入れ替わりのモニター

廣瀬純七

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拓也の生理休暇

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「……はぁ」  

沙織の体の拓也は、ソファにぐったりともたれかかりながら、ため息をついた。  
昨日からずっと、お腹が重いし、腰も痛いし、妙にイライラするし……。  
これが"生理"というやつなのか、と身をもって実感していた。  

対する拓也の体の沙織は、そんな彼——いや、**彼女?**を気遣うように覗き込んでくる。  

「拓也、大丈夫? 顔、めっちゃしんどそうだけど……」  

「いや、無理……マジでしんどい……」  

沙織の体の拓也は、ソファのクッションを抱え込んで丸くなる。  
ただでさえ生理痛がつらいのに、この体はもともと女性のものだから、ホルモンバランスの影響もあるのか、どうしようもなくダルい。  

「これ、毎月のことなんだろ? 女ってすごいな……」  

「でしょ? だから、生理のときはちゃんと体を休めないとダメなの!」  

拓也の体の沙織が得意げに言う。  
確かに、こうなってみると、今まで軽く考えていた生理の大変さを痛感する。  

「……にしても、こんな状態で仕事行くの、無理じゃね?」  

「うん、絶対無理。だから、生理休暇取りなよ」  

「え、生理休暇?」  

「そう、会社の規則にあるでしょ? **女性社員は生理休暇を申請できる**って!」  

「え、でも、俺……」  

「**今は私でしょう!**」  

拓也の体の沙織がびしっと指をさして言う。  

「"沙織"は体調不良で働けません! だから、生理休暇を取って、しっかり休むべきです!」  

「……マジか」  

沙織の体の拓也は、スマホを取り出し、職場のシフトを確認した。  
生理休暇は確かに制度としてあるし、同僚の女性たちも何度か利用していたのを見たことがある。  

(……でも、男だった俺が"生理休暇"を申請するなんて……)  

頭では理解できても、実際にやるとなると、かなり抵抗があった。  

「……ちょっと気が引けるなぁ……」  

「気にすることないよ! ほら、私が代わりにメッセージ送ってあげる!」  

「えっ、ちょっ……!」  

拓也の体の沙織が沙織の体の拓也のスマホを取り上げ、すばやくLINEを打ち込んでいく。  

— **「おはようございます。体調不良のため、本日生理休暇を取得させていただきます。よろしくお願いいたします。」**  

「よし、送信!」  

「えええええええ!?」  

沙織の体の拓也は、慌ててスマホを取り返したが、時すでに遅し。  
職場の上司から、あっさり「了解しました。お大事にしてください。」と返信がきていた。  

「……意外とあっさり受理されたな」  

「そりゃそうでしょ。**女性社員が生理休暇を取るのは普通のこと**なんだから!」  

「……そっか」  

確かに、これまで自分も「生理休暇って使えるのかな?」くらいには考えたことがあったが、女性の同僚たちの多くは普通に申請していた。  

いざ自分が"女性"になってみると、初めてその制度のありがたさがわかる。  
これで、無理して職場に行かずに、ちゃんと休める。  

「……じゃあ、今日は一日休むか……」  

「そうしなよ! あったかくして、お腹にカイロでも貼って、横になってなさい!」  

「お前、妙に世話焼きだな……」  

「だって今の"私"は優しい"旦那"さんだから!」  

拓也の体の沙織は、にっこりと微笑んだ。  

こうして、沙織の体の拓也は、人生初の"生理休暇"を取得し、しばらくの間はゆっくり休むことにしたのだった——。  
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