架空戦記 旭日旗の元に

葉山宗次郎

文字の大きさ
30 / 83

スプールアンスの指示

しおりを挟む
 佐久田の立てた作戦は見事に図に当たった。
 防御力の高い第一部隊を攻撃隊の前に差し出し、攻撃を集中させる。
 第一部隊は装甲空母のみ、多少の爆弾を受けても作戦行動可能だ。
 だが他の部隊は通常型空母、爆弾を甲板に一発受けただけでも発艦不能になる。
 現状、作戦通り敵の攻撃が防御力に優れる第一部隊に集まっている。
 敵は効果の無い急降下爆撃を繰り返すだけだ。
 魚雷は怖いが、全て回避に成功し、被雷した艦はいない。
 このまま行けば、日本側はほとんど無傷で凌ぐことが出来る。

「攻撃隊の準備は?」
「第二から第四部隊まで着艦終了。発艦準備を急いでいます」

 空襲を受ける第一部隊の艦載機も着艦させて攻撃に向かわせる。損耗機もあるし着艦機の受け入れ艦もあるため、発艦できる機数は二〇〇機程度。
 だが、戦艦部隊が弾切れで飛行場砲撃が中断し、離陸可能となった第一航空艦隊と組み合わせば十分な威力を発揮できるはずだ。

「確実に仕留められるよう。念入りに準備を頼むぞ」
「第二部隊の角田少将はやってくれるでしょう。ご心配にはおよばないハズです」

 米軍もそろそろ迎撃に限界が来るはず。
 攻撃隊は十分に戦果を挙げられると佐久田は計算していた。

「何か不安があるのか?」

 考え込む佐久田に山口が尋ねた。

「ええ、米軍がどんな作戦を行うか、考えていました。状況は彼らに不利なはず。何か手を打ってくるはずです」



「何故、日本軍はこれほど空襲を続けられるんだ」

 攻撃隊を送り出していたアメリカ第五艦隊司令部では焦りが募っていた。
 参謀達は口々に日本の執拗な攻撃と、これまでの攻撃機の数を計算し、状況分析を行っていた。
 サイパン島への上陸を開始しているが、敵の陸上航空基地はまだ健在。そこへ現れた日本軍の機動部隊の相手もしなければならない。
 ようやく位置を掴み攻撃隊を送り込んだが、成果は不十分。それでも攻撃隊の発艦を妨害したはずなのに、日本軍の攻撃隊が来ている。
 想定外の事態に参謀は困惑して焦っていた。

「発見した空母の数は?」

 スプールアンスは静かに尋ねた。
 内心焦っているのかもしれないが静かな口調であり、参謀を一時的にだが冷静にさせ言われたことを実行し始めた。

「は、はい。攻撃隊の報告では六隻です。うち三隻に攻撃を加えました」
「数が合わないな」

 短い言葉だが、参謀たちの頭脳をフル回転させるには十分だった。

「他にも敵空母が」
「我々と同じように、空母をいくつかの任務群に分けているのだろう」
「直ちに、索敵機を周辺海域に回します」

 遠くから爆発音が響いてきた。
 スプールアンスが座上する任務群にも日本軍の攻撃が加えられているようだ。
 だが、必要な処置はすべて終えた後であり、これ以上の方策はないとスプールアンスは考えて、新たな命令は下さなかった。

「索敵機より報告。敵の空母部隊を新たに発見しました」

 索敵機の脚を伸ばして向かわせた甲斐あってすぐに見つけることができた。

「敵は我々が攻撃した空母群よりさらに西側に百キロほどの位置にいます」

 顔をしかめながら参謀は報告した。
 自分のいる空母部隊からならば攻撃範囲内だが、戦闘機のみを搭載しているため攻撃機を出せない。
 攻撃機はマリアナ東方の護衛空母部隊に集めている。
 彼らから飛ばすと、航続距離はぎりぎりだ。それに午後も遅くなり始めており、長距離の攻撃を命じると着艦が夜になる。
 日本軍のようにマリアナを確保しているわけではないので、危険な夜間着艦となり、多数の機体を失う恐れがある。
 参謀は黙ってスプールアンスを見た。
 今から攻撃隊が発進すれば、敵の攻撃だけでなく夜間の帰還時に多くの損害が出ることはスプールアンスも承知しているだろう。
 だからこそ参謀は指示を待っていた。
 司令長官としての決断を聞くために待っていた。
 そしてスプールアンスは決断し指示を下した。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小日本帝国

ypaaaaaaa
歴史・時代
日露戦争で判定勝ちを得た日本は韓国などを併合することなく独立させ経済的な植民地とした。これは直接的な併合を主張した大日本主義の対局であるから小日本主義と呼称された。 大日本帝国ならぬ小日本帝国はこうして経済を盤石としてさらなる高みを目指していく… 戦線拡大が甚だしいですが、何卒!

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。 1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。 わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。 だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。 これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。 希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。 ※アルファポリス限定投稿

まなの秘密日記

到冠
大衆娯楽
胸の大きな〇学生の一日を描いた物語です。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

本能寺からの決死の脱出 ~尾張の大うつけ 織田信長 天下を統一す~

bekichi
歴史・時代
戦国時代の日本を背景に、織田信長の若き日の物語を語る。荒れ狂う風が尾張の大地を駆け巡る中、夜空の星々はこれから繰り広げられる壮絶な戦いの予兆のように輝いている。この混沌とした時代において、信長はまだ無名であったが、彼の野望はやがて天下を揺るがすことになる。信長は、父・信秀の治世に疑問を持ちながらも、独自の力を蓄え、異なる理想を追求し、反逆者とみなされることもあれば期待の星と讃えられることもあった。彼の目標は、乱世を統一し平和な時代を創ることにあった。物語は信長の足跡を追い、若き日の友情、父との確執、大名との駆け引きを描く。信長の人生は、斎藤道三、明智光秀、羽柴秀吉、徳川家康、伊達政宗といった時代の英傑たちとの交流とともに、一つの大きな物語を形成する。この物語は、信長の未知なる野望の軌跡を描くものである。

If太平洋戦争        日本が懸命な判断をしていたら

みにみ
歴史・時代
もし、あの戦争で日本が異なる選択をしていたら? 国力の差を直視し、無謀な拡大を避け、戦略と外交で活路を開く。 真珠湾、ミッドウェー、ガダルカナル…分水嶺で下された「if」の決断。 破滅回避し、国家存続をかけたもう一つの終戦を描く架空戦記。 現在1945年中盤まで執筆

処理中です...