架空戦記 旭日旗の元に

葉山宗次郎

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対空戦闘

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「大和発砲! 武蔵も発砲しました」
「第五部隊、全艦対空射撃開始! 各艦主砲撃った!」

 閃光の後、見張りの報告と同時に信濃を守るように囲む戦艦群の主砲発砲音が信濃艦内に響いた。
 戦艦の主砲は対空に向かない。
 旋回速度、発砲速度が遅いため高速で移動する敵機に追いつけないからだ。
 だが、大口径砲弾の威力は大きく炸薬量も高角砲の比ではない。
 中身を対空向きに変えれば十分に対空射撃に使えるのではないか。
 そんな発想から大口径砲用対空弾、三式弾が作られた。
 砲弾の中に無数の弾子を入れて、時限信管により空中で爆発。無数の弾子が放たれ敵機に降り注ぐのだ。
 初期は連携不足で射撃諸元が間に合わず取り逃がすことが多く、飛行場攻撃に転用される始末だった――それでもソロモンの飛行場の多くを破壊する事が出来たのは大金星だった。
 だが、レーダー射撃の精度が上がり、実用的な三式弾による対空射撃が出来るようになった。
 二〇サンチ以上の主砲弾として製造されており重巡以上ならば遠距離で対空砲撃ができる。
 それに伴い射撃方式も改められ艦隊防空射撃規則を制定。
 各艦ごとに担当空域を決め、旗艦の合図で一斉射撃。
 広範囲を覆い敵攻撃隊を一網打尽にするようにした。

「三、二、一、今! 敵編隊に命中!」

 空中で無数の砲弾が炸裂し網を広げるように弾子が広がる。
 その下にいた敵編隊の内、十数機が火を噴いて落ちていった。
 歓声が上がる中、第二射が放たれた。

「敵機、散開します」

 だが敵もやられっぱなしではなく、退避行動を行った。
 そのため、一回目ほど敵機は落ちなかった。
 しかし、米軍の編隊は乱れた。

「貰ったぜ!」

 上空で待機していた平野と城野の零戦改が米軍の編隊に襲いかかった。
 素早く雷撃機TBFアベンジャーを見つけると上空から銃撃を浴びせる。
 四門の二〇ミリ機銃に蜂の巣にされたアベンジャーは、持ち前の防弾も役に立たず火を噴いて墜落していった。
 その後も、バラバラにった敵編隊を狩り上げていくが、さすがに米軍も敵機の来襲を見て護衛のヘルキャットが迎撃に入り空戦に突入した。
 その間にも米攻撃隊は接近していくが再び大和の砲が火を噴いた。
 逃げようと分散したら、待機していた護衛戦闘機隊が襲撃。
 固まっている部分には、再び戦艦の三式弾による防空射撃。
 予め計画されていた防空作戦だ。
 遠距離砲撃用の主砲で三式弾を放ち、無数の弾子を周囲にばらまくので遠距離で敵編隊の上空で爆発すれば大戦果を上げられる。
 しかし射撃指揮用のレーダー性能が不十分で、特に少数の敵機あいてには正確なデータをつかめない。
 敵が散開したこともあり、撃墜できた機体はほとんどなかった。
 接近してくる敵機に対して重巡部隊も三式弾射撃を始める。
 それでも効果は十分ではなく敵機が接近してくる。
 続いて射撃を開始したのは防空巡洋艦綾瀬だった。
 綾瀬は大和型の直掩艦として計画され整備された帝国海軍初の防空巡洋艦だ。
 長一〇サンチ連想高角砲を、船体の前後左右に各三基を一群ずつ配備され、総計二四門を装備する防空要塞だ。
 射撃式装置も五基装備され、各群に一基ずつ、そして予備と全体指揮用に艦橋の上に一基装備されている。
 その艦橋に置かれた指揮装置から砲術長が狙いを定めて敵機の方向へ高射砲を放った。
 配置上の理由で一群が射撃できなかったが、残る三群、一八門が米軍の急降下爆撃機の編隊をとらえて包み込むように高射砲を炸裂させる。
 二,三機が煙を吐いて落ちていった。
 近接信管のない日本軍だが、高射砲の集中投入を行えば、まだ対抗できる。
 戦艦群も高射砲を放ち始めたため、猛烈な対空砲火、弾幕が展開され、目の前に広がる無数の弾幕を見て引き返す敵機もいる。
 いや、それでよい。
 撃墜できないのは残念だが、戦闘の目的が敵の交戦意思を挫くことであるから、敵を追い返すだけでも十分な成果だった。
 それに対空砲は弾幕を張り、敵機を近づけさせないことが目的だ。彼らは十分に役目を果たした。
 しかし、それが油断だった。
 上空に気を取られている間に、低空侵入した雷撃機十数機が第一部隊に接近してくる。
 慌てて二五ミリ対空機関砲を放つが、射程が短く敵機の突進を止めることはできなかった。
 第一部隊輪形陣の中に入ったアヴェンジャー攻撃機は、重巡、戦艦を狙わず一直線に空母を目指した。
 目についたのは第一機動艦隊旗艦信濃。
 一際大きな信濃を目標に雷撃機が殺到する。
 信濃周辺の各艦から、攻撃阻止の対空砲火が上がる。
 しかし、いずれも機銃では遠く、攻撃機は信濃を狙って突進して行く。
 アヴェンジャーは信濃に狙いを定めると爆弾庫を開き、魚雷を放った。

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