架空世紀「30サンチ砲大和」―― 一二インチの牙を持つレバイアサン達 ――

葉山宗次郎

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大和の状況

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「艦長」

 松田が愚痴を呟いていると宇垣の声が響いた。
 愚痴を聞かれて叱責されると思った松田は背筋を伸ばした。

「船団までの距離は?」
「はい、射撃指揮所、船団までの距離、知らせ」

 十数秒後、副長兼砲術長の黛が不機嫌そうに報告してきた。

「右135度、一〇海里です」
「何か問題あるか?」
「提灯の氷落としが大変であります」

 松田は苦笑した。
 イギリスから送られたレーダーを黛は嫌がっている。
 大切な一五メートル測距儀の上にレーダーアンテナを取り付けられたからだ。

「電波を盛んに出すなんて、闇夜の提灯ですよ」

 黛もレーダーに消極的な士官の一人だった。
 自ら電波を出しては、逆探知されて敵に見つかる、という理屈だ。
 だが、乗っけてみると意外に役に立つ。
 特にこのような荒天の中で見つけにくい味方との距離を保つのに役に立つ。
 しかし、そのために黛は航海科などから頻繁にレーダーの使用を求められており、使いっ走りのような状況に置かれている。
 おまけに寒い北大西洋のしぶきがレーダーアンテナに当たって着氷し、時に一トン近い重さになってしまい、測距儀を歪めてしまう。
 鉄砲屋の黛は商売道具――いや家宝とも言える機材が嫌いなレーダーによって歪められることに我慢ならず、自らハンマーを持ち出して勝手に撤去しようとした程だ。
 松田が宥めて事なきを得たが、黛達砲術科に結氷除去という仕事が加わり疲労と大砲を撃てないストレスで彼らを苛立たせた。

「出てくれないかなドイツ艦隊」

 大和が船団護衛をしているのはブレストにいるシャルンホルストとグナイゼナウそしてキールのビスマルクの出撃と遭遇に備えての事だ。
 何時、敵艦が出撃するか分からず、万が一、遭遇した場合船団が危険にさらされるからだ。
 とっとと叩き潰してしまえと言う声もあるが、ドイツの厳重な守備を突いて攻撃する事は困難だ。
 そんな状況が余計に苛立たしく日本本土の軍令部でも不満が出ている。
 幸いにも日本から撃滅を催促するような電文は来ていない。

「穴熊相手には忍耐が必要だ」

 と軍令部総長である永野大将が言って黙らせているからだ。
 日露戦争に従軍し、旅順要塞に籠もっているロシア太平洋艦隊相手に砲撃戦を経験している上官相手に海軍きってのエリートとはいえ実戦経験の無い軍令部員文句を言える者はおらず、日本からの雑音は今のところは無い。
 だが大和艦内はそうもいかない。
 船団護衛などしていないで、ドイツ戦艦を攻撃するべしと言う声が上がっている。
 艦長である自分が何とかしなければ、と松田は思った。

「もう少し、艦内での図上演習や研究を増やそうか」

 学術肌の松田はちょくちょく若手士官に講習や研究、時に図上演習を行っている。
 戦場を疑似体験させることにより、下手にドイツ艦隊を攻撃すればどんな被害を味方が被るか体感させるかが目的だった。
 他にも攻撃方法の研究を課してその過程で現状を認識するように松田は誘導していた。
 そのため士官達は常に課題を与えられ研究をしており、海軍内では大和に大和大学などという渾名が付けられつつあった。
 乗り組み士官の練度は上がっていたが、通常任務に加えて課題が配られるので日本から遠くへ派遣されている気苦労も加わって彼らは疲れ気味だった。
 それで余計に好戦的になっているのだが松田は気がついていなかった。

「艦長、司令部より通信です」

 松田が若手士官に出す新たな課題を考えていると伝令が受信したばかりの電文を持ってきた。
 電文用紙を受け取り内容を読むと、意外な命令が書かれていた。
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