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船団との接触
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「艦長! 逆探に反応あり!」
「急速潜航!」
直ぐに田村は命じると部下達は艦内に退避して行く。
一分で急速潜航し潜望鏡深度まで下がる。
「聴音! 何か聞こえるか」
司令塔から真下の発令所に尋ねる。
「南東から多数の航行中の船団を探知しました」
水中の方が波の音が消える分、遠方からの音が聞こえやすい。
電探が今一な性能であることと自らの位置を暴露しかねない状況では遠方の探知には逆探とソナーを使うしか方法が無い。
「逆探はどうだった」
「東の方向に反応がありました」
護衛艦艇とその使用レーダーだ。
戊型潜は建造中、戦訓を反映して艦橋が逆V字型になっているためレーダーの反射を抑えられているはず。
遠距離だったこともあり発見されていないはずだ。
「水中充電装置を使って航行する。伸ばせ」
「宜候!」
後にシュノーケルと呼ばれる装備を艦橋から上げた。
象の鼻のような装備で潜望鏡深度から筒を海面へ伸ばすことによってエンジンへの吸気を行える装置だ。
これのお陰で浮上することなく、潜航したまま充電が出来る。
初めは筒を起倒させていたが現在は潜望鏡と同じように艦内から伸ばすタイプに変わっており、信頼性が高まっている。
もっとも、海が荒いと使えないため充電できないし乗員の疲労を考えて常時使用はしていない。
それでも敵のレーダーから逃れられるのは有り難い。
水中航行中に移動して敵の方位と距離を概算する。
「聴音、敵の距離と方位は分かったか?」
水中では音だけが頼りだ。
そして水中を伝わる音は意外と遠くまで聞こえる。
ビスマルク追撃戦ではドイツ側水上艦艇がイギリス側の接近を音響探知で捉えていた。
海面の波の音が邪魔をしない海中ならより良く聞こえる。
「おおよそですが、方位一六〇、距離二万〇〇〇と言ったところでしょうか」
「規模は?」
「船舶多数、少なくとも二〇隻以上はいると思われます」
「そうか」
静かに田村は静かに頷いた。
「攻撃を行う。潜航したまま、距離一万まで接近し一式魚雷を用いた第二射法で攻撃する」
「宜候!」
田村はディーゼルも始動させ海中を最大速力で敵船団の正面を横切るように移動させる。
「手荒いことになるぞ、今のうちにメシを食っておけ。烹水員、美味い物を頼むぞ」
潜水艦は、苛酷な環境のために美味いメシを優先的に供給されている。それでも長期間の行動と艦内容積、そして保存方法の制限により缶詰が殆どだ。
その制限の中でも美味いメシを作ってくれる烹水員は黄金より貴重であり、田村でさえ足を向けて寝られない相手だ。
メシの重要性は田村が新任士官のころ、配属された潜水隊旗艦への士配置で身を以て知っている。その時の隊司令がやたらと乱暴で少しのミスで水兵にも蹴りを入れる人だった。そのことを知っている水兵達が密かに股引を履いて衝撃吸収に努めた程だ。
それでも艦内は比較的平穏で活気があった。何故ならメシにうるさい人で、不味いと烹水員を激しく叱るため、美味しいメシが出ていたからだ。
その偉大さを知ったのは直後に転属した潜水艦の淀んだ雰囲気を感じ、メシの不味さに絶句した時だ。直ぐに田村は烹水員と相談し美味いメシを提供したところ、潜水艦の士気は見る見るうちに上昇し、艦内の雰囲気も明るい物になった。
「艦長、どうぞ」
「おう」
だから自分が惚れ込んだ腕の良い烹水員が持ってくる飯には笑みがこぼれる。
「珍しい物だな」
