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講和の可能性
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「それ以外に方法はないでしょう。戦力が無くて、日本は勝てないのですから」
無条件降伏論に沈黙した室内に佐久田は改めて事実を突きつけた。
「ならばいたずらに戦争をして損害を出して人命を失うよりかはマシでしょう。連合軍が即座に認めてくれるのは無条件降伏以外にありません」
「その結果、国が失われ、国民が奴隷となっても良いのか」
豊田が抑え気味の声で唸るように、佐久田を睨み付けながら言う。
怒鳴らないのは、佐久田が一番勝ち星を挙げているのと、佐久田の言ったことが事実だからだ。
認めがたい事実だったが、受け入れなければならず、豊田の激発を抑えていた。
「ダメですね」
豊田の問いかけに佐久田は同意した。
「ですが勝算のない戦いを続けた後、戦力をすり減らし何の戦力も無い状態となれば同じ事でしょう」
「それはダメだ」
「当然です。ならば少しマシな状況にして、少しでも良い条件で講和できる状態へ持ち込む必要があります」
「できるのか?」
「まあ、何とかできそうかな、と言う程度ですが」
「具体的には?」
豊田に代わり北山が佐久田に尋ねた。
「今年の十月までに一度勝利する事ですね」
「何故です?」
「十一月に大統領選挙があります。その前に一度軍事的な打撃を与えることが出来れば選挙を意識して、アメリカ国民が戦争継続に疑問を抱くかもしれません。あと、ドイツが降伏したときでしょうか。状況が明らかに変わります」
「ドイツの降伏ですか?」
「ええ、連合軍は明らかにヨーロッパに力を入れています。先に降伏するのはドイツでしょう」
佐久田の推測だったが、外れていないと思っていた。
米軍は確かに海軍戦力は太平洋に大半を集中している。
だが、戦力の大半はヨーロッパへ送っていた。ドイツへの高価な四発爆撃機を千機単位で投入する戦略爆撃を繰り返しているし、つい先頃にはノルマンディーへ五〇万の兵力で上陸作戦も敢行している。
そして佐久田によるインド洋封鎖で英国軍が困っていても、米軍はインド洋に機動部隊を送っていない。
出てきたのは英国機動部隊のみであり、簡単に撃退出来た。
連合国、アメリカがヨーロッパを重視して戦力を欧州へ振り向けていることは明らかだった。
ドイツが劣勢になったとき、あるいは戦局に変化が出たとき、そこに僅かながら講和の可能性があると佐久田は見ていた。
「ですがそこは外交の分野です。軍人である小官には手出し出来ません。しかし、軍事的に有利な状況を作り出すことは出来ると考えます。そして、その成果を外交に生かして何とか講和を」
複数大陸国家論などという完全に政治的な論文を提出して支那戦線に左遷された佐久田の言葉は慎重だった。
だが、講和交渉の場を生み出せる状況を作り出すことは出来る、と考えた。
「……良いでしょう。ならば貴方に賭けていますよ」
北山は静かに言った。
「十月の戦いまでに北山財閥の総力を挙げて戦力を創出し、提供出来るようにします」
佐久田に助力することを、その才能を生かすことに全力を尽くすことを約束した。
「良いんですか?」
「ええ、まともに戦おうとしていますから。特攻、体当たりをしようなどと言う人間よりマシです」
北山の言葉に室内の空気はさらに悪くなった。
マリアナ陥落以前から戦況の悪化に伴い、起死回生の新兵器を求めるようになった。
だが、そんな兵器など開発できるものなら既に開発している。
ならばこれまで開発されなかった、すべきでなかった体当たり兵器、一撃必中必殺の兵器を作り、使用して米軍を壊滅させるべきだという声が上がっていた。
軍令部では黒島大佐が中心となり、専門の部署を立ち上げて準備を始めていた。
「特攻なんて馬鹿馬鹿しい」
佐久田は吐き捨てた。
「軍事行動の基本は反復攻撃です。一回の攻撃で必ず死ぬのでは二回目以降の攻撃は出来ません」
「必勝の信念はないのか」
「何度も攻撃を仕掛けて空母を撃沈してきました。何度も攻撃した方が良いでしょう」
豊田の声に佐久田が反論すると豊田は黙った。
佐久田はミッドウェー以降の機動部隊の作戦を立案、参加し、空母を含む多数の艦艇を撃沈してきた。
その功績は大きく、無視することは出来ない。
「だが、このままでは特攻が本格的に実施されることになる」
北山は静かに言った。
戦局が悪化すれば特攻を叫ぶ黒島の意見が通り大々的に行われる事は目に見えていた。
「分かりました。できる限りの事はしましょう。しかし、第三艦隊の参謀では出来る事など限られています」
「なに、問題ない。軍令部部員ならばどうだ?」
「と、いいますと?」
「軍令部第一部に席を設けた。君が主導して再編と次期作戦を策定するんだ」
「機動部隊の方は?」
「目処が立ったら戻れば良い。貴重な機動戦力をここぞという場所に、最適な時期に投入できるのは君しかいない。君が指揮を執るんだ」
「そんな事許されますか?」
「及川さんには話は付けてある。それもと連合艦隊司令部の方が良いか?」
「いえ、是非軍令部の方で」
典型的な帝国海軍軍人の豊田大将と佐久田は肌が合わなかった。
それに現場の最高指揮官では出来る事も限られる。
