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拓也の女子力
しおりを挟む夜、ふかふかのベッドの中。
拓也の体の沙織は仰向けになりながら、隣で寝転ぶ沙織の体の拓也をチラリと見た。
「ねぇ、拓也。」
「ん?」
沙織の体の拓也は、すでに目を閉じていたが、薄く返事をする。
「思うんだけどさ……**拓也の女子力って、私より高くない?**」
「は?」
拓也の体の沙織の突然の言葉に、沙織の体の拓也が片目を開けてこちらを見る。
「いや、だってさ……」
拓也の体の沙織は、指を折りながら数え始めた。
「料理は私よりも手際がいいし、スキンケアとかメイクの研究までし始めるし、ネイルも器用に塗るし……極めつけは**あのネグリジェ事件。**」
「おい、ネグリジェのことは忘れろ!」
「忘れられないわよ!!」
思わず枕を軽く投げると、沙織の体の拓也は「うぐっ」と変な声を出した。
「でもさ、本当にすごいと思うよ?」
拓也の体の沙織は、真剣な顔で続ける。
「たった数日で、私より女子力が高くなってるって、普通に才能あるんじゃない?」
「……お前、それ褒めてんのか?」
「もちろん!」
沙織の体の拓也は、むっすりとした表情で天井を見つめた。
「俺は**ただ生活するためにやってるだけ**で、別に女子力を上げようとか思ってないんだけどな……」
「でも結果的に上がってるから、**モニター期間を延長して、もっと女子力を極めてみる?**」
「ふざけんな!!」
即答だった。
拓也の体の沙織は「そうなの?」と笑いながら、枕に顔をうずめる。
「でもさ、もし本当にずっとこのままだったら、拓也って**すっごくできるいい奥さん**になりそうだよね?」
「誰が奥さんだよ!! 俺はお前の夫だよ!!」
「うん、でもさ、私が拓也の体にいるってことは、必然的に私が夫ってことになるよね?」
「うっ……」
沙織の体の拓也が言葉に詰まる。
確かに、そう考えると妙な感じがする。
「まぁまぁ、そんなに怒らないで?」
拓也の体の沙織はクスクス笑いながら、隣に転がる沙織の体の拓也の肩にぽんぽんと手を置いた。
「これもさ、新しい時代の夫婦の形ってことで!」
「断じて違うよ!!」
沙織の体の拓也が叫ぶと、拓也の体の沙織は「ふふっ」と楽しそうに笑い、布団をふわっと引き上げた。
「ま、冗談はさておき……**早く元に戻りたいね。**」
「……ああ。」
二人はどちらともなくため息をつき、天井を見つめる。
本当はお互い、心のどこかで——**「このままでも意外と楽しくやっていけるのでは?」**と思っている自分がいることに、まだ気づいていなかった。
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