架空世紀「30サンチ砲大和」―― 一二インチの牙を持つレバイアサン達 ――

葉山宗次郎

文字の大きさ
4 / 14

井上長官と宇垣司令官

しおりを挟む
「せめて、井上長官と宇垣司令官がもう少し仲良くなってくれれば良いのだが」

 松田は呟きを続けた。問題は大和だけではなかったからだ。
 援英艦隊司令長官である井上成美中将と宇垣纏少将の間が険悪だった。
 井上中将は海軍大学出の理論家で空母優先の航空派。
 宇垣少将は海軍大学校を出ているが砲術科出身で現場重視、戦艦優先の艦隊派。
 対照的な二人はソリが合わない。
 日本にいた時は宇垣少将は前職が連合艦隊参謀長で山本長官の下にいたし、井上長官は山本と主に航空主兵を進める実働要員であり二人とも山本長官の前では静かにしていた。
 だが、編成を完結し日本出撃した後は険悪な関係が続いた。
 特に去年夏にフランスが降伏した後、ドイツの接収を恐れてフランス艦艇の処理中――自由フランスへの参加か撃沈させる処置の過程で起きたダカール沖海戦は酷かった。
 イギリスの要請に基づき井上長官によりフランス艦隊攻撃を命じられた第一戦隊は戸惑った。
 特に

「昨日までの味方を、ドイツに降伏したフランス海軍の艦艇を攻撃してきていないのに撃つなど出来かねる」

 と宇垣司令官が井上長官面と向かって言って攻撃命令を拒絶する事態が起きた。
 この事件の後、井上司令長官は大和を降りて、ロンドンの日本大使館へ移動。
 そこから英国と調整しつつ艦隊に命令を下すような形になっている。
 半ば逃げ出したように見える上に、指揮下の艦艇を英国の船団護衛に付けるようになったため

「陸に上がった腰抜けが俺たちを下働きのように働かせている」

 と士官室で公然と話されるほど艦隊内での井上中将の評判は悪い。
 指揮官先頭の伝統があり日本海海戦で旗艦の露天艦橋から指揮を執った東郷を神格化している日本海軍では、陸に上がるのは良しとされていない。

「いまや戦域は広大化し一戦域に戦力を集中し指揮する事は出来なくなった。通信、連絡体制の盤石な拠点から指揮を執ることが今後の戦争には肝要である」

 と言って井上がはね除けたことも、井上長官の評判を一層悪くした。
 確かに対馬海峡で、敵の艦隊を待ち受けるのみなら伝統に従っても良いだろう。
 だが、大西洋という広大な海域を監視するには、例え英国の大艦隊を以てしても点にすぎない。
 ならば、各地の部隊から情報を集め、それを元に指揮するのは合理的だ。
 実際、欧州各地の情報を纏めるため、井上長官の艦隊司令部は拡大を重ね、大使館では手狭になり、41年の年明けからロンドン郊外の英国海軍の通信基地近くのホテルを借り上げ、司令部にしている。
 ホテル暮らしとなってから井上長官の評判はさらに下がり、艦艇乗員から顰蹙を買っている。

「実際情報はありがたいが」

 通信網が完備された今、いや情報通信技術が飛躍的に高まったからこそ、より司令部の役割は重要になっている。
 各地から集まる情報を適切に管理、評価する必要があり、何十箇所から送られてくる何百という情報を適宜処理するには、大和ほどの艦でも人員を収容する事は出来ない。
 何より作戦行動中の軍艦は無線封止を行う。
 指揮は命令を下すことであり、無線発信が不可能になると、遠隔地で行動する指揮下の部隊に命令を下せない。
 だが陸上ならば無線封止はなく、しかも軍艦とは比べものにならない強力な通信設備を使える。
 実際、司令部から送られてくる情報は過不足無く不安に思った事は知将の誉れたかい松田には一度も無い。
 しかし、海軍の中ではその価値を理解している人間は少ない。
 結果、皮肉なことに井上の評判を更に下げることになっている。

「どうにかして欲しいが」

 日本海軍最大最強の軍艦大和艦長とはいえ一艦長の身では、提督達の間に立ち入ることは憚られた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

もし石田三成が島津義弘の意見に耳を傾けていたら

俣彦
歴史・時代
慶長5年9月14日。 赤坂に到着した徳川家康を狙うべく夜襲を提案する宇喜多秀家と島津義弘。 史実では、これを退けた石田三成でありましたが……。 もしここで彼らの意見に耳を傾けていたら……。

【架空戦記】狂気の空母「浅間丸」逆境戦記

糸冬
歴史・時代
開戦劈頭の真珠湾攻撃にて、日本海軍は第三次攻撃によって港湾施設と燃料タンクを破壊し、さらには米空母「エンタープライズ」を撃沈する上々の滑り出しを見せた。 それから半年が経った昭和十七年(一九四二年)六月。三菱長崎造船所第三ドックに、一隻のフネが傷ついた船体を横たえていた。 かつて、「太平洋の女王」と称された、海軍輸送船「浅間丸」である。 ドーリットル空襲によってディーゼル機関を損傷した「浅間丸」は、史実においては船体が旧式化したため凍結された計画を復活させ、特設航空母艦として蘇ろうとしていたのだった。 ※過去作「炎立つ真珠湾」と世界観を共有した内容となります。

四代目 豊臣秀勝

克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。 読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。 史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。 秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。 小牧長久手で秀吉は勝てるのか? 朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか? 朝鮮征伐は行われるのか? 秀頼は生まれるのか。 秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。 1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。 わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。 だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。 これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。 希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。 ※アルファポリス限定投稿

武蔵要塞1945 ~ 戦艦武蔵あらため第34特別根拠地隊、沖縄の地で斯く戦えり

もろこし
歴史・時代
史実ではレイテ湾に向かう途上で沈んだ戦艦武蔵ですが、本作ではからくも生き残り、最終的に沖縄の海岸に座礁します。 海軍からは見捨てられた武蔵でしたが、戦力不足に悩む現地陸軍と手を握り沖縄防衛の中核となります。 無敵の要塞と化した武蔵は沖縄に来襲する連合軍を次々と撃破。その活躍は連合国の戦争計画を徐々に狂わせていきます。

山本五十六の逆襲

ypaaaaaaa
歴史・時代
ミッドウェー海戦において飛龍を除く3隻の空母を一挙に失った日本海軍であったが、当の連合艦隊司令長官である山本五十六の闘志は消えることは無かった。山本は新たに、連合艦隊の参謀長に大西瀧次郎、そして第一航空艦隊司令長官に山口多聞を任命しアメリカ軍に対して”逆襲”を実行していく…

処理中です...