バーチャル性転換システム

廣瀬純七

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バーチャルの世界へ

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川田は、新しい自分の姿をじっと見つめていた。鏡の中の「自分」は、これまで夢に描いていた理想そのものだった。手を上げたり、髪をかき上げたりするたびに、軽やかに揺れる髪と、滑らかな動作が鏡の中で自然に再現されている。

そのとき、頭上のスピーカーから再び音声が流れた。

「この部屋では身体感覚に慣れる練習をしていただきます。後ほど、よりダイナミックなシミュレーションが開始されますので、準備を整えてください。」  

次の瞬間、鏡張りの部屋がゆっくりと変化を始めた。鏡は消え、代わりに広がったのは、暖かな午後の光が差し込む静かな公園だった。目の前にはベンチがあり、周囲には色とりどりの花が咲き乱れている。風が頬を撫でる感覚までリアルだった。  

川田は思わず深呼吸をした。その空気には土や草の匂いがほんのりと混じっていて、これが仮想現実だということを忘れそうになるほどだった。

「すごい……こんなにリアルなんだ。」  

彼は足元に目を落とし、新しい自分のスカートがそよ風に揺れているのを見た。慣れない感覚に一瞬戸惑いながらも、その違和感は次第に心地よさへと変わっていった。歩き出すと、ヒールのかすかな音が足元から響き、普段のスニーカーとは全く異なる感覚が新鮮だった。

川田は公園をゆっくりと歩きながら、自分の体の動き一つ一つを確認していった。指先を動かす感覚、柔らかく響く声、軽やかに揺れる身体――どれもが驚くほど自然で、本当に「この身体が自分のものになった」と感じさせた。

***

数分後、彼は公園の奥にある広場にたどり着いた。そこには数人の人々が楽しそうに会話をしたり、子どもが遊んでいたりしている。  

「他の人と接触してみるのも、重要なステップです。」  

音声アシスタントがアドバイスをくれた。川田は少し緊張しながらも、近くの女性に声をかけてみることにした。  

「あの……すみません、ここに来るのは初めてなんです。」  

その言葉は自然と口をついて出た。相手の女性が親しげに微笑みながら答えると、彼の心から少しずつ緊張が溶けていった。会話を重ねるうちに、周囲の人々が彼を「自然な存在」として受け入れている感覚が湧いてきた。それは、自分を否定されることなく存在できる世界の中にいる安心感だった。

***

やがて、景色が再び変わり始めた。今度は夜の都会の街並みだ。きらめくネオンと人々のざわめきがリアルに再現され、彼はその中で一人歩き出した。ビルのガラスに映る自分の姿を何度も確認し、そのたびに胸に広がる不思議な感情――それは解放感と自信だった。

この新しい自分として生きる感覚は、想像以上に鮮烈だった。ただの体験ではなく、彼の心に深く刻み込まれる何かがあった。

「こうして毎日を過ごせたら、どんなに素晴らしいだろう……。」  

心の中でそう呟いた瞬間、目の端に涙が光るのを感じた。それは失ったものへの悲しみではなく、手に入れた自由と可能性に対する感動の涙だった。

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