入れ替わりのモニター

廣瀬純七

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沙織の帰宅

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夜——。  

玄関のドアが開くと、拓也の体になった沙織がぐったりした表情で帰宅した。  

「た、ただいま……」  

スーツのジャケットを脱ぎ捨て、ネクタイを緩めながらそのままソファに倒れ込む。  

「もう無理……。頭がパンクしそう……」  

そこへ、キッチンでお茶を淹れていた沙織の体の拓也が、スマホ片手にニヤリと笑いながら近づいてきた。  

「おう、おかえり! 俺の仕事の大変さがよーく分かっただろ?」  

「分かった……めっちゃ分かった……!」  

沙織(拓也)は手をぐったりと振る。  

「朝から晩までずーっとエラーだの、サーバーが落ちただの、パスワード忘れただの……。しかも技術用語が飛び交うし、英語のエラーメッセージばっかりだし!」  

「ははっ、まあな。SEはトラブル対応ばっかりだし、問題が起きないときは暇だけど、一回起きたら地獄だぞ。」  

「本当にそれ……もう絶対エンジニアにはなりたくない……」  

「お前が一番頑張ったのはどの場面だった?」  

「午後の会議! 資料を作るだけでも大変なのに、みんなが質問攻めにしてくるのよ! その度にスマホで拓也に聞いて、チャットで教えてもらいながら答えたけど、途中でタイムラグがあってちょっと変な間が空いたわ……絶対怪しまれた……」  

「あー、あるある。急に静かになると、『こいつ分かってないな』ってバレるんだよな。」  

「ほんともう、勘弁してほしい……」  

沙織(拓也)は頭を抱えながら嘆く。  

「でも、今日一日ちゃんとこなせたんだから、大したもんだよ。明日も俺がスマホでサポートするから、あと一週間だけ頑張れ!」  

「うう……あと一週間もあるの……?」  

「おう。俺だってお前の仕事やってるんだから、お互い様だろ?」  

沙織(拓也)は思い出して、思わず吹き出した。  

「そういえば、今日、保護者の面談があったんだけど、思ったより子どもたちが言うこと聞いてくれて楽しかったよ!」  

「えっ、それ私よりすごくない?」  

「かもな!」  

二人は思わず笑い合った。  

「とりあえず風呂入ってゆっくりしろよ。今日は頑張ったんだから。」  

「そうする……あ、でもこれから毎日スーツ着るのが嫌だなぁ……」  

「ははっ、それも慣れだな!」  

こうして、体が入れ替わったままの生活は、まだまだ続くのだった——。  
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