架空戦記 旭日旗の元に

葉山宗次郎

文字の大きさ
55 / 83

講和の可能性

しおりを挟む
「それ以外に方法はないでしょう。戦力が無くて、日本は勝てないのですから」

 無条件降伏論に沈黙した室内に佐久田は改めて事実を突きつけた。

「ならばいたずらに戦争をして損害を出して人命を失うよりかはマシでしょう。連合軍が即座に認めてくれるのは無条件降伏以外にありません」
「その結果、国が失われ、国民が奴隷となっても良いのか」

 豊田が抑え気味の声で唸るように、佐久田を睨み付けながら言う。
 怒鳴らないのは、佐久田が一番勝ち星を挙げているのと、佐久田の言ったことが事実だからだ。
 認めがたい事実だったが、受け入れなければならず、豊田の激発を抑えていた。

「ダメですね」

 豊田の問いかけに佐久田は同意した。

「ですが勝算のない戦いを続けた後、戦力をすり減らし何の戦力も無い状態となれば同じ事でしょう」
「それはダメだ」
「当然です。ならば少しマシな状況にして、少しでも良い条件で講和できる状態へ持ち込む必要があります」
「できるのか?」
「まあ、何とかできそうかな、と言う程度ですが」
「具体的には?」

 豊田に代わり北山が佐久田に尋ねた。

「今年の十月までに一度勝利する事ですね」
「何故です?」
「十一月に大統領選挙があります。その前に一度軍事的な打撃を与えることが出来れば選挙を意識して、アメリカ国民が戦争継続に疑問を抱くかもしれません。あと、ドイツが降伏したときでしょうか。状況が明らかに変わります」
「ドイツの降伏ですか?」
「ええ、連合軍は明らかにヨーロッパに力を入れています。先に降伏するのはドイツでしょう」

 佐久田の推測だったが、外れていないと思っていた。
 米軍は確かに海軍戦力は太平洋に大半を集中している。
 だが、戦力の大半はヨーロッパへ送っていた。ドイツへの高価な四発爆撃機を千機単位で投入する戦略爆撃を繰り返しているし、つい先頃にはノルマンディーへ五〇万の兵力で上陸作戦も敢行している。
 そして佐久田によるインド洋封鎖で英国軍が困っていても、米軍はインド洋に機動部隊を送っていない。
 出てきたのは英国機動部隊のみであり、簡単に撃退出来た。
 連合国、アメリカがヨーロッパを重視して戦力を欧州へ振り向けていることは明らかだった。
 ドイツが劣勢になったとき、あるいは戦局に変化が出たとき、そこに僅かながら講和の可能性があると佐久田は見ていた。

「ですがそこは外交の分野です。軍人である小官には手出し出来ません。しかし、軍事的に有利な状況を作り出すことは出来ると考えます。そして、その成果を外交に生かして何とか講和を」

 複数大陸国家論などという完全に政治的な論文を提出して支那戦線に左遷された佐久田の言葉は慎重だった。
 だが、講和交渉の場を生み出せる状況を作り出すことは出来る、と考えた。

「……良いでしょう。ならば貴方に賭けていますよ」

 北山は静かに言った。

「十月の戦いまでに北山財閥の総力を挙げて戦力を創出し、提供出来るようにします」

 佐久田に助力することを、その才能を生かすことに全力を尽くすことを約束した。

「良いんですか?」
「ええ、まともに戦おうとしていますから。特攻、体当たりをしようなどと言う人間よりマシです」

 北山の言葉に室内の空気はさらに悪くなった。
 マリアナ陥落以前から戦況の悪化に伴い、起死回生の新兵器を求めるようになった。
 だが、そんな兵器など開発できるものなら既に開発している。
 ならばこれまで開発されなかった、すべきでなかった体当たり兵器、一撃必中必殺の兵器を作り、使用して米軍を壊滅させるべきだという声が上がっていた。
 軍令部では黒島大佐が中心となり、専門の部署を立ち上げて準備を始めていた。

