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九一式徹甲弾
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九一式徹甲弾
それは日本海軍が生み出した秘密兵器だ。
特徴は、水中弾効果だ。
二〇年ほど前のワシントン海軍軍縮条約により未成艦の廃棄が義務づけられた日本は建造中の戦艦土佐を廃棄することになった。
だが、船体は完成したため、砲撃の標的として使われることになった。
その時、発見されたのが水中弾効果だ。
大半の砲弾は着弾すると海底へ向かってしまうが、たまに海面と平行に進む砲弾があった。
このことに目を付けた日本海軍は密かに研究を重ね、着弾すると海中を水平に進む砲弾の開発に成功。
これを九一式徹甲弾と名付けた。
海面に着弾すると被帽が外れて平らな弾頭が現れる。砲弾は水の抵抗によって海中を水平に進むようになるのだ。
欠点としては、水中弾効果が起きるには砲弾の着水角度に左右されるため通常砲戦距離二万メートル前後でしか水中弾効果が起きないことだ。
デンマーク海峡海戦では最大射程から砲撃していたため、これまで水中弾が発生しなかった。
だが交戦開始から時間が経過しビスマルクまでの距離が縮まってゆき水中弾効果が発生する距離に入った。
勿論全ての砲弾が水中弾になるわけではなく、せいぜい半数ほどだ。
だが、大和の放った一五発の内、七発が水中弾となった。
内四発は外れ、あるいは手前で速度を落としたが、三発がビスマルクの船体を捕らえた。
一発は艦首に命中し、浸水を発生させた。
二発目は、機関室に命中、水中弾防御を施していないビスマルクの船体を食いちぎり、タービン室で炸裂した。
「うわっ」
突如床からの衝撃を受けたビスマルクの乗員達は床に倒れ込んだ。
「水中弾だと! よりによってこんな時に!」
副長が吐き捨てる。
水中弾という現象があるのは知っていた。だが日本海軍がそれを狙った砲弾を使用していることは知らなかった。
だから副長は不運な偶然、不幸を罵った。
「損害報告!」
リンデンマンの声が響いた。リンデンマン自身も動揺していたが、艦長として部下の見本にならなければならなかった。
艦長の泰然とした姿に落ち着きを取り戻した乗員は職務に復帰した。
だが、それを吹き飛ばす事実が伝えられた。
「艦長! 舵故障! 回頭不能!」
三発目は、ビスマルクの舵に命中。舵を操作不能にした。
「……艦長了解!」
「プリンツ・オイゲンより通信、ビスマルク前方にネルソン級と思われる敵艦接近」
「プリンツ・オイゲンに離脱を命令せよ」
艦隊司令長官が死んだ今、リンデンマンが最先任であり指揮を継承し命じた。
到底、ビスマルクが助かる見込みがないことを分かっていたからだ。
プリンツ・オイゲンをこのまま離脱させる事が損害を小さくする唯一の方法だった。
「艦長」
副長が不安そうに話しかけてきた。
この後の事を思うと藩でしかない。
「何を恐れるのだ」
豪放磊落なリンデンマンは快活に言った。
「一流海軍を名乗るイギリス海軍の連中に、ドイツ海軍の誇り高き戦いと、気高き死に様を見せつける好機だ! 臆するなっ!」
「……ヤボールッ!」
副長が敬礼するとブリッジの全員も敬礼し配置に付いた。
「本国に打電! 艦身動きできず。我ら、最後の一兵まで戦い抜く」
不安も恐れも無くなったビスマルクは、祖国へ電文を送ると正面のイギリス艦隊に向かって突撃を始めた。
それは日本海軍が生み出した秘密兵器だ。
特徴は、水中弾効果だ。
二〇年ほど前のワシントン海軍軍縮条約により未成艦の廃棄が義務づけられた日本は建造中の戦艦土佐を廃棄することになった。
だが、船体は完成したため、砲撃の標的として使われることになった。
その時、発見されたのが水中弾効果だ。
大半の砲弾は着弾すると海底へ向かってしまうが、たまに海面と平行に進む砲弾があった。
このことに目を付けた日本海軍は密かに研究を重ね、着弾すると海中を水平に進む砲弾の開発に成功。
これを九一式徹甲弾と名付けた。
海面に着弾すると被帽が外れて平らな弾頭が現れる。砲弾は水の抵抗によって海中を水平に進むようになるのだ。
欠点としては、水中弾効果が起きるには砲弾の着水角度に左右されるため通常砲戦距離二万メートル前後でしか水中弾効果が起きないことだ。
デンマーク海峡海戦では最大射程から砲撃していたため、これまで水中弾が発生しなかった。
だが交戦開始から時間が経過しビスマルクまでの距離が縮まってゆき水中弾効果が発生する距離に入った。
勿論全ての砲弾が水中弾になるわけではなく、せいぜい半数ほどだ。
だが、大和の放った一五発の内、七発が水中弾となった。
内四発は外れ、あるいは手前で速度を落としたが、三発がビスマルクの船体を捕らえた。
一発は艦首に命中し、浸水を発生させた。
二発目は、機関室に命中、水中弾防御を施していないビスマルクの船体を食いちぎり、タービン室で炸裂した。
「うわっ」
突如床からの衝撃を受けたビスマルクの乗員達は床に倒れ込んだ。
「水中弾だと! よりによってこんな時に!」
副長が吐き捨てる。
水中弾という現象があるのは知っていた。だが日本海軍がそれを狙った砲弾を使用していることは知らなかった。
だから副長は不運な偶然、不幸を罵った。
「損害報告!」
リンデンマンの声が響いた。リンデンマン自身も動揺していたが、艦長として部下の見本にならなければならなかった。
艦長の泰然とした姿に落ち着きを取り戻した乗員は職務に復帰した。
だが、それを吹き飛ばす事実が伝えられた。
「艦長! 舵故障! 回頭不能!」
三発目は、ビスマルクの舵に命中。舵を操作不能にした。
「……艦長了解!」
「プリンツ・オイゲンより通信、ビスマルク前方にネルソン級と思われる敵艦接近」
「プリンツ・オイゲンに離脱を命令せよ」
艦隊司令長官が死んだ今、リンデンマンが最先任であり指揮を継承し命じた。
到底、ビスマルクが助かる見込みがないことを分かっていたからだ。
プリンツ・オイゲンをこのまま離脱させる事が損害を小さくする唯一の方法だった。
「艦長」
副長が不安そうに話しかけてきた。
この後の事を思うと藩でしかない。
「何を恐れるのだ」
豪放磊落なリンデンマンは快活に言った。
「一流海軍を名乗るイギリス海軍の連中に、ドイツ海軍の誇り高き戦いと、気高き死に様を見せつける好機だ! 臆するなっ!」
「……ヤボールッ!」
副長が敬礼するとブリッジの全員も敬礼し配置に付いた。
「本国に打電! 艦身動きできず。我ら、最後の一兵まで戦い抜く」
不安も恐れも無くなったビスマルクは、祖国へ電文を送ると正面のイギリス艦隊に向かって突撃を始めた。
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