架空戦記 旭日旗の元に

葉山宗次郎

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第一機動艦隊空襲を受ける

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「畜生! ジャップ共の戦闘機隊がウザい!」

 第一機動艦隊へ攻撃に向かった米軍攻撃隊は、機動艦隊側の激しい迎撃を受けた。
 三〇〇を越す零戦改が攻撃隊を迎え撃つ。

「バラバラになるな、固まれ!」
「隊長! 左上方から敵機多数!」
「! 左下へ降下!」

 叫ぶと同時に彼が率いるグラマンの中隊は急降下に入る。
 同時に零戦改の両翼からロケット弾が放たれ、グラマンに襲いかかるが、回避行動が早かったため、避ける事ができた。

「全く、連中のロケットにはウンザリです」
「全くだ」

 初めは編隊を組んでいたが、日本軍は接近してくると編隊の中心に向かってロケット弾を発射した。
 対艦攻撃を想定して作られていた焼夷ロケット弾だが、距離を調整すれば対空用としても使える。
 ブローニングの射程外から火の玉を降り注いでくる厄介な相手で、特に密集した大編隊相手には有効だった。
 米攻撃隊はロケット弾の一斉攻撃で損害を受け、バラバラになった。
 そこへ新たな零戦改が襲いかかり各個撃破しようとした。

「固まるんだ!」
「ですが固まればまたロケットを受けます」
「装備しているヤツは少ないようだ。兎に角、固まって突破するぞ! 敵艦隊に向かえ!」

 米軍の攻撃隊は日本軍の攻撃を受けながらも攻撃隊は日本軍の迎撃を突破し、第一機動艦隊に突進する。 

「敵の艦隊だ」

 防空網を突破したアメリカ海軍の攻撃隊は日本艦隊を発見した。
 すでに、攻撃隊には少なからぬ被害が出ていた。
 何とかついてきている機体で臨時の編隊を組んでいるがいつまでも持ちそうにない。
 だが、目の前には空母が三隻ずつの二つの日本艦隊。
 一方が向かってくるがもう一方は引き返していくように見える。
 隊長は燃料計を見た。
 敵の防空戦闘機隊からの回避行動で予想以上に燃料を消費している。近いとはいえ、着艦までの待機時間を考えるとぎりぎりの量だといえる。 
 部下たちの中には自分よりも燃料が少ない機体がいるだろう。
 幸いにも近づいてくる空母は大きいようだ。

「近い空母群を攻撃する」

 米攻撃隊の指揮官は、部下達に目標を指定して命じた。
 手近な敵に攻撃を向けるのは、間違った命令ではなかった。
 燃料の消耗を抑え、攻撃の集中という観点からいえば軍事的な間違いはない。
 しかし、それこそが佐久田の仕掛けた罠だった。



「敵機来襲!」

 旗艦信濃の艦橋に見張り員の声が響いた。
 遠くの空に見え始めた点が徐々に増え、濃くなり、米軍の攻撃機が接近してきている様子が見え始めていた。
 
「敵機の数、二〇〇以上」
「レーダー報告より多いな」

 見張りの報告と敵編隊を見た佐久田は呟いた。
 味方の直掩機が敵の戦闘機と戦っているはず。
 敵戦闘機を引いた数にしてもレーダー報告より多い。

「まだレーダーの技術もそれを使いこなす手段も未熟だな」 

 遠隔地の情報を正確に知らなければ航空戦は戦えない。
 もはや日本海海戦のように司令長官の目の届く範囲で全ての戦闘が行われることはない。
 いや、当時ですら、多数の部隊に分けての昼夜を問わない襲撃を行っているし、東シナ海を航行していた信濃丸からの通報で朝鮮半島南部の鎮海湾にいた三笠が出撃を決意し各部隊に命令を下している。
 二十世紀に入り視界外で戦闘をすることなど珍しくもない。
 それどころか、太平洋戦争初期の珊瑚海海戦では史上初めて敵味方の艦船同士が互いを視認せず、航空機のみで戦った。
 やはり、海戦において、いや、戦闘において重要なのは索敵、情報収集、通信だと痛感した。
 だが、それが生かせているとは言えない状況だ。
 あまりにも出てくる情報が多すぎる上に不正確だ。
 レーダーにしても敵味方の判別が付けられず、誤認が多く混乱している。
 危うく同士討ちなどという場面も出てきている。
 最初の一撃はともかく、混戦になるとまともな戦闘管制など不可能だ。
 情報がないよりマシだが、情報の海に混乱している。
 一応信濃や各空母には戦闘管制室という部屋を用意したが、海図と電話機しかなく、各部署から送られてくる情報を海図に書くだけ。
 描く人間と読み取る人間の職人技でやっているに過ぎない。
 米軍はCICを導入し始めて管制を行いつつあったが、初期段階でまだ不十分であった。
 互いに手探りで空戦の管制方法を模索している段階であり、不完全な部分が多い。
 しかし、既に戦闘は始まっている。
 目の前に用意されているものを使って戦うしかない。
 佐久田が考え込んでいると閃光が艦橋の中に入ってきた。

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