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1940年代の戦争
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「お会いしたかったので嬉しいです」
北山は佐久田を見て嬉しそうに言った。
ミッドウェーで一時敗色濃厚と見られながらも盛り返し、米軍の反撃をはね除けた。
本格的な反攻が始まってからも、見事な後退戦を見せた佐久田を北山は評価していた。
「どうして私に会えてうれしいのでしょうか?」
「貴方以上に経済的観点から合理的に戦う方はいませんから」
戦争の中枢にいるだけに北山の耳には様々な情報が入ってくる。
特に佐久田の話は多い。
ミッドウェー以降、あの大敗北にもかかわらず、米軍の反攻を抑えたことで有名だったからだ。
特に、インド洋で拿捕した商船を回してくれたお陰で、輸送量が増えたことは喜ばしかった。
日本国内のみならず、占領地への輸出も増えて、各国の世情も安定している。
円滑に現地の物資を調達――略奪せずに済んでいるのは日本から送り出した物品による対価を支払えるからだ。
その意味で商船の増加をもたらした佐久田は北山にとって恩人であり一度会いたい人物だった。
「貴方を見込んで頼みたいことがあります」
「何でしょう」
「日本を勝たせることはできませんか?」
「無理です。日本は勝てません」
「勝てませんか?」
明確に日本が勝てないと断言した佐久田に北山は確認するように尋ねた。
「あなたは天才作戦家と聞いていたのですが」
「多少優勢な相手に勝てる程度の能力しかありません。圧倒的な物量差では押し潰されるしかありません」
「マリアナで引き分けに持ち込めましたが」
「負けですよ。失陥したのに勝利などと言えません。アメリカは大量の武器を、戦力を投入してきます。これ以上は無理です。第一」
「第一?」
「日本にこれ以上の生産力は無いでしょう」
「確かに」
北山は認めた。
生産工場の自動化をすすめたり占領地に工場を作り住民に物資を作らせているが、もはや限界だ。
熟練工の数が足りないし、婦女子を動員しても素人であり質が劣る。
そもそも、生産を拡大するだけの資源が少ない。
何とか資源開発を行っているが、産業資材を兵器生産に奪われている状況では拡大が見込めない。
日本の戦力は現時点が最大と言えた。
「何とか講和できませんか?」
日本の現状を踏まえて佐久田は企画院参与官である北山に尋ねた。
「軍人がそれを言うのか?」
「軍人が政治外交に口を出すのはタブーとされています。しかし戦争は戦場で終わる事は無く、外交で決まります。敵を殲滅したところで終わりません」
佐久田の言葉は事実だった。
何故なら今は総力戦の時代であり、例えアメリカ太平洋艦隊を全滅させても終わらない。
現に対米開戦時に真珠湾で戦艦全てを沈めても終わらなかった。普通なら戦力の過半を失ったら戦争など出来ない。例え全てのアメリカ空母を沈めていたとしても同じだろう。
生産力が大きくなりすぎているため、直ぐに動員と生産で戦力を回復してしまう、いや開戦時以上の戦力を作ってしまった。
先の大戦でも初頭に東部戦線のタンネンベルク会戦でロシア第二軍一七万が死傷あるいは捕虜になった。
かつてならこれでロシアは終わり戦争から脱落していた。
だがそれからロシアは三年も戦い続けた。
一七万もの損害を動員で補ったのだ。その後負けても動員で補充した。
最終的にロシアが負けたのは動員に国が耐えられなくなり、国民が困窮し革命を起こしたからだ。
結局今の戦争は1940年代の消耗戦であり、どちらが先に息切れするかが総力戦だ。
この傾向は世界大戦より前、ナポレオン戦争の第一次イタリア戦役から見られる。
ナポレオンが幾度もオーストリア軍を撃破しても、その度に動員してオーストリア軍は復活しナポレオンに挑んできた。
最後はオーストリアが折れて講和した。
国家の生産力、国力が増大した結果、一度の改選で壊滅的打撃を受けようと再建してしまう。
一八〇〇年前後からそうなのだ。
世界大戦――後に第一次世界大戦と呼ばれる戦いではそんな海戦を四年の内に何度も行ったため莫大な被害になった。
それを止めるのは決戦ではなく外交だ。
決戦は外交交渉の為の材料に過ぎない。
佐久田はそれを理解していたし北山も理解していた。
日露戦争という世界初の総力戦を研究し、先の大戦をその目で見ていた北山には己の限界、生産力の限界があり、それをカバーできるのは外交による講和しかないと考えていた。
「ダメだな」
しかし、北山は首を横に振った。
「アメリカも被害は大きいが、カサブランカ会談の無条件降伏要求がある。大統領が国民に言ってしまったんだ。事実上の公約であり、これを破ればルーズベルト大統領といえどアメリカ国民の支持を失い一〇月の選挙でも敗北もあり得る。絶対に大統領は譲らないだろう」
「アメリカの被害が大きくてもですか」
「確かにマリアナの被害は大きい。だが米軍はマリアナを占領した。アメリカ国民はアメリカの勝利と見ている。戦争に十分勝てると考えている」
度々敗北しているアメリカだったが、補充できるだけの損害に収まっており、反攻開始後着実に占領地を取り戻していた。
ソロモンを奪回した後、中部太平洋へ進出。
日本の信託委任統治領、外南洋を占領。
そして日本を空襲圏に収められるマリアナを占領した。
確実に勝利に向かっており、アメリカ国民が意気消沈する要素はなかった。
「ですが戦争を終わらせなければなりません」
「その通りだ。できる方法はあるか?」
「無条件降伏」
佐久田の言葉に室内に衝撃が走り沈黙した。
北山は佐久田を見て嬉しそうに言った。
ミッドウェーで一時敗色濃厚と見られながらも盛り返し、米軍の反撃をはね除けた。
本格的な反攻が始まってからも、見事な後退戦を見せた佐久田を北山は評価していた。
「どうして私に会えてうれしいのでしょうか?」
「貴方以上に経済的観点から合理的に戦う方はいませんから」
戦争の中枢にいるだけに北山の耳には様々な情報が入ってくる。
特に佐久田の話は多い。
ミッドウェー以降、あの大敗北にもかかわらず、米軍の反攻を抑えたことで有名だったからだ。
特に、インド洋で拿捕した商船を回してくれたお陰で、輸送量が増えたことは喜ばしかった。
日本国内のみならず、占領地への輸出も増えて、各国の世情も安定している。
円滑に現地の物資を調達――略奪せずに済んでいるのは日本から送り出した物品による対価を支払えるからだ。
その意味で商船の増加をもたらした佐久田は北山にとって恩人であり一度会いたい人物だった。
「貴方を見込んで頼みたいことがあります」
「何でしょう」
「日本を勝たせることはできませんか?」
「無理です。日本は勝てません」
「勝てませんか?」
明確に日本が勝てないと断言した佐久田に北山は確認するように尋ねた。
「あなたは天才作戦家と聞いていたのですが」
「多少優勢な相手に勝てる程度の能力しかありません。圧倒的な物量差では押し潰されるしかありません」
「マリアナで引き分けに持ち込めましたが」
「負けですよ。失陥したのに勝利などと言えません。アメリカは大量の武器を、戦力を投入してきます。これ以上は無理です。第一」
「第一?」
「日本にこれ以上の生産力は無いでしょう」
「確かに」
北山は認めた。
生産工場の自動化をすすめたり占領地に工場を作り住民に物資を作らせているが、もはや限界だ。
熟練工の数が足りないし、婦女子を動員しても素人であり質が劣る。
そもそも、生産を拡大するだけの資源が少ない。
何とか資源開発を行っているが、産業資材を兵器生産に奪われている状況では拡大が見込めない。
日本の戦力は現時点が最大と言えた。
「何とか講和できませんか?」
日本の現状を踏まえて佐久田は企画院参与官である北山に尋ねた。
「軍人がそれを言うのか?」
「軍人が政治外交に口を出すのはタブーとされています。しかし戦争は戦場で終わる事は無く、外交で決まります。敵を殲滅したところで終わりません」
佐久田の言葉は事実だった。
何故なら今は総力戦の時代であり、例えアメリカ太平洋艦隊を全滅させても終わらない。
現に対米開戦時に真珠湾で戦艦全てを沈めても終わらなかった。普通なら戦力の過半を失ったら戦争など出来ない。例え全てのアメリカ空母を沈めていたとしても同じだろう。
生産力が大きくなりすぎているため、直ぐに動員と生産で戦力を回復してしまう、いや開戦時以上の戦力を作ってしまった。
先の大戦でも初頭に東部戦線のタンネンベルク会戦でロシア第二軍一七万が死傷あるいは捕虜になった。
かつてならこれでロシアは終わり戦争から脱落していた。
だがそれからロシアは三年も戦い続けた。
一七万もの損害を動員で補ったのだ。その後負けても動員で補充した。
最終的にロシアが負けたのは動員に国が耐えられなくなり、国民が困窮し革命を起こしたからだ。
結局今の戦争は1940年代の消耗戦であり、どちらが先に息切れするかが総力戦だ。
この傾向は世界大戦より前、ナポレオン戦争の第一次イタリア戦役から見られる。
ナポレオンが幾度もオーストリア軍を撃破しても、その度に動員してオーストリア軍は復活しナポレオンに挑んできた。
最後はオーストリアが折れて講和した。
国家の生産力、国力が増大した結果、一度の改選で壊滅的打撃を受けようと再建してしまう。
一八〇〇年前後からそうなのだ。
世界大戦――後に第一次世界大戦と呼ばれる戦いではそんな海戦を四年の内に何度も行ったため莫大な被害になった。
それを止めるのは決戦ではなく外交だ。
決戦は外交交渉の為の材料に過ぎない。
佐久田はそれを理解していたし北山も理解していた。
日露戦争という世界初の総力戦を研究し、先の大戦をその目で見ていた北山には己の限界、生産力の限界があり、それをカバーできるのは外交による講和しかないと考えていた。
「ダメだな」
しかし、北山は首を横に振った。
「アメリカも被害は大きいが、カサブランカ会談の無条件降伏要求がある。大統領が国民に言ってしまったんだ。事実上の公約であり、これを破ればルーズベルト大統領といえどアメリカ国民の支持を失い一〇月の選挙でも敗北もあり得る。絶対に大統領は譲らないだろう」
「アメリカの被害が大きくてもですか」
「確かにマリアナの被害は大きい。だが米軍はマリアナを占領した。アメリカ国民はアメリカの勝利と見ている。戦争に十分勝てると考えている」
度々敗北しているアメリカだったが、補充できるだけの損害に収まっており、反攻開始後着実に占領地を取り戻していた。
ソロモンを奪回した後、中部太平洋へ進出。
日本の信託委任統治領、外南洋を占領。
そして日本を空襲圏に収められるマリアナを占領した。
確実に勝利に向かっており、アメリカ国民が意気消沈する要素はなかった。
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