母から出ている攻撃隊によりマリアナが行動不能に陥っています」
だが合理主義の佐久田は、目的達成のためなら商船改造空母でも目標とし正規空母に拘泥しなかった。
「マリアナ基地攻撃を中止させるだけでも戦局は変わります。第一航空艦隊の機体だけでなく、我々の機体も上がり戦力になります」
「敵の空母を沈める好機を見逃すのか」
参謀長の意見にも一理あった。
互いに高速で移動する空母を常に捕捉し続けることは不可能に近い。
見敵必殺は、海上で敵と遭遇できる機会が少ないために海軍内で言われている面もある。
意見は平行線をたどっていたが、そのとき一つの通信文が入ってきた。
「第一航空艦隊から報告です。基地上空の制空権を確保に成功。他の基地の復旧が終了次第、敵機動部隊に空襲をかけるそうです」
「おお!」
第一航空艦隊が再び活動を再開できると知って参謀たちは喜んだ。
「これで仕留められる」
喜びに沸く司令部の中でただ一人佐久田は渋い顔をしていた。
「どうした航空参謀」
何時も表情が暗い佐久田が更に表情を暗くしているのを見た山口が尋ねた。
「いえ、何か見落としているような気がして」
戦場で何度も感じた嫌な感じだ。
様々な情報が入って来る戦場では冷静な判断をするのは無理だ。
その時、状況が悪いとき、誤った判断を下そうとしたとき背中に悪寒が走った。
合理的に考えるべき海軍士官であり誰よりも理性的であろうとする佐久田だが、悪寒がするたびに危機に陥ったため、悪寒がしたときはむりをせずに回避するようにした。おかげで前ほど戦況が不利になることはなかった。
だから、この感覚だけ、悪い予感だけは信じている。
「それが何か言えるか」
「いいえ」
だが、今は戦闘中だ。
特に航空戦は一分一秒のずれで勝敗が決まる。
ほんの十分、発艦時間がずれただけで、攻撃隊の到着が早まっただけで敵に接触できたかもしれないし、不利になることはなかったという事例は多い。
即決即断が求められる戦場であり、躊躇している時間などない。
「攻撃隊発艦用意! 第一航空艦隊とともに敵艦隊を撃破する」
山口は命令を下した。
一参謀に過ぎない佐久田にそれを制止する権限はなく、証拠もない意見を述べても採用されることはない。
ゆえに黙っていた。
エンタープライズのCDCに管制官の声が響いた。
「機数は?」
ジェファーソン少佐は静かに尋ねた。疲労の色が濃いがそんなことも言っていられない。
敵艦隊を撃破しなければ味方が危うい。
「四百機以上、昨日とほぼ同数です」
「やはり来たか」
FCDOとして昨日はひどい目にあったジェファーソン少佐は静かに答えた。
敵の空襲がないと油断して直掩を下ろしてしまった。
だが今日は違う。
スプールアンス長官が増援をくれたこともあり、昨日のようなことにはならない。
「全迎撃機を上げるんだ。総力戦だ。六百機の戦闘機で撃破してやる」
「状況はどうだ?」
「非常に悪いです」
攻撃隊の通信を読んだ佐久田は山口に報告した。
すぐに報告するため、斜め読みして通信量から推計した不正確なものだったが、戦況が不利だと言うことは分かっていた。
「敵の戦闘機が多すぎます。概算で二百、下手をすれば三百。これは上空にいる戦闘機だけで敵空母に残っている機体も考えると六百でしょうか」
上空にすべての航空機を上げることはできない。
発艦スペースもそうだが燃料の補給や搭乗員の休息も考えると上空に上がっている機体のほかに同数の機体が空母で待機していると考えるのが普通だ。
「マリアナからの空襲がないので我々へ全力で迎撃にあたっているようです」
「そうか」
予想していたのか山口は落ち着いていたが、内心は苦虫を噛みつぶしたような気分だ。
先手必勝で発見次第発艦させたがマリアナの第一航空艦隊との連携を行わず、単独での攻撃では敵の迎撃が自分たちに集まってしまう。
だが、マリアナへの空襲が収まるのであれば、第一航空艦隊の出撃も近い。
「テニアン基地より報告。敵の空襲を再度受ける」
「どういうことだ!」
これには山口も驚いた。
敵は第一機動艦隊攻撃隊の迎撃に全力を尽くしているのではないのか。
