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水雷夜戦
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「敵艦を近づけるな!」
駆逐戦隊を率いるバークは命じた。
一隻の敵艦を撃破するのに時間をかけ過ぎている。
照明弾でこちらの位置はばれた。敵艦は雷撃行動日出てくるはずだ。
ソロモンの戦いの結果、日本軍は一万メートルの射程をもつ魚雷を装備している。
撃たれる前に撃つ必要があるが、この状態だと無理だ。
全艦、最初に捕捉した敵艦に攻撃を集中しており他の艦への攻撃がおろそかだ。
電話で言っても混信して命令が伝わっていない。
手早く仕留めて他の目標に移って貰いたいが、敵艦の回避行動は上手く、撃沈どころか被弾さえしていない。
「まあ、こちらも準備しているが」
バークにはまだ奥の手があった。もう一つ駆逐隊を用意していた。
日本軍水雷戦隊が一方に釘付けになって引き寄せられたところをもう一体が仕留める。
「第二任務隊に雷撃命令」
バークが命令したとき、第二任務隊の方向で閃光が見えた。
「なんだ」
発砲ではなかった。発砲にしては光が大きかった。そしてその光をバークはソロモンで幾度も見ていた。
「ロングランスを食らったか」
バークが口端を歪めている間にも更に一隻の駆逐艦に水柱が上がり、消滅した。
「魚雷命中しました」
「よし」
旗艦阿賀野から命中の水柱を確認した連合水雷戦隊――第二水雷戦隊、第四水雷戦隊合同部隊の司令官田中少将は満足げ頷いた。
「雪風は?」
「健在です」
報告を聞いて田中はほっとした。
死番艦――敵の矢面に立ち攻撃を引きつけるおとり役だ。
ソロモンの消耗戦で米軍側が装備し始めた高性能レーダーの登場は一時日本側を劣勢に立たせた。
だが、戦訓を検証していくと、アメリカ軍はなぜかレーダーで最初に捕捉した艦を撃沈するまで執拗に攻撃することが多いことが、判明した。
集中攻撃は確かに効果的だが、攻撃過多、二一世紀のゲームで言えばオーバーキルが多かった。
時には一隻に対して米軍側参加全艦艇が攻撃を集中させたこともある。
それに気がついた佐久田――機動部隊をインド洋で使いたいため、ソロモンでの消耗を抑えようと熱心に調査していた彼は米軍の戦法と癖を逆手にとり、先頭の艦を囮にして敵艦の位置を判読し、残った本体がその情報を元に米軍本隊を攻撃する方法を編み出した。
一時期、米軍による二方向からの挟撃戦法で損害を出していた日本海軍だったが、この囮戦術により優位を回復しソロモンでの撤退戦を最小の損害で完遂することに成功した。
もちろん囮となった艦は撃沈されやすい。
しかし損害は囮の艦のみと言うことが多いためキルレシオ――損害比率がよく、日本側一隻の犠牲で米軍の三、四隻は沈めている。
「嫌なものだ」
高波が沈んだ時の夜戦を田中は思い出した。
あのときは輸送部隊の安全を確保するために前進していた警戒艦である高波が敵に先に発見され、集中砲火を浴びた。
高波が囮となって敵の砲火を受けたために残った自分を含む味方は最良の雷撃位置へ付き、重巡を含む数隻の敵艦を沈めた。
だが代償として高波を失った。
田中もそのときの指揮の弱腰を――指揮官先頭を伝統とする海軍で海戦時部隊の先頭に立たなかった、高波を囮にしたと非難された。そして一時は水雷戦隊司令官を辞すことになった。
その後の戦闘で水雷戦隊司令部に多数の死傷者がでたためと、第一機動艦隊参謀佐久田の推薦により再び復帰することになった。
佐久田が米軍の戦闘を検証し、田中の戦術を高く評価したことも後押しした。
夜戦は遭遇戦に近く、輸送作戦中の出来事で田中が部隊の中央にいたのは輸送隊の作業を見届け終了と共に迅速に離脱するため。またどこから米軍の魚雷艇がやってくるか分からないため全周警戒を行わざるを得ず、警戒隊を四方に出しており彼らを統率するには中央が最適だったことなどを上げて田中を擁護した。
その上で米軍の戦闘を分析し有効な反撃方法を提示して全海軍に示した。
それでも田中は海軍が公式に認めた囮戦術に嫌な思いを抱いている。
佐久田によって組織化された戦術ではあらかじめ囮役を決めている。
出撃ごとに順繰りに行われ、囮役は死番艦とされる。
公式ではないが戦術が導入されてから駆逐艦乗りの間で自然と新撰組の慣習を思い出して定着した。
だが新撰組と同様、担当になった駆逐艦は覚悟を決めやすい。
他の艦もいずれ担当するし、もし戦闘になって死番艦が沈んでも残った艦が生存者を救助し、戦死者も水雷戦隊全員で面倒見ることを決めていた。
戦術とこうした自然と出来た暗黙の了解によりソロモンの戦いから日本軍は最小限の損害で足抜けで来たと思っている。
ただ、部下達が覚悟を決めて死地に赴いているのに自分がその輪から離れ、旗艦とはいえ激戦を繰り広げる駆逐艦の後方で指揮していることに自己嫌悪を田中は抱いている。
自分も死番艦を担当しても良いと考えているが、佐久田の策定した戦策で旗艦が死番艦になるのは禁止されている。
