バーチャル性転換システム

廣瀬純七

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システム起動

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カプセルの内部は驚くほど快適で、革張りのシートが彼を包み込むように設計されていた。柔らかなライトが壁面に埋め込まれ、青白い光が穏やかに明滅している。その光に照らされながら、川田は心臓の鼓動がわずかに早まるのを感じた。シートに腰を下ろすと、指先で感じる素材の滑らかさに気づき、細部へのこだわりが伝わってきた。

「準備はよろしいでしょうか?」  
先ほどの受付の女性が、部屋に備え付けられた通信スピーカー越しに尋ねてきた。  

「ええ、大丈夫です。」  
川田は少し声が震えていることに気づき、軽く喉を鳴らして咳払いをした。

「それでは、プログラムを開始します。最初に、視覚調整と身体感覚の設定を行いますので、目を閉じてリラックスしてください。」  

指示通りに目を閉じると、わずかな振動がカプセル全体に伝わり始めた。その振動は心地よいマッサージのようで、次第に川田の緊張をほぐしていく。同時に、ヘッドセットがゆっくりと彼の頭に降りてきた。密着感はあるものの、窮屈さは感じない。

「次に、体験する性別や容姿のカスタマイズを行います。」  

頭上のスピーカーから、淡々とした説明が流れる。川田の視界には目を閉じているはずなのに、鮮やかなホログラムが浮かび上がった。それは鏡のようなもので、そこに映るのは現在の自分自身だった。しかし、手元のパネルを操作すると、その映像は自由に変化し始める。

「身長、髪型、顔の輪郭……どれも自由に設定可能です。お好みの外見を選んでください。」  

川田は、指先で滑らかに動くインターフェースを使い、ゆっくりと自分の新しい姿を形作っていった。髪は長めのボブ、目元は優しさを感じさせる大きな二重、口元には自然な微笑みを浮かべるよう調整した。容姿を決めていく間、彼の心は次第に軽くなり、ついに長年の夢が現実味を帯びてきた。

最後に、声の設定画面が表示された。  

「こちらでは音声のピッチやトーンを調整できます。」  

女性的な声のサンプルがいくつか再生され、そのどれもがリアルだった。川田は、柔らかさと力強さを絶妙に兼ね備えた声を選んだ。  

「これで設定が完了しました。それでは、実際の体験を開始します。」  

突然、周囲が暗転し、まるで体が宙に浮いているような感覚に包まれた。重力が消え、時間すらも停止したような錯覚――そして次の瞬間、視界がパッと開けた。

そこには、鏡張りの小さな部屋が広がっていた。鏡に映るのは、さっきカスタマイズした「自分」の姿だった。川田は思わず声を上げた。その声すらも、新しい自分のものであることに驚いた。

「これは……私なのか?」  

指先を動かし、頬に触れる。その感触は確かに自分のものだが、見た目はまるで別人。違和感と興奮が入り混じる中、彼は鏡の前で一歩、また一歩と歩き始めた。足元の感覚や体のバランスが変わったことに戸惑いながらも、新たな自分に慣れようとする意欲が湧いてくる。

「本当の私……。」  

そう呟いたその瞬間、川田は涙が頬を伝うのを感じた。それは喜びとも安堵とも取れる感情の混ざり合った涙だった。

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