どうしてマリアナを空襲する余裕があるのだ。
「しまった」
珍しく佐久田が顔をしかめつつ言った。
「どうしたのだ」
「アメリカは商船改造の護衛空母を大量に建造しています。毎週のように一隻完成し、すでに百隻ほどいます。半数ほどは大西洋に行っているでしょうが、残りは太平洋です。航空機の輸送にも使われていますが、揚陸の航空支援にも使われています」
「つまり正規空母は我々の相手をして護衛空母はマリアナへの空襲を継続して行っていると」
「はい」
佐久田の言わんとしていることを山口はすぐさま理解した。
「だが戦闘機はどこから調達したのだ」
「護衛空母の戦闘機を一時的に転属させたのでしょう。代わりに正規空母の攻撃機を護衛空母へ転属させて調整しているのでしょう」
「それでどうする、コクサ」
「護衛空母へ攻撃隊を出しましょう。我々からマリアナへ応援を送っても無意味です。このまま正規空母へ攻撃隊を送っても防空網を突破することはできません。護衛空母を撃沈しマリアナへの空襲を阻止します」
「待ちたまえ」
二人の間に参謀長の古村少将が割って入った。
「せっかく見つけた敵の正規空母を放っておくのか」
「残念ながら敵の防空網は堅固です。突破できる可能性はありません。ならばマリアナを攻撃している護衛空母群を攻撃すべきでしょう。今出ている攻撃隊の残存兵力を再建すれば、十分に打撃を与えられます」
「あんな小型艦を沈めたところで戦局に寄与しない」
古村は護衛空母攻撃を嫌がった。
商船より軍艦、中でも大型艦を攻撃する事が日本海軍は好んでいる。
商船改造の空母より正規空母を撃沈したいと望む者は多い。
だから古村の意見に同意する者が多かった。
「しかし、護衛空母から出ている攻撃隊によりマリアナが行動不能に陥っています」
だが合理主義の佐久田は、目的達成のためなら商船改造空母でも目標とし正規空母に拘泥しなかった。
「マリアナ基地攻撃を中止させるだけでも戦局は変わります。第一航空艦隊の機体だけでなく、我々の機体も上がり戦力になります」
「敵の空母を沈める好機を見逃すのか」
参謀長の意見にも一理あった。
互いに高速で移動する空母を常に捕捉し続けることは不可能に近い。
見敵必殺は、海上で敵と遭遇できる機会が少ないために海軍内で言われている面もある。
意見は平行線をたどっていたが、そのとき一つの通信文が入ってきた。
「第一航空艦隊から報告です。基地上空の制空権を確保に成功。他の基地の復旧が終了次第、敵機動部隊に空襲をかけるそうです」
「おお!」
第一航空艦隊が再び活動を再開できると知って参謀たちは喜んだ。
「これで仕留められる」
喜びに沸く司令部の中でただ一人佐久田は渋い顔をしていた。
「どうした航空参謀」
何時も表情が暗い佐久田が更に表情を暗くしているのを見た山口が尋ねた。
「いえ、何か見落としているような気がして」
戦場で何度も感じた嫌な感じだ。
様々な情報が入って来る戦場では冷静な判断をするのは無理だ。
その時、状況が悪いとき、誤った判断を下そうとしたとき背中に悪寒が走った。
合理的に考えるべき海軍士官であり誰よりも理性的であろうとする佐久田だが、悪寒がするたびに危機に陥ったため、悪寒がしたときはむりをせずに回避するようにした。おかげで前ほど戦況が不利になることはなかった。
だから、この感覚だけ、悪い予感だけは信じている。
「それが何か言えるか」
「いいえ」
だが、今は戦闘中だ。
特に航空戦は一分一秒のずれで勝敗が決まる。
ほんの十分、発艦時間がずれただけで、攻撃隊の到着が早まっただけで敵に接触できたかもしれないし、不利になることはなかったという事例は多い。
即決即断が求められる戦場であり、躊躇している時間などない。
「攻撃隊発艦用意! 第一航空艦隊とともに敵艦隊を撃破する」
山口は命令を下した。
一参謀に過ぎない佐久田にそれを制止する権限はなく、証拠もない意見を述べても採用されることはない。
ゆえに黙っていた。
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