軍令部の方がマシだった。
佐久田は北山の提案を受け入れ軍令部で作戦立案をする事にした。
無条件降伏論に沈黙した室内に佐久田は改めて事実を突きつけた。
「ならばいたずらに戦争をして損害を出して人命を失うよりかはマシでしょう。連合軍が即座に認めてくれるのは無条件降伏以外にありません」
「その結果、国が失われ、国民が奴隷となっても良いのか」
豊田が抑え気味の声で唸るように、佐久田を睨み付けながら言う。
怒鳴らないのは、佐久田が一番勝ち星を挙げているのと、佐久田の言ったことが事実だからだ。
認めがたい事実だったが、受け入れなければならず、豊田の激発を抑えていた。
「ダメですね」
豊田の問いかけに佐久田は同意した。
「ですが勝算のない戦いを続けた後、戦力をすり減らし何の戦力も無い状態となれば同じ事でしょう」
「それはダメだ」
「当然です。ならば少しマシな状況にして、少しでも良い条件で講和できる状態へ持ち込む必要があります」
「できるのか?」
「まあ、何とかできそうかな、と言う程度ですが」
「具体的には?」
豊田に代わり北山が佐久田に尋ねた。
「今年の十月までに一度勝利する事ですね」
「何故です?」
「十一月に大統領選挙があります。その前に一度軍事的な打撃を与えることが出来れば選挙を意識して、アメリカ国民が戦争継続に疑問を抱くかもしれません。あと、ドイツが降伏したときでしょうか。状況が明らかに変わります」
「ドイツの降伏ですか?」
「ええ、連合軍は明らかにヨーロッパに力を入れています。先に降伏するのはドイツでしょう」
佐久田の推測だったが、外れていないと思っていた。
米軍は確かに海軍戦力は太平洋に大半を集中している。
だが、戦力の大半はヨーロッパへ送っていた。ドイツへの高価な四発爆撃機を千機単位で投入する戦略爆撃を繰り返しているし、つい先頃にはノルマンディーへ五〇万の兵力で上陸作戦も敢行している。
そして佐久田によるインド洋封鎖で英国軍が困っていても、米軍はインド洋に機動部隊を送っていない。
出てきたのは英国機動部隊のみであり、簡単に撃退出来た。
連合国、アメリカがヨーロッパを重視して戦力を欧州へ振り向けていることは明らかだった。
ドイツが劣勢になったとき、あるいは戦局に変化が出たとき、そこに僅かながら講和の可能性があると佐久田は見ていた。
「ですがそこは外交の分野です。軍人である小官には手出し出来ません。しかし、軍事的に有利な状況を作り出すことは出来ると考えます。そして、その成果を外交に生かして何とか講和を」
複数大陸国家論などという完全に政治的な論文を提出して支那戦線に左遷された佐久田の言葉は慎重だった。
だが、講和交渉の場を生み出せる状況を作り出すことは出来る、と考えた。
「……良いでしょう。ならば貴方に賭けていますよ」
北山は静かに言った。
「十月の戦いまでに北山財閥の総力を挙げて戦力を創出し、提供出来るようにします」
佐久田に助力することを、その才能を生かすことに全力を尽くすことを約束した。
「良いんですか?」
「ええ、まともに戦おうとしていますから。特攻、体当たりをしようなどと言う人間よりマシです」
北山の言葉に室内の空気はさらに悪くなった。
マリアナ陥落以前から戦況の悪化に伴い、起死回生の新兵器を求めるようになった。
だが、そんな兵器など開発できるものなら既に開発している。
ならばこれまで開発されなかった、すべきでなかった体当たり兵器、一撃必中必殺の兵器を作り、使用して米軍を壊滅させるべきだという声が上がっていた。
軍令部では黒島大佐が中心となり、専門の部署を立ち上げて準備を始めていた。
「特攻なんて馬鹿馬鹿しい」
佐久田は吐き捨てた。
「軍事行動の基本は反復攻撃です。一回の攻撃で必ず死ぬのでは二回目以降の攻撃は出来ません」
「必勝の信念はないのか」
「何度も攻撃を仕掛けて空母を撃沈してきました。何度も攻撃した方が良いでしょう」
豊田の声に佐久田が反論すると豊田は黙った。
佐久田はミッドウェー以降の機動部隊の作戦を立案、参加し、空母を含む多数の艦艇を撃沈してきた。
その功績は大きく、無視することは出来ない。
「だが、このままでは特攻が本格的に実施されることになる」
北山は静かに言った。
戦局が悪化すれば特攻を叫ぶ黒島の意見が通り大々的に行われる事は目に見えていた。
「分かりました。できる限りの事はしましょう。しかし、第三艦隊の参謀では出来る事など限られています」
「なに、問題ない。軍令部部員ならばどうだ?」
「と、いいますと?」
「軍令部第一部に席を設けた。君が主導して再編と次期作戦を策定するんだ」
「機動部隊の方は?」
「目処が立ったら戻れば良い。貴重な機動戦力をここぞという場所に、最適な時期に投入できるのは君しかいない。君が指揮を執るんだ」
「そんな事許されますか?」
「及川さんには話は付けてある。それもと連合艦隊司令部の方が良いか?」
「いえ、是非軍令部の方で」
典型的な帝国海軍軍人の豊田大将と佐久田は肌が合わなかった。
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軍令部の方がマシだった。
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