架空世紀「30サンチ砲大和」―― 一二インチの牙を持つレバイアサン達 ――

葉山宗次郎

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アタッカーの一矢

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「大和を撃破出来ないか」

 リンデマン大佐は呆れるように言った。
 互いに、自艦の主砲以上の防御を与えられた戦艦は相手を撃破出来ない。
 非装甲区画を破壊されるだろうが、沈める決定打にはならない。

「これ以上の戦闘は無用か」

 互いに決め手を欠けるのでは消耗戦になる。
 そうなれば英国海軍という援軍がいる大和の方が優位だ。
 新手だが、振り切れない敵ではない。
 ビスマルクが優速である事を生かし、離脱しようとした。
 だが、思わぬ敵が攻撃してきた。
 突如、聞いたことのない甲高い音と、床からの衝撃と共に後方から爆発音が響いた。

「何事だ!」

 さすがのリンデマン大佐も驚いて叫ぶ。

「第四砲塔、弾薬庫被弾! 注水しますっ!」
「装甲が破られただと!」

 バイタルパート――重要区画は一五インチ主砲に耐えられるだけの装甲が施されている。
 勿論第四砲塔も分厚い装甲板で守られている。 
 それが打ち破られたと聞いて驚いた。

「左舷のアタッカーからです」
「まさか!」

 驚いたが事実だった。
 大和との砲撃に気を取られていたビスマルクにアタッカーは嵐を一万五〇〇〇トンの巨体でねじ伏せ最大戦速三四ノットを発揮して近づき再び発砲。
 八発の内、三発が命中、一発はタービン室、もう一発はボイラー室へ命中した。

「どうしてだ! どうして一二インチの豆鉄砲がビスマルクの装甲を打ち抜ける!」

 第二次ロンドン海軍軍縮条約以降主砲は一二インチ砲に制限されていた。
 だが諸外国の新戦艦の防御は一五インチから一六インチとされている。
 条約明け前に戦争となった時一二インチ砲でもこれら新戦艦の防御を貫通できないか、と英国海軍上層部は考えた。
 その答えとして英国海軍技術陣が開発したのがAPDS弾――装弾筒付徹甲弾だった。
 大砲の威力は口径が大きいほど良い。
 大きいほど発砲時にエネルギーを沢山与えられるからだ。
 だが、弾が大きいと命中した時エネルギーが分散してしまい貫通力が小さくなる。
 小さくしたら、発砲時に与えるエネルギーが血作鳴る。
 発砲する時は弾が大きい方が良いが、命中する時は小さい方が貫通力良いという矛盾がある。
 この矛盾を解決したのが英国海軍のAPDS弾だ。
 大口径から撃てるように大きめの筒に入れた小口径砲弾を大口径砲から撃ち出し、発砲時に大きなエネルギーを与える。砲口からでると筒が取れて、内部の小口径砲弾は、高速で装甲に突き刺さる。
 その貫通力は主砲口径の倍。
 一二インチならば二四インチ防御相当を貫通することが出来る。
 欠点は、装甲板にほぼ垂直に当てる必要があること。つまり敵艦に近づかないと使い物にならない。
 そして鉄合金の塊であるため貫通するだけで爆発のダメージを与えられないことだ。
 ビスマルクが大和との砲撃に気を取られている間にアタッカーが接近してこの装甲殺しの徹甲弾をお見舞いしたのだ。

「敵の一発が司令塔を貫通! 司令塔内の要員総員戦死!」

 最後の一発は最も強固な司令塔を貫通し、装甲が施されていない人間――司令塔要員と艦隊司令部要員を衝撃波で引き裂いた。
 リッチェンスも例外ではなく狭い装甲区画の中を荒れ狂う衝撃波に身体をズタズタにされ即死していた。

「アタッカーを撃破しろ!」

 リンデンマンの命令で三基の主砲がアタッカーに向けられた。
 自らの装甲を破る強力な敵など危険すぎる。半ば狂乱して咄嗟に、悪魔を払いのけるように命じた。
 すぐさま旋回した主砲は零距離射撃で発砲。ほぼ水平に弾は飛んで行きアタッカーに命中。
 三発の一一インチ砲弾は二発が機関部に命中し脚を奪い、一発は第四砲塔弾薬庫に命中した。
 アタッカーには対一二インチ防御がなされていたが、砲戦距離2万メートルでの話だ。
 それより近いと砲弾の威力が大きいため防ぎきれない。
 砲弾は簡単に装甲を貫き、弾薬庫内で爆発。
 先輩にあたるフットと同じ運命をアタッカーはたどった。

「アタッカー爆沈」
「離脱する」
「大和の砲撃来ます!」
「回避せよ。取り舵」

 大和の砲撃を避けるため、左に避けた。
 お陰で大和の砲弾は手前に落ちたが、それが仇となった。
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