命令を下し、統制し、危機に際しては冷静に指揮を執る旗艦が最初に沈んでは部隊が混乱するからだ。
駆逐戦隊を率いるバークは命じた。
一隻の敵艦を撃破するのに時間をかけ過ぎている。
照明弾でこちらの位置はばれた。敵艦は雷撃行動日出てくるはずだ。
ソロモンの戦いの結果、日本軍は一万メートルの射程をもつ魚雷を装備している。
撃たれる前に撃つ必要があるが、この状態だと無理だ。
全艦、最初に捕捉した敵艦に攻撃を集中しており他の艦への攻撃がおろそかだ。
電話で言っても混信して命令が伝わっていない。
手早く仕留めて他の目標に移って貰いたいが、敵艦の回避行動は上手く、撃沈どころか被弾さえしていない。
「まあ、こちらも準備しているが」
バークにはまだ奥の手があった。もう一つ駆逐隊を用意していた。
日本軍水雷戦隊が一方に釘付けになって引き寄せられたところをもう一体が仕留める。
「第二任務隊に雷撃命令」
バークが命令したとき、第二任務隊の方向で閃光が見えた。
「なんだ」
発砲ではなかった。発砲にしては光が大きかった。そしてその光をバークはソロモンで幾度も見ていた。
「ロングランスを食らったか」
バークが口端を歪めている間にも更に一隻の駆逐艦に水柱が上がり、消滅した。
「魚雷命中しました」
「よし」
旗艦阿賀野から命中の水柱を確認した連合水雷戦隊――第二水雷戦隊、第四水雷戦隊合同部隊の司令官田中少将は満足げ頷いた。
「雪風は?」
「健在です」
報告を聞いて田中はほっとした。
死番艦――敵の矢面に立ち攻撃を引きつけるおとり役だ。
ソロモンの消耗戦で米軍側が装備し始めた高性能レーダーの登場は一時日本側を劣勢に立たせた。
だが、戦訓を検証していくと、アメリカ軍はなぜかレーダーで最初に捕捉した艦を撃沈するまで執拗に攻撃することが多いことが、判明した。
集中攻撃は確かに効果的だが、攻撃過多、二一世紀のゲームで言えばオーバーキルが多かった。
時には一隻に対して米軍側参加全艦艇が攻撃を集中させたこともある。
それに気がついた佐久田――機動部隊をインド洋で使いたいため、ソロモンでの消耗を抑えようと熱心に調査していた彼は米軍の戦法と癖を逆手にとり、先頭の艦を囮にして敵艦の位置を判読し、残った本体がその情報を元に米軍本隊を攻撃する方法を編み出した。
一時期、米軍による二方向からの挟撃戦法で損害を出していた日本海軍だったが、この囮戦術により優位を回復しソロモンでの撤退戦を最小の損害で完遂することに成功した。
もちろん囮となった艦は撃沈されやすい。
しかし損害は囮の艦のみと言うことが多いためキルレシオ――損害比率がよく、日本側一隻の犠牲で米軍の三、四隻は沈めている。
「嫌なものだ」
高波が沈んだ時の夜戦を田中は思い出した。
あのときは輸送部隊の安全を確保するために前進していた警戒艦である高波が敵に先に発見され、集中砲火を浴びた。
高波が囮となって敵の砲火を受けたために残った自分を含む味方は最良の雷撃位置へ付き、重巡を含む数隻の敵艦を沈めた。
だが代償として高波を失った。
田中もそのときの指揮の弱腰を――指揮官先頭を伝統とする海軍で海戦時部隊の先頭に立たなかった、高波を囮にしたと非難された。そして一時は水雷戦隊司令官を辞すことになった。
その後の戦闘で水雷戦隊司令部に多数の死傷者がでたためと、第一機動艦隊参謀佐久田の推薦により再び復帰することになった。
佐久田が米軍の戦闘を検証し、田中の戦術を高く評価したことも後押しした。
夜戦は遭遇戦に近く、輸送作戦中の出来事で田中が部隊の中央にいたのは輸送隊の作業を見届け終了と共に迅速に離脱するため。またどこから米軍の魚雷艇がやってくるか分からないため全周警戒を行わざるを得ず、警戒隊を四方に出しており彼らを統率するには中央が最適だったことなどを上げて田中を擁護した。
その上で米軍の戦闘を分析し有効な反撃方法を提示して全海軍に示した。
それでも田中は海軍が公式に認めた囮戦術に嫌な思いを抱いている。
佐久田によって組織化された戦術ではあらかじめ囮役を決めている。
出撃ごとに順繰りに行われ、囮役は死番艦とされる。
公式ではないが戦術が導入されてから駆逐艦乗りの間で自然と新撰組の慣習を思い出して定着した。
だが新撰組と同様、担当になった駆逐艦は覚悟を決めやすい。
他の艦もいずれ担当するし、もし戦闘になって死番艦が沈んでも残った艦が生存者を救助し、戦死者も水雷戦隊全員で面倒見ることを決めていた。
戦術とこうした自然と出来た暗黙の了解によりソロモンの戦いから日本軍は最小限の損害で足抜けで来たと思っている。
ただ、部下達が覚悟を決めて死地に赴いているのに自分がその輪から離れ、旗艦とはいえ激戦を繰り広げる駆逐艦の後方で指揮していることに自己嫌悪を田中は抱いている。
自分も死番艦を担当しても良いと考えているが、佐久田の策定した戦策で旗艦が死番艦になるのは禁止されている。
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