アルミの丼に詰められた甘い香りのする炊きたての銀シャリと隅に置かれた二切れの黄色のタクアン、そして初めて見る紅いプルンとした四角いものがメシの上に乗っている。
「新たに配給されたカゴメが作った固形ケチャップです。運び易いように水分を飛ばして固形化したものです。本来はお湯で薄めて使うんですが、そのままでも美味く、独特の食感で良い物です」
「そうか、頂こう」
箸でメシと一緒に、口の中に放り込む。
プルンとした食感が舌の上で踊り筒、濃縮されたケチャップの酸味と甘みが口の中で広がり、なんとも言えない味だ。
確かに美味い。新しい物なのに、直ぐさま美味く調理してくれた烹水員には感謝だ。
「タレもありますよ」
醤油にバターと砂糖を溶かして煮込んだタレも良い。エネルギー豊富なバターは苛酷な潜水艦生活に不可欠とされて摂取が奨励されているがバターご飯で食べるには量が多すぎる。こうして醤油に混ぜて食べさせて貰えるのはよい。甘いシャリを堪能した後で変化が付くのも良い。美味くて食が進む。
「エンジン停止、敵船団の位置を探る。音を立てるな」
メシを終えると田村はエンジンを停止させて敵船団の位置を探らせる。
停止して五分ほど経ってから田村は尋ねた。
「聴音、敵艦の方位は分かるか」
「方位変わらず。敵艦隊の進路上にいます」
聴音だけでは距離まで判定することは出来ない。特に相手の規模、音の大きさが分からないと距離は判定できない。音の方位だけでは分からない。
方位の変化量である程度の推測は出来るが、遠い距離で素早く移動したのか、近い距離を遅く移動したのか分からない。
そのため、敵の正面に出る事で敵の針路を確定する。
その方位が敵艦の針路だ。それまでのデータを元に速力も、位置もより正確になる。
「航海長、敵船団の位置は分かるか?」
「はい、聴音の観測を元に海図に入れた結果は、推定一万三〇〇〇」
田村に士官達の視線が集まった。下士官兵も聞き耳を立てて田村の命令を待つ。
「攻撃する。南方より敵船団へ魚雷を放つ」
「急速潜航!」
直ぐに田村は命じると部下達は艦内に退避して行く。
一分で急速潜航し潜望鏡深度まで下がる。
「聴音! 何か聞こえるか」
司令塔から真下の発令所に尋ねる。
「南東から多数の航行中の船団を探知しました」
水中の方が波の音が消える分、遠方からの音が聞こえやすい。
電探が今一な性能であることと自らの位置を暴露しかねない状況では遠方の探知には逆探とソナーを使うしか方法が無い。
「逆探はどうだった」
「東の方向に反応がありました」
護衛艦艇とその使用レーダーだ。
戊型潜は建造中、戦訓を反映して艦橋が逆V字型になっているためレーダーの反射を抑えられているはず。
遠距離だったこともあり発見されていないはずだ。
「水中充電装置を使って航行する。伸ばせ」
「宜候!」
後にシュノーケルと呼ばれる装備を艦橋から上げた。
象の鼻のような装備で潜望鏡深度から筒を海面へ伸ばすことによってエンジンへの吸気を行える装置だ。
これのお陰で浮上することなく、潜航したまま充電が出来る。
初めは筒を起倒させていたが現在は潜望鏡と同じように艦内から伸ばすタイプに変わっており、信頼性が高まっている。
もっとも、海が荒いと使えないため充電できないし乗員の疲労を考えて常時使用はしていない。
それでも敵のレーダーから逃れられるのは有り難い。
水中航行中に移動して敵の方位と距離を概算する。
「聴音、敵の距離と方位は分かったか?」
水中では音だけが頼りだ。
そして水中を伝わる音は意外と遠くまで聞こえる。
ビスマルク追撃戦ではドイツ側水上艦艇がイギリス側の接近を音響探知で捉えていた。
海面の波の音が邪魔をしない海中ならより良く聞こえる。
「おおよそですが、方位一六〇、距離二万〇〇〇と言ったところでしょうか」
「規模は?」
「船舶多数、少なくとも二〇隻以上はいると思われます」
「そうか」
静かに田村は静かに頷いた。
「攻撃を行う。潜航したまま、距離一万まで接近し一式魚雷を用いた第二射法で攻撃する」
「宜候!」
田村はディーゼルも始動させ海中を最大速力で敵船団の正面を横切るように移動させる。
「手荒いことになるぞ、今のうちにメシを食っておけ。烹水員、美味い物を頼むぞ」
潜水艦は、苛酷な環境のために美味いメシを優先的に供給されている。それでも長期間の行動と艦内容積、そして保存方法の制限により缶詰が殆どだ。
その制限の中でも美味いメシを作ってくれる烹水員は黄金より貴重であり、田村でさえ足を向けて寝られない相手だ。
メシの重要性は田村が新任士官のころ、配属された潜水隊旗艦への士配置で身を以て知っている。その時の隊司令がやたらと乱暴で少しのミスで水兵にも蹴りを入れる人だった。そのことを知っている水兵達が密かに股引を履いて衝撃吸収に努めた程だ。
それでも艦内は比較的平穏で活気があった。何故ならメシにうるさい人で、不味いと烹水員を激しく叱るため、美味しいメシが出ていたからだ。
その偉大さを知ったのは直後に転属した潜水艦の淀んだ雰囲気を感じ、メシの不味さに絶句した時だ。直ぐに田村は烹水員と相談し美味いメシを提供したところ、潜水艦の士気は見る見るうちに上昇し、艦内の雰囲気も明るい物になった。
「艦長、どうぞ」
「おう」
だから自分が惚れ込んだ腕の良い烹水員が持ってくる飯には笑みがこぼれる。
「珍しい物だな」
アルミの丼に詰められた甘い香りのする炊きたての銀シャリと隅に置かれた二切れの黄色のタクアン、そして初めて見る紅いプルンとした四角いものがメシの上に乗っている。
「新たに配給されたカゴメが作った固形ケチャップです。運び易いように水分を飛ばして固形化したものです。本来はお湯で薄めて使うんですが、そのままでも美味く、独特の食感で良い物です」
「そうか、頂こう」
箸でメシと一緒に、口の中に放り込む。
プルンとした食感が舌の上で踊り筒、濃縮されたケチャップの酸味と甘みが口の中で広がり、なんとも言えない味だ。
確かに美味い。新しい物なのに、直ぐさま美味く調理してくれた烹水員には感謝だ。
「タレもありますよ」
醤油にバターと砂糖を溶かして煮込んだタレも良い。エネルギー豊富なバターは苛酷な潜水艦生活に不可欠とされて摂取が奨励されているがバターご飯で食べるには量が多すぎる。こうして醤油に混ぜて食べさせて貰えるのはよい。甘いシャリを堪能した後で変化が付くのも良い。美味くて食が進む。
「エンジン停止、敵船団の位置を探る。音を立てるな」
メシを終えると田村はエンジンを停止させて敵船団の位置を探らせる。
停止して五分ほど経ってから田村は尋ねた。
「聴音、敵艦の方位は分かるか」
「方位変わらず。敵艦隊の進路上にいます」
聴音だけでは距離まで判定することは出来ない。特に相手の規模、音の大きさが分からないと距離は判定できない。音の方位だけでは分からない。
方位の変化量である程度の推測は出来るが、遠い距離で素早く移動したのか、近い距離を遅く移動したのか分からない。
そのため、敵の正面に出る事で敵の針路を確定する。
その方位が敵艦の針路だ。それまでのデータを元に速力も、位置もより正確になる。
「航海長、敵船団の位置は分かるか?」
「はい、聴音の観測を元に海図に入れた結果は、推定一万三〇〇〇」
田村に士官達の視線が集まった。下士官兵も聞き耳を立てて田村の命令を待つ。
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