「特攻なんて馬鹿馬鹿しい」

 佐久田は吐き捨てた。

「軍事行動の基本は反復攻撃です。一回の攻撃で必ず死ぬのでは二回目以降の攻撃は出来ません」
「必勝の信念はないのか」
「何度も攻撃を仕掛けて空母を撃沈してきました。何度も攻撃した方が良いでしょう」

 豊田の声に佐久田が反論すると豊田は黙った。
 佐久田はミッドウェー以降の機動部隊の作戦を立案、参加し、空母を含む多数の艦艇を撃沈してきた。
 その功績は大きく、無視することは出来ない。

「だが、このままでは特攻が本格的に実施されることになる」

 北山は静かに言った。
 戦局が悪化すれば特攻を叫ぶ黒島の意見が通り大々的に行われる事は目に見えていた。

「分かりました。できる限りの事はしましょう。しかし、第三艦隊の参謀では出来る事など限られています」
「なに、問題ない。軍令部部員ならばどうだ?」
「と、いいますと?」
「軍令部第一部に席を設けた。君が主導して再編と次期作戦を策定するんだ」
「機動部隊の方は?」
「目処が立ったら戻れば良い。貴重な機動戦力をここぞという場所に、最適な時期に投入できるのは君しかいない。君が指揮を執るんだ」
「そんな事許されますか?」
「及川さんには話は付けてある。それもと連合艦隊司令部の方が良いか?」
「いえ、是非軍令部の方で」

 典型的な帝国海軍軍人の豊田大将と佐久田は肌が合わなかった。
 それに現場の最高指揮官では出来る事も限られる。
 軍令部の方がマシだった。
 佐久田は北山の提案を受け入れ軍令部で作戦立案をする事にした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

四代目 豊臣秀勝

克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。 読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。 史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。 秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。 小牧長久手で秀吉は勝てるのか? 朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか? 朝鮮征伐は行われるのか? 秀頼は生まれるのか。 秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?

【架空戦記】狂気の空母「浅間丸」逆境戦記

糸冬
歴史・時代
開戦劈頭の真珠湾攻撃にて、日本海軍は第三次攻撃によって港湾施設と燃料タンクを破壊し、さらには米空母「エンタープライズ」を撃沈する上々の滑り出しを見せた。 それから半年が経った昭和十七年(一九四二年)六月。三菱長崎造船所第三ドックに、一隻のフネが傷ついた船体を横たえていた。 かつて、「太平洋の女王」と称された、海軍輸送船「浅間丸」である。 ドーリットル空襲によってディーゼル機関を損傷した「浅間丸」は、史実においては船体が旧式化したため凍結された計画を復活させ、特設航空母艦として蘇ろうとしていたのだった。 ※過去作「炎立つ真珠湾」と世界観を共有した内容となります。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

If太平洋戦争        日本が懸命な判断をしていたら

みにみ
歴史・時代
もし、あの戦争で日本が異なる選択をしていたら? 国力の差を直視し、無謀な拡大を避け、戦略と外交で活路を開く。 真珠湾、ミッドウェー、ガダルカナル…そして終戦工作 分水嶺で下された「if」の決断。 破滅回避し、国家存続をかけたもう一つの終戦 そしてそこから繋がる新たな近代史へ

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

大東亜戦争を有利に

ゆみすけ
歴史・時代
 日本は大東亜戦争に負けた、完敗であった。 そこから架空戦記なるものが増殖する。 しかしおもしろくない、つまらない。 であるから自分なりに無双日本軍を架空戦記に参戦させました。 主観満載のラノベ戦記ですから、ご感弁を

もし石田三成が島津義弘の意見に耳を傾けていたら

俣彦
歴史・時代
慶長5年9月14日。 赤坂に到着した徳川家康を狙うべく夜襲を提案する宇喜多秀家と島津義弘。 史実では、これを退けた石田三成でありましたが……。 もしここで彼らの意見に耳を傾けていたら……。

